【144】ヘンダーソンにGO!
翌朝、城の調理場に向かうと待ち構えていた料理長達と一緒に何故か赤がいた。
昨日みたいに残り香だけだと、悔しいからと早起きをして待機していたという。
「今日の朝食はサンドイッチだし、全員の分作る予定だったから、そんな早起きしなくても」
え、そうなの!と言いながらも、ここに居れば味見が出来るから良いのだと、ディスと一緒に作業を眺めている赤。
出来上がったクラムチャウダー擬きの味見をした料理長は「うまいっ!」と言うと、当たり前のように「味見しましょう」と寄ってきたディスと赤。
何なん、この二人は。
作り終え、邸の人数分だけ受け取り空間にしまい「ではまた数日後に」と料理長達に挨拶すると、寂しそうな顔をする料理長達。
「あ、そうそう。数日前に作った『トンカツ』あれ豚肉じゃなくて鶏の胸肉でも美味しいからやってみて。『チキンカツ』っていうんだけど、トマトソースとマヨネーズと一緒にパンに挟んでも凄く美味しいよ」
一つ料理を教えて「またね」とディスと一緒に消えかけた時に「チキンカツ!」と叫んでいる料理長達と赤の声が聞こえたような。
邸に戻ると、前日と同じようにミニキッチンの間で待機していたノルマンは、ディスの魔力の気配を感じた瞬間に、全員を起こすために部屋から走り去った。
私とディスが姿を現した時には、すでに走り出したノルマンの背中しか見えなかったが、走りながら「お帰りなさいませ~!」と叫んでいた。
「ノルマン、早っ!」
「くくっ、魔力感知で私達が戻るのが分かったのでしょう」
起きてきた全員で、朝食となった。
ノルマン達は、初めてのタマゴサンドとクラムチャウダー擬きに幸せそうな笑みを浮かべながら食べ進め、食べ終わると満足気な表情をしていた。
「ノルマン、今日から数日留守にします。邸の調理場が完成する頃に戻る予定ですので」
ディスがノルマン達に伝えると、ノルマン達四人は、畏まりましたと言いつつ、一斉に悲壮感漂う表情となった。
四人は「あぁ美味しい食事が食べれないっ!」と嘆いていたが、逆に本当によく今まで外食で満足していたよね。
これだけ皆が素直に喜んでくれると、作る方も作りがいもあるってもんよ。
支度を終え、階段下のエントランスにヴァルテスとアルフ兄、ディスと私が集まった。そこには見送りの為にノルマン達がすでに整列している。
ヴァルテスは前日に、陛下から数日分の魔力玉を貰っていたので「忘れずに持った?」と確認すると親指を立てたヴァルテス。
右手で私の腰を抱き寄せ、左手にヴァルテスとアルフ兄が掴まると「では、行きます」とディスのひと言でスっと影へと消えて行った。
着いた先の、転移部屋の扉を勢い良くバーンと開け放ち「ただいまー!」と叫ぶと、たまたま部屋の近くを通りかかったのか、セシルとメイドが驚きで飛び上がった。
その後すぐにセシルから説教をくらうはめになったが、セシルと一緒に居たメイドがすぐに母様達の元に知らせに行ったらしく、母様とマリアが現れた。
「エル!お帰りー!」と抱きついてきたマリア。
「夏季休暇はファーガスさんの所で過ごすのではなかったの?」とディスを見る母様に、ディスは胸に手をあてお辞儀をし「えぇ、こちらに用がありましたので、私の国から飛んで参りました」
父様とアデレ兄は出掛けていて留守のようだが、今回は母様に少し『店』の経営について聞かせて欲しいので、母様が居てくれてラッキーだった。
「何か商売を始めるって事?」と聞くマリア。
「まだ決定ではないんだけど、出来るなら?」
「ふふ、いいわよ~色々教えてあげる。その代わり、始める時は私にも手伝わせてね」
おお!母様が携わってくれるなら百人力だ。
始める時には、魔族の国とヘンダーソン領とで同時に仕掛けるつもりだったので、母様の参加は有り難い。
ヴァルテスとアルフ兄は、訓練所に赴くと言うので一旦別れ、私とディスは10日後に開かれる夜会の為に、ドレスを調達しなくてはならないので、まずはロベルタさんの店に行くこととなった。
ちょうど、母様とマリアもこれこら街に行くと言うので、一緒に行く事になった。
母様達と一緒なので、ディスの転移ではなく、邸の転移部屋から街のギルドの転移部屋へと飛んだ。
久しぶりのベルナルドさんに挨拶をして、私の姿を見て歓声を上げた冒険者達に手を振り、ギルドの外へと出た。
これから、街にあるフルーツサンドの店に様子を見に行くと言う母様とマリア。あまりの盛況ぶりに、もう一店舗出そうかと考案中だとか。
すっかり仲良しの母様とマリアの二人に「また後で」と別れ、ディスと二人でロベルタさんの店に向かった。
「今回は日数がないから既製品で済まそうかな」
「紫色のドレスならどんな物でも貴方に似合うので、既製品でも問題ないでしょう」
紫色は決定なのね・・・というか、今回ばかりは、誰が何と言おうと絶対に紫色と私も決めていたのだが。
今はロベルタさんのおかげで、国中でドレスのデザインの幅が広がった・・・半分は私のおかげ?私がデザインしたドレスからの派生みたいな物だし。
だが今回は、まだここにはないデザインのドレスでキメたかったのだが、日数が足りない。
既製品に少し手を加えれば出来るか・・・そこはロベルタさんのやる気次第って事になる。
「ロベルタさーん、います?」
店の扉を開け声を上げると、私に気づいた店員さんが「少々お待ちを」と急いで奥に入って行く。
「エルファミア様とファーガス様!ようこそお越しくださいました。本日はどのような?」
奥から慌てて出て来たロベルタさん。
「10日後にルキアの国で夜会があるんだけど」
夜会と聞いて目を光らせたロベルタさんだが「10日後とは、随分と急でございますわね」
「うん、それで今回は既製品でと思ってるんだけど、もしロベルタさんが手間でなければ、既製品に手を加えて貰えないかなと」
「お任せくださいませっ!私、この命にかえても10日後に間に合わせてみせます!」
目をギラッと輝かせ、鼻息荒く答えたロベルタさん。
だが頼むから命はかけないでよね。




