二月二十日 椅子
五十一日目 三分の一です
星暦二千百十一年二月二十日 金曜日
お早うございます。
ついさっき寝たばかりな気がするわたしです。
事実ですか。そうですか。
着替えてリビングに来たら、ユリユリペアがだれきっている。
「鹿乃子ー。回復魔法プリーズー」
「魔法なんて無いよ」
「カミーラに治癒能力使ってもらおうか?学園のクラブルームに居るだろうし」
ユリカの台詞を適当にあしらったらユリアの提案が酷い。
「治癒で良ければ掛けようか?」
「他人に掛けれるの?」
ガバッと起き上がるユリカ。
「五日前に自己治癒が出来る様になったばかりだよね?」
「自分の中巡らせる神気を相手にも巡らせれば良いんだろ? 出来るよ?」
気を整える目的で修行してたしな。神気も真気もほとんど一緒だし問題ないよ。
「じゃあお願い。掛けてー」
と言う訳で眠気を飛ばして活力を上げるイメージで気を巡らせる。
ついでだからユリアにも巡らせちゃえ。
「うわ?」
あ。感じたんだ。狼狽えてる。
三十秒ぐらいで淀みが消えた。OKかな?
「眠気が飛んだー」
「充分睡眠取った後みたい。すっきりしちゃったね」
「「有り難う」」
どういたしまして。
「ユリアにも掛けちゃったんだね。わたし実験台のつもりだったんだけどなー」
「ああ。そりゃ悪かった」
そういう意味合いだったのか。それは勝手なことした。ごめん。
「これ、昨日NINJAペアに掛けてもらえば良かったんじゃ…?」
「「あー」」
ぽつりと溢したユリアの意見にユリカと二人思わず声が出た。
結局、どんよりとした顔で起きてきた残り全員に一度に掛けてしゃっきりさせたよ。
そんなになるまで頑張るなよ。
えー? 遊びに手抜きは無理ですか。そうですか。
で、学園のホームルームです。
ショートホームルームの時間です。
もうね、全員がどんよりしてましてね。
君たち、今日試験だって判ってるんだよね?
「だからこうなりました」×クラス全員
なんで?
「鹿乃子ー。人間って、追い込まれると他の事に全力を向けちゃう生き物なんだよー」
現実逃避ですか。そうですか。
やれやれ。
まだ高校一年生だしなー。
ユリカ達に付き合ってると完全に忘れるけど。
で、約一名、生徒じゃ無い人が混じってるのは何故なんですかね?
「えーとー 今日は試験監督だけなのでー 少し位ならなんとか為るかなー とか思いましてー」
なばちゃんのイメージがどんどん駄目人間に塗り替えられていくんですが?
いい大人? 歯止めの在庫は何処へ使っちゃったの?
あー、よくよく考えればユリカ達はいい大人どころの騒ぎじゃ…以下略。
そりゃーもう。全員シャキッとして頂きましたとも。
学園長のもくろみ?そんなものわたしは知りません。
その後、試験が四科目。制限時間四十分でお昼には終了。
今日は答案を回収した後、保管して全員帰宅。
月曜日に教師が採点する流れ。
一応、解答用紙保管用に専用の金庫みたいな保管庫があるそうですよ?
初代学園長の意向だそうです。
試しにさつきに初代学園長って誰?と訊いてみた。
見事に視線をそらされました。
鳴らない口笛を口まねしながら。
いつもの面子は周りで団子になって痙攣してます。
いや、一人は毛玉。
こっちはほっといて、此の後、ゲーム用の椅子を見に行くんだけど?と、聡美やジーナに聞いたら既に持ってるとの事。
一度使い始めてから手放せないそうです。
但し、実際使用中の姿は他人には見せられないと言ってました。
どんな格好になっちゃうんだろうかと、割と不安な現在。
ようやく再起動した八人と校舎を出て正門へ向かう。
ミュラ姫とサリーが、コミューターを確保して待っていた。
全員で乗り込んで走り出す。
「何処まで行くの?」
質問すれば、
「商業区画のゲーム関連商品専門店ですよ」
と言うかおりのお答え。
わたし、商業区へ行くの、畳を買って以来かな?
思えばあの頃のユリカはまだかわいげが…替わらないか。始めから強引だった記憶しか無いな。
「なんだか鹿乃子があたしの事酷い扱いしてる気がするー」
ばれてるし。やっぱり漏れちゃうなー。
「ひーどーいー」
おい。やめろ。ポカポカするんじゃ無い。割と痛い。
アルファとミュウとかおりが横を向いてプルプルと震え出す。
そんなコメディアン達を乗っけてマイクロバスみたいな大型コミューターが商業区画へ進入する。
商業区は、居住区の一つ内周に幅七キロの帯状に配置されている。
まあ、興行的な施設も、生産系の建物も混じってるらしいんだけどね。
畳屋さんとか。
で、コミューターはと言うと、大きめのビルが多い一角で止まったよ。
大きいとは言っても、五階建てのビルで最大らしい。建築制限があるんだと。
だから複合的な建物はあんまりないみたい。大抵が専門店になっているようですよ。
正面が巨大化したゲーム機の建物があった。壁にスイッチ類まで付いている。
押すと光って音が出るんだと。
あの手が届きそうも無い所のスイッチも?と訊いたら全部だそうです。
一階と二階の中間ぐらいだから普通は届かないよな?
ものは試しとジャンプして押してみたら派手に光りながら何かの音楽が鳴り響いた。
ものすごーく注目を集めている現在。
周りのみんなの視線が痛い。
「お騒がせ致しました」
「「「あはははははははははははははははははははは」」」
ユリカとさつきとかおりが大笑い。
他の六人様はやれやれといった表情で。
店員さんらしい女の人も走り出してきたけど、騒ぎの中心にいるわたし達を見て納得していた。
二、三度うんうんと頷いてから店内に戻ってく。
誰か有名人がいるの?
「ユリカちゃんとかおりちゃんが同じ事して注目集めた事があってね!」
さつきが教えてくれた。さっき笑ったのその所為なのか。
ユリカ目立つもんな!
「あたし一人に押しつけないでー。かおりもルミも色々やらかしてるよー」
二人は明後日の方を向いて口笛を吹いてた。音出てないけど。
店内に移動。
入り口近くのレジにさっき飛び出してきた店員さん。
「先ほどはお騒がせ致しました」
謝っておく。
「いえいえ、良い宣伝になりますからどんどんやっちゃって下さい」
許可が出ました。
「では早速」
「やめーい」
他のも押してみようと思ったんだがユリアに止められたよ。
店員さんが笑いをこらえるの大変そう。
でも、スカートの裾引っ張るの止めて下さい。
今日もキュロットだから中身は見えてないと思うけど。
太股全開になっちゃってるから。
「鹿乃子の襟首掴むの大変なんだもん」
「いや、上着の裾で良いじゃん? なんでスカート?」
「サービス?」
「しなくて良いよ!?」
店員さん笑い出しちゃった。
近場で笑いこけている四人以外は何処へ? あ! 遠くで此方をチラ見してる。
笑い転げてるユリカを抱えて笑うのを必死でこらえてるルミと涙流してるかおりとお腹抱えてるさつきを引っ張って逃げた五人へユリアと共に突撃する。
「なんで距離を置くのかな?今さらだと思うんだけど?」
ユリアに同意!激しく!!
わいわいと戯れながら椅子のコーナー到着。
コーナーって言うか、フロアまるごと?
折りたたみの椅子に肘掛けが着いてるだけみたいなのから始まって、事務椅子の肘掛け付き、テーブル付きなどと段々グレードが上がってく。
なんだかレース車輌のシートみたいなのが出てきた。
周りにスピーカーが沢山付いてたり、マッサージ機が付いてたり、ベッド型とか、卵をくりぬいて中を椅子にしたみたいなのとか。
「ミュラ姫。お勧めの紹介よろしく」
お願いしてみた。
「はーい、えーとね…あ、あっち。もうちょっと奥」
と先頭に立って進んでいく。
みんなで後を付いていくと、
「此方…」
「却下で」×十人。紹介の途中でぶった切る。
指差す先にあるのは二メートル掛ける二メートル掛ける二メートルのサイコロみたいな水槽?
「えー?中に入ると重力遮断してくれるから疲れないのよー?」
「デカすぎるわ! 次行くよ次!」
さつきが先頭。
「わた「ハイ却下ー」しがって…ユリア!? 酷くない!?」
さつきのお勧めはベッド型、カプセルに収まってる状態の。
ユリアに即行ぶった切られました。
ミュラ姫のお勧めに比べれば確かに小さいんだけどな。
高さが四分の一、幅が半分だ。
でも、多分ものすごく邪魔。
おや? さっきまでわたしの制服掴んでたアルファとミュウが見当たらない?
メグと三人でちょっと離れたとこにいた。
なんかハイバック仕様のオフィスチェアみたいなのがいくつか並んでる一角。
「いいの見つかった?」
と、声を掛けて近付く。
「ぼくは、この辺りのが良いんじゃないかと思います」
アルファが指差す先にあるのは、メッシュシートでリクライニングやロッキングの機能が付いて、オットマン内蔵のハイバックタイプ。
角度の調整はリモコン式で、一旦決めた角度を幾つか記憶出来るんだそうです。
後はゲーム機を固定するアームと腕を支えるアームレストが付いている。
試しに座ってみたら一発で気に入った。シックリする。
「これにする」
「じゃあぼくも」
「ミュウもこれにするー」
「アルファとお揃いにする」
という事になって四人でお揃い決定。店員さんに色の種類を聞いて、夫々好みの色を選んでお支払い。
配達先も指定したんで用事は済んだ。
「んじゃ、お先に」
ユリカ達に声を掛けて帰ろうかと四人歩き出せば、
「まだ決まってないよ!? 待って待って。真面目に選ぶから!」
さつきたちが大慌て。
ユリカは毛玉に変身中。
展示品の上で。
お前、売り物の椅子、壊すなよ?
で、結局ユリカとNINJAな二人を除いて同じ製品になりましたとさ。
ユリカとNINJAな二人は既に持ってるので要らないとの事。
二年前の型だけど、デザインも性能もほぼ差が無いので壊れない限り大丈夫だそうで。
要するに、みんな同じ製品な訳ね?
「ウチの製品ですよ。ご購入有り難うございます」
さつきの台詞に慌ててカタログを確認したら[姫野]の文字が。
気が付かなかったよ。
お店を出て、乗ってきたコミューターに乗り込む。
さあ帰ろうかと思った所で、さつきの携帯端末が着信音を。
「はいはい? えっ! もう試作機で来た!? 速すぎじゃない?」
と、何やら話し込んだ後、
「研究所に行ってもいい? 鹿乃子ちゃんご要望の機械、試作機が出来たんだって!]
と仰る。
わたしの? 何か注文したか?
「昨日リクエストもらったでしょ? アレ!」
ランニングマシンか!
速いな!
「吃驚だよね!」
さつきと二人で盛り上がる。
他九名様は絶賛放置の模様。
其の儘、なんだか見た事のある区画に到着。
アレだ。飛行機作ってた研究所。
中に入れば、見た事のある人が待っていた。
耳がとんがってて髪が青紫で猫目の女性。
「来たよ! ケイ! 試作の完成が異常に速くない?」
さつきが問い掛ければ、
「以前開発に詰まってほっといたのがあってね? いやー。良いヒントもらえたから出来ちゃった」
軽いな? ノリが軽すぎなんじゃ無いかな?
ほら。他九名様が呆れていらっしゃる。
「鹿乃子。話の内容が見えてないんだよ」
あ。そっちか。
ユリアに睨まれた。
三分の二に続きます




