二月三日 椅子とクッション
三十四日目です
星暦二千百十一年二月三日 火曜日
お早うございます。
今日は節分。
豆まきとか、どーするのかなと思っていたら、
「その風習は本家地球の日本だけだねー」
と、ユリカからなんともガッカリな答えが。
「じゃあ、子供の日とかバレンタインとかクリスマスとかは?」
「なんですか?それ。ちょっと聞いたことが…ああ。キリスト教の方達が年末、何かやってました」
かおりから衝撃の事実が伝えられた。
「定番イベント全滅ー?」
「いやー。姫野の創業者。そういうの大っ嫌いだったからだねー。ほら、カレンダーも地球と違うでしょ?」
…ホントだ。
ユリカに言われてじっくり見たら、初めて気が付いた。
二月が三十日有る。
祝日がない。
あー。此所、国じゃないから!
「当たり。結構星系毎、国毎好き勝手なカレンダーになってるよ?一年が三百日とか五百日とかもあるし」
この星が三百六十五と四分の一日で一年て偶然なのか。
「いや。テラフォーミングの時公転軌道も自転速度も、ついでに陸地の形も弄ったって記録にあるよ?」
ユリカのあんまりな説明がですね。
何でもありだな。もう。吃驚するの面倒になったよ。
ん?もしかして月も?
「あれは小惑星集めて作ったみたいですね。ほら、ウサギさんに目が有るでしょ?あれ、作った業者の監督さんのお茶目だそうですよ?」
月面写真を見せて説明してくれた。
ホントだ。ウサギも杵も臼もはっきりしていて目がしっかりある。
今度しっかり見てみよう。全然気が付かなかった。
「朝ご飯。まだ?」
腹ぺこミュウちゃんに催促されて、慌ててご飯の準備。
今朝の当番わたしだったよ。
じゃんけんに負けたんだ。
そうはいっても、自動調理器弄るだけなんだけどな。
わたしの好みで、ご飯に味噌汁、漬物、納豆、焼き海苔、塩鮭。
「「「「わー。日本の朝だ」」」」
全員問題ない模様。
「「「「「いただきます」」」」」
サクッといただいて、みんなでごちそうさまの後登校の準備。
食器を洗ってくれる[ハウスキーパー]さんに感謝です。
しかし、毎日毎日知らないことが押し寄せてくるな。
慣れたと思うと更にまた吃驚することが出てくるから退屈する暇は当分無いな。
準備が出来て外に出る。
最後にユリカが戸締まりをして、みんなで登校。
今日は始めからミュウが浮かんで両手を差し出す。
ユリカと二人で引っ張りながら公園ルート。
[タウンスイーパー]達に声を掛けつつ五人で駆ける。
いや、四人で駆けて一人を引っ張る。
まあ、周りは吃驚するよねー。
変な集団にあちこちで驚きの叫びが上がってる。
まあ、大部分がユリカの顔を見て納得してるけどね。
何日で皆さん慣れてくれるかな?
ツイッギーが両手を振って挨拶してるのに吃驚してる人も居たな。そういえば。
みんなも挨拶ちゃんとすれば良いのに。
学園に到着。
「「「「「お早う」」」」ございます」
ホームルームでみんなに挨拶。
今日も一斉に返事が返ってきた。
男子の声が増えてる気がする。良い傾向。
そして、今日もミュウが授業聞きながら頭をフリフリしている姿を、後ろからにまにまと眺めつつ一日の授業が終了。
本気で成績が心配になってきた。
とりあえず一回クラブルームに行こうかなと思って席を立つ。
「鹿乃子ー。特に用事は無いから直接買い物行ってかまわないってー」
ユリカが確認取ってくれたらしい。
そのままお店に向かうことになって、かおりの案内で移動開始。
さつきとユリアも参加する模様。
商業区画まで出かけるのかなと思ったんだけど、学園近くの生活雑貨を扱う店でよさげな物があるらしい。
女学生をメインターゲットにしている店だから可愛いのが多いよとは、かおりの談。
わいわい騒ぎながら、十分ほど歩いて到着。
店の内外に女子がわらわら。
結構間口の広い大型店
こういった店になじみがないので気後れするんだけど、みんなかまわず店内へ。
わたしも引っ張られて一緒に入店。
こっちこっちと、更に引っ張られて連れて行かれた先にはいろいろな椅子やクッション他。
よさげな感じのいくつかに座ってみる。
あんまりふかふかしたのは好みではないので、しっかり目のクッションで、股や腰の負担が少ないものは無いか探す。
頭も支えてくれて、大きすぎず、更にリクライニングまで付いてる良い感じのを発見。
色も何色か選べるので、落ち着いた緑を選択。
ミュウはでっかいビーズクッションタイプを選んだ模様。
色は柔らかなピンク。
体ちっちゃいからほとんど埋まっちゃう感じになってるけど大丈夫か?
「この埋まる感じが良い」
さいですか。
起きられる?
試しに聞いてみたら、両手両足をよじよじバタバタ。あっちへコロコロこっちへコロコロしながらなんとか起き上がる。
眼福です。鼻血でそう。
やっぱり、大変だった模様。
涙目になってハアハア息を切らしてる姿もまた可愛いです。
「起きるときは引っ張って?」
了解です。承りましょう。
支払いを済ませて、展示してあるのを持って帰って良いのかなと思ったら、在庫があって学園に届けてくれるとのこと。
「クラブルームまでは事務の人が届けてくれるよー」
至れり尽くせりですね。ありがたいことです。
大物が決まったので、後はみんなで小物を見て回る。
いくつか購入した後は完全にひやかしモード。
あっちこっちでキャイキャイ大騒ぎ。
店の人も笑顔で見てるから大丈夫らしい。慣れていらっしゃる。
まあ。こんな集団が毎日やってきて大騒ぎしてるんだろうし、平常運転と考察。
二時間近く騒いでやっと満足したらしく、学園に戻ることに。
わたしは途中から隅っこにあるベンチで休んでましたよ。付いてけねー。
「鹿乃子ー。若さがないよー。おばさんだよー」
「いやいやいや。おばさんはもっと凄いだろ?あの姦しさは半端ないぞ?」
ユリカが人をおばさん呼びするので反論。
みんなも納得の様子。
「じゃあもうおばあさんだね。鹿乃子ばあちゃんー」
「それでいいよ。わたしはマッタリしたいんだ」
ユリカと不毛な遣り取りをしつつ学園に向かう。
さつきたちは買ってきたアクセ類を取り出してキャアキャアやってるし。
ひたすら騒がしい。
三人ですら姦しい娘が七人も集まればこうなるか。
「「「「「「「ただいまー」」」」」」」
と、クラブルームに入ればカミーラがいた。
「お帰り。さっき椅子とクッション届いたぞ」
早!
みんなの椅子と一緒に並んでる。
「鹿乃子はクッションにしたんだな」
カミーラが変なことを聞いてきた。
「わたしは椅子だよ?」
「え?ミュウがクッションなのか?こんなでっかいのじゃ埋まっちゃうだろ?」
わたしとおんなじ心配をしてる。
「その埋まる感じが良い」
ミュウが自慢げに答えてるし。
「本人が良いならかまわねーけどな?お前、一人で起きられるのか?」
「鹿乃子が起こしてくれる。依頼発注済みです」
そう言いながら早速クッションにダイブするミュウ。
「極楽ー」
顔がとろけてるな。
で?他の連中はわたしの椅子に集まって何をしておりますか?
「そのままじゃ可愛くないからお化粧中ー」
代表してユリカが答える。
いつの間にやらリボンやらカバーやらワッペンらしき物やらぬいぐるみっぽい物やらてんこ盛りになってるな。
「可愛いか?それ」
全員がピタッと動きを止める。
ややあって、
「「「「「たぶん?」」」」」
揃って首を傾げる。
「ほどほどでお願いします」
「「「「「はーい」」」」」
返事だけは良いんだよな。こいつら。
おもちゃになってるわたしの椅子は座れそうもないので、応接セットの一人掛けを引っ張って来てクッションに埋もれたミュウを眺める。
部屋の奥から足音。リニアチューブの方だな。
ミュラ姫がご帰還。
「姫、お帰り」
「ただ今戻りました」
軽く挨拶した直後、姫の動きが止まる。
あれ?と見上げたら、口元に両手を当てて、真っ赤になり目を見開いたミュラ姫がいた。
「か…可愛い」
クッションに埋もれてふんにゃりとしたミュウを見て興奮しちゃったらしい。
異論はありません最高に可愛いもの。
端末を取り出して写真を撮り始めた。
さすがに気付いたミュウが嫌がってジタバタし始めた。
「ミュラ!止めて。撮影するなー」
起きられなくてジタバタするミュウが可愛くて、余計にミュラ姫がひどいことに。
手を貸してミュウを起こす。
「あぁー。鹿乃子ちゃんー」
姫!悲しげな目を向けるんじゃない。
「ミュウが嫌がってるでしょ?嫌われちゃうよ?」
「ごめんなさい!」
途端にその場で土下座を始めるミュラ姫。
初めて会ったときはかっこいい大人の女性だなあとか思った過去のわたし。こんなだったよ。
「ミュウかアルファが絡むと途端にポンコツになるよな。ミュラ」
この状況、いつものことなんだね?カミーラ。
ミュウがわたしの膝の上に座りながら一言、
「時々かなり迷惑」
「うええーん。だって可愛いんですよ?二人とも。愛でたいじゃないですかー。可愛いは正義なんですよー」
本格的に壊れてきたな。
「鹿乃子ちゃん!変わって下さい!ミュウちゃん。あたしの膝にどうぞ!」
椅子に座って自分の膝をポンポンするミュラ姫。
「撫で繰りされるからやだ」
一言で却下されがっくり崩れるミュラ姫。
おーい。誰かそろそろこの状況、収拾してくれない?
「「「「「お断りしまーす」」」」」
ひでぇ。
「「あはははははははははははははははははははは」」
あー。ユリカとかおりが決壊したな。
「んじゃわたしは先帰るから。後よろしくー」
「カミーラー」
逃げられたー。
さつき、ユリア、ルミも決壊した模様。
その後、ミュラ姫が復活するまで、足をぷらぷらしながらわたしの膝に座るミュウと二人で、姫の頭をなでなでしながらひたすら耐えましたよ。カオス空間を。
そして、何故かミュラ姫がユリカの家で同居することが決まったり、ミュラ姫がユリカの家で同居することが決まったりした。
大事なことは二回言うものだって聞いたんで実践してみた。
なんとか落ち着いたミュラ姫を伴って帰宅するために部屋を出て、重役ペアと別れて校外へ。
着替えも無いんだし明日からにすれば?と言ったら、ちょくちょく泊まり込みが有るんで着替え他一式常に用意してあるんだそうな。
布団はどうすんの?って訊いたら、
「寝袋もあります」
と、どや顔で。
さすがにユリカが来客用を出してくれることになりましたが。
「ミュラ姫、駆け足に付いてこれるの?」
とっても大事なことなんで確認。
「ちょっと浮かんで移動すれば良いかな?飛行機の速度位は出せますよ?」
飛行出来るそうです。
そんなわけで、かなり珍妙な集団が出来上がり。
ちょうど帰宅時間が重なった運動クラブの人たちからガン見されるはめに。
いつか、慣れてくれることを祈ろう。
そして、例の場所で一悶着。
「なんですか?これ。こんな反応示す[スイーパー]信じられません。鹿乃子ちゃん何したの?」
人を犯人にしないで欲しい。
勝手にこうなったんだよ。
わたしは悪くない。
ツイッギーの反応にミュラ姫大興奮。
研究者気質めんどくせー。
周りで笑い転げてるお前ら少しは状況を収拾しろ?
諦めてみんなを放置。ミュウを引っ張りながら走り出したらやっと付いて来た。
元のアパートに戻る手続きを検討するべきだろうか。
ようやく帰宅。
部屋に行くためエレベータに乗るミュウに手を振る。
ミュラ姫、何故一緒に乗ってるの?
ミュラ姫の部屋も地下になる?
ミュウに悪戯厳禁で宜しく。
とりあえず部屋に入って大きな溜息を一つ。
疲れた。
精神が。
…
課題をかたづけよう。
それから小一時間課題をやっつける。
『みんなー。夕飯にしませんかー?』
インターホンからユリカの声。
一斉に放送出来るのかな?今の言い方。
「今行くよー」
と声を出して部屋を出る。
すぐにみんな集合して夕飯を摂る。
食後のお茶タイム。
ミュラ姫は[タウンスイーパー]ツイッギーのことが気になって落ち着かない。
ミュウが既に解析を始めているらしいので、状況などはわたしの話よりよっぽど詳しいと判断して丸投げ中。
結果、二人で真剣に討議中の現在。
普段もそうしてればかっこいいのに。
そしてわたしは唐突に疑問を思い出す。
「ねえ。かおり。訊いてもいい?」
「なんですか?」
「この間でっかい亀さん壊したでしょ?」
「はい。AI暴走事件ですね」
「あの時、空中で何を蹴って向き変えてたの?」
「ああ。私、影に潜るフリして異空間に移動できるでしょ?それを応用して、中に入れない、閉じた異空間の入り口を作るんです。シールド代わりに使ったり、空中の足場にしたり出来るんですよ」
「はぁ。何となく判る。じゃあ、ビームの直撃を消してたのは異空間に入れちゃってた?」
「そうです。入り口を相手に向けて作ればどんな攻撃受けても私には届きませんから」
「便利な技術ですねー」
「有り難うございます」
また一つ、疑問が解消された。
いや、二つか。後はルミの分身の術ってどうなってるんだろう。
「説明は無理。わたし自身解ってない」
期待を込めてルミを見たらだめでした。
残念そうに少し下を見ながら首を横にぷるぷると
まあ、理屈が解らなくても使えりゃ良いんだし、そんなものかもね。
「ルミの分身は時間をループさせてるっぽいんだよね」
思わぬ所から解説が。ユリカ、解るの?
「んー。ややこしいんだけどねー。分身したいって思った所がスタート地点。解除したいって思った所が終了地点とするでしょ?」
「「うん」」
「終了地点に来た瞬間無意識にスタート地点に時間を遡って、戻っちゃうんだよ。それで二人になるでしょ?」
「「え?」」
「で、能力限界が今七人だから六回繰り返すと七人に分身出来る」
「待って待って?記憶は?順番にやってる記憶は無いよ?同時に七人分の記憶があるんだけど?」
訳わかんないって感じのルミ。
「無意識にループ掛けてるから、解除地点に来たとこで、記憶だけ一纏めになってるんじゃないかな。多分だけど、分身してる間って、並列思考してるわけじゃないでしょ?」
ユリカの話を其処まで聴いて、考え込むルミ。
「じゃあ、途中で分身解除して他の場所に分身し直してたのは?」
「危機回避で強制的に終了させて、一人減るから余裕が出来てその時点でもう一回ループしてるんだと思う。ルミが分身した後時空が少し捻れてるから多分そんな感じ」
消えたり現れたりしてたのが不思議で訊いてみたらそんな風に説明が返ってくる。
と。
不意にルミがもう一人現れる。
何回かじゃんけんをして一人に戻る。
戻ったとき残ったのは後から増えた方。
「分身前のわたしがじゃんけんで何を出すか覚えてた。きちんと意識したら記憶が連続してる」
ユリカに教えられたことを確認した模様。
「大体思ってた通りかな?理屈が解ると応用出来るから能力伸びるよ?きっと」
「有り難う。感謝する。なんだか色々出来そう」
何かつかめた様子。ルミが凄く嬉しそう。
「ユリカ」
「なにー?」
「偽物?」
「鹿乃子ー?あたしだって真面目な話位出来るよー?ひどくないー?」
ユリカが怒った。
同時に、わたし達につられて真剣に話を聞いていたかおり、ミュウ、姫が吹き出す。
「ユリカの普段を知ってたら絶対信じないと思う」
隣で、わたしの言葉にルミが頷いている。
「あたしの普段てそんなにひどいー?取り消せー。謝罪をよーきゅーするー」
吹き出していた三人が決壊した。
「あはははははははははははははははははははは」
だめだ。もうちょっと弄ろうと思ったけど耐えらんなくなっちゃった。
可笑しいー。
つられたユリカも笑い出す。
ルミもぷるぷるしてる。
ひとしきり笑った後、なんとか笑いが収まったかおりに声を掛けてみる。
「かおり、かおりー。お腹、大丈夫?」
「きゃあーっ!おなか割れちゃうー。やだあー。鹿乃子ちゃんの馬鹿ーっ」
「かおり、ムキムキ?」
追撃するルミ。
「止めてー。お腹の筋肉が鍛えられちゃうー」
涙目で叫びながらお腹を抱えてぷるぷるのかおり。
「シックスパックのかおり?ちょっとキモいかも」
「「「「「あはははははははははははははははははははは」」」」」
ミュウがぽつりと呟いた言葉で再び決壊。
呟いた本人はきょとんとしてるのが可笑しくて更に笑いが広がる。
やっと収まったときにはみんなひどい有様。
「疲れましたー。私お風呂借りて寝るー」
ふらふらと浴室に向かうかおり。
ルミが追いかける。
残った四人もぐったりと。
「なんで急にあんな話を?」
「ルミちゃん、珍しく悔しそうだったから。自分の能力が理解出来ないのって、やっぱりつらいじゃん」
「ちょうど良いタイミングだった?」
こくんと頷くユリカ。
突然真面目な話を振った理由を聞けば、案の定お節介でした。
優しいよね。
二人が出てくるのを待って四人でお風呂。
多分二人きりで話したいことがあるんじゃないかと思っただけ。
他の三人も同じ考えだったぽい。
しかし、さすがに笑い疲れた。
ホッコリ温まって、体もさっぱりと。
姫とミュウはもう少しAIに付いて話をするみたい。
ユリカも部屋に引っ込んだのでわたしも休むことに。
とりあえず今週は平穏が続いてる。
このまま穏やかな日が続きますように。
龍さん。それがフラグだってなんですか?
大丈夫。そうそうやっかい事ばかり起きたんじゃ体が保たないよ。
それでは、おやすみなさい。
三十五日目に続きます




