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【15】夜の訪問者(1)



扉を叩く音がし、今度は誰!と扉を凝視。


「失礼致します」と聞こえてきたのは執事見習いのクレイの声だった。

扉を開け入室してきたクレイは、ティーポットとカップが乗ったトレイを持っていた。


「先程アルフレッド様から、エルファミア様のお部屋にお茶をと言われましたのでお持ちしました」


なるほど。先にお茶を頼んだと言うことは、思い付きで私の部屋に来た訳ではなく、計画的ってことね。

その証拠にカップが三つある。

もう一人、確実に誰か来るという事だ。

まぁ、アデレイド兄で間違いないだろう。


クレイはテーブルにお茶の乗ったトレイを置き、澄ました顔で部屋を後にしようとした時に、チラっと編み途中の刺繍糸がテーブルの脚の下に挟まってるのが目に入ったらしく、見てギョッとしていた。


クレイにまで見られたか・・・


「とりあえず座ってお茶でも飲もうよ」


アルフ兄がソファに座り、ティーポットからカップにお茶を注ぎながら、私にソファへ座るように促した。


え、ここ私の部屋ですよね

なぜアルフ兄が仕切るのよ


若干納得いかないながらも、ソファに腰掛けティーカップに手を伸ばした。


「それで?」


・・・ん?あぁ、さっきの質問の返答ね。


「まず質問の一つ目、ただの思い付きです。

二つ目、重しになる物がなかったので仕方なく身体強化してテーブルを持ち上げ、テーブルの脚で代用を。三つ目、見て分かると思いますが、テーブルの脚の下ですからね、寝転がるに決まってるじゃないですか」


三つの質問の返答を真顔でヤケクソ気味に言い切った。


くっ!・・・ぶはっっ!!


アルフ兄は堪えきれずに吹き出し「エルが凄い!凄すぎる~」とお腹を抱えて笑い始めた。


アルフ兄の笑っている姿を真顔で見つめていると、また扉を叩く音がし、またか!!と思わず眼に力を込め扉にガン飛ばした。


アデレイド兄が「入るよ」とガチャリと扉を開けて部屋に入ろうとしたところ、ガンを飛ばした私と視線が絡んだ。


「何か凄い笑い声聞こえたけど・・・って、エ、エル!?何で睨むの?!僕何かしたか?!」


アデレ兄が「な、何、何?」とビクビクしながらソファの方へ近づき、アルフ兄の隣りに腰を掛けた。


「・・・いいえ」真顔で答えた。


アルフ兄はさらに笑い、アデレ兄は「エルが怖い!」と、笑いすぎのアルフ兄の肩にしがみついた。


いつまでも二人の相手をしている暇はない。

私には刺繍糸を仕上げるという使命がある。


「で、二人揃って何のご用でしょうか」


話を振ると、態とらしくゴホンっと咳払いをし、アデレ兄が口を開いた。


「エルは騎士と魔導士、どっちになりたい?」


「「はぁ?」」


アルフ兄もアデレ兄の質問が予想外だったようで、私と一緒に声をあげ話を断ち切った。


「いや、いまその話じゃないよね。まずは『エル』のことでしょ」


あ、そっちか。と言いたげな顔のアデレ兄。

と言うか『私』のことか。

きっと今日一日で、元のエルファミアと違いすぎて不審に思ったのだろう。私が逆の立場でも同じように感じるに違いない。


無言でアルフ兄に視線を送り、話の続きを目線で促した。

その目線に気づいたアルフ兄は

「ほら、それが僕達が知ってる『エル』と違うんだよな~。『エル』は、目線だけで物言わないよ」


・・・そうだろうね。

8歳の子供が目線で会話促すとかしないな。

そんな子供は見たことがない。


アデレ兄は私が目線で促した事には気づかなかったようだが、口を挟んできた。


「エルは、いつもニコニコして、もっとこう・・・何でも楽しそうにキャッキャしていたな」


アデレ兄の言葉にアルフ兄が頷いた。


「エルは木剣に興味なんて持ったことなかったし、魔法も10歳になったら嫌でも勉強しなくちゃいけないから今はいいって前に言っていたんだよ」


あぁ、どっちも興味を示してしまったね。


やっぱり私は『エル』とは程遠いようだ。

もう誤魔化しようがない・・・

何も答えられず無言で少し俯いた。


「ねぇ、エル?絶対何かあったよね?僕達に正直に話してみてよ」


兄二人は、心配そうな瞳で私を見つめている。


昨日と今日で兄二人は『エルファミア』が大好きだってことは身をもって感じている。

きっと信用しても問題ないことも分かる。

ただ、どう説明していいものか・・・

この世界に『輪廻転生』と言う概念があるのかも分からない。


「エル?僕達は今のエルを否定している訳じゃないんだ。今までと違うエルももちろん好きだよ。何しろ面白いしね」


アルフ兄はニッと笑いながら言った。

アデレ兄がアルフ兄の言葉に頷き、言葉を続ける。


「どんなエルでもエルはエルだ。だから・・・あれだ。どんな話でも聞くから」

「そうだよ。エルに何かあるなら、僕達が知っていればエルが困った時は助けられるし、味方になれるんだから」


ね!と言う兄二人の顔は優しさが溢れている。

グッと喉の奥を鳴らし心を決めた。


「・・・どんな話でも驚かないでくださいね」


兄二人が頷いたのを確認してから、高熱で寝込んでいる時の話から始めた。




「「転生???」」

転生って何だ?と言うアデレ兄に

「転生・・・輪廻転生って分かります?」と尋ねるとアルフ兄が答えた。


「あれだ、人は肉体が死んでも魂は何度でも生まれ変わる。ってことだよね?」

「それです。でも私の場合は、この世界とは全く違う世界から転生してきたみたいで・・・」

「「違う世界!!?」」


『違う世界』なんて言われても、そういう反応になるよね。


そこから私が元いた世界について話した。

魔法は存在せず、文明が発達していて、機械仕掛けの物で溢れていて、何なら空を飛ぶ乗り物もあったと話したら、二人共目が飛び出そうなほど見開いた。


それから私がどんな家庭環境で育ったかなど。

私が話している間、二人は真剣に聞いていた。



「・・・と、まぁそんな感じです」と話し終えたが、兄二人はそれぞれ、初めて耳にした未知の情報に頭の中を整理しているのだろう。目が点になっている。

その二人の表情を見て笑いたい気分になった。


「あっエル、いま笑ってる?口角が少し上がってるぞ」

「本当だ~」


アデレ兄の言葉に驚いた。

まさか昨日今日の付き合いの人の前で、無意識に口角が上がるとは。前世でも慣れ親しんだ人の前でしか笑うことはなかったのに。


「ここでの生活に慣れたら、エルが作り笑顔ではなく、心から笑顔になれる日が来るといいなぁ」


アルフ兄の優しいひと言に胸が温かくなる。


でも考えてみたら『エルファミア』の記憶もあるから、慣れ親しんでいるのと変わらないはずだ。


きっと頭じゃなくて心で感じているのかもしれない。


これからのエルファミアとして、貴族としての生活に不安があったが、私のことをちゃんと知っていてくれる兄達が居てくれたら、何とかなりそうだ。


未来が少し明るくなった・・・かも




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