一月二十日 NINJA
二十日目です
星暦二千百十一年一月二十日 火曜日
朝です。
昨日と違って、今日は三人で徒歩通学です。
一人の時は、他に歩いて登校する人がいないなあと思ってました。
違いました。わたしが登校する時間が遅かっただけでした。
かおりとルミと一緒に公園に入ると、結構な人数。徒歩通学で走ってる人がおりました。
自転車の人もいます。
朝練も兼ねてらっしゃるようで皆さん結構一生懸命走ってらっしゃいます。
凄く私たちが場違いな感じです。
歩いてますから。
走ってる方達と同じ早さで。
足の運びは早足です。でも、足首だけで地面を蹴って歩幅が二メートル超えてますからものすごい違和感があるようですよ?
一瞬ビクッとされまして、かおりとルミの顔を確認すると納得されているようです。
「あはは。一人増えたので、皆さん驚いてらっしゃいますね」
ビクッとするのはわたしが原因だった模様。
「直ぐ慣れる。問題ない」
ルミは放置推奨のようです。
「そういえば、二人の能力って何?」
気にしてませんでしたね。生身ですよね?
「一般的に言うところのNINJAです」
「アルファほどでは無いけど、遺伝子弄られ系」
それは、戦国の時代にご活躍されたという皆様と同じご職業?
「そっちじゃ無くてですね。トンデモ能力で忍び込んだり、悪人をやっつけたり、忍術で色々したり。と言う方です」
「赤い仮面を付けた飛騨にお住まいの方のような?」
「古いですね!まあそれで会ってます」
「かっこいいですね!」
「かっこいい。とてもお気に入り」
「ルミちゃんはホントNINJA大好きですよね」
「そう。飛騨の仮面さんが一番好き」
それで知ってるのか。
通じたんで吃驚したよ。かおりは巻き込まれ体質?
「それはもう何十回と動画パックを一緒に見ましたから。鹿乃子ちゃんこそよくそんな古い作品をご存じですね」
「まだ小学校に通ってたとき、ちょっと[ぼろり]したらクラスにそういうの大好きな子がいて…」
お互い顔を見合わせて溜息を。
ルミは不思議そうに此方を見てました。
学園に到着。
ユリカ、ユリア、さつきにお早うの挨拶。
ルミのNINJA大好きの話をしましたら、
「わたしが動画見せたからだね!」
と、さつきが宣いまして。
「かおりとルミが保護された時って、二人ともすっごく人間不信で…」
「自分の能力も嫌ってたからこんなかっこいい人もいるよって見せたのが始まりかな!」
ユリアとさつきの追加説明から、教祖様判明。
「確かに始めてみたときは[正義の忍者]ってかっこいいと思いましたけど」
「新しい世界が開けた」
「それで一気に懐いたね!」
かおりとルミも肯定いたしました。懐いたって言う?
「あれは懐いたで合ってると思うー」
それまで黙ってたユリカが宣言。
かおりは恥ずかしそうにもう何年も前のことだしとテレテレして、ルミはさつきに師匠!とか言ってるし。
どうだ。と、得意げなユリカに
「懐いてる」
としか返せませんでした。
でも、あれが現実になるのか?どんな能力だ?
「今日のクラブで多分見れるよ?」
と言うユリアのお言葉。俄然クラブの時間が楽しみになってきた。
「…単純すぎない?」
…そうかもしれない。
ユリアの指摘にがっくりと項垂れるわたし。
笑うな。ユリカ。
お待ちかね。クラブタイムー。
昨日は不安がっていたはずだって?良いんです。過去にはこだわらないんです。わたし。
今日は昨日と違う広い部屋、随分歩いてきましたよ?
取り合えず、トレーニングウエアに着替えました。
トレーニング用の道場みたいな部屋です。
広い空間と、壁際にいくつかの設備。
床は石ですかね?相当硬そう。
先ずはじいちゃんとやっていた鍛錬の型を一通り。
次にサンドバッグみたいなの相手に蹴りと突き。
「えーと。充分達人レベルをぶっちぎり状態ですね。貴女のおじいちゃん何をお考えだったのでしょうか」
変人認定されました。じいちゃんが。ミュラ姫ー。
「ユリカちゃん。ルミちゃん。お願いします」
「ほーい」
「了解」
返事をして二人で部屋の中央へ。
「「は!」」
同時にかけ声。そしてユリカの付きとそれをいなすルミ。
ドスンと言う振動と大音響
衝撃波が飛んできた。吃驚だ。
「ユリカ。痛い」
「あー。ごめんー。力入れ過ぎちゃった」
涙目のルミと顔の前で手を合わせるユリカ。
ルミの足下、床にひび?
「と言う具合に、ルミ、相当打たれ強いからちょっと組み手やってみて。寸止め無しで。」
と、カミーラから指示が来る。
「わたし、受け専?」
ルミちゃん。それはだめだと思います。
「…えーと」
ほら。カミーラ困っちゃった。
「了解」
ルミ。もう少し言葉を増やした方が良いと思います。
「喋らない鹿乃子に言われたくない」
ごもっとも。
「鹿乃子ちゃん。ルミちゃん危なくなればするっと逃げるから全然平気ですよー」
後ろからかおりのアドバイス。
「判った。それじゃ、誰か合図お願い」
「はいはーい」
軽く返事をしてユリカが立ち会い。
すっと手を二人の間に。
「始め」
手を引くと同時に合図。
同時に前に出て突き。そして膝蹴り。膝を伸ばして前蹴りから足を振り上げ踵を落とす。
そのまま軸足を切り換えて肘打ちから手刀。回り始めた体をそのまま回し蹴りに繋ぐ。
全ていなされ、最後に蹴り足を抱え込まれました。動けません。
ユリカから「やめ」が掛かる。
「怖かった」
ほぅっと息を吐き、足を放しながら呟くルミ。
薄らと額に汗してます。
「鹿乃子ちゃん。実戦経験無いんですよね?」
ミュラ姫の質問に頷き、待てよ?
「じいちゃんの鍛錬、途中から組み手が寸止め無しだった」
「「「「「「「あー」」」」」」」
溜息が七つ返って参りました。
続いて、かおりと対戦。
「わたしは逃げます」
そう宣言して始まった試合。繰り出す攻撃全てぬるりと逃げられ、捕まえられない。
かおりも、わたしの腕や肩を叩こうと手を出すがこれはいなす。
一分ほど続け、
「やめ」
の合図で終了。
「はー」
大きく息を吐く。
「怖かったですぅ」
かおりは涙目。頬と首筋を汗が伝う。
わたし?まだ全然余裕。スタミナはあるよ。
「忍術は?忍術まだ見てないよ?」
わたしは忍術を所望いたしますよ?ルミちゃん。
「鹿乃子、タフすぎ」
ふらりと立ち上がって脱力した構え。
三度ユリカの始めの声
同時に、ルミが分裂した。
「おぉ?」
一瞬固まる。その隙を逃さず七人に分裂したルミが全員突っ込んでくる。
きつい。全部躱すのちょっと大変そう。
ぎりぎりまで来たところで片足を伸ばし、反対の腕を畳んで肘を突き出す。そのまま回転。
四人が後退、二人が跳躍、一人が伏せたまま突っ込んでくる。
下の一人を前転で躱し上に飛んだ二人に前転の勢いのまま踵を向ける。
どちらも不発に終わり、そのまま着地。勢いに任せて頭を腰の高さまで落としながら前方へ飛び出す。後退した四人に突きと手刀を向けながら通り過ぎたところで両手を地面に。逆立ちから両足を前後に開いて回転し蹴りを繰り出す。
一回転したところで反動を使い立ち上がり様子をうかがいつつ構えを取り直す。
予想通り、繰り出した攻撃は全て躱されました。
此方に満足な攻撃を向けさせなかっただけで充分。
なんだか楽しくなってきた。
「ほい、やめー」
やる気が高まった瞬間、力の抜けるやめの合図で脱力。
「分身。通じなかった」
ルミはなんだか元気がない様子。
「鹿乃子、初見であれを避けるのね」
「避けるどころか反撃された」
感心した様子のユリアにルミが愚痴る。
「最初の反撃、避けないで特攻するべきだった。動きを止められたはず」
確かに。一人でもヒットしたら次に続かず終わってました。躱してくれるのが前提の回避のための攻撃です。
「どっちも反省したところで、かおりは?」
そう問い掛けるのはさつき。
「私分身は出来ないんですけど?」
とか言いつつやる気みたいですよ?
「一つ位当てたいですねー。」
と、向き合う。
「はじめ」
四回目の合図。
同時に影だけ残してかおりが消える。一瞬後、かおりのいた場所に残った影も消える。
次の瞬間、背後に気配。
抱きついてくるのを感じながら足から力をぬき落下しつつ後方へ体を預ける。
「ええええー?」
かおりに全体重を掛けて押しつぶす。悲鳴とともにわたしの下敷きになるかおり。
「そこまでー」
起き上がってかおりを引っ張り起こす。
「悔しいですー。あっさり回避された上何にも出来ずに反撃されましたー」
両手を振り回して悔しがってる。
「あれは無いわー。逃れようとするのが普通の反応だから、捕まえに来た相手に体重全て預けるって発想。無いわー」
「相当な力持ちでもない限り、体重を支えた瞬間隙だらけですよね」
「抱き付きを中断して避けられたらわたしが隙だらけですけどね?」
呆れてるのか感心してるのかわかりにくいカミーラとミュラ姫に欠点を暴露してみる。
「そんな判断出来るやつがいるなら見てみたいわ」
「鹿乃子ちゃんが出来そうですよ?」
「…確かに…」
二人で考え込んじゃいました。
「今のはどんな術?」
訊ねたらユリカが教えてくれる。
「潜影とか影潜りとか言ってー、影の中に隠れたりそのまま他の影まで移動したりする物理法則を完全に無視した術ですよー」
「影を利用してるフリだけです。他の次元に潜ってるんです!テレポートの一種ですよ!」
「あはははははははは」
嘘だった模様。かおりが ご立腹です。
「それじゃ、今日のメインイベント。ユリか乃子対決に行ってみましょう」
ミュラ姫。もしかして、その呼び方お気に入りなんですか?やめましょうよー。
「あはははははははははははははははははははは」
黙れ。元凶娘。
渋々部屋の中央へ。
今度はルミが審判です。
「鹿乃子、最初に一回 全力で突き入れてくれるー?」
と言って、お腹を指差すユリカ。
え?とミュラ姫を振り返ると、にこやかな笑顔。平気なんですね。判りました。
「行くよ?」
声を掛けると一応構えを取るユリカ。動く気配は全くないけど。
「!」
声にならない気合いと同時に全力の突きを入れる。
痛ーっ!なんだこの手応え。
ユリカの方はと言えば、壁に向かって吹き飛んだ。
一直線に飛び壁にめり込む。
大音響がとどろく。
「「うわ。壁が吹き飛んだ」」
ユリアとさつきが呆れ声。
ユリカは?ユリカの心配は無しですか?
「あはははははははははははははははははははは」
壁の向こうから大笑い。
「凄いねー。ここまで飛んだの久しぶりー」
飛ばされたこと、有るんかい!?
そっちに吃驚だよ?
「カミーラー。鹿乃子の手首ー」
痛めたの判ったんだ?
カミーラが痛めた手首に触れると一気に痛みが消える。
「捻挫だね。もう良いよ」
全然痛くない。ぷるぷると手首を振ってみるけど、なんともない。
「これがわたしの能力の一つ」
と言って元の壁際へ。
「怪我に関しては気にしなくて平気だよー」
ユリカはのんきに言いたい放題。
「絶対に沈める」
気合いを入れて構え直す。
「出来るかなー?」
対してユリカは自然体。
「始め」
ルミの声と同時に前に出た。はずが天井を見ながら床に寝ている。あれ?
投げられた感触もたたきつけられた感じも無いんですが?
「ユリカと模擬戦するとこうなる」
ルミに引っ張り起こされる。
「何がどうなったの?」
全く理解出来ない。
「見てる方も理解出来ない。動いた瞬間倒されてる」
もう慣れた、という感じのルミ。
「ちょっと能力使いましたー。次はちゃんと受けるから遠慮無くどーぞー」
別次元の強さにただただ唖然。
それならば、鍛錬のつもりで思いっきり。
三度向かい合う。
「始め」
合図で飛び出す。今度は思った通り動いている。
左右から突きを何度か、肘と手刀も織り交ぜてみるが全て受け止められる。
膝蹴り、蹴り上げ、踵落とし、回し蹴り、蹴り技も余裕で受け流し。
投げようとしても捕まえるどころか触れることも出来ず、やむなく拳と蹴りで再び挑む。少し汗が出てきたなと思ったところでポンッと、ホントに触るだけの掌底を胸に受け動きが止まる。
「それまで」
「はあー」
深い溜息とともに座り込む。
「何にも出来ない」
「ホントに全部止められちゃうんですよね。ユリカちゃん」
「こいつ、避けることもしないもんな。対戦相手の精神だけが大ダメージで終わるというパターン」
かおりとユリアも頷いてます。
「ユウ君には十秒で拘束されますけどね?」
ユリカの台詞に誰?と一瞬思ったけど、ユウジ君だ。
「副会長そんなに強いの?」
「この中では最強」
えー?まだ上がいるの?
「さきはながいよー?」
ホントに遠い目をしているユリカ。と思ったら
「ま、能力有りなら負けないけどねー」
と、いつもの顔でペロッと舌を出す。
「で、鹿乃子、体術第三位で確定?」
「異議無し」
「そうですね」
「残りの私たち、そもそも体術使えませんね」
「「「そうそう」」」
ルミ、かおりに続いてユリアの答え。そして頷くミュラ姫、カミーラ、さつき。
「ところで鹿乃子」
と、さつき。
「体術で既に人外認定だから自覚してね?」
なんですか?さつきさん。
「このNINJAコンビですら、既に特撮レベルなのよ? それに勝っちゃうんだから推して知るべし!」
そうだったー。楽しくなっちゃって忘れてたー。
人並みの人生が遠のいちゃうー。
「クラブ勧誘されてる時点で既に手遅れなんじゃ無いかと思いますよ?」
ミュラ姫。冷静な突っ込みありがとう。
わたしの人生波瀾万丈決定?
「おなかまおなかま」
ユリカ。回り全部を指差すなー。
よし。こうなったら、
「ユリカに勝つ!」
拳を握りしめちゃうよ。わたし。
「あはははははははははははははははははははは。受けて立つ!」
ユリカが受諾宣言。
そこに和やかーに爆弾投下。
「話がまとまったみたいだから、ユリカちゃん。壁の修理費用、お願いね?」
「はゎあー?あたしなのー?弁償、あたしー?」
最強はミュラ姫のようですよ?
ユリカ、自分を指差したまま大混乱です。
「だってここ、学園の施設じゃ無いですもの。壊しちゃった以上直しませんと…」
「ひーどーいー。姫が鹿乃子ちゃんの全力見たいって行ったじゃーん。ひーめー」
姫様、横を向いてペロッと舌を出してます。おもちゃか…おもちゃにしてるのか?この姫様。
ユリカ、ミュラ姫にすがりついて泣き出しちゃったよ。
「じゃあ、鹿乃子ちゃんと折半で」
巻き込まれた?巻き込まれましたよ?わたし。ひどくない?
「とっても都合の良い事に、お二人用のお仕事がありますから頑張って下さいねー」
にこやかに宣言されました。
決定事項ですか。そうですか。
始めから予定通りとか言いませんかね?もしかして。
同級の四人。はじめっから笑ってみてたよね。知ってるんだからね。
「見た目に反して結構黒いよ。頑張れ」
と片手をひらひらと。カミーラ様は去って行った。
四人もそれを追って慌てて出て行ったしな。
ミュラ姫に連行されてお部屋に戻りますよ。ぐしぐししてるユリカと一緒に。
部屋には誰も残っておりませんでした。薄情者め!
ミュラ姫からお仕事の説明です。私にはちんぷんかんぷん解りません。
後からユリカに分かりやすく翻訳してもらおう。
最後に
「ユリカちゃんも、これから二人でお仕事だから頑張ってね」
と言う一言が。
途端に、ペかーっと、それはもうユリカの表情が輝きまして。
「頑張るー」
それまでの不機嫌さが綺麗さっぱり吹き飛びましたね。
お手軽にコロコロされやがって。もう。
その後は、るんるん状態のユリカに明日の迎え時間と行き先だけ聞いて帰宅となりました。
何をするのかは、行けば解るとしか…心配しか無い。
そして別れ際に、
「スカートはパンツが見えないタイプでね」
余計なお世話だ!
それでは、明日に備えましょう。
おやすみなさい。
二十一日目に続きます




