【1】気づいたら、まさかの異世界
この作品を読んでいただき、ありがとうございます
これから少しずつこの作品の編集をしていく予定です
その際に、削ったり足したりすることもあるかと…読んで途中の方、申し訳ないです(汗)
『・・・・・・っ!!!!!』
突然、細い管から何か大きな塊が分厚い蓋を破壊して噴射したような感覚に、はっとして目を開けた。
全身気持ち悪いくらい汗だくで、顔は涙と汗でびしょ濡れ、呼吸もうまくできず全身の震えが止まらない。
何故いまこのような状態なのか。
これが現実なのか夢の中なのか。
頭の処理がまるで追いつかない。
「エッエルファミアお嬢さまっ!!気がつかれましたか!」
朦朧とする意識のなか息を整えながらゆっくりと、叫びにも似た少女の声が聞こえてきた方に視線を動かしてみる。
・・・見たことない可愛い子。
でもなぜメイド服??しかも今どき見ない丈が長いちょっと古風なメイド服ね
モヤがかかったような意識の中、虚ろな目しながらもメイド服を観察していた。
メイド服の少女がポロポロ涙を流しながらも慌てて部屋を飛び出した扉の外で「お嬢様がー!お嬢様がー!」と叫んでいる。
「お嬢さまがお目覚めになりましたー!!」
メイド服少女が叫んだ数秒後には、慌ただしくバタバタっと部屋に人が駆け込んでくる。と同時に私の傍らに数人の大人や子供が集まってきた。
「エル、やっと目を開けてくれたか!よく頑張ったな!本当にっ」
私の頭を撫でながら最初に声を掛けてきた紺色の短めの髪を後ろになでつけた、所謂オールバックのような髪型の年齢は30代前半くらいかしら?口髭を生やした美形でなかなかガタイの良い男性が、琥珀色の瞳を潤ませ目を細め微笑みかけている。
これをイケおじというのかしら
「エル!エルーー!あぁ良かった!本当に良かったわー!」
ダークグレーの瞳で滝のように涙を流し、顔をクシャクシャにして私の肩の辺りに縋りついた綺麗なダークブロンドのロングヘアをアップにしているすごく美しくて素敵なお姉さまって印象の人。
滝の涙流しつつ鼻水もヤバそうだけど、そこは美しさでカバーできてる感じするわね。羨ましいー
イケおじとお姉さま、見目麗しい二人は同年代くらいかな。見目麗しいのはいいけど、二人の格好がちょっとおかしい・・・
イケおじはなぜ軍服っぽいし、お姉さまはドレス?
どこかのコスプレイベントの帰りか何かかな?
「エル!もう熱下がったのか?!」
「エルーー!!心配したよー」
眉尻を下げ目尻に涙を溜めながらこちらを覗きこむのは、ダークブロンドの髪色の琥珀の瞳とダークグレーの瞳。瞳の色が違うだけのとても整った顔だちの可愛らしい一卵性の双子の男の子。
私はけしてショタではない!
美形の双子はなかなかいいものねー
というか、ここはいったいどこ?
それにしても、さっきのメイド服少女にしてもそうだが、この人達の顔面偏差値が高すぎるんですが?
目覚めて初見で美形に囲まれている。
ドキドキして心臓に負担が掛かるのでやめて欲しい。
そもそも私は本当に目覚めてるの?
まだ夢の中なのかしら?
部屋のドアの近くには、先程部屋から飛び出し叫んでいたメイド服少女と一緒に、執事のような格好をした初老のおじ様と、その隣りにはとても優しそうだけど頼りがいのありそうなメイド服の若い頃は絶対モテたよね?!って感じのおばさま。
二人は目頭を押さえながら微笑み佇んでいる。
メイド服のおばさまは、ハンカチで目元を押さえながら「やっとお目覚めになられて良かったです」と初老のおじ様に寄りかかった。
何ここ、みんな目とか髪色、服装がおかしい
・・・・・・ん?あれ?
まだハッキリとしない頭で必死に思考を巡らせる。
あ!あぁ、そうだ。
ここに集まっている人達を私は知ってる
「・・・とう、さま、かあさ、ま、にい、さま」
「「「「エルーー!!」」」」
私の『いま』の家族だ。
ようやくハッキリしてきた頭の中を整理していると、開けた扉から白のワイシャツにワインレッドのリボンタイを付け黒のスラックスを履いた青年が、眼鏡をかけ白衣を羽織った人を連れて部屋に入って来た。
「先生!エルファミアの診察お願いします!」
先生と呼ばれた人は医師のようだ。
父と母に軽く頭を下げ、私の近くまで来てベッドの脇に立つと「失礼致します」と言い、両手の掌を私に向けた。
掌から白く淡い光がポワッと現れ、体には触れずに数センチ程離し、頭から足先まで何かを確かめるように淡い光で翳していく。
何これ…体の中身を何かが通っていくような
まるで体内を覗かれているような不思議な感覚だ
「ふむ、魔力も生命力も安定しているみたいですね。熱も下がってきているみたいなのでもう大丈夫でしょう」
「あぁ!先生、ありがとうございました」
え、生命力はわかるけど・・・
いま魔力って言った?
先生は丁寧にお辞儀をした後、執事風のおじ様と青年と共に部屋を後にした。
「良かった。これで一安心だな」
父様が母様の肩を優しく擦りながら抱き寄せて、安堵の息を吐きながらポツリと言った。
「えぇ、えぇ、本当に良かった・・・セシル、エルファミアの汗を拭いてあげてくれるかしら。体を綺麗にしたら新しい寝間着に着替えさせてあげて」
ハンカチで涙を拭き、落ち着きを取り戻した母様がメイド服の少女に声をかけた。
「はい承知いたしました、奥様」
・・・そうセシル、セシルだ。
メイド服を着た少女の名前は『セシル』
私付きのメイドだ・・・私付きのメイド?
あれ、何か記憶が混乱しているようだ。
周りにいる人達の顔を順番に見ていくと、少しずつ『エルファミア』としての記憶が蘇ってくる。
そうこれは『今世』の記憶だ。
「先生がもう大丈夫と言っても、まだ熱が下がったばかりなのだから、今日は安静にしてるのよ」
母が私の頬をそっとひと撫でしてから、父と一緒に退室して行った。
「あまり長居するとエルに負担がかかるから、お前達も部屋に戻りなさい」と父に言われた双子の兄達は順番に私の頭を撫でて「また来るね」と言いながら部屋を出る寸前までチラチラとこちらを見てとても名残惜しそうだった。
メイド服のおば様は「お嬢様、良くなられたみたいで本当にようございました。すぐに新しい水差しと、何か食べやすいお食事をご用意してまいりますね」とお辞儀をし部屋から出て行く。
そうだ、メイド服のおば様はメイド長のクローネ、執事風なおじ様は『風』ではなく本物の執事のブレリック、リボンタイを付けた青年は執事見習いのクレイ・・・の筈だ。
誰もいなくなり静けさを取り戻した部屋で一人
確かに熱はもうないに等しいくらいに下がっている。けど体中が筋肉になったようにバッキバキだ。
そんな気怠い体をゆっくり動かして、ベッドの淵に座り部屋を見渡してみる。
やたら広い部屋、フカフカそうな絨毯、天蓋付きの大きなベッド。大きい鏡台とアンティークぽいチェスト、ソファとティーテーブルと机。
どの家具も高級そうだ。
だが部屋は、壁紙や絨毯やカーテンも全て可愛らしいピンク系で纏められている。寝具やクッションなどももちろんピンク、そのうえレースの装飾や花柄の刺繍・・・
なんとも乙女チックで思わず眉間に力が入り、口角が若干下がったのが自分でも良くわかる。
乙女な部屋を観察してテンション下がりきったところにコンコンと扉を叩く音がして扉が開いた。
「エルファミア様、失礼致します」
セシルがお湯を入れた桶と布を持ち、部屋に戻ってきた。
ベッド脇のサイドテーブルに桶を置き、布をお湯に浸し絞り終え、桶の縁に布を掛けてから私に声をかけてくる。
「さぁ、もう少ししたらお食事のご用意ができますからね。その前にお体を綺麗にお拭きしてお着替えいたしましょう。失礼致しますね~」
寝間着のボタンに何の躊躇いもなくスっと手を伸ばしてきた。
え!ちょっと待って!なに!?
いくら私の専属とは言え、体拭きや着替えを人にやってもらうのはめちゃくちゃ恥ずかしいー!
私の服を脱がそうと伸ばしてきたセシルの手を咄嗟に掴んだ。
直後に凄まじい違和感が襲う。
セシルの手首を掴んだ自分の手に釘付けになった。
え?私の手?小さっ!!え?嘘!
驚きのあまりセシルの手から手を離し、自分の両手の掌を凝視しながら無意識に「ちっさっ」と呟いた。
「はい?エルファミア様どうなされましたか?」
「・・・な、なんでもない」
セシルに私の独り言は聞き取れなかったようだ。
セシルは首を傾げながらも、手際良くネグリジェのような寝間着のボタンを外してするりと脱がせた。
脱がされ裸になったであろう自分の体がいまどんな状態なのか、勇気をだして確かめないといけない。
そっと目線を下へ動かし恐る恐る確認する。
・・・完全なる幼児体型だ。
どこから見ても私は幼児だった。
前はそれなりに出るとこは出てたのに!
幼児体型に愕然とし遠くを見つめ現実逃避をしているうちに、セシルが私の体を拭き終えてすでに新たな寝巻きを羽織らせていた。
あまりにボケっとしすぎたのか、心配そうに目線を合わせてきたセシルに思わずハッとして、誤魔化すように慌てて話を振ってみた。
「私、どのくらい寝込んでたの?」
「丸々一週間です!お熱が下がってお目覚めになられてくれて本当に良かったですぅ」
セシルは高熱で寝込んでいた私の姿を思い出したようで、グスンと涙ぐみながらも新しい寝間着のボタンを掛け終えた。
「お着替え完了でございます。この後は少しでもお食事して、午後もしっかり安静になさってくださいね」
セシルが脱いだ寝巻きと桶を片付け終わるタイミングで、また部屋の扉を叩く音がし「失礼致します」と入ってきたのはメイド長のクローネだ。
食事と新しい水差しを持ってきてくれたようだ。
「エルファミアお嬢様、ご気分はいかがですか?お食事いただけそうなら、少しでも食べて栄養つけて下さいね、でも無理をしてはいけませんよ」
グラスに水を注ぎながらクローネは言った。
サイドテーブルに置かれた食事は、具材の入っていないじゃが芋のポタージュスープのような物に、小さく切ったパンが浸っている。パン粥みたいな物かな。
セシルが食べさせてくれようとしたけど「自分で食べます」と言い、スプーンを受け取り少しだけ掬って一口食べてみた。
・・・うん、とっても優しい味わい・・・とでも言えばいいのだろうか。良く言えば優しい味だが、素直に言えばただの薄味?食材の味?
そう言えばエルファミアの記憶では、この世界の食事は全体的に極薄味だったわ・・・と言ってもまだここの敷地から出た記憶がないから、うちの外の味は知らない・・・はず。
あまりの極薄味に思わず眉根が寄った。
が、セシルとクローネがじっと見てるので、無理矢理パン粥?ポタージュ擬きを無言で黙々と食べ進める。
ほぼほぼ素材の味で涙が出そうだ。
そこまで素材の味をいかさなくても・・・
半分くらい食べたとこで限界がきて止めた。
スプーンを置き、お水をコクコクっと少し飲み「ごちそうさま」と言いベッドに横になって静かに目を閉じた。
暫くは人がいる気配があったけど、私が寝たと思うとセシルとクローネの二人は静かに退室していった。
二人が退室していく時に何やらコソコソ話していた。
『ごちそうさまって何ですかね?』と。
そうだった。この世界では『いただきます』も『ごちそうさま』も言わないんだった。
完全にミスった。
二人がいなくなったのでそっと目を開け、今の状況の整理をしてみようと、頭の中で記憶の擦り合わせを開始する。
ここはオーストヴァレイ王国の東の国境付近
海と山に囲まれ、農業が盛んな辺境の地である。
そこが我が家ヘンダーソンが統治している領地だ。
ヘンダーソンの地は、前々国王の王弟が賜った領地である。
(私からすれば要は曾お祖父さん)
前々国王の王弟夫婦の嫡男(私からすればお祖父さん)に引き継がれ、今はお祖父さん夫婦の嫡男として生まれた父ジェイルズに早々に引き継がれた。
まぁ早い話、ヘンダーソンは王族の遠い親戚ということらしい。
ちなみに早々に引退したお祖父さんは、お祖母さんと一緒に日々楽しく隠居生活中だ。
ヘンダーソンは領地経営の他に、国境警備のための騎士団を保有している。その騎士団の総師団長を務めているのが父のジェイルズだ。
父の武力の腕は王国の近衛騎士団にも匹敵するほどだと言われている。しかも魔力も高いのだとか。完全に実力派である。
父に憧れる者も多く、入団希望者は毎年増えているそうな。
人当たりも良いので領民にも好かれていて、とても頼りになる領主様だ。
今は隣接する周辺の国とは同盟を結んでいるので戦争などの争い事はないが、この世界には魔獣や魔物が存在する。なのでヘンダーソン騎士団は魔獣討伐が主な任務となる。
母クラリスは父の領地経営を手伝いつつ、積極的に社交の場にも脚を運んでいる。
「貴族は他人の揚げ足取りのための噂話が大好物ですからね、オホホホ」と母は言う。
社交場は大事な情報収集の場所としか認識していないみたいだが。
4つ上の双子の二人の兄。
上の兄アデレイドは騎士、下の兄アルフレッドは魔導師を目指し、お互い日々鍛錬しているようだ。
そして末娘が私、エルファミア8歳だ。
まだ8歳か、そりゃ幼児体型だわ
この世界では、幼少期の成長に伴う魔力の増量に体が過剰に反応して高熱が出ることが稀にある。魔力の増量が多ければ多いほど高熱が出るのだそう。
まさに私がその状態だったようだ。
ようやく状況の整理が出来てきた。
そして高熱で魘され、突然頭の中に濁流のごとく流れ込んできた記憶は『日本』で生まれ育った前世の記憶だった。
きっと、あまりの高熱で何らかのショック状態にでも陥ったのかもしれない。
⭐︎