一月一日 お引っ越し(後編)
初日の後編です
加筆修正等行いました。2022/2/15
寮を目指して、てくてく歩きながら市街を観察。
一定間隔で、案内板の様な装置が並んでいたりする。
円筒形の台の天辺に、顔を模したグラフィックを表示した端末画面が乗っかっている。
そう言えば、今日は一月一日。
此まで暮らしていた街では正月といって、今日から三日間、新年を迎えたお祝いの日だったけれど、この街では今日が公休日になっているくらいで、明日からは普通に日常生活だという話だった。
つい先ほど、転入の手続き時に、いくつかした質問の答えに付け加えて、教えてくれた事なのだけれど。
それでも、一応新しい年を迎えるという事で一二月三一日の夜から、今朝、午前零時を回るまでは年越しのカウントダウンとやらで賑やかだったとか。
騒ぎの名残というか、そこいら中に花火や紙吹雪、食べ物の容器などが転がっていて、それを片付ける人が大勢働いている。
…いや、人じゃないな。路上の清掃を行う[タウンキーパー]と呼ばれるアンドロイドだとか言ってたな。役場の人。
実際、身長が一三〇センチくらいしかない髭もじゃの人とか、頭にウサギの耳が付いたエプロンドレスの女の子とか大きくとがった耳を持つ長身ですらっとしたやたら綺麗な女性とか、なんかぷよぷよとしたボールみたいな半透明の塊とか…。ドワーフに兎人、エルフ、ス○イム…だろうか?そのほかにも色々…。
それらを眺めつつ新居に向かって歩いていると、不思議の国でウサギを追っかける女の子が路上に散った紙吹雪を大きな業務用掃除機で吸い込んでいるのが前方に見えた。
「大変だね。ご苦労様。」
つい、声を掛けてしまった。
「ありがとう。きょうは とくべつなひだから がんばるね」
にっこり笑って答えてくれた。……かわいい
じゃなくて!いや、これ機械じゃないだろ?受け答え、自然すぎるよ?
「まいとし、いちねんのはじまりのひだけは おいわいだから ごみをどうろにちらしてもいいことになってるんだよ?おねえさんきょうひっこしてきたひとでしょ?ふだんはごみをぽいぽいするとおこられちゃうからきをつけてね?」
親切だ? え? 何で私が今日越してきたって知ってるんだ?
色々混乱していると
「こんにちはー、アリスちゃん 今日はお仕事が大変ねー」
背後から声がした。名前そのまんまかよ。
「こんにちはー ゆりかちゃん きょうはがんばるよー」
背後からの声の主を振り返ると かわいらしい女の子だった。金髪! 碧眼! 肌の色、白っ! で ちっちゃい! 髪が長い! 膝まである! ボリュームがすごい!!
人間か?これ…
「ゆりかちゃんはにんげんのひとですよ?」
ガバッと掃除機を持った女の子に振り返る。
私の疑問に対する的確なお答えを有り難う! 私口に出してなかったよね?! やっぱ、機械じゃないよね?
「わたしはゆりかちゃんに[ありす]というなまえをもらった[たうんきーぱー]です。よろしくね」
「いや中の人いるでしょ?中の人。自動機械のする受け答えじゃないよ?」
思わず叫んでしまった。
「このおねえさんはきょうひっこしてきた[まき かのこ]さんです。こうとうぶのいちねんせいですよ」
おいーっ!個人情報ダダ漏れーっ! そしてマイペースっ!?
「ユリカだよー。私も今年から高等部。よろしくねー?」
「同級!? って、年齢幾つ? 飛び級?」
ユリカと名乗る女の子の自己紹介にまた叫んでしまった。マジか?その体型で一五歳?一二,三歳にしか見えんぞ?
「いーよもーなれてるしー 一五だよこれでもー」
不貞腐れてしまった。
上目遣いで睨んでくる…
ごめんなさい。
でもなんか和む。かわいい。
で、その後、アリスというタウンキーパーと別れ、なぜかユリカちゃんと並んで歩いている。
「[ひまわり]ブロックの学生アパートに入るんだね。私[なでしこ]ブロックに住んでるの。」
この街の住民居住区って花の名前なんだな。
[ひまわり]と[なでしこ]は隣同士のブロックだったよな? 確か。
「さっきの子って、ほんとに機械なの?」
どうにも納得がいかないので訊いてみた。
「機械じゃあないかなー。人工生命体って言った方が近いかもー。金属質の骨格に人工の筋肉や皮膚で出来てるんだよー。ちゃんと住人登録もされてるよー?」
人じゃん。機械じゃないじゃん。
「私の名前を知っていたのは何で?」
「中央のデータバンクと繋がっているからだねー。顔認証もバッチリ。警備も担当してるから住人の情報は全部持ってるよー? 説明聞かなかったー?」
全く聞いてません。
「……居住管理の担当、誰だった?」
恐る恐るという感じでユリカが聞いてきた。転入手続きの人かな? だったら…
「んー? 確か…、早見レマ… とか…」
担当の人を思い出しつつ答えると、
「あぅわー…レマちゃんかー。こっちに丸投げしたなー。」
頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
なんか問題有りっぽいです。いいのか? 役人がそんなんで。
「知ってる人?」
と訊くと、
「友達のお姉ちゃん。」
という答え。続けて、
「時々すーごく投げやりで、他人任せで手抜きになる人ー。」
ぐったりとして答えてくれた。
そういえば詳しい事はパンフレットをとか言ってた…なんとなく解る気がする。
「すみませんが色々と教えて下さい。」
色々と危機感を覚えて頼む事にする。
お昼も近いので、食事をする事に。
おすすめのファミリーレストランへ案内してもらって食事。
その他、とりあえず必要そうな近場の各種お店やら施設やらを案内してもらい、ユリカちゃんと携帯端末の番号交換。
で、明日また会う約束をしてから、ここでの生活拠点になる学生寮の一室へと向かう。
ふつーに、アパート。
これから何年か生活する事になる部屋に入って、またまたびっくりした。
ひろい! いや、これ普通に家族で生活できるよね! ダイニングとキッチンが一緒になってはいるけれど、それとは別に六畳くらいと八畳くらいの個室にクローゼット。
バスルームと化粧室付き? 誰が掃除するの? しかも内装新品になってません? 更に言えば基本的な家具も準備されていますよ?
もしかしてシェアルームか何かだった?
慌てて玄関を出て表札を見ると[槇]という私の名前以外何も無し。
もう一枚名札が付く余裕も無し。
再確認のため、もらった玄関の鍵で、施錠して確かめる。間違いなくここの鍵。
マジかー。
この街には、転入手続きをしてから びっくりの連続だったしすっごく疲れた。この部屋がとどめになった感じ?
荷物の確認だけしたら休もう。
まだ一六時にもなってないけど。
荷物はどこだ?運送業者の人、小部屋に入れてくれたと聞いたんだけど、あぁ、押し入れみたいな扉があるや。
扉を開けてへたり込む私。
うん。これは小部屋じゃないよね。小部屋じゃない。
充分六畳間。窓がないけどな。いわゆる納戸?
こんな住居を学生に無償貸与って、どうなってるんだ?この街の常識は。
寝具と日常使うものだけ荷物の山から引っ張り出してベッドに潜り込む。
学園初日の五日までにユリカちゃんに尋ねる事が山積みになってしまった。
今日はもう考えるのやめた。
おやすみなさい。
二日目に続きます