【163】報告
「まさかエルに置き去りにされるとはねぇ」
「だよな、あの後大変だったんだからな」
「いやーお嬢さんの啖呵、格好良かったな~!」
昨夜、置いてけぼりにしてしまったアルフ兄とヴァルテスは城に泊まり、朝に送り届けてくれた赤だが、何故かちゃっかりとテーブルにつき、朝食に用意したパンケーキをモリモリ食べている。
あの後、広間にいたディス推しの女性達は泣き喚き、男性陣はアルフ兄とヴァルテスに詰め寄り、人間の女は皆あんなに強いのか?格好良いのか?もっと連れて来てくれ!と大騒ぎだったとか。
「ま、まぁ色々あって、どうなるかと思ったけど、盛り上がったのなら良かったんじゃない?ハハハ」
ちなみに挨拶の時に嫌味を言った臣下は、一ヶ月の投獄となり、そして問題のあのストーカー女は、期限を設けず闇の中での監禁となったそうだ。
闇の中で監禁って何っ?!余計に病みそうだけど?そもそも床に消えて行ったけど、何か特別な空間って事か?
「私のエルファミアに殺意を向けたのに、生かしておくとはぬるいですねぇ」
「まぁそう言うなって。エリザベートもそのうち正気に戻るだろうよ」
「「エリザベートって誰」」
ディスと揃って「誰?」と言うと、赤は呆れ顔になり、アルフ兄とヴァルテスは大笑いし、女の名前だと教えてくれた。
「へー」
「ブハッ!お嬢、興味なさすぎー」
朝食を終えた後、午後に魔王に挨拶に行こうという事になり、手土産用と邸用にアップルパイを焼いた。
「アップルパイって言うのか、楽しみだな~」
魔王への土産なのに食べる気満々の赤。
近々フレンチトーストに乗せて食べる為に、りんごは多めに煮詰め、保存室にしまった。
「あぁいい香りですねぇ」
「早く陛下のとこ行って、さっさと帰ってきてアップルパイ食べよ~」
「賛成!」
一国のお偉いさんよりアップルパイ優先?
ノルマン達も、お早いお帰りお待ちしてます!と、かなり気合いの入った送り出しをしてくれた。
城の転移部屋に着くと、待っていたかのように現れた緑と青。
「あー!来た来た、エルファミア嬢!」
「時の人、エルファミア嬢!」
どうやら今城下では、初の人間の来賓ってだけでも話題なのに、昨夜の出来事と私のドレスが噂となって広がっているそうだ。
「で、街の薬草屋の婆さんが『そのお嬢さんならうちに買い物に来たよ』と自慢しているそうですが、薬草なんて買いに行ったの?」と緑に聞かれ「あー、スパイスか」と簡単に口を割るヴァルテス。
ヴァルテス、余計な事をっ!
スパイスって何?何?と興味津々の赤と緑と青に「とてもいい香りがして、癖になる美味しいものですよ」と答えるディスの言葉に、目を輝かせた赤と緑と青は、食べたいと騒ぎ出すが、何故かディスも期待のこもった目でこちらを見ている。
あなたも食べたいのですねー
「はいはい、分かりました。今夜はカレーです」
側近ズはまだ見ぬ料理に目を輝かせ、ディスはニヤっとし、ヴァルテスとアルフ兄はカレーならカツだなと言い出した。
はいはい、カツカレーですね。
ご注文、承りました・・・
「おぉ、来たかエルよ。昨夜は嫌な思いをさせて済まなかったな」
「いえ、陛下のせいではありませんから、お気遣いなくです」
「そうか、エルにそう言って貰えると、私も少しは気が楽になるがな。しかし君は本当に頼もしいお嬢さんだ、ヴァルテスが君の臣下としてついて行くと言った気持ちが分かるな」
魔王の言葉にヴァルテスは「だろ?」と言って笑顔で頷いているが・・・もう完全にタメ口だな?!
「あ、そうだ。これ陛下にお土産です」
空間からアップルパイを取り出すと、陛下はすぐに食べ物だと分かったのか、お!と声を上げた。
「おやつの時間に食べてくださいね」
と言うと、片眉を上げ今じゃ駄目なのか?とでも言いたげな顔の魔王だったが「おやつの時間に」ともう一度言うと「う、うむ」と残念そうに引き下がった。
早々に魔王の部屋を出て、今夜の食事の件で調理場に向かった。
「おー!お嬢さん、昨夜は大活躍だったそうだね」
料理長に言われたが、活躍なんてした覚えがない。
まぁ噂とは、ある事ない事、色々話しが膨らみ広がっていくものだ。
今夜は米とカツ、スープと付け合わせだけ用意してくださいと伝えると「トンカツかい?」と言う料理長に、豚でも鶏でも好きな方で大丈夫ですと親指を立てると、若干意味が分からなそうな表情をした料理長だが、親指を立て返してくれた。
きっと料理長は今夜のメインが「カツ」なのか?と聞きたかったのだろうな。分かってはいたが、今はあまり時間がないのでね。
さっさと城での用事を済ませ邸に戻ると、ニコニコ顔で出迎えたノルマン達四人。
全員でそのまま食堂に直行し、お茶をいれるとアップルパイタイムに突入である。
ディス・アルフ兄・ヴァルテスは知っている味だが、ノルマン達は初めて食べるアップルパイの味に感動しているかのように、目を潤ませていた。
おやつタイムが終わると、アルフ兄は魔法陣の製作に向かい、それに付き添うと言うヴァルテス。
ディスは少し魔王に用があると言い「すぐ帰りますからね」と額に口付けして出掛けて行った。
一人調理場でせっせとカレーの仕込みを始めると、匂いに釣られて集まってきたノルマン・ビセット・コウディー・リーヴルの四人。
今日はカレーなんですね!と四人ともワクワクの様子だ。




