一月一日 お引っ越し(前編)
初日の前編です
追加しました。2022/2/15
星歴二千百十一年一月一日 木曜日
おはようございます。
わたしは今、日本を離れて、海上に浮かぶ人工島に設立されているという、私立学園の高等部に入学するため、成田の空港から飛行機に乗って、姫野アイランドという人工島の空港に到着した所。
何でも、一つの国扱いになっているとの事で、案内に従って、入国審査を受けるためのカウンターへと向かっている所。
案内と言っても、足元の床に矢印が表示されて、進む方向を示してくれる。しかも、一人ずつ、それぞれに案内してくれるという優れもの。ハイテクって、凄い。
いつの間に、こんな便利な技術が開発されていたんだろう。
案内されるままに、カウンターへと向かうと、かなり美人な受付嬢がいらっしゃる。
百八十センチは超えていそうな長身とすらりとしたモデル体型。面長で、ややきつめの猫の様な目。瞳は深い碧色。
髪の色も、藍に近い青で、染めてるのかな?
胸に名札。[早見レマ]と読める。
「姫野アイランドへようこそ。案内担当の早見です。槇 鹿乃子様で間違いございませんか?」
おお。持ってるだけで、色々手続きが簡略化出来るよと言われて渡された、住民カードのおかげだろうか?
「登録カードのアイデンティティナンバーは、ゲートを通過した際に読み取っておりますので、其の儘しまっておいて頂いてかまいませんよ」
ポケットから、住民登録証を出そうとしたポーズで固まったわたしを見て、微笑みながら教えてくれる。
申請するまでも無く、わたしの名前まで判るらしいよ。
「はい。槇です。よろしくお願いします」
ぺこりと、お辞儀をしながら答える。
「お手数ですが、此方のボードに右の掌を当てて頂けますか?」
そう言いながら、ノートより一回り大きなタブレット端末を此方に向けてくる。
掌の形に枠が描かれているので、其処に自分の手を押し当てる。
白かった画面が青に変わった。
「以上で、全ての手続きは終了です。生活に必要な情報は、お持ちの携帯端末に送信されております。又、此方は簡単な案内が記されたパンフレットになっておりますので、ご活用下さい」
全て? 今、全てって言った? 此所、役場だったの?
「此所って、空港のカウンターじゃ無くて、行政の窓口なの?」
「失礼致しました。ご説明が抜けておりました。その通りです。入国審査から日々のお手続きまで承っております、総合ステーションのカウンターになります」
飛行機降りたらいきなり役場なのか! 吃驚だ!!
「ところで、お住まい予定の学生寮への向かい方は、お判りですか?」
「あ、いえ、全く判りません。教えて頂けますか?」
判らないよ。無理無理。お世話になってた、石沢のおじさん。行けば判る様になってるから大丈夫。とか言って、何も教えてくれなかったどころか、国外にあるって事を聞いたのも出発のために空港に着いてからだし、全長が二百メートルもある様な超巨大な飛行機だなんて初めて知ったし、じゃあ、頑張って。で飛行機に放り込まれて出発したのが昨日なんだよ?
此所まで、だいたい二十時間の機内で、おじさんに渡された資料で、学校の事とか、最低限必要な法律の知識とか、今までの生活とは違う点や注意する事なんかは読み終えたけど、島の地図は貰ってなかった。学生寮の住所は聞いてるけどね。
荷物の類いは、全て宅配で送ってくれたから手荷物はほとんど無い。
「此の区域では、矢印の案内を使えば簡単ですので、セットの方法をお伝えしましょう。端末を出して頂けますか?」
言われて、携帯端末を取り出す。
見ている前で、起動するアプリや、行き先の設定方法など、操作の仕方を一通り教えてくれた。
「案内に従って頂けば、軌道コミューター、通称、チューブウエイと呼ばれる、謂わば列車ですね、その乗り場に案内してくれますので、ご乗車下さい。降りるステーションに近付くと端末が教えてくれます」
「判りました」
「降りた後は、市街コミューターをお使い頂いても、徒歩で移動して頂いてもお好みの方法で。道案内は、端末のマップをご覧いただけば判るかと思います」
「有り難うございます」
「他に、何かお聞きになりたい事柄がございますか?」
有る。
すーっごく気になってる事が一つ。
カウンターの片隅でお掃除している、如何にも妖精さん、と言った、身長一メートル位の風体の人を見ながら聞いてみた。
「えっと、あちこちで見かけて気になってるんですが、猫や兎の耳を付けた方とか、妙に身長が高かったり低かったりする方とか、ロボットみたいな格好の方とかが、あちこちのお掃除をなさってるんですが、何かの催し物ですか?」
………
「ああ! 彼らは都市機能がスムースに運営できるよう各地に配置された[タウンキーパー]という者達です。えーと、鹿乃子様に判りやすい言葉と言いますと、人造人間ですとか、アンドロイド…に相当致しますでしょうか…」
一瞬、何のこと? と言う様に呆けた後、わたしの視線を追いかけて、なるほど、と言う表情になって教えてくれた。
昨夜から今朝未明に掛けて年越しイベントがあって、紙吹雪やら食べ物、飲み物のパッケージやらがまき散らされているのを、お掃除してくれているんだそうな。
ついでに、今日は一部、業務を止められない部署を除いて公休日で、明日からは通常営業。学園は今週いっぱい冬休みで、来週月曜日が入学式なんだそうです。
しかし、アンドロイドって、鈍重で稼働時間も短くて役に立たない物だと思ってたんだが、いつの間に実用化出来たんだろう。
何だか、凄い街だなあ。
後、幾つかの質問をして、だいたい納得出来た。
「色々と、有り難うございました」
お礼を告げながら深くお辞儀を。
「鹿乃子様の此れからの生活が幸多き物になります様、お手伝いさせて頂きます。ご不便がございましたら、何時でもお声をお掛け下さいませ」
綺麗なお辞儀と共に返してくれました。凄い。
そんなわけで、此れから生活する事になる学生寮目指して出発進行。矢印の案内に従えば、無事駅について列車に乗る事がで来た。
降りる駅も、端末の鳴動ですぐ判ったし、降りて地図を開けば、徒歩三十分ぐらい。
歩いて行こうか。
後編に続きます