二月十六日 胃薬
四十七日目、前半です。
星暦二千百十一年二月十六日 月曜日
お早うございます。
二月も後半に入ったね。…やっと。
なんかね、もう、何ヶ月も過ぎた様な気がするんだ。わたし。
ここに来てから、毎日が半端なく濃いよなー。
半年位過ぎ去ったような感覚だよ。
部屋着に着替えて朝食を摂りにダイニングへ向かう。
今朝の当番、昨夜のじゃんけんでミュラ姫になってたな。
さっき聞こえた悲鳴はなんだったんだろう。
「お早う」
と部屋に入れば、朝から丼物を食べているユリカとミュウ。
二人ともなんだか涙目のような?
「お早うございます。鹿乃子ちゃん。朝ご飯だし、しっかり食べて下さいね」
妙にハイテンションなミュラ姫が。
「いや、わたし、朝は軽めの方が…」
「一日の活力を賄う大切な食事ですからどうぞ遠慮無く沢山お召し上がり下さいな」
「…姫。その手にある丼は?」
「どうぞどうぞ。ご用意致しましたので」
姫、頭にでっかい汗が見えているよ?
じっと見つめる。
「ごめんなさいー。メニューを間違えて人数分作っちゃったのー。お願いだから食べて下さいー」
なんだかミュラ姫、ポンコツ化に拍車が掛かってるな。
フーッと溜息を一つ。
丼を受け取ってテーブルへ。
朝からカツ丼の特盛りとか、どんな拷問ですかね。そりゃ、涙目にもなるよな。
二人を見れば黙ってもぐもぐしながら頷いている。
味は良いんだ。とっても美味しい。並盛りだったらなーと非常に残念に思うよ。
「姫。もう全員分並べて、姫も食べた方が良いと思うんだ」
「はい。そうします」
残りの人数分並べた後、姫も座って食べ始める。
四人揃って涙目で黙々と食べ続けるって、酷い絵面だな。
その後、起きてきたメンバーは
「お早う」
の、挨拶の後、黙々と食事をしているわたし達を見て察したらしく、みんな黙って席に着く。
最後の一人が席に着いた所でミュラ姫。
「ごめんなさい。わたしが寝ぼけて間違えました」
と、素直に謝罪。
「いつもの事じゃん」
あっさりと返すのはメグ。
「やっとミュラちゃんらしくなってきたよね!」
とは、さつき。
「ミュラちゃん、無理は良くないです」
と、アルファ。
なるほど。これが姫の素なんだ。
「鹿乃子に良いとこだけ見せて頑張ってたよー。あはははははははは」
ユリカが一番酷かった。
いつもの四倍時間を掛けて朝食終了。お腹が重い。
「今朝はコミューターで登校しない?」
と発案してみる。
「賛成ー」×七人。
「大型一台呼んでおくよ」
と さつき。
夫々登校の準備に各自の部屋へ。 胃薬 飲んでおこ。
学園についてホームルームへ。自分の席に座った途端、先に登校していた生徒達に囲まれる。
「何があったの?」
「みんな大丈夫?」
「みんな揃ってコミューターで登校って初めてだよね?」
「どこか怪我したの?」
盛大に心配させてしまった様子。ごめんよ見んな。訊けば呆れる内容だよ。
と言う訳で状況の説明を。
みんなの視線が心配なそれから可哀想な何かを見るモノに変わった気がする。
「そんなに多かったなら、残して夕飯に回せば良かったんじゃ無いかな?」
と誰かの発言が。
「その手があったよ!」×八人。
「間違えた方も完食した方もどっちもどっちだね」
麗華。仰る通りです。
「あはははははははははははははははははははは」×クラス全員大爆笑。
その後、後から登校してきた生徒に話が拡がって、しばらくホームルームのどこかしらから笑い声が上がっていた。
わたし達は、苦笑いで答えるしか無かったよ。
授業はいつも通り。問題なく終了して放課後。
現在は、図書館の学習スペースで復習の真っ最中。
数人で使える小部屋になっているので割と騒いでも平気らしいよ。
とりあえず、わたしは覚えてる内容と違いがあるのか無いのか、中等部の教科書を読みつつ確認中。
隣でジーナが算数ドリルを解いている。聡美は斜向かいで理科のドリル。
その隣ではアルファが何かの論文を纏めた雑誌を読んでいて、部屋の端にある休憩スペースでメグがお茶してる。
温度差が酷い事になってるような…
「あー!これは絶対に間違ってる奴だー!」
突然、ジーナが大声を上げる。
「何処で引っ掛かったの?」
アルファがドリルを覗く。
「これ。絶対百以上のはずなんだけど筆記計算すると小数点以下になっちゃうのー」
どれどれとみんなで覗き込む。
三十一点二五 掛ける 十四点○八
答えが○点○○四四。当然違う。本人も違うのは判っている。
「あれ? ジーナ、小数点の打ち方が変?」
と聡美。筆算した計算式を見る。
31.25
× 14.08
────────────
250│00
│ 0
12500│
3125 │
────────────
0.0044
「ジーナ?このかけ算を合計した欄の数字にゼロが五個足らないんだけど、何故?」
そう言いながらメグが四の右側にゼロが並ぶはずの位置を指差す。
「え? だって、小数点以下がゼロで終わる時はそのゼロって消すんでしょ?」
「うん。答えが出てからだけどね」
「順番にかけ算して合計を出したから答えの欄でしょ?」
「そうなんだけど。合計を出すまでは小数点の事は無視してるはずだよね?」
「え?…あれ?…」
「だから、ホントはこう書いてから小数点の位置を考えるんだよ。で、要らないゼロは最後に斜線で消して、そうすれば答えが四百四十になる」
31.25
× 14.08
────────────
2 50│00
│ 0
125 00│
312 5 │
────────────
440.ΦΦ│ΦΦ
「…あーーー」
「それとも、先に小数点の位置を書いちゃう方法もあるよ?こんなふうに」
│ │ │3│1│.│2│5
×│ │ │1│4│.│0│8
─────┼─┼─┼─┼─┼┼┼─┼─
│ │ │ │ │││ │
│ │ │ │ │││ │
│ │ │ │ │││ │
│ │ │ │ │││ │
─────┼─┼─┼─┼─┼┼┼─┼─
│ │.│ │ │││ │
「そうだったんだー。小数点が入る計算時々間違えるけど理由がわかんなかったのよねー。位取りの前で既に間違ってたのかー」
「このドリル、この頁は最後の桁がゼロになる数字ばかりだから多分全部桁違いしてるんじゃ無いかな?」
メグの指摘に、慌てて解答と照合するジーナ。
「ホントだー。全部小数点の位置が間違ってるー」
答え合わせをしながら呟くジーナ。
「ジーナって、初等部の四年生後半で転入だったっけ? ちょうどこの辺り終わった頃だから変な覚え方してきたんだね」
聡美がジーナの転入時期を確認する。他の学校で教わってきた部分なんだね。
「そうそう。前の学校の先生が小数点以下最後の桁がゼロになったら必ず消す事って厳しくって、消すんなら最初から書かなきゃ間違えないよねって覚えてた」
ジーナ。聡美の指摘が納得出来た模様。
「始めにルジーナに解いてもらった問題で小数点の打ち間違いがほとんどだったからこの辺かなって思ったの」
アルファが話す。わたしは全然気が付かなかったよ。
「分数か、小数点の位取りで躓くと、後がむちゃくちゃになるよね」
「うん。基本が大事です。教える側が特に気をつけないと危険なの」
メグとアルファが頷き合っている。
「次から二頁解いてみて?全部正解出来ればその部分、もう大丈夫だよ。きっと」
「ありがとー」
再びドリルに取り組むジーナ。
「わたしは何がいけないのかな?」
聡美は理科ドリルの答え合わせが済んだみたい。
全問正解してるよね。
「やっぱり化学式は出来てるんだね。そーすると反応式の右辺と左辺を上手く数合わせ出来ないのかな?」
「それ! 分子と分子を反応させると別の分子に組み変わって、そうするとこの原子とあの原子が幾つ必要だからーってぐちゃぐちゃしてムキーってなるの!」
バンバンと机を叩く聡美。相当苦手意識が強いね。これ。
アルファとメグはどうしようって考えてる。
「聡美、分子だ原子だで考えてるから混乱してるんじゃ無いの?」
ドリルから顔を上げてジーナが質問してきた。
「ふぇ?」
「いや、化学式が判ってるとさ、この分子作るのにこの原子が必要でーって考えちゃうでしょ?」
「そりゃそうだよね」
「いっそABCDに置き換えて、方程式だと思って計算してみたら?」
「あ」
「元のグループと出来上がったグループの総数が同じになるように右辺と左辺の数を求めれば良いでしょ?」
「算数の問題にしちゃえば良かったのかー」
「「あー」」
聡美だけじゃ無く、メグとアルファまで納得してるんだが?上手い考え方だと思いますよ。ジーナ。
「そうか。無意識に分割して考えてたな。そう言われてみれば」
「物理・科学は数学必須だから分けて考えるって発想しなかったです」
そう続けるメグとアルファにジーナが更に。
「わたし整数の計算なら得意だから、前からそうやってたよ。合ってるんだよね?」
「OKです」
アルファが両腕でおっきな○。
その後、しばし天井を見て考えた後メグが、
「これ、姫野学園だけかもしれないんだけどさ。知っておいた方が良いと思うんだけど。高等部以降、地図や年表、周期表、数学定数の一覧、みたいな暗記物って試験で持ち込みOKになるんだよ」
と話す。
「「「えっ?」」」
ジーナ、聡美共々驚きの声を上げて固まる。
「暗記しなきゃいけないものでも無いでしょ? 必要な時に毎回調べながら使ってれば覚えちゃうし、覚えてなきゃ解けないんじゃ暗記能力のテストになっちゃう。記憶力は中等部までに鍛えれば良いんだって学園長は言ってたよ」
「高等部からは応用力重視です。問題の解き方が判ってるかを知りたいんであって記憶力はその次だね。記憶出来ていれば調べる時間が要らないから、解答が早くなる位の恩恵はあるんだけれど」
メグに次いで告げるアルファ。
「じゃあ、数学の公式なんかは?」
「それも持ち込み可。てか、教科書開いてても平気だよ。要は使い方が判ってればOKなんだよ」
ジーナの質問にメグが答える。
「その分、問題は難しいです」
「「「えー?」」」
アルファの情報で三人がげんなりとした表情に。
問題の読解力と、どの公式や情報を利用するかの判断力と応用力の試験って事ですね。
教師の側にとっても厳しいよね? それって。
「教師も淘汰されるのが姫野学園なの」
アルファ。表情が怖いよ。でも、教育方針に納得と期待が出来るなぁ。
「でもそれ、暗記がない分助かるよー」
とニコニコのジーナ。
「応用力かー、苦手なんだよねー。鍛えなきゃ」
複雑な表情の聡美。
「聡美は発想の転換出来るようになれば平気なんじゃ?」
そう声を掛けてみる。
「あー。そっか。頑張る」
何か思い至った様子。
再び、夫々の課題に向かう。
「出来たー。全部正解したよー」
ややあって声を上げるジーナ。
「わたしも初級の問題は解けました」
続いて聡美が声を上げる。
「じゃあ、今日は終わりにしようか? わたしは中等部三年分だから切りが無いし」
教科書を閉じながらそう提案。
明日以降も時間が合えば此所で。と話し合って解散となった。
「わたし、次回から 中等部のドリル三年分、やり直すよ」
「わたしもだよー」
ジーナが宣言すれば、聡美も賛同する。
既に二時間以上経過してるしな。
後半に続きます。




