そこにある地獄
「異世界転生予定者のみなさーん、こんにちはー」
キャラクターショーの司会者並みの明るい声で、しかし、政治家の汚職事件を伝えるアナウンサー並みの無表情でオフィスカジュアルな格好をした女が教壇に立つ。
「あれー?まだ死んでいるのかな?みなさーん、もう一度いくよー!こーんーにーちーはー」
教室には年齢、性別それぞれに40人ほど席についていた。しかし、誰も女に反応しない。
女は仕方がないなぁ、と言い背後の黒板を叩いた。
「死人のみなさーん!キャラクリはじめるよー!」
黒板には【キャラクリ 教室】と書いてあった。
異世界転生…希望者の増加に伴い、行政システムの遅延が多くなり、待機者で溢れかえるようになった。そのため集団説明会、及び、各種設定のセルフサービス化が進んだ。学校のような施設に入れられているが、個人個人の交流はなく、各々自分の準備を進めるだけでいい。
まずはキャラクタークリエイトだよ!
身長、体重はもちろん、顔、毛髪量、全てお望みのまま!最新のヘッドマウントディスプレイを利用し、マウスとキーボードを使い、理想の自分作っちゃお★
(希望に応じてペンタブレット貸出します)
オフィスカジュアルな格好をした女が説明を終えると、40人の死人たちはヘッドマウントディスプレイを装着し、機器を使い、異世界での自分をつくり始める。こうなればもぅ、声は届かない。
「こんな感じです。どうでしょう、次からは一人で、できそうですか?」
教卓の中からもそもそともう一人、女が出てくる。
「ど、どうでしょうか…この人たち反応無さすぎてわかっているのかいないのか…」
「大丈夫ですよ、本来なら異世界転生希望者ばっかりだから、説明する必要はありません。あとはこのモニターで制作状況を監視するたけです」
「結構みんな作るの速いですね…」
キャラクターはそれぞれの理想はあるが、どれも美男美女ばかりだ。
「大丈夫ですよ、例えばこの人を見てください。正面から見て作成していますが、横からの視点にした途端に」
「わわ、キャラクターの顔がおかしいですよ、先輩!」
「よくあることです。こちらの例ではカラーパレットを操作しようとしていますが」
「わわわ、今度はエラーが発生しましたよ、あ、データ消えた」
「こちらも見てください、ズーム機能です」
「わ、顔面へこみましたよ」
「と、このように、絶対に完成しないようになっているから大丈夫ですよ」
「はい、とっても安心しました!」
後輩は笑顔でうれしそうに頷いた。
「では、このキャラクタークリエイト地獄はあなたに任せます。よろしくお願いしますね」
「はい!もし、罪人がキレたら、「では今のお顔のままでよろしいですね」で押し通すんですよね!」
「そうです、よく覚えていましたね。大抵それで黙ります」
褒められて更に嬉しいのか後輩はピョコンと跳ねた。
作ってはフリーズし、データが消え。
造っても画面切り替えのたびに、形が崩れ。
創っても永遠に完成することはない。
石を積むより苦しく、
石を崩すより楽な、そこにある地獄。




