第5話 あれれ? 逃げ場がないぞ
かわいくて大事なシロンにこれ以上注射をしたり電流を流すわけにはいかない。大罪とやらのブラックフラグぷんぷんしてる奴で実験させるわけにも、当然いかない。
そんなの言語道断だ。
と言うわけで、俺はその研究のデータは改ざんする事にした。
データを改ざんする際に他の被験者のデータを参考にさせてもらったけど、何人いたと思う?
三桁以上だった。四桁行きそう。
本当にこの組織、悪の組織だ。
正義の味方さん、早くここぶっ壊してくれ。
ご訪問、お待ちしております。
そんな事を考えたら、シロンが俺の顔を覗き込んできた。
「キルト、考え事?」
「ちょっと悪人のはびこる世界について、哲学的な事を」
「う?」
シロンに、よく分かりませんみたいに小首を傾げられた。
とりあえず「何でもないよ」と首を振っておく。
今日は気分転換で、シロンがいつも閉じ込められている部屋の外をお散歩しているところだ。
当然シロンの為だから、シロンも一緒。
何の必要があってそうするのかと聞かれても、理由はでっち上げる所存である。
だって、ずっと一つの部屋におしこめてたら可哀そうじゃん。
プラネタリウム完備はロマンチックだけど、さすがにずっと見てたら飽きるだろうし。
「シロン、迷子にならないように手をつなごう」
「うん」
素直に手を繋いでくれるシロン、かぁいい。
シロン可愛いから、どっかの馬鹿に「飴ちゃんあげるよ」で連れてかれたら大変だ。
目を離さないように、しっかり見てないとな。
しかしあらためて思い知る。
窓の外、真空。
「ここ宇宙だね」「?」この建物がある場所の事だ。
いざという時、シロンを連れて逃げる場所がないからなぁ。
他の区画には、転移装置なるものがあるらしいけど、操作方法が分かんないから。
困ったな。
窓を見ると「星がきれいだねー、シロン」「う?」満点の星空と真空の闇。
とても四面楚歌だった。
せめて、どっかの地面に着地しててくれよこの実験施設!
遠くで光った流れ星が綺麗だったけど、思わず流れた涙が悲しかった。
「シロンー、俺達生き延びられるかな」
「う?」
はぁ、さすがに俺だけじゃなんともならないな。
この状況。
仕方ない、試作品のAIに働いてもらおう。
今ちょうど、何かが完成しそうなんだよね。
だから、そいつに働いてもらって、機械装置いじってもらえないかな。