【16】夜の訪問者(2)
アデレとアルフは、私が転生者という立場だってことを一応理解してくれたようだ。
「元のエルは・・・あ、名前は・・・エルファミアと呼んでいいのか?」
「はい、前世の記憶があると言うだけで、エルファミアには変わりないので、呼び方は今まで通りでお願いします」
分かった。とアデレ兄は話を戻す。
「その前世?の話からすると、元のエルは暗殺者の家系だったか?」
元の家は表向きは色々な事業を展開している一流企業だ。
近年はどこの組織も、表立って血腥いとこは出さない。
見た目は普通の企業。というのが定着している。
まぁ、まさにって感じの厳つい人が多数だけどね。
元の家は、国内に数多くの分家があり、それらを統治していたのが本家の私の家である。
簡単に言えば全国に支店がたくさんあり、私の父がいたビルが本社ってことかな。
暗殺は裏の仕事の依頼でたまに請ける程度だ。
なので少しニュアンスが違う。
「うーん、国の一つの組織として、世の中の規律を乱す輩に常識の範囲内で制裁を加え正していく・・・ような感じですかね?暗殺はたまに依頼が来て請け負う程度でした」
そもそも家業のことは、兄が跡継ぎと決まっていたし、私が全部知っている訳じゃない。
説明難しいなと顎に手をあて悩んでいたら、私の思考を読み取ってくれたかのように話の道筋をかえてくれたアルフ兄。
「なるほどね。特殊な家庭環境だったことで、エルも色々な習い事をしていたんだね」
アルフ兄に頷き、家そのものの話から少し逸らした。
「家業柄、万が一何かあった時のために、幼少期から剣武術を習い腕を磨いていましたね。まぁ、それだけ習っていても前世の最後は刺されて死にましたが」
前世の自分の最後を思い出し、少し眉が下がった。途端にアデレ兄とアルフ兄は驚愕の表情となる。
「さ、刺された・・・そんなことまで記憶に残っているのか」
「こんなこと聞いて良いのか分からないけど・・・何歳で亡くなったの?」
二人の兄が同時に眉尻を下げ、瞳を悲しげな色に染めた。
「年齢ですか?20歳でした・・・なので今世では長生きする為に、頑張りたいです」
と両手の拳を握りガッツポーズをして見せる。
「20歳!僕達より年上だったんだ?!妹なのに姉のような・・・何か不思議だね」
「でもエルは、エルだ」
兄二人は笑顔で頷きあった。
「「よし!明日から一緒に頑張ろう」」
私より気合いの入った兄二人
その気合いに若干引く思いだ。
「そうだエル、これから僕達の前では、変に気負わず元のままのエルで大丈夫だからね」
「そうだぞ、僕達にまで気を使っていたらエルが疲れるだろ。普通に接してくれて良いからな」
「「僕達、兄妹なんだし」」
兄二人からの嬉しい言葉だ。
「あ、ありがとう、じゃぁ兄様達の前では普通にするよ。常に敬語は疲れるから止める」
敬語をやめると二人の兄は笑顔で頷いた。
「話は終わりなら、これを続けたいんだけど」
とテーブルの脚の下に放置されている編みかけの刺繍糸を指した。
私の指の先を見て、思い出したようにアルフ兄は笑いだし、その存在に気づいていなかったアデレ兄は目を見開いた。
「エル?!これ何なんだ??」
「え、アデレは気づかなかったの?お茶を持ってきたクレイも気づいて驚いてたのに」
アルフ兄は色々なことに関しての観察力や洞察力に優れているが、アデレ兄は脳筋ぎみだよね~
アデレ兄はテーブルの下の編みかけの刺繍糸を見て「これ良いな。刺繍糸ってこんなことも出来るんだな。もっと細いのも編めるのか?」
「編めるよ。元々は細いのが主流で、手首に結ぶ装飾として人気があった物なの」
「お、そうなのか。細いのなら僕も欲しい」
え!自分のもまだ終わってないのに?!
思わずジト目でアデレ兄を見た。
「エルは続きを編みながら会話したらいいよ。僕達は気にしないしね」
「あぁ、気にしない。エルの好きにやってくれ」
まだ自分達の部屋に戻る気はないってことか
まだまだ一人になれないと諦め、おもむろに無言でテーブルの脚の近くにうつ伏せで転がり、両腕に身体強化かけ編み始めた。
「「ブハッ!!」」二人同時に吹き出した。
・・・もう無視でいいか。
身体強化のおかげでサクサクと編み目が増えていく。
「そうだ、エルは剣術が得意なのか?」
アデレ兄が刺繍糸を編んでいる私に声をかけてきたが、刺繍糸から目を離さず、編みながら答えた。
「得意というより、趣味みたいなものかな?剣だけじゃなくナイフとかも好き」
「ナイフ投げも出来るのか?!凄いな。明日の朝はまた一緒に素振りしよう。なんなら手合わせもお願いしたい」
アデレ兄からの嬉しいお誘いに、私の眼がキラッと光った。でも編む手は止めない。
シャカシャカと手を動かしながらアデレ兄のお誘いを快く受ける。
「手合わせ!是非やりましょう」
「え、それ僕も見たい!一緒に行ってもいいかな?」
「おぅ、三人で朝の鍛錬に行こう」
話が決まったところで私の手も止まった。
「できたー!」
スっとテーブルの脚を少し浮かせ、編み上がった物を取り上げた。
「見せて見せてー」と言うアルフ兄に手渡した。
「これ本当に編み目が模様みたいで綺麗で良いねぇ。これは結構な長さだけど何に使うの?」
訪ねるアルフ兄と一緒に、アデレ兄も私を見た。
「髪のリボンの変わりに使うんだよ」
「「リボン?」」
今の私は、可愛らしい色の物は好みじゃないことを伝えた。何なら服も少し手を加えたいことも。
兄二人は女子は誰しも可愛い色や物が好きなのかと思っていたんだと。まぁ『ここ』の女子は皆、ワンピースやドレスみたいだから、そういうイメージになるか。
そして手首用に細いのがどうしても欲しいとお願いされ、作る約束をさせられた。
「じゃぁ明日の朝迎えに来るね」と、やっと二人はそれぞれ自室に戻っていった。
途端に静かになった部屋に一人
筋肉痛だったことを思い出した。




