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第2話 ユノ村に身を寄せる

「ウ、ウウ……」


 熱い。あまりにも熱い。

 肺に入れている空気があまりにも熱すぎてすぐに目を覚ましてしまった。


「く、そ———。あの野郎……!」


 恨みごとを言いながら起き上がる。

 レッカ火山の火口内。

 俺は運良くと言っていいのか。そうなって当たり前と言っていいのか、マグマ溜まりからだいぶ離れた場所の岩の斜面の上に落ちた。

 手前の方から落ちたのだから、中心部のマグマだまりへ行くほど飛んでいきはしない。全身が溶けることはなかったが、背中は思いっきり打った。

 そのせいで気絶していたが、それは一瞬だった。


「なんで、落としやがったんだ……! この際役立たずだからクビにするのは飲んでやるよ……!」


 悪態を付きながら、火口内部から脱出しようと斜面を登る。

 魔法の才能がないだけあって、体力だけには自信があり、切り立った、ほぼ壁の部分になっても、突き出た岩を掴みロッククライミングの要領でヒョイヒョイと登っていく。

 首になったとはいえ、一応は人類最強の勇者パーティの一員だった男だ。

 切り立った崖でも楽勝で登りきる。


「フゥ……全く……」


 頂上に辿り着く。

 火口から出て、周囲を仰ぎ見る。


「うわっ……」


 青空が広がっていた。


 綺麗だった。

 雲一つない晴天から降り注ぐ日に、緑の大地が広がっていた。

 魔物がうごめく、魔王の城に近い場所とは思えない美しさだった。

 なぜだかその景色を見ていると、


「頑張ろう……」


 そう、思えた。


              ×     ×    ×


 レッカ火山のふもとには、ユノという村がある。

 活火山の近くで温泉が噴き出る温泉街。一応村と呼ばれているが、観光で訪れる旅人が多く、潤沢な資金で旅館や店を作り、村とは呼べないほどの発展を遂げている。

 石畳でできたメインストリートを歩く。


「おんや。勇者一行の方でねぇの」


 タコのようなツルっとした頭を持っている中年の男性、オットーに話しかけられる。 

 この村の入り口に土産物屋を構えている男で、彼の店にはオークの頭蓋骨の置物やゴーレムの一部という名前のただのレンガなど、怪し気なものが置かれている。

 店の商品は怪しげだが、立地がいいだけあって結構儲かっているらしい。


「ああ、どうも。ハハ……」

「どうしたの、あんたらレッカ山を越えて魔界に行ったんじゃないの?」


 レッカ山を越えた先は人間の村もない、魔物だけの死の土地———通称、魔界。

 ユノ村を旅立って、俺たちは魔界を超える前人未到の無謀な挑戦をする、はずだった。

 いや、しているか。俺以外は。


「行きましたよ。俺以外は」

「え⁉ そんじゃまぁあんたはどうしたの? どっか怪我でもした?」

「えっと……魔物って基本的に人間の力ではどうにもならないんですよ」


 魔物。


 魔法の力を持つ動物。略して魔物だ。

 その皮膚は魔法の力で守られて単純な物理攻撃が利かない奴がいる。そういう魔物には魔法そのものや、魔法の力を込めた武器や拳でないとダメージが与えられない。


 『物理無効スキル持ち』。


 正式な名称はないが、俺たちはそう呼んでいた。


「俺、魔法の力が使えないっていうか、魔法の才能が全くなくて……レッカ山内部のモンスターってそういうやつばっかじゃないですか?」

「ああ、そうだなぁ、だからこの村の警備隊は皆魔法のエキスパートだよ」


 ユノ村の周囲は、魔界から近いだけあって当然危険だ。

 だから、この村を魔物から守る警備隊も当然レベルが高い。全員高等魔法は使えるし、武器の扱いだって一流だ。俺も剣の腕は自信があるが、魔法が使えない分、下手すれば彼らの方が強いかもしれない。


「レッカ山の中の魔物。皆魔法じゃないと倒せない奴らばっかりで……この先もそうだろうって判断です。まぁ、俺はクビにされました」

「あんれ‼」


 オットーは目を丸くして驚いた。


「そりゃあ、まぁ、お気の毒にって言ったらあれだけど……でも、良かったやない。これで死なんですむっちゃろ?」


 魔界から先は人間の村がなく、非常に危険だ。魔王を倒すか、死ぬしかないレベルの。


「そ、う……ですね。まぁ、考え方によっては……あの、オットーさん。しばらく俺この村にいようと思うんですけど、仕事ってないですかね」

「あんたは確か……剣士だったよね?」

「はい……【剣聖】の才能がなかったんで、他の面で補おうと思って武器と名のつくものは大体練習して扱えるようにはなっていますけど」

「うん。まぁ、だったらやっぱり狩人とかしかなかね。魔法しかきかん魔物は確かにここいらには出てくるっちゃけど。そんな奴は滅多にではせん。じゃがやっぱりウルフ系の魔物やリザード系の魔物は数が多いのに一体一体が強い。そういうやつらを狩って毛皮とかを売るっちゅうのが狩人の仕事たいね。村人の安全確保が一番の目的やが、ここいらの魔物の素材は結構王都の方で人気があるっちゅう話で行商人が高値で買っていく。結構儲かるって話よ」

「そうですか。ありがとうございます。それでなら日銭を稼げそうだ」


 何とか当てを見つけられたので、オットーに一礼してその場を後にしようとする。


「ああそうそう! 村はずれに家がある。井戸と温泉が付いてるいい家だ。誰も住んでいないから、村長の許可をもらってそこに住むといい!」


 呼び止められ、親切なアドバイスを受ける。

 俺は振り返り、手を振る。


「どうも! 村長に言ってみるよ!」


 しばらく落ち着ける拠点の当ても見つけられた。

 親切なオットーには感謝しかない。


「そうそう! あと、教えてほし事があるっちゃい!」

「何です⁉」

「あんたら、めっちゃ仲良さそうだったけど! 何であんたはクビになったの⁉」

「…………!」


 それは、さっき説明したじゃないか……!


「いやね! なんか、ちょっとやそっとじゃ切れない絆がありそうじゃったけん! それがプツンっていともたやすく切れとうけん! なんか、なんかでかいことがあったっちゃないか、ってねぇ!」

「……………」


 俺は、言うのをためらった。

 が————そんなに隠すことでもないだろうと思いなおし、言った。


「魔王に出会っちまったんですよ!」


 そこで、ボコボコに負けた。


 完敗だった。


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