【126】夏までの計画
夜中に赤い瞳の魔族が現れたせいで翌朝は起きれず、セシルが起こしに部屋に訪れたが、私の隣りで寝ているディスに驚き「ヒャッ!」と声を上げ部屋を飛び出して行ったようだ。
ディスなら気配に気づいて、セシルが部屋に来る事に絶対に気づいてたよね?確信犯かっ!?
そして後で、ディスと二人でセシルに「まだまだ婚姻前なのに!」とこっぴどく説教を受けた・・・ディスはずっとククッと笑っていたけど。
二人でアルフ兄の部屋へと向かう途中
「そういえば、昨夜あの男が私のこと『マーキングだらけ』って言ってたけど、魔族には何か見えるって事なの?」
「えぇ、もちろんです。でないとマーキングした意味がないではないですか」
確かにそうだが・・・ディスの言うマーキングは冗談だと思っていただけに『だらけ』が一体どの程度なのか聞きたいような聞きたくないような・・・
アルフ兄の部屋に着くと、部屋にはヴァルテスも来ていた。
「ヴァルテスもいたのですね、お二人に話があったのでちょうど良かったです」
昨日の赤い瞳の魔族が訪問したことにより、どうやらディスは何か思う事があったようだ。
「お二人には私の国に行く夏までに、魔力の底上げをしてもらいます」
「「「魔力の底上げ?」」」
魔力は普通の人で5000前後、魔導師を目指すなら10000程度が一般的だ。魔力は使用していれば少しずつ上がっていくが、魔力が枯渇すると命に関わるので限界まで使用することは稀だ。そしてそんなにドンと上がるものではないうえに、上がり方には個人差もある。
私の魔力は初めてギネス師団長の元で測定した時より、学園に入学した時の測定でだいぶ上がっていて驚いた記憶があるが、毎年全学年が入学式が過ぎた頃に測定するのだが、進級時の測定ではそれほど変わりなかった。
アルフ兄とヴァルテスも学園での測定で知る限り、やはり毎年それ程上がっては居なかったようだが、元々普通よりかなり魔力が高い二人なので、今まで魔力を増やそうとも考えてはいなかった。
まず測定をしようという事になり、訓練所のギネス師団長の元を訪れた。
「今から皆さんで魔力測定なさるのですか?」
ギネス師団長は水晶玉を出してくれた。
「ルキア殿も測定を?」と目をギラつかせたが「私はやりませんよ、やったら大変な事になりますからねぇ」
え!何が起きるの?!といった目付きで、私を含めた四人はじっとディスを見た。
「私の魔力に当てられて、魔獣共が結界を潜り抜けて集まって来るかと思いますよ」
え!それは見てみたいような
でも大量の魔獣は遠慮したい気もする!
「それに、その水晶玉では、私の魔力に耐えられないでしょうね」
私を含めた四人は同時に目を見開き驚愕したのだった。
ディスの学園用の魔力は確か28000程だ。
それでも普通なら多いほうだが、魔族の魔力とは実際はどの位なのだろうか・・・まぁ聞いてもやたらには教えてくれないのだが。
アルフ兄は学園で最後に測定した時には19800だったとか。元々魔力が高めだったヴァルテスは20500。
今日の測定でアルフ兄は20100、普段ヴァルテスは魔法より武器派なので、ほぼ変わらず20550だった。
ディスに言われ私も測ると、進級して測った時には26950だったが、今回は27100だった。まだまだディスの学園用の魔力数値にも及ばないが、ディスのタイリングを作った時の影響もあるのか、思ったより上がっていた。
「これから夏までの間は、出来るだけ魔力枯渇する手前まで使い切ることにしてください。流石に毎日は無理ですので、三日に一度程度の頻度で大丈夫ですよ」
「「えっ!」」
「出来ればエルファミアに近い数値か、私の学園用の数値か、それはお二人にお任せいたしますよ」
「あと三ヶ月位か・・・俺は学園も通わないとならねぇし、無理じゃね?!」
「でしたら毎週末、こちらの東の森にベヒーモス級の魔獣でも召喚し、魔法を使って討伐でもしますか?」
ディスの言葉にいち早く反応したギネス師団長
「ベヒーモス、まさか!あの数年前のベヒーモスは・・・」
と、私に振り向いた師団長に苦笑いで肯定した。
「アハハハ!まさかルキア殿の仕業だったとは!」
「あぁ、あの時はエルファミアが退屈そうにしていたので、エルファミアが楽しめるようにと、私からの贈り物です」
退屈そうとか、余計なお世話だっつーの。
「毎週末にベヒーモス級の魔獣か・・・それすげぇ楽しそうじゃね?アルフ兄はどうよ?」
めちゃくちゃ目を爛々とさせ、楽しげな表情でアルフ兄に確認するヴァルテスだが・・・どうでもいいけど何故ヴァルテスまで『兄』なのさ?
「良いですねぇ、それで行きましょう」
ニヤっと笑いOKしたアルフ兄、そんなやり取りをすぐ側で聞いていたギネス師団長は、アルフ兄とヴァルテスに詰め寄り二人の肩をガシッと掴んだ。
「夏に何があるのかは分かりませんが、そんな面白そうな事!私も仲間に入れてもらえませんか?!」
目を輝かせ、アルフ兄・ヴァルテス・ディスに、ギラッと目力強めで訴えているギネス師団長。
ディスは、仕方ないと首を縦に振った。
「エルファミア嬢も参加ですよね?」
「えぇ、もちろんです。私が行く所にエルファミアが同行するのは当たり前ではないですか」
え、私も行っていいんだ?
・・・ベヒーモス級なら楽しいかも、ぐふふ
「ですが、あくまで兄とヴァルテスが主役ですので、師団長とエルファミアは後衛です。そして万が一の時は私が対処いたします」
後衛か、それなら援護射撃の腕を磨けるな。
「まぁエルファミアが入れば、ベヒーモスの時のように私の手助けなど必要ないですがねぇ、ククッ」
ディスはあの時の事を思い出し笑っているが、そんな事はないでしょ?ドラゴンには手も足も出なかったのだから。
ドラゴンをも簡単に退けてしまうディスの本気を、一度見てみたい気もするけどね。
今日は五人で夏までの計画を経て、夕方にはヴァルテスを連れて寮へ帰って行った。
「急に全員の魔力の底上げって、もしかして昨夜の男と何か関係あり?」
「えぇ、まぁ念の為と言ったところでしょうか」
「・・・念の為」
「私があの二人の近くにいない時に、何かあっても対処出来るよう実力をつけておくのも手かと。あの男に会った貴方なら分かるでしょ?私の近くにはあんなのが多いですからねぇ」
「なるほど、凄く良く分かる説明だわ」
昨夜の男は、楽しい事や面白い事が好きそうなうえに、厄介そうな性格していたな・・・出会った頃のディスもそうだったけど。
「今、変な事考えましたか?」
「い、いえいえ、別に・・・」
危なっ、顔に出てた?変なとこ鋭いよね。




