一月二十九日 (後篇)亀さん
二十九日目、後篇です
前回の会議室です。到着しました。大きな机の周りにみんな並んで座ってますよ。
前回のメンバーに、かおりとルミを追加です。
「で、結局内容を全く教えていただいていない訳なんですが」
とわたしが言いましたら一斉にジト目を向けられた。
あれか?これはわたしが原因だよってパターンなのかな?
「他に犯人がいるとでも?」
ぷるぷると首を振る。縦じゃないよ?横だよ。
ユリアの目がとっても怖いので。
「なんか楽しそう。わたしも行こうかな」
ミュウちゃんが何か仰ってます。どこに行きたいんだろう。
「ミュウ。一緒に行く?」
と声を掛けてみたらにっこり笑って頷いてくれました。
「え?本気?ミュウちゃんも行きたいの?」
何かミュラ姫が慌てたご様子でミュウちゃんとお話しを始めたよ?
何故でしょう?さつきとユリアから、なんだかとっても呆れ果てた視線を感じるんですが?
何?と首を傾げたら、とっても深い溜息を頂きましたよ?
「えっと、説明を始めてもよろしいでしょうか?このままですと鹿乃子さんの暴走が収まらないと思うんですが」
キャルさんから、なんかとっても失礼な発言があった気がする。
「「「「「「「「始めましょう」」」」」」」」
即座に真顔になった他一同。何故だ?
ユリカだけ笑ってるけどな。
その後、何も考えないようにじっとして、大人しくキャルさんの状況説明を拝聴。
時々隣から笑いをこらえたユリカの視線を感じたけど無視。
何となく、かおりの肩がぷるぷるしてるのも無視。
じっと見つめてる先で、キャルさんが説明の合間に時々此方をチラ見しつつ、でっかい汗を垂らしてるのも無視。
そして、聞いた話です。
例の不完全と言うより出来損ないのAIモジュール、多脚自走砲の実験機にも取り付けられていたことが判明し、回収に向かったときには既に実験が始まっていて大暴走。
実験を開始した職員は、例の課長さんの部下の人で、課長さんが拘束されてるのに我関せずと予定通り実験を始めちゃったらしい。
本来なら、上司の許可なく(今回の場合、課長さんが拘束中なので、部長さんの許可が必要)開始出来ないはずなのに、例の課長さん、実験開始直前に許可を出す規約をまるっと無視して、計画段階で既に許可してあったらしい。
試作したAIモジュールの数が今回、回収した数より多いことが判明し、あちこち探して最後の一つが実験機に搭載されていると判明したのが今朝六時半頃。
実験場所、時間の特定や、担当者を割り出したのは七時頃。
現場に急行。到着したのが七時半頃
で、七時に実験開始しちゃっていたので既に大暴走で、実験施設から出られないようにするので精一杯。
実験場内の動くものを片っ端から標的認定しちゃうため接近出来ず現在に至る。
「複数の出入り口から同時に突入して破壊出来ないんですか?」
と訊いてみた。
「索敵から照準、攻撃までが異常に早いんですよ。試しに高機動型ドローンを二十台投入したんですけど、わずか三秒で全機撃墜されました」
とキャルさんが疲れたお顔で。
「しかも、ドローン程度では実験機のシールドがびくともしない」
これはレイナさん。
「エネルギーは?」
「稼働限界測定のため満タンに。持続時間の予定が百時間です。それも七十五パーセント稼働状態を想定して。現状では三百時間程度は稼働しそうです」
再びキャルさん。どんよりとした表情で。
「警備部の装備では手の打ちようが無くなりまして」
頭をかきながらレイナさん。
「で、追加情報。実験機、施設内を移動しながら脱出出来そうな壁の弱いとこ見つけて今破壊しようとしてる」
「そんな判断が出来るんだ?」
ミュウの言葉に驚く。
「AI部分のプログラムはミュウちゃんの丸ごとコピーしてるみたいで無駄に高性能なのよ」
困った顔のミュラ姫。
現場の様子が分かる俯瞰から撮影したモニターをテーブルに置く。
なんだか壁の一ヶ所に集中して攻撃中?周辺が真っ赤になっている。
問題の多脚自走砲。見た目は頭と尻尾がないでっかい亀さんに蜘蛛の足を付けたような格好。
「試験機って、新型?」
それまで黙っていたユリカがそれを見ながら質問する。
「最新軍用機の改造だよ。HMF一一一がベース。五ミリパルスレーザー二門、五十ミリ荷電粒子砲一門、十二ミリパルスビーム砲六門、シールドは六面。装甲はカタログ値、実体弾やミサイルは無し」
レイナさんが型式と装備品を指さしながら列挙する。
背中の天辺にある大きなのが[かでんりゅうしほう]
壁に向かって打ち続けているのが[ぱるすれーざーほう]
背中の中程をぐるりと六個着いてるのが、[ぱるすびーむほう]だそうです。
「んー。じゃ、鹿乃子この出入り口から入って機械の後ろ五メートル位の所を通過してこっちの出入り口へ抜けて?大体毎秒二十メートル位の速度で」
と言いながら俯瞰画面を指差す。
「ルミは真後ろから攪乱。かおりは上」
「「はーい」」
毎秒二十メートルかー、どのくらいの速度だろう?
そう考えながらユリカをみる。
「入り口から出口で二百メートルだから十秒掛けて走り抜けて?途中で多分攻撃されるから避けながら。OK?」
「判った」
とりあえず、朝傘代わりに使ったヘアバンドを予備に持ってきた百パーセント充填状態の物と取り替える。
かおりとルミも同様に。
現場へと移動して、飛び込むタイミングを打ち合わせて配置に着く。
神気を纏い、準備完了。
扉が開くと同時に飛び込む。
亀さんをみると、此方から見える全ての砲がわたしをめがけて向きを変える。
同時に圧力が高まる気配と先端が赤く光り出しすぐ白く輝くとビームが射出される。
毎秒十発ずつ発射すると聞いた。今のところ、わたしをぴったり狙えているのはない。
時折右、左と進路を変えて狙いが合わないようにする。
亀さんまで後半分というところで。亀さんの反対側の出入り口からルミが飛び込んでくる。
そして七人に分身。左右に広がって接近する。
わたしを狙っていた砲の三分の一と反対側の砲がルミに向かって攻撃を始める。
そのタイミングで、今度は上から、かおりが飛び降りてくる。
わたしはもう少しで亀さんに到達。
亀さんの天辺。一番でっかいのがかおりに向けて攻撃する。
かおりは、その直前、空中で何か蹴って落下の向きを変え避ける。
ルミの方は、七人で右に左に避けながら亀さんに接近を続ける。
攻撃を避けきれずに当たりそうになると直前にその分身が消えて、同時に別の場所に現れる。
あっちこっち消えたり現れたりしながらどんどん近づき、やがて亀さんを取り囲むように動き出す。
かおりは、亀さんの上、五メートル位で何かを蹴りながら落ちることなく飛び回っている。
偶に直撃しそうになってるけど、前にかざした手に吸い込まれるようにビームが消えていく。
亀さんに届いた。
可能ならでっかい砲を壊して欲しいと言われたのでそのまま飛び上がって横から蹴り飛ばしてみる。
シールドが!
割れた?
砲に足が届く。
ぐしゃっと言う感触がして蹴った方に吹き飛んでいく。
そのまま着地して出口へ向かう。
背中から攻撃を受けるが、狙いが定まらないらしいので、右左、適当に避けながら走る。
出口に到着寸前扉が開く。
飛び出す直前、後ろで爆発の気配。
直後に攻撃が止まる。
立ち止まって振り返ったら、煙を噴き上げる亀さんと、背中にかおり。ちょっと離れて取り囲んでいるルミ。
そして、亀さんが壊そうとしていた壁を、外から壊して、そのまま亀さんを破壊したらしいユリカ。
辺り一面、空中に飛び散っている小さな破片。
フーッと息を吐き出すと同時に破片がバラバラと落下してくる。
そして、轟音とともに小さな爆発を繰り返す亀さん。
「お疲れー」
と、のんきなユリカの声が聞こえて、完了した模様。
「鹿乃子、シールド蹴り破ってた」
なんか吃驚顔のルミ。一人に戻りましたね。
「わたしも見ました。けど。ちょっと未だに信じられないんですけど」
かおりも困惑顔で此方を見ている。
「そんなに変なことだった?」
とりあえず訊いてみる。
「戦闘機の搭載しているミサイルでやっと中和出来る代物なんですけどね?中和出来るだけで攻撃は防げるんですよ。すぐ張り直せるはずですし。鹿乃子ちゃんシールド破壊した上、電磁砲、蹴り飛ばしてましたよね?[変]の一言で片づく問題じゃないと思いますよ?」
「ユリカよりは普通だよね?」
レーザーで溶けかかった壁を破壊してそのままでっかい亀さんを壊した人を指差しながら訊いてみる。
「「似たようなもの?」」
「おそろいおそろい」
ひどい答えと浮かれた答えが。聞きたくない聞きたくない。
会議室に戻る。
「ほぼ、鹿乃子さん一人で終わってましたね」
そんなこと無いですよ?キャルさん。
ルミがいなかったら近づく前に撃たれてます。
かおりがいなかったら粒子砲に攻撃出来てません。
とどめを刺したのはユリカです。
予定通りですよ?
「わたし、ホントはもっと遠くでビーム砲、後ろ四門の予定だった」
「わたしは、前側でビーム砲二門受け持つ予定でしたよ」
「鹿乃子には粒子砲の囮やってもらうつもりだったよー。そこをあたしがシールド破壊して多脚砲破壊するつもりだったー」
ルミ、かおり、ユリカの説明。
どうやら、わたしの攻撃はシールドに遮られて、粒子砲の的役になる予定だった模様。
「シールド飽和させるつもりで壁吹き飛ばしたら破片で多脚砲壊れちゃったから吃驚したー」
「見ていた私も吃驚した。蹴り一発でシールドユニットがオーバーロード起こすとこなんて初めて見たよ」
ユリユリがそう言うけどなあ、わたしは蹴っただけだしなあ。
「ユリユリ禁止!」
ユリアが怖い。
「それでは纏めますね。暴走した試作機は排除完了出来ました。有り難うございます」
と、キャルさんがとりまとめを始める。
「問題の研究員ですが、現在身柄を拘束して身辺調査を行っております。外部とのつながりは現在まででは判明しておりません」
「あの課長の部下、全員取り調べ対象にするべきじゃない?」
「わたしもそう考えます。既にほとんどの者を任意出頭させています」
ミュウの提案にレイナさんが答える。
「前回の事件以降島外と接触を持った者については、その相手も調査を開始しています。現在対象者は二十三名です」
キャルさんから追加の報告。
「で、今日の件に絡んで新たに外部との通信記録がありましたので渡しておきます。今現在も監視中ですからもう少し増える可能性がありますね」
と資料が記録してあるらしいメモリを姫が差し出す。
「有り難うございます。今回、我々の装備が全く役に立っていないことから、一部から装備の強化を訴える意見がありますが、メンバーズの協力を得られる以上、現状維持の方針です。ご意見などありましたらお願いします」
「わたしは多少強化しても良いかなと思ってたんだけど」
キャルさんの問いにさつきが答える。
「今回隊員さんにけが人は?」
「あります。まあ全治数日ですので大けがというわけではありませんが」
「では、防具関係の増強は考えても良いのでは?」
ミュラ姫の質問に対してレイナさんが答え、ユリアから提案発言。
「メンバーズが間に合わないことも考えて置いてもいいんじゃない?まあ、今日は余裕があるの判ってて鹿乃子に乗ったんだけど。不測の事態も想定込みで」
吃驚して横を見つめる。
ユリカが真面目だ。
きっと偽物に違いない。
椅子をずらして間を開ける。
「まあ、その反応は非常によく分かる。けど偽物じゃないから落ち着いて?鹿乃子」
ユリアがそう言うんなら…でも、誰?
わたしの突然の動揺に固まっていたみんなが動き出す。肩が震えてるやつと肩が震えてるやつと横を向いて震えてるやつと机に突っ伏すやつと頬をポリポリするやつと腕を組んで頷く人と困った顔でわたしを眺める人と はてなの顔でわたしを見る人とわたしを上目遣いふくれっ面で睨むやつ。
「まあ、普段があんなですからその反応も判りますけど。そこまで驚きます?」
困った顔のままキャルさんが問い掛けてくる。
「絶対別人だと思います」
そう答えたら、プーッと吹き出す音がいくつか。
キャルさんは、あー…と言う困り顔でわたしとユリカを見ている。
隣は膨れた頬が紅潮して涙目になってきた。
机に突っ伏してたやつがバンバン机を叩き始めた。
はてな顔の人がわたしとユリカを見比べた後、ポンッと手を打つ。
ユリカがぷるぷるし出した。もう顔が真っ赤。涙もでっかくなってこぼれそう。
「あー、ユリカちゃん。鹿乃子さんも悪気があるわけじゃぁ…」
レイナさんがそこまで言ったとき、
「あはははははははははははははははははははは」
ユリカ決壊。つられてルミ、かおり、さつき、姫も決壊。大惨事。
「あーあ」
「鹿乃子、乗ったわたしが言うのもあれだけど…ほどほどにしてよね」
呆れて声を上げたらユリアに睨まれた。
レイナさんは訳が分からずきょとんとしてます。
「申し訳ありませんでした」
立ち上がって九十度に腰を折る。謝罪します。会議の中断決定です。後、置いてけぼりにしてごめんなさい。レイナさん。
「え?え?…あぁっ!冗談だったの?えー?」
レイナさん大混乱。
ユリアとわたし、ミュウも決壊。
キャルさんの困った顔はそのままでした。
「「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」
三十分後、レイナさんとキャルさんに他全員で謝罪中。
「大丈夫。ついて行けなかったおばさんがだめなだけだから」
すっかり落ち込ませてしまった。
「レイナ、この娘達と付き合ってれば頭が柔らかくなるかもですよ?」
「うん…期待しとく」
キャルさんに慰められて若干浮上?
「ユリカちゃんのあのてきとうそうな指示だけであっさり作戦成功するわけだよ。見事な連携でした」
完敗です。と両腕を上げてみせるレイナさん。
切替が完了した模様です。良かった良かった。
「まだ他に当事者で確認しておく事ある?」
と、ミュウが問い掛ける。
「ああ、装備強化の件が結論出ていないね!」
「増強していただけるなら、後ほどキャルと検討しておきます」
さつきの言葉にレイナさんが応えてこの件は保留。
「後は、人事部。調査入れようか」
ユリアが凄く悪い顔で提案。怖いよその顔。
「黙らっしゃい!」
両手で口を塞ぐ。
「安積君に指示出ししておきましょう」
わたしをチラ見しながら答えるレイナさん。
「わたしから、サーバーの点検とアップデートをお願いしても良いですか?出来れば本社からサリーちゃん呼んで欲しいのですけど」
ミュラ姫が片手を軽く上げて提案。
「わたしも同意」
ミュウが賛同の模様。
「わたしが本社に確認しときます」
ユリアが有能すぎる件。
「私は天井のトラスで面白い物見つけたんで後でレポートいたしますね」
かおりが、此方も軽く手を上げて。
「アルファに各施設点検お願いするよ。特別手当。よろ」
かおりをちらっと見た後さつきに告げるユリア。マジ有能すぎる件。
「わたし、パルスビームの波長、違うの混じってた気がする」
「え?調査課に指示しておきます」
ルミの言葉に驚きつつ了解するレイナさん。
「諜報課にも指示した方がよさそうよね」
「判りました」
ユリアが追加で指示を出す。ユリアがとっても有能すぎる件。
「ユリアー。お腹空いたー」
「はいはい。そっちの棚に夜食用のパンがあるから一つもらってきなさい」
「そんなとこまで把握してるんですね」
ユリカの戯言をやんわり躱すユリアに吃驚しているキャルさん。
ユリア、超有能すぎる件。
「五月蠅いよ!口押さえてたって思考ダダ漏れさせてたら一緒でしょ?鹿乃子。わざとやってるよね!?」
おっといけない。瞑想瞑想。
「あはははははははははははははははははははは」
ユリカが毛玉になった件。
「ぐふ! ちょっ。鹿乃子。かんべんして」
やったー目標達成。ユリア決壊目前。
必死で抑えてるけどだめっぽい。
ユリア、無理しちゃ体に悪いよ。
「「あはははははははははははははははははははは」」
ユリユリ爆笑中です。
さつき、かおり、ルミも机に突っ伏して震えてます。
ミュウはユリア指差して爆笑中。
レイナさん。今回は乗り遅れなかった模様。キャルさんと笑ってます。
良き良き。笑う門には福禄寿。……あれ?大黒天? 弁財天じゃなくてー… あ、福の神。
[福が立つ]か[福来たる]。若しくは[福が来る]だよと龍さんが教えてくれた。感謝。
その後、追加の案件もなく、時刻も遅くなってきたので帰ることに。
重役コンビは残して、ミュラ姫を拾ってリニアチューブで帰還。
待っててくれたカミーラに状況報告。
ついでに、重役コンビって、もう隠す気無くなってるよね?とみんなに尋ねたらまたまた決壊しちゃいまして。
やっぱりがっつり経営に関わってるんだ。
「鹿乃子ちゃんの思ってるとおりで良いと思うけどもうちょっと口に出さないであげてね?」
と、息絶え絶えのミュラ姫にお願いされました。
ミュラ姫も含まれてるんだけど?と言ってみたら、
「努力します」
と仰ってました。笑いをこらえるの、大変そうでした。
時刻、二十一時を回っているのでコミューターに相乗りで帰宅。
明日に備えて就寝します。
それでは、おやすみなさい。
三十日目に続きます




