一月二十九日 (前篇)なじめたかな
二十九日目 前編です
星暦二千百十一年一月二十九日 木曜日
お早うございます。
今日は早朝から雨が降りまして、今現在も降雨中です。
で、困ったことに、わたし傘を持ってなかったんですな。これが。
公園、どうやって移動しよう。
公園の門までは歩道のアーケード部分を歩けば問題ないけど公園内にアーケードはないんですよ。当然のように。
まあ最悪コミューターかなと思って約束の時間に表に出ます。
「「「お早う(ございます)」」」
と、お互いご挨拶。
「わたし、傘を持っていないんだけど」
と切り出してみた。
「私たちも持ってませんよ。これがあるので大丈夫ですから」
そう言って、腕のブレスレットを指差す かおり。
「あれ?これって危険な飛来物をはじくだけだよね?」
そういえば、マニュアル注意書き部分しか読んでないや。
「雨天は[アンブレラモード]が自動で起動しますから平気ですよ。エネルギーも学園まで使って二、三パーセントですから問題ないと思いますけど、立場上、出来たら予備を持って行った方がよろしいかと思います」
どうやら傘は不要な模様。
「もう一本持ってきます」
「おまちしております」
断って一度部屋に戻り、ヘアバンドの予備を一本鞄に押し込む。
そして出発。
どうなるのか興味に負けて雨の中に出てみた。
見えない傘があるように、頭上で雨が止まって傘の表面を滑るように流れ落ちてゆく。
面白い!
「鹿乃子ちゃん。アンブレラモードは膝の辺りまでしか作動しないので、あんまりはしゃぎますと足元がひどいことになりますよ」
かおりから注意が。了解しました。ちょっとはしゃぎました。
いつものコースをいつものスピードで移動。
公園の中も、通路は泥濘むこともなく。
訊けば、通路部分は土が入っていなくて、硬いゴム状の床に数センチの玉砂利だけが敷き詰められているとのこと。
まあ、宇宙船の上部甲板にわざわざ土を持ってきているんだから必要ないところまで敷いたりしないか。
何の問題も起きず、無事学園に到着。
「「「「「「お早う(ございます)」」」」」」
さつき、ユリユリペアともご挨拶。
「「鹿乃子!ユリユリ禁止」」
ユリユリに怒られた。
「「かーのーこー」」
「はーい」
ユリアとユリカが怖いです。
「「鹿乃子ちゃん達。お早う」」
「「「「「「静香、ジーナ。お早う(ございます)」」」」」」
昨日仲良くなった静香ちゃんとルジーナちゃん。ジーナで良いよって許可いただきました。
「鹿乃子、二人といつの間に仲良くなったの?」
「昨日体育で一緒に見学してたのよ」
昨日お休みだった さつきが不思議そうに質問するとジーナがお答えを。
「鹿乃子?体調悪かったの?」
それを訊いてユリアが心配し出す。
前科持ちです。はい。
「そうじゃなくって…」
昨日のいきさつを静香とジーナが説明。
「そういうこと。あはは。災難だったわね」
ユリアのご心配も解消の模様。
「中等部の先生から連絡上がってないのかしら」
「んー。なんか、見てみたかったんじゃないかな?って感じ」
「すっごく期待こもった目で見てたもんね、先生。まあ期待の遙か彼方ぶっちぎりだったから魂抜けた顔してたよ」
ジーナと静香が教えてくれる。
そこまで見てなかったよ。わたし。
「ユリカと組ませるんだもん。こいつがまともにゲームするわけないじゃん」
ひどかった。レシーブすればコートの遙か外に吹っ飛んでいくし、トスを上げさせれば天井擦れ擦れまで上げるし。
「ユリカのレシーブで隣のコートより外まで飛んだボールを打ち返してたもんね。鹿乃子ちゃん」
「天井からスパイクとかね!見ててすっごく楽しかった。一試合続けてくれれば良かったのに」
「「ねー」」
「わたしはなかなか大変だったよ」
二人の感想に疲れた声で返す。
「見てなくても想像出来るね!」
さつきの言葉でどっと笑いが広がる。
おお?他にも集まって来てた?
いつの間にか他のクラス女子が全員寄って来ていた。
「鹿乃子ちゃんって、近くで見てるとすっごくわかりやすい動きしてるんだね」
「ジェスチャー?ボディーランゲージ?」
「今の吃驚したのもすぐ判ったー」
「えー?」
「「「「「「「「あはははははははははははははははははははは」」」」」」」」」
みんなの[判りやすい娘]発言に不満の声を上げたら大笑いされたよ。
ひどくね?
「みんな、苛めないでおくれよ」
「「「「「「「「「愛でてるだけだよ」」」」」」」」」
手加減してねと言ったらこの答え。
仲間認定はしてもらえたみたいだけどね。
「えーと、宗像さん、石鳥谷さん、沢城さん、ワグナーさん、呉さん、能代さん、双葉さん、で合ってる?」
「「「「「「「ちがう」」」」」」」
「聡美」
「ツムギ」
「桂那で」
「ステフ、とお呼びください」
「麗華。れいか でもいいよ」
「美鈴だよ」
「ミユ」
「おおう。鹿乃子で」
「「「「「「「宜しくね。鹿乃子」」」」」」」
挨拶を交わしたところで始業チャイム。
先生が来て、今日も一日の授業が始まります。
その後、休憩時間やお昼時に、クラスの女子がちょいちょい話しかけてくれるようになり、クラスにかなりなじめたかなと感じるこの頃。
ま、ほぼユリカは隣にいるわけですがね。
現在もジーナがやってきて、主にユリカとお喋り中。
二人のお喋りに加わって時折相槌を打ちつつ、後は、男子と気軽に話が出来るようになればなあ と。ぼんやりと考えていたら、
「男子にはなかなかハードル高いんじゃないかな?鹿乃子に声掛けるのって」
「なんで判ったの?考えてる事」
ジーナの言葉に驚く。
「いやだって、女子を見回してなんかホッコリした後男子を見渡して考え込んでれば大体想像つくよね?」
「そんなことをしてましたか?」
深い頷きが二つ返ってまいりまして。
「そんな落ち込まなくても。見ている分には可愛いよ。そんな鹿乃子も」
「あはははははははははははははははははははは」
笑うな。ユリカ。
「男子とお話しは難しい?」
「鹿乃子、かっこいいからねー」
???
「背が高くて、顔は超整ってて、スタイルも抜群で、言葉少なく、表情が崩れなくて、メンバーズクラブに勧誘されて。ちょっとこのクラスの男子には難易度高すぎるかなって」
「いや、別にお付き合いい頂きたいわけではないのですが?」
「その前に声を掛ける勇気が出ないと思うよ?」
「えー?」
「だって、女子のわたしがそうだったんだよ?高等部一年の男子にはハードル高すぎるでしょ」
うう。なんか近くに座ってる男子数名が頷いてる気配がする。
「こらー。男子。聞き耳立ててないで動けー」
その様子に気付いたジーナが周りに向けて声を上げる。
「「「ぜ、善処します」」」
何人かが答えてくれる。か細い声で。
「やっぱ当分無理じゃんね?」
わたしを見ながらそう言うと、やれやれといった表情に、首を左右に振りつつ肩をすくめ両掌を上に向ける動作を追加で。
まだすぐには無理かー。
その後、今日最後の授業が終わり、クラブルームに向かっている現在まで、男子からのアプローチはありませんでした。
機会があったらこっちから話しかけるかなぁ。
「頑張れー」
ユリカに背中をポンポンしながら声を掛けられてがっくりと。
クラブルームに到着です。
さつきとユリアは携帯端末に呼びだしが有ってお話し中。後で行くと言ってました。
あー。そういえば自分用の椅子、まだ用意してないなー。
それぞれのクッションや椅子に向かう、かおり、ルミ、ユリカを眺めて思い出す。
「鹿乃子ちゃん、ご自分の椅子でしたら、今から探しに行きますか?ご一緒しますよ?」
そんなわたしの様子に気付いてかおりが声を掛けてくれる。
「んー。今度の休日でいいや。ルミとミュウのとこ行く約束してるからその帰りにでも」
「あ。そうでした。じゃ、そのとき良いお店をご案内しますね?」
「あー。わたしも行くー」
「ユリカは騒がしいからいらないかな」
「ひーどーいー!わたしも行きたいー!」
ユリカが喧しいー。
そんなに急がないでもと告げただけなのにこれですよ。
「いや、鹿乃子ちゃんが一言多かったんだと思いますけど?」
「えー?」
「あはははははははははははははははははははは」
そんなはずはと抗議の声を上げたら笑い出すユリカ。
「相変わらず五月蠅い奴らだなー」
カミーラの言うとおりだよ。
「他人事じゃないぞ?鹿乃子も含んでるぞ。当然」
「えー?」
「「あはははははははははははははははははははは」」
かおりとユリカが爆笑してしまった。
「いつもの日常。平和、平和」
ルミはお茶を入れてのんびり眺める構え。
ミュラ姫がおりませんね。
「カミーラ、姫は?」
「一昨日の件で何かあったらしい。呼び出されてさっき出かけた」
あれ?そうするとさつき達の先刻の携帯の呼出しも?
「さつきに連絡行ったのか?じゃその件だな。案外お前らも呼び出されたりしてな」
「カミーラが旗立てた」
ルミが呟く。
「可能性が高いから言っただけだぞ?フラグじゃないよ」
「旗?フラグ?」
カミーラの反論。意味の分からないわたし。
そう話していると入り口のドアが開く作動音。
「あ。揃ってる。四人とも、ちょっと付き合って」
ドアが開いてわたし達を見るなり声を上げるユリア。
「「「やっぱりー」」」
ユリカ、かおり、ルミが一斉に非難の声を上げる。
「いや、だから可能性が高いって。原因も呼出し掛かったメンバーも判ってるんだから当然予想附くだろ?」
必死に弁解するカミーラが可愛い。
「あ!お前らなぁ」
気が付いちゃった。溜息をついてそっぽを向いちゃいました。
「またカミーラ弄ってる」
やれやれという感じのユリア。
「「「弄ってませーん。カミーラで遊んでましたー」」」
綺麗に揃ったお答えで。
「もう良いだろ?用事あるんだからさっさと行けよ」
やけになって叫ぶカミーラ。
「「「はーい」」」
三人揃って大変良いお返事です。
カミーラはプンプンで向こう向いてます。
「じゃ、カミーラ、留守番お願いね」
ユリアの声に頭の上でてをひらひらするカミーラ。
そして、出かけると言っておきながら部屋の中に入ってくるユリアとさつき。
あれ?
「あ。鹿乃子。こっちにリニアチューブってのがあってね。それ使う」
何故だ?と考えていたらユリアが教えてくれるけど、何それ。行けば判る?
「すぐ判るよー。行こ行こー」
ユリカに押されて歩き出す。
部屋の一番奥にいくつか扉があって、右端の扉を開けると通路が見える。
横に伸びた通路を進むと大きな扉が開いていて、その向こうの小部屋には二十脚ほどの椅子、と言うかコミューターのシートによく似たものがが並んでいる。
そこに座るみたいだ。え?まさか部屋ごと移動するとか?
「当たり。チューブの中を移動する小部屋みたいな乗り物だよ。時速九百キロ位出るから一番早く移動出来るの」
「但し、中央区のお城行き限定で!」
ユリカに続けてさつきの説明。
よく分からんけど早いならいいや。
「鹿乃子のその割り切りの早さが好きだなー」
ユリアがなんか言ってます。理解出来ないんだからそういうものかと思ってるだけですよ。
相変わらずユリカは笑ったままだな。何がそんなにおかしいんだろう?
一方向を向いて並んだシートの最前列で、壁に付いている小さな机に向かって何やら弄っていたさつきが、
「いくよ!」
と、声を掛けると同時にシートに押しつけられる感じが少々。
それもすぐ無くなったけど、動き出した?
「六分位で着くよ!」
と教えてくれる。随分早いなー。
「随分と控えめな感想ですね」
かおりが訊いてくるけど、移動している実感がね?振動も揺れも加速感も何にもないからなぁ。
「ユリアがテレポートで運んだ方が早くない?」
「そこまで急ぐ必要は無いかな。まあ可及的速やかにって位?」
「そんなもんですか。で?何が起きてるの?」
「ああ。何にも説明してないや。ごめんごめん」
「ぷふ!」
あぁ、ユリアとお話ししていたら、かおりまで吹き出しちゃったよ。がんばれー。もうちょっと我慢してー。
「あはははははははははははははははははははは」
だめでした。かおりも決壊しちゃったよ。
「今のはユリアが原因だよね?」
「鹿乃子のがんばれーが原因かなー?」
わたしじゃないよね?と訊いてみたけどわたしだったみたい。残念だー。
さつきとルミも決壊しちゃいました。
「やれやれ…」
眉間の当たりを揉みながら深い溜息のユリア。
お疲れ様です。
「あたっ」
デコピンされたよ?ひどくない?
ユリアまで笑い出したよ?わたしにデコピンしておいて。暴力反対。
「むー」
両手でおでこを押さえてむくれたら一層笑いがひどいことに。
例によって瞑想して待ってよ。
なんかさっきチャイムが鳴ったけどなんだろう?
その後サブコントロールルームがどうとか言うアナウンスもあったけどよく聞こえなかった。
リニアチューブとやらから降りたのは三十分ぐらいたってから。
ミュラ姫がお迎えに来たんですよ。扉を開けたらわたし以外が笑い転げてるんで諦めた表情をされておりましたね。
すみません。わたしが元凶らしいです。
「リニアで来た意味が何にもないわね」
ごもっとも。
みんなで歩き出したときにミュラ姫が溢した言葉に頷いたらまたみんな笑い出しちゃって。
深ーい溜息後の、ミュラ姫のジトっとした視線が怖いです。
「しばらく瞑想してます」
「お願いします」
二十九日目 後篇に続きます




