一月二十一日 倉庫に近づくもの
二十一日目です
星暦二千百十一年一月二十一日 水曜日
お早うございます。
現在、ユリカと二人。コミューターにて人工島の反対側に移動中。
何でも、姫野グループ本部の警備担当部署が有る区画だそうで、そこに向かっております。
もう、行く場所からして不安しかありません。
どうやって逃走しようか悩み始めております。
ユリカにがっちり片手をホールドされてましてね?
現地まで一時間ほど掛かるので、状況の説明を聞くことに。
「マークしていたスパイさんが やらかしてね?」
と始まった説明に依りますと。
社内で最終テストのため、警備部に配備されることになった携帯型の捕縛装置。この基幹部分の技術を、ある企業が狙っていた。
で、今向かっている区画に倉庫が有って、それが運び込まれたところでそのスパイさん。ちょうど整備を終えて再配備を待っていた無人警備のためのアンドロイドに倉庫の占拠を命令した。誰も倉庫に近づけるなと。
占拠してからこっそり取りに行くつもりだったらしいけど、排除対象から自分を除外し忘れてまして。
凄腕のハッカー(高技能のコンピューター技術士。ユリアとミュラ姫のことらしい)がいると知っていたらしく。起動と同時に全ての命令系通信装置を無効にするおまけ付きで。
結果、外部から停止コマンドを送ることも出来ず、命令した本人は真っ先に排除対象と認識されてしまい後は誰も近づけずに膠着したらしい。
何?その三文芝居。
「帰ろうよ。ユリカ」
「あたしもちょっとそうしたい」
装備品も倉庫の中で、必要なものを他から集めるにも時間が掛かるのでお呼びが掛かったらしい。
「一応マークして見張ってたんだよね?」
と問えば、
「行動を阻止しろとは指示されてなかったんだって」
責任者を小一時間ほど問い詰めたい!と、お怒りです。
「やっぱ帰ろう?」
そう言ったら倉庫に到着しました。間の悪いことに。
コミューターを降りると、綺麗な敬礼で警備隊の制服に身を包んだ女性がお一人お出迎えです。
此方もぺこりとお辞儀で返す。
ユリカは片手を上げて答える。
「ごめん。ユリちゃん。お手間を掛けます」
と、礼を解いてご挨拶。お知り合いなんだ。
「この娘、槇 鹿乃子。今日から私のパートナー」
ご紹介いただきました。
「鹿乃子です」
と再びお辞儀。
すると吃驚した表情で
「過剰戦力ですよ?」
と、叫び声。
何で?と不思議に思ったら、
「ユリちゃんだけでも過剰なのにそのパートナーと二人って。どこと戦争しますか?」
あー。ここでも喋らなくて平気なんだー。
と頷きながら考える。
「大物新人ですよー」
ユリカが得意げに告げる。
「大物過ぎません?」
と、又 叫びが。
よっぽど普段何かをため込んでいらっしゃる?
「違いますよ?ユリちゃんにパートナーって所に吃驚なんですよ?」
良かった。ため込むのは良くないですからご自愛下さい。
で、どちら様でしょうか?
「失礼いたしました。警備部実働課大隊長のキャル・ファーストと申します。」
と改めて敬礼でご挨拶下さいました。
「ご丁寧にありがとうございます。」
わたしも改めてお礼を。
「なぜでしょう。まだ二言しかお声を伺っておりませんが、随分とお話ししたように感じるのは」
「鹿乃子ちゃんですからー」
もっともな疑問を口されたのにあんまりなお答えじゃありませんかね?ユリカさん。
「ユリちゃんですからねぇ」
……
「「はぁ」」
二人揃って溜息。
「とりあえずあちらの事務室へ。状況をご説明いたします」
三人揃って、倉庫が見える位置に立てられた仮設らしいプレハブの一室へ向かう。
「お手間を掛けてすみません」
部屋に入ると、応接セットの横で立ったまま頭を下げてらっしゃる方がですね?
「レイナちゃん部長さん昇進おめでとー」
レイナさんと仰る?ユリカ、顔広いなー。
「めでたくないです。何で昇進早々こんな問題がー」
進められて二人並んでソファに掛ける。
向かいにレイナさんとキャルさん。
四人が座ったところで、事務方さんらしき方がお茶を配って下さいます。
その後、何かハンドサインを送ったようで、事務方さんドア横のスイッチを弄った後 室外へ。
カチャリ、と施錠される音がして。
「これで余計なやつは入って来ないです。音も漏れないんで気にせず話してください」
?
何で皆さんわたしをご覧になるんでしょう?
ユリカ?肩がぷるぷるし始めてませんか?
「あはははははははははははははははははははは」
「「ユリちゃん?」」
あー、わたしが声出さないんで勘違いされちゃったかー。
ユリカは役に立たないんで自分で説明しますか。
「えっと、わたし。とっても判りやすいんだそうです」
「「はい?」」
「で、頭に浮かんだ疑問質問に周りの皆さん、直接お答え下さいまして」
「え?」
「あっ」
キャルさん気が付いた。
「単に声に出さない癖が付いちゃっただけなんですよ」
ご配慮申し訳ない。と頭を下げる。
「「確かに!そばにいると話してるのと変わらない位判りやすい!」」
「えー?」
そんなにかー。
あ。
お二人も決壊しちゃったー。
待ちますよー。皆さんが復活するの。楽しいときは笑うのが一番ですよー。
等と考えたら余計声が大きくなったような、ま、いいか。
瞑想してよ。
「「ごめんなさい」」
約三十分後、ローテーブルに額をこすりつけるような状態のお二人が。
何でだろう?楽しいときは笑うのが良いと思うんだ わたし。
「鹿乃子が考えてるとおりだよー。わたしも毎日楽しくって」
そうそう、楽しいのが一番。だからさっさとお仕事終えて帰りたい。
「判りました。では先ず、情報のすりあわせを行いましょう」
で、詳しいお話を伺います。
事の経緯は、コミューターでユリカに聞いたとおり。
発生日時が昨日の午後一時。
で、なんともタイミング悪く、ちょうど問題の新装備の確認を兼ねて見学に、製造担当工場からお客様が来ていたそうで。二名ほど。
事件が起こったのが倉庫の管理室で休憩している時で、倉庫から出てくることが出来なくなっちゃった。
幸な事に、倉庫内部では特に行動制限を受けないようで、食事もトイレも問題なし。
でも、いつ攻撃目標にされるか判らない状況に、案内役を含めた三名が取り残されて。消耗が非常に激しいとのことです。
更に、相手がいるのは装備の保管倉庫。アンドロイド達のエネルギーはおろか、武器弾薬は文字通り山積み状態。
此方からは、閉じ込められている三名のこともあるし、むしろ貯蔵されている弾薬に引火しかねない状況で攻撃することが出来ず。
おおよそ三百メートルまで近づくと、砲弾が雨のように飛んでくるそうで、現在打つ手がないとのことでした。
「あのね?」
遠慮がちに声を上げる。
「なんでしょう」
「倉庫に閉じ込められたって人たちね?中を自由に動けてるんですよね?」
「電話もトイレも食事も、何の制限も受けていないそうです」
うんうん。それは不幸中の幸いですが、
「犯人のスパイさん。排除対象からご自分を除外するの忘れちゃうような方で、お昼にこっそり仕掛けを起動して、いったん戻ってらっしゃるんですよね?」
「はい。慌てたのか、元々技術力が低いのかは不明ですが」
「倉庫の警邏に向かった警備員が攻撃されて発覚しました」
「あー!」
ユリカ、気が付いたみたい。
「スパイさんも終業後 盗みに行って排除されちゃった。近づくものが排除対象なんですよね?倉庫に」
「「あっ!」」
あ、お二人も気が付いた。
でも言っちゃう。
「倉庫にいる人も、倉庫から遠ざかる人も、排除対象にならないのでは?」
「「「あー…」」」
三人ともローテーブルに突っ伏した。
倉庫内の三人。素性を確認すると、グループ会社の社長と工場長。見学を兼ねての来訪だったので、案内役に当時受付担当だった、メグちゃん。
即座に携帯端末に電話連絡。確認のため、メグちゃんに歩いて倉庫から百メートル地点まで出てもらう。
思った通りアンドロイドに反応皆無。
さらに念のため、そこから三百メートル離れた場所まで全力ダッシュ。
やはり反応無し。
という事で、残る社長さん工場長さんに徒歩で脱出してもらいます。
おっかなびっくりながら、なんとか此方にたどり着き、直ちにメディカルセンターへ救急搬送。
脱出出来たメグちゃんは、それは台風のような大荒れ状態だったと記しておきましょう。
「まだここにいますー!それに!荒れてないもん!!」
ぽこっと殴られちゃいました。
ちょっとした創作だよー。臨場感アップするじゃん。
「そんな臨場感いりませんー」
残念です。
んで?後はユリカでOK?
「せっかくだから一緒に行こー?」
腕を引っ張ります。
はー。めんどいなー。緊急停止スイッチは首の後ろで合ってた?
「ホントに嫌そうねー。人で言う頸椎と胸椎の結合部にあるスイッチだよ?こんなの付けたって意味ないよとか設計した人達言ってたけど役に立つじゃんねー?」
いや、そこで同意を求められましてもね?メグちゃん。
「全部で十六体だっけ?」
「そうそう」
ユリカに確認。
「じゃユリカ十四体わたし二体ね」
「いやいやいや。そこは半分こでしょ。鹿乃子ちゃん」
「えー?」
なんとも緊張感の無い会話。わたしが原因か。
「あ、そだ。鹿乃子、わたしの声、鹿乃子の龍さんに届くかな?」
「普通に聞こえてるはず…聞こえてるって」
「じゃ、龍さん。鹿乃子に神気を薄くまとえますか?多分それで能力が倍以上になると思うの」
ユリカが言うが早いかわたしの周りに暖かいものが幕のように覆っていく。
「OKOK。んじゃ、行くよー」
同時に走り出すユリカ。
速。追いつけない…追いつけた。アンドロイド達が反応始めたときには倉庫に到着。中に飛び込み手近な二体の停止スイッチに手刀を落とす。
固まって動かないアンドロイドをそのままに他の稼働しているアンドロイドを探す。
直ぐ近くにもう二体。慌てて止めようとするが、動きが無い。
あれ?と思って観察したら他の稼働中のアンドロイド全部外の警戒に戻っちゃってます?
「あれー?」
と言う声に顔を向ければユリカも困惑状態。
まあ、予想通りって言えばその通りなん だ け ど。
ここまで[倉庫に近づくもの]に徹底されちゃうとちょっと寂しい。
もうちょっと反応して下さっても良いんですよ?
まあ、攻撃が来ないんならと近くから順に首の後ろ、スイッチを押して停止させる。
脱力しつつも、十六体止めるの二分掛かりませんでした。
しかも、その間何の抵抗もありませんでした。まる。
外に出て終わったよと手を振る。
直ぐレイナさん始め警備の面々がいらっしゃって、ユリカから状況を聞いて、みんなしてへたり込む。
地面を叩いてる人もいる。座ってるのも嫌で寝ちゃった人も何人か。手足をバタバタはやめよーよ。
まさか、[倉庫に近づくもの]以外まるっと無視されるとは思わないよね?
昨日から緊張の連続だったであろう皆さんの落ち込みと言ったら、それはもう。
メグちゃん達三人でアンドロイド止めて回ればその場で事件が解決していたなんてな!
犯人さんは既にご不在。アンドロイドは社の備品。当たり所の無い皆様のその後の荒れ様がですね。
まあ。頑張れ。
倉庫の後始末は隊員の皆様にお願いして、わたしとユリカ、メグちゃんは レイナさん、キャルさんと報告書作成。のお手伝い。
事の顛末をレポートにまとめ、仕上げている間中マジ泣きでしたよ。キャルさんが。
二時間ほどで仕上がりましたが、その間、隊員の皆さんが代わる代わる差し入れにいらっしゃって。
上司のお二人が愛されていらっしゃるようで何より。
そう告げてみたら二人揃って茹で上がりました。茹でた蛸さんも逃げ出す赤さだったとご報告いたします。
頂いた沢山の差し入れでお腹も余裕だし、完成したレポート、コピーを頂いて帰ります。
現在十三時三十分。学園に戻っても授業は終わっちゃってるからクラブへの報告だけかな。
特に急いだわけでもないので十五時過ぎに学園到着。
クラブルームで報告書 (コピー) をミュラ姫に。
読み終わると同時に机に突っ伏してバンバンと。
ちょうど来ていたカミーラもその様子に疑問を持って報告書を読む。
床に叩き付けましたね。いや、報告書に当たってもですね?
「事件解決直後の警備隊の皆さんをお見せしたいです」
「可哀相だからやめてあげて」
やっと起き上がったミュラ姫からストップが掛かりました。
ユリカのその残念そうな表情は何?
録画してました?携帯端末に?悪趣味では無いでしょうか?報告に必要かもしれないからセーフ?
ミュラ姫。判決をお願いします。
「ユリカちゃん。封印お願いね?」
「了解でーす」
その前の、二人で突貫した様子はご覧になると?どうやって撮影を?メグちゃんでしたか。納得しました。
そして、見た映像の神気をまとったわたしにカミーラが驚愕いたしまして。即決で翌日の検証作業が確定いたしました。
「何でこんな簡単に神気まで扱えるんだよ」
とは、そのとき叫んだカミーラの言葉。
わたしは何にもしてませんが?何故かどんどん大事に。
本日の用事は終了いたしまして。
帰宅しようと、かおりとルミを探す。
が、二人は別のお仕事で帰りは夜になりそうとのこと。
やむなく一人で帰宅。
端末で今日の授業を簡単にチェック。特に課題は無い様子。
のんびりと明日に備えることといたしましょう。
では、おやすみなさい。
二十二日目に続きます。




