【152】調理場完成
訓練所に戻る頃は、だいぶ陽が傾いており、もう餃子は焼くだけの状態でスタンバイ、外にはテーブルなども出してあり宴会の準備万端だった。
餃子の他に箸休めとして、野菜の煮浸しやだし巻き玉子もテーブルの上に次々と並べられていく。
うどんの生地を伸ばし、ヴァルテスから貰った麺切り包丁で細く切って茹で始めると同時に、天ぷらも揚げていく。今日は鶏天と白身の天ぷらと野菜天、そして忘れてはいけない温玉、これ重要!
マルセルさんも麺切り包丁が欲しいと言うので、今度創って持ってくると約束した。
料理がテーブルに並び出すと、ぞくぞくと外に集まりだした団員達。気づくとアルフ兄とヴァルテスの片手にはすでに酒のグラス。
もう飲んでるのかっ!早っ!
茹で上がった麺を水でしめて少しだけ深めの皿に盛り、麺の上に薬味を乗せ、さらに温玉を乗せ出汁醤油をかける。
「はい、冷たいうどん。玉子を割ってよく混ぜて食べて」とディスに手渡すと、器を手にしたディスは「熱くない」と呟いた。
私に言われた通りに良く混ぜてから、うどん数本をフォークで持ち上げ口に含んだ。
その途端に目がギラッと光ったから、気にいったのだろうと、自分もうどんと温玉を良く混ぜてから啜った。
「冷たいうどん、うまっ!」
崩した温玉と濃いめの出汁醤油が混ざった汁につけて食べる天ぷらが、また美味しいんだよ~
ディスと二人でうどんをズルズル。
マルセルさんに器は今度返すと断りを入れ、ノルマン達の分のうどんと天ぷらを空間に入れていると、マルセルさんが焼き餃子も持たせてくれた。
流石マルセルさん、気が利く~
「冷たいうどんは酒飲んだ〆に食いたい」
とヴァルテスのひと言に、持って帰って夜食に食べようと、アルフ兄は二人分を空間に入れている。
そのうちに仕事を終えた父様と母様、アデレ兄とマリアが合流し、父様は「またいつでも帰って来るんだぞ」と目を少しウルウルさせている。
いやいや、ただの夏季休暇だし、まだ嫁に行った訳じゃないから、学園が始まればまた週末ごとに普通に帰って来るよ?
マリアとアデレ兄は「絶対、絶対に海行く事を忘れるな」と念を押してきた。
はいはい、皆で海坊主に会いに行きましょう。
あちらでの夜会が終わるまでは少し忙しいから、海に行くのは10日後にしようと決めた。
ギネス師団長に頼んだ肉ミンチの魔道具は、もう少しお待ち下さいとのこと。皆で今度、海に遊びに行く頃には出来てるといいな。
少し早めから始めた餃子祭りは、辺りが暗くなった頃には酔いが回った人も増え、訓練所はかなりの賑わいとなっていた。
餃子と他の料理も沢山食べて満足気なディスと、少し酔っているアルフ兄とヴァルテスを連れ、皆に手を振り邸へと戻り、料理長にパンを貰ってから転移部屋からディスの国へと戻って行った。
「お帰りなさいませ、アメディストゥス様、エルファミア様、アルフ殿とヴァルテス殿も」
転移部屋の扉の前で待ち構えていたノルマン・ビセット・コウディー・リーヴルの四人。
「調理場は完成しているかい?」
「えぇもちろんです。エルファミア様が描いた図案の御要望通りに仕上がっているかと思います」
ノルマン達の案内で、帰宅してまず調理場へと向かった。
「おぉ!すごい綺麗!」
調理場は、私が希望した対面式のカウンターキッチンになっており、カウンター側は水回りの並びに、火を使う場所があるが、そこには大きな焼き窯も設置されている。
カウンターの反対側は、食器棚と食材の保存室、どちらも結構な大きさだ。そしてキッチンの外側の中央には大きなテーブルセット。
「食堂も広いね~、これならノルマン達も一緒にここで食事出来るね」
「お嬢は明日の朝食はここで初料理か」
アルフ兄とヴァルテスの言葉に頷きながら、街で購入した物を次から次からへと空間から引っ張り出すと「そうか、食器もないんだよな」と今気づいたと言う顔をしながらも、空間から出した物をノルマン達と一緒に、せっせと片付けてくれたヴァルテス。
全部片付け終わると、誰からともなく全員がテーブルの椅子に腰を掛けた。
「ノルマン達、夕食は?」
「まだです。四人で今夜はどうしようかと話していたところにアメディストゥス様のご帰宅でしたので」
それなら良かった、と空間から四人分の食事を出しテーブルに並べると、食事を目にした途端に顔をパァっと笑顔にしたノルマン達四人。
昼間購入したフォークを一度綺麗に洗ってから四人に渡すと、嬉しそうに食事を始めた四人、そして人の食べている所を見ていたら自分も食べたくなったのか、アルフ兄も空間からうどんを取り出すと、俺も俺もとヴァルテスも食べ始めた。
「やっぱうめぇな、飲んだあとの麺は」
「冷たいうどんも美味しいね~」
ノルマン達は、ヴァルテスとアルフ兄の会話を聞きながらもフォークを止めず、黙々とモグモグしていた。
「ノルマン達もうどんを気にいったようですねぇ」
「米の国に行ったら、また粉を買っておかないと」
「そうですね、皆さんの仕入れの分よりも、我が邸の分の方が大事ですからね」
邸の分?というよりは私の分なんだけど。
だってここには旅行に来てるようなものだ、夏季休暇が終わったら学園の寮生活に戻ること忘れてないよね?
私の微妙な顔つきに気づいたディスは
「ふふ、学園が始まっても週末には、あちらとこちらの両方に飛べば良いだけですよ」
な、なるほど・・・何だか忙しないな?
そんな会話をしながらも、魔鉱石に次から次へと魔力を流し、色々な形の鉄鍋を製作していった。




