二月二十日 ドリル
五十一日目 三分の二です
「まあまあ。見れば判るから!」
と、ケイと二人、どんどん奥へ進んで行くさつき。
到着した部屋には二メートル半×二メートル半位の枠が付いた分厚い台みたいな外観の装置。
「此のゴーグル付けて台の上に立ってくれるかな?」
と、渡されたゴーグルって言うか、スポーツサングラス? 軽いし小さいよ? 向こうが見えるし。
とりあえず装着して台に上る。
「起動するねー。ちょっと浮き上がるけど心配ないよー」
幾つかパイロットランプみたいなのが点灯した後、体が少し浮き上がる。いや、床が持ち上がったのか?
ゴーグルが一瞬白くなった後、周りの様子が戻ってくる。
ケイが他のみんなにもゴーグルを配ってた。
「それじゃ。町中に切り換えるからね。
何のこっちゃ? と思った瞬間、景色が町の中に変わった。
歩行者や、コミューターが行き交っている町の一角だね。
周りのみんなはどこかに消えた?
「みんなは元の位置で見学してるよー。それじゃ歩いてみてくれるかなー?」
言われるまま、歩き出す。
普通に歩けてますね。
「違和感は無いかな?」
「特にないですね。台の周りの柵にぶつからないか心配な程度かな」
「あぁ。じゃ、周りを少し透過させようか」
「ゴーグルの右にダイヤルがあるから触ってみて」
言われたとおりに手をやると何か出っ張り。
「それをひねれば好きな透過率に変更出来るよ」
ちょっと摘まんで回してみれば、最初の町中が透ける様に消えて行き元の部屋へと見える景色が変化する。
「それじゃ、適当に走ってみようか」
町中の風景がハッキリ見えて、薄ら部屋の様子が分かる当たりにしておく。
いざ走り出す。
きっちり地面を蹴る感触がして走りやすいぞ。家のマシンはベルトの上を走ってる感触のまんまだから風景を見ながらだと少し違和感があったんだよ。
ものは試し。花壇があるんでその中に入ってみる。
「おぉ!チャレンジャーだねー」
褒められたのか?
うわ。ふかふかの土の感触。リアルだ。
「ケイは呆れたんだと思うよー」
楽しんでる所にユリカの声が。
さいですか。
そう言えば、向きを変えるのも違和感なかったな。
それじゃ色々走ってみますか。
あ。その前に。ゴーグル外すとどうなるんだ?
足元がベルトの感触になった!
ゴーグルを付けると又地面の感触に。楽しい!
それじゃあ、走れそうな所を片っ端から走ってみよう。
歩道から車道、公園、川があったから飛び込んでみれば着水した後川底に立つ感触。
高い所から飛び降りる時の感じもリアルだった。
川から飛び上がって土手の草むら。斜面を駆け下りるのも楽しいぞ。
それではいよいよ。現実では出来そうもないコミューターの上を走るのはどんなかな?
ボコンと屋根がへこむ感触が楽しい。
相対速度で足が流れる感じや踏ん張れば体がコミューターの動きに引っ張られる感じも面白い。
道路に飛び降りれば、当然慣性があるから横に流れるし、衝撃もしっかり帰ってくる。
最後、六十キロ位からいきなり止まってみた。
靴が滑って停まる感触まで再現してる。
「楽しいです!!」
ゴーグルを外してみんなの方に向きを変えながら報告。
「凄い!鹿乃子の笑顔。初めて見たかも!」
え? 笑顔になってる?
それは本当ですか? さつきさん。
「満面の笑みでしたよ。鹿乃子ちゃん。大スクープです」
かおりが携帯端末で撮影した写真を見せてくれた。
ほんとだ。
別人みたい。
なんか、凄く恥ずかしくなってきた。
「笑ってる顔は時々見るけど、爆笑だもんねぇ。アレ」
というのはユリアのご意見。
無表情からいきなり爆笑って、端から見れば不気味だろうなー。
「自分で言う?」
ミュラ姫が呆れてるし。
はぁ。少しは表情筋がお仕事する様になってくれたのかー。
あ、今はランニングマシンだよ。
これ、楽しいよ。
「言い値で買います」
「いやー、無理だと思うよ。今のお値段、開発費込みだからコミューターなら二万台位買えちゃうから」
がっくりと膝を着く。それは無理だー。
高価いよケイ。桁が二個位足らないよー。
「楽しいのにー」
「モニターしてよ。貸し出すからさ」
「やります!!」
「すっごい食いつき…気に入ってもらえて制作者冥利に尽きるねー」
家の地下に設置してもらえる事になった。
やったぜー!。
大興奮中のわたしです。
そこへ、
「これ、陸上競技とか、空中にもシールド作ばれボクシングや空手なんかの練習にも使えるんじゃ無いかな?」
と言うミュウのアイデアが出まして。
「フェンシングなんかもいける?、登山とかロッククライミングなんかも出来るかも。水の感触が再現出来てるなら水泳も可能なんじゃ無い?」
サリーから追加で色々と。
「鹿乃子ちゃんが結構大っきなジャンプしても実際には一メートルも上がってなかったわよね。トランポリンとか床運動なんかも出来そうね。スケートやスキージャンプも出来る?スカイダイビングやスキューバダイビングなんかのシミュレーターも可能なのかな?」
ミュラ姫もアイデアが大漁。
「なんか、とんでもなく利用範囲拡がるんじゃ無いかな。ちょっと、ケイ。これ、本気で開発して?」
ユリアが本気になっちゃった模様。
「そうか。そうなると今手がけてるのより商品価値上だしね。本格的に開発しよう。鹿乃子ちゃん」
「ハイ?」
「アイデア料代わりに、これあげる。使ってみて又アイデアちょうだい」
「うぇ?」
「後、ミュウ。開発キット付けとくから楽しそうなプログラム作ってよ」
「あい。弄ってみる」
なんだかどんどん大事になってる気がする? 気のせいだよね。
その後、ミュウともども開発スタッフに組み込まれる事が決まった。
わたしは主に試験担当です。
あれー? 只、町の中を平和にジョギングしたかっただけなのになー。何故こうなった?
ユリカとかおりとさつきとメグは、途中からずーっと爆笑していたよ。
精神的にどっと増した疲れを背負って帰宅です。
研究所で騒いでいた時間が結構長かった。
打ち合わせしながら遅いお昼も食べたりしたし。
帰って来たら十五時回ってたよ。
「ただ今」とみんなで玄関を潜って家の中へ。
即座にユリカが、たたたーっと一番奥の普段使ってない部屋へ走って行く。
直ぐ戻ってきた。
「もうゲームチェア届いてるよー」
早いな。おい。
「綺麗に並べてくれてるから直ぐ始められるよー」
いや、着替えてお茶休憩が先な。
「えー?」
えぇい。着替えるんだから服の裾引っ張るんじゃ無いよ、ユリカ。
駄々を捏ねるユリカを振り切って着替え。
キッチンに移動してお茶を煎れようとしたら[ハウスキーパー]様が茶葉とコーヒー豆を手にどっち?と訊ねてきた。
「みんなの分も煎れてもらえる?」
と訊ねると大っきなまるを腕で作る。
「お茶は何が良いー?」
とりあえずリクエストを受ける。
「緑茶ー」
「「コーヒー」」
「「紅茶」」
「「コーラ」」
「ミルク」
「オレンジジュース」
「グレープジュース」
我が侭だな!
「わたし、紅茶なんだけど…」
色々でごめんね。と言いかけたら紅茶の茶葉以外を収納。カップを十一用意してお茶を煎れ始める[ハウスキーパー]様。
あ。全員紅茶に決定ですか。
「全員紅茶に決定しました」
と、伝えてみる。
「えぇー?」×八人
大ブーイング。
[ハウスキーパー]様、カップを三個残して片付け始めたよ?
「今文句言った人は自分で入れろって言ってるよ?」
「ごめんなさい。文句有りません。お願いします」×八人
あ、カップ戻してくれた。
出来上がったお茶をワゴンに乗せて、[ハウスキーパー]様と一緒にリビングへ。
[ハウスキーパー]様がみんなにお茶を配り始める。
「緑茶が良かったなー」
と、ユリカがぼやいているが…
ユリカの前に何も置かず隣へ移った。
「ごめんなさい。嘘です。紅茶が良いです。許して下さい」
慌てて頭を下げるユリカ。
お茶が無事配られた。
ワゴンを押してキッチンへ帰っていく[ハウスキーパー]様。
「あのこ、なんだかどんどん愉快な性格になってく気がするんだけどー」
お茶をすすりながら涙目でぼやくユリカ。
「自分で入れたより美味しいのが悔しいー」
ホント、美味しいよね。
もはやミュウもサリーもユリアもミュラ姫も何にも言わないね。
「「「「鹿乃子ちゃん現象ですよ」」」」
違うから!
その後、キッチンで[ハウスキーパー]様が取った行動を始めから説明したら大爆笑になった。
十分少々、お茶も飲み終わって片付けでもと背もたれに預けていた身体を起こす
「よし、ゲームやるぞー」
「「「やるぞー」」」
ユリカ、かおり、ルミ、さつきが立ち上がる。
キッチンから物音が聞こえたのでそちらに視線を向けたら[ハウスキーパー]様がワゴンを用意してこちらを伺ってらっしゃる。
立ち上がったのがユリカ達だったとみるや、くるりと反転されまして…
「あー。待って待って[ハウスキーパー]様。みんな終わり、せっかくなんで片付けをお願します」
慌てて叫んじゃった。
全員の視線が[ハウスキーパー]様の動きに集中。
テーブル上のカップをワゴンに移すと、何故かわたしの前に来て頭をなでなで。其の儘キッチンへ向かって行かれました。
頭の中で龍神が爆笑している…
わたし?フリーズ中です。
「誑し?」
「誑しかな?」
「誑しかもしんない」
「AI誑し確定で!」×七人
「酷い!? なんで!? わたしが一番戸惑ってるんだけど!?」
「あはははははははははははははははははははは」×十人
しばらく復旧不能です。
小一時間ほど経過した現在。絶賛ゲーム起動中ですよ。
当分開放されないんだろうなー。さっさとクリア条件達成してやろうかしら。
ゲーム用のシート、実に快適ですよ。
座ってリクライニングさせた後、オットマンに足を乗っけて其の儘座面毎ロッキング機構で後方へと傾斜させる。
ベッドで寝てるより快適かも知れない。
更に、腕の動きに合わせて動いてくれるんだけど、でも腕の重さを支えてくれるアームレスト。
そして、ゲーム機を固定するんだと思っていたアームに至っては、ゲーム機の重さは支えてくれるけど、可動範囲内なら重さを感じないで自由に動かせる様サポートしてくれる優れものでした。
あ。固定も可。
至れり尽くせりとはこのことか。
但し、セットアップはミュウとアルファの助けを借りつつ三十分。
今日一日分の学習能力は枯渇しました。
何故奴らは説明書すら見ないで使いこなせるんだろうか?
経験の差でしたか。そうですか。
はい、色々ブツブツ溢れさせながらネットワークに接続作業中でございます。
あ。繋がった。
《鹿乃子遅ーい》
ユリカがいきなりこれだもの。
ドワーフ幼女が文句を言いながらポカポカしてくる。
「悪かったよ。慣れてないんだよ。時間掛かるんだよ」
《声出さなくても考えれば通信出来るよー》
《リアルとゲーム機と両方から聞こえてくるとなんか変!》
そう言えば、昨日も言われた気がする。
でも昨日、ずっと喋ってた気がするぞ? わたし。
《まあ、そうゆう事もある》
まあいいや。普段通りで良いらしい。
《そうそう》
《段々順応が早くなってきた》
おーい。声を変えてるから、誰が誰かよく判らないんだけど?
《喋ってる人の頭に▼が出てるはずだよー》
ホントだ。それに、お口もちゃんと動いてるんだね。
ドワーフ幼女の頭の上で、クルピカしている▼マークが絶妙な穴掘り攻撃中。
って考えたら伝わっちゃった。
一同大爆笑。
凄い。ゲームのキャラも転げ回って笑ってるよ。
感情表現豊かなんだねぇ。
しばらくして、落ち着いてからアルファが思考検出感度とやらを調整してくれた。
どの位の考える強さから言葉に変換するのか決める設定だそうです。
なんか、最高感度になってたそうで。
あのー。もしかして昨日も全部筒抜けでした?
皆さん頷いていらっしゃる
やれやれ。
みんなで連れ立って町の外。
フィールドでジーナ達との待ち合わせ場所へ向かう。
やがて見えてきた戦闘集団。
美形の剣士とろりっ娘エルフが目立ってる。
ジーナ達です。
なんか、皆さん一撃撃破してませんかね?
魔物の頭上を[CRITICAL]が乱舞している様な気がする。
《やっほー。お昼ぶりー》
ユリカが代表して声を掛ける。
《遅いよみんなー》
は、麗華のチャイナ闘士。
《レベル爆上げの裏技見つけちゃったよー》
と叫んでいるのは、イケメン剣士のジーナだな。男性声の違和感半端ない…
そして、ご機嫌な様子で走り寄ってくる六人。
《戦闘に入ったら決定ボタン押しっぱなしで正面の魔物の頭に触ってるだけで[CRITICAL]出せるよ》
ぴょんぴょんしながら静香の獣人少女が叫ぶ。
《魔法も、あらかじめコマンドウインドウをカスタムして魔法が最初に選べる様にしておくだけなんですよ》
《それでおんなじようにすると魔法が発動する直前まで戦闘画面から戻らなくなるんだよ》
そう告げてくるのはステフの魔女っ子と聡美の神官エルフ。
《それで何故か[CRITICAL]判定になっててしかも[MP]が減ってないという素晴らしさですよー》
関係なさそうな気がする、なばちゃんロリエルフ。弓使いじゃなかったか?
《それは凄いですね》
とエルフのかおり。
《絶対取り忘れたバグだと思う》
と、紫ドワーフのミュウ。
《速時修正》
NINJAなルミ。
ドワーフ幼女と魔族と騎士は隅っこで無言…さっきのを思い出して耐えてるな?
《ドリル…》
ぽつり、と考えてみた。
《《《「「「あはははははははははははははははははははは」」」》》》
現実とゲーム両方から大爆笑が。
一体どうした?とジーナ達。
ミュラ姫から説明を受けた後、お互いに向き合って一言二言…
《あはははははははははははははははははははは》×六人
此方も嵌まったらしい。
《く…クルピカ▼ドリルー》
《もうそれにしか見えなくなっちゃったー》
《鹿乃子ちゃん!責任とって!》×六人
《えー?》
いや、責任取れったって、運営さんにお願いするしかないんですが?
《運営様。修正お願い出来ませんかね?》
ものは試しで言ってみる。
《変わるわけないかー。あはははははははははははは》
ユリカが笑ってる間に、▼マークが●に変わってスイッと頭の直上から少し離れた。えぇ!!?
《あー。変わったー》
ユリアがぽけーっと見ている。
三分の三に続きます




