【112】罪の重さ
一昨日、クリス率いる王国騎士団に捕らえられたオスティナート公爵とアゼルファム伯爵は、やはり言い逃れをしようとしたそうだ。
「私達は知らん、あの古びた屋敷に居たのは、誰かに呼び出されただけだ!陛下!私達は嵌められたんです!」
「そ、そうです!呼ばれて行ったらヘンダーソンの娘が居て、私達も驚いているんです!」
「ほぅ、そうなのか?ではこやつらは嘘を申しておるという事になるな」
縄で縛られ王国騎士団に引き摺られるように連れられて来られた男二人。
「ふざけるなっ!あんたらが『戦闘の女神の加護など噂でしかない、そんな加護は存在しない』とか嘘ばかり言うから、俺達がこんな目に合ったんだろうがっ!」
「あんな恐ろしい娘は見たこともない!戦闘の女神なんてそんな美しいものじゃない!あれは戦闘の悪魔だっ」
「あんたらが依頼して来なかったら、あんな怖い娘に関わらずに済んだのに・・・全部あんたらのせいだっ!」
「俺達の指が元に戻らなかったら、公爵と伯爵あんたら二人を呪ってやるからなっ!」
国王の御前だろうと気にせず、公爵と伯爵を相手に息巻いた男二人は『戦闘の悪魔』の、氷のように冷たい灰色の瞳で、ニヤッとしながら平気な顔して、指を折った時の様子を思い出したかのように身震いをした。
そんな男二人の態度に、冷や汗を流し血の気の引いた青い顔で挙動不審になった公爵と伯爵は、絞りだしたような声で「し、知らない」と呟いている。
「まだ言い逃れしおるか。ではこれでどうだ」
国王に目で合図された宰相が、書類を手に公爵と伯爵に近寄り前に立つと、書類の中身が気になるのか、ソワソワとしだした公爵と伯爵の二人。
「この書類の内容が気になりますか?そうでしょうね、この厚い書類は全てあなた方の悪事についてですから」
宰相の言葉に顔を引き攣らせ、更に冷や汗を流す二人。
その書類の中身は、本来王国で定められている税率よりはるかに高い税を自領で民から徴収し、それを数年もの間横領して私腹を肥やしていたという内容と、奴隷売買に関わっていた証拠だ。
「今どき『奴隷売買』をしてる輩が、まだこの国にいたとは驚きです全く、恥を知りなさい。そんな恥知らずなあなた方の為にたくさんの証人が集まってくれましたよ。そしてあなた方の署名の入った書類も大量に手に入れましたから。もう言い逃れはできないと思え!」
そして翌日、早朝から公爵と伯爵は取り調べを受け、集めた証人と証拠のおかげで全ての悪事が明るみになった。
そして国王から言い渡された処罰は、爵位返還の後に御家取り潰しとなり、二人は平民へと落ちたのだった。
ちなみに公爵と伯爵に雇われた傭兵上がりの男二人は、戦闘の女神に怯え反省しているようなので、次はないぞと言い渡し保釈されたそうだ。
なるほどなるほど。
それにしても戦闘の悪魔って酷くないっ?!
こんないたいけな少女を悪魔呼ばわりって・・・まだあと指一、二本位の教育が必要か?
そもそも、あの男二人は本当に傭兵上がりなの?
その割りにビビり過ぎだっつーの。
「まぁ、一先ずは解決したという事だ」
父様の言葉にピクっと片眉を上げたディス。
そんなディスの様子に気づいたアルフ兄は、ニヤッと笑いながら言葉を発した。
「『一先ず』だからね『国』としての対応は終わったという事だよ」
やたら『一先ず』と『国』を強調したアルフ兄はディスの方を向き、同じくニヤァっとした表情を浮かべるディスに満面の笑み向け、言葉を続けた。
「平民になったオスティナートが、万が一消えたとしても誰も騒がないだろうねぇ」
「ククッ消えるだなんて物騒ですねぇ兄は」
ディスの言葉に、消さないの?と言わんばかりの顔をしたアルフ兄に父様がひと言。
「ファーガス君の気分次第という事か。ハッハハハハ」
父様、そこ笑うとこかい?
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私のとても大事な大事な可愛い人に
怪我を負わせただけでなく
体に上から跨り馬乗りになった人間
その罪は重いですよ
その罪の重さを身を持って知るが良い
真夜中に私の可愛い人が深い眠りについた後
そっと影に溶け込むように身を沈め消えていく
「き、貴様は、だ、誰だ!」
影からそっと姿を現すと
怯えた表情で後ずさりながら叫ぶ男に
ニタァ~と微笑んで見せる
「ヒィッ!」
「私の大事なものに手を出した罪は重いです」
「な、なんの事だっ!」
男の叫び声と同時に、自分の体から黒い靄を勢いよく噴射すると、靄は男の呼吸と共に体内に吸い込まれていく。
「ギャァッーー!」
男は床に転げ、もがき苦しんでいる
「苦しいのは最初だけですよ。すぐ楽になります」
そう言い、男に微笑みかける。
暫くすると、男の目には何も映していないのか
焦点の定まらない虚ろな目となり
口元はだらしなく涎を垂らし始める
体内から闇魔法の攻撃を受け精神崩壊した男
こんな人間の命など奪っても楽しくも何ともない。
「生きたまま償え」
後日、オスティナート元公爵は御家取り潰しとなり、精神的に病んでしまったようだと噂が広まったが、その数日後には伯爵も気が触れたようだと王都では暫くその話題で持ちきりだった。




