一月十七日 (前編)パジャマパーティー
十七日目です。
ちょっと長いので前後編に分割です。
星暦二千百十一年一月十七日 土曜日
呼び鈴の悪夢再び。
ただ今朝。七時になってない。
朝から呼び鈴の連打が止まらない。
「うるさいよ。早過ぎるだろお前ら」
扉を開ければそこにはメンバーズクラブの一同勢揃い。全員大きなバッグを持って。
さすがにユウジ君はいないけどな。
それと。わたし、連絡入れた覚え。ないんだけどな。
じと。っと睨むと全員そっぽを向く。
はあ。
何が入ってるかだいたい想像は付くけどあえて聞いてみる。
「その大荷物は?」
「パジャマパーティーを決行します」
「どこで寝るんだよ。この大人数」
家具とか確かにそろえては居ないけどね?元々備え付けの家具もあるしね?総勢八名、一人畳1枚しか寝るスペース無いんだけど?
「ね…」
「ね?」
「寝るの?」
「寝るよ。夜はふつーに寝ますよ。何をしに来たの?」
「だからパジャマパーティー」
「それは徹夜するのが標準装備?」
「寝かせません」
扉を閉めて鍵を掛ける。
冒頭に戻った。
「はぁ」
諦めて中に招く。
「いくら防音がしっかりしてても お隣に迷惑掛けないようにね」
ユリカに注意。
「だいじょうぶー。お隣明日まで留守だから」
「何で分かるの?」
「お隣さんその一」
ルミを指差す。
「はい?」
「その二」
かおりを指差す。
「ちょっとまてー?」
「今日までばれないように頑張ってもらいました」
だー。もうやだ。この娘。なんとかして。
「上の3件もこの中に?」
そっと訊いてみる
「二階の部屋はまだ空き家ですね。私たち表札はそのままだったんですけど 案外ばれませんでしたね」
かおりが答えてくれる。
例の毛玉は絶賛爆笑中です。
「名前で呼び合ってたから。表札の名字だけじゃ気が付かなかった」
がっくりと項垂れる。
「メンバーズは隔離される」
ルミの言葉がとどめとなりました。再起不能です。
その後、ミュラ姫にそっと頭をなでてもらってなんとか復活。
「どこか広いとこ行こうよ。こんな狭いとこにこもってないでさ」
「あぁ、じゃお城行こっか」
何となく言ってみたら さつきから妙な提案が。
「お城って、姫野のグループ本社ビルのことだよ」
ユリア。解説ありがとう。
「お金も掛からず1ヶ月は遊べるよ!」
いや、そんなに遊ぶつもり無いから。
わたしの社会勉強にも良いって事で全員で向かうことに決定。
「あんなでかいビルならそこで泊まれば良いじゃん?」
ぽつりと呟いたらさつきが食いついた。
「ウエルカムだよ鹿乃子ちゃん!いっちばん良いお部屋用意しちゃうよ!」
最終決定したようです。
わたしも荷物を…ユリアがわくわくなお顔でバッグを手渡してくれました。いつの間に…
荷物をのっけて 空飛ぶコミューターにみんなで乗る。
外観が大きい分車内も広い。八人乗っても全然余裕。
ふわっと浮き上がったのは感じたけれど、その後は加速も減速も感じない。
頭の上に?をいっぱい飛ばしていると、ユリアから説明が。
「イナーシャルコントロールって言って動いたり止まったりするときの慣性重力を中和する謎の装置が付いてるんだよ。」
ありがとうございます。意味が分かりませんが謎な装置が付いてるなら納得するしかないと思います。
「もうちょっと、こー、言い方ってあるんじゃないか?ユリア」
「んー?でもふつーそんな感じの理解であってるでしょ?」
カミーラはすっかり呆れ果てたお顔でした。
ユリカ、かおり、ルミには大いに受けた模様。
さつきは非常に納得したお顔で、ミュラ姫は
「そういった一般的な感覚の説明がお上手ですよね。ユリアちゃんて」
とても感心されております。説明になってたかなあ今の…。
なんだこのゆかいな集団。
二度目の中央区到着です。
みんな揃って玄関フロアに突撃。
さつきとユリアがロビー正面の三人並んだ受付嬢に何事か告げると、とっても深ーい溜息をお一つずつ。
連絡用らしい端末を耳に当て、どこかとお話をされております。それはもー一生懸命なご様子で。
他のお二人は後ろの事務室らしき所に飛び込んで行かれました。
ものの1分程度でお三方再び揃われて、カウンター前に整列し此方に向かって綺麗なお辞儀をご披露下さいます。
「ようこそいらっしゃいました。ご案内は付きませんが総会長がおりますので何なりとお申し付け下さい。ごゆっくりどうぞ」
歓迎いただきました。うっすらと額に汗しているのは見えませんとも。
ご苦労お察しいたします。と深くお辞儀を返したところ。近づいてきて、両手をがっしりと、ぶんぶんと上下に振っておられます。目の端に光るモノが見えたようですがきっと気のせいです。
「それじゃ、行くよ!」
大人社会の大変さを垣間見た瞬間でした。
「だいじょうぶなの?あれ」
「さつきが総会長になってからよく見かけるようになった。恒例行事」
ルミにこそっと訊いたらそんなお答え。
「総会長就任て、いつ?」
「中等部卒業式が一一月末。おおよそ一月半前」
それでもう恒例なのね。かわいそうすぎると思います。
「そのうちリコールされるんじゃ無いかな」
「だいじょうぶ、結構楽しんでるらしい」
え? つい心配したら まさかの返し?
「さつきちゃんに無茶振りされて、各部署に色々無理難題な指示出せるのが快感になってきたってこの間お話ししてましたよ?」
こそっと、かおりさん。
たくましいな、受付嬢。先刻の同情を返してくれ。
楽しそうな職場で何よりです。
とりあえず、荷物を置くため、今夜泊まる予定のお部屋に直行。
最上階ぶち抜きのペントハウスでした。
「なんだここ。さつきかユリアの部屋で良いじゃん」
思わず叫んじゃうよ。わたし。
「鹿乃子の部屋にプラス一部屋だよ。お飾りの総会長だよ!学生だよ!私室なんてそんなに大きくとれないよ!」
「そうなの?」
さつきの言葉にユリアを振り返る。
「必要があればこんな感じの部屋が他にもあるもの。そんな大きな部屋あてがわれたって落ち着かないし」
言われればまあそうなのかと思うけど。
「入り口の受付嬢達の部屋が凄いよ!」
「?」
「一人六十坪のフリースペース!。間取りは入居時と三年に一回事由に変更可!」
「何ですと?」
驚愕の事実が判明。
「しかも給料、要確定申告。」
と続き、
「お仕事は早番・遅番・待機・休日を2日ずつ。五人一組、四チームで回してます。」
「待機なんて、緊急時連絡が付けば基本事由だから実質四連休だしね」
かおりとユリアから追加爆撃。
なんてうらやましい職場環境。
「だから先刻の我が侭位なら無罪を主張します!」
「確定。無罪」
「やったー!」
さつきの主張に無罪判決を出します。
わたしたちの小芝居にユリカ大受け。
大人なお二人からは生暖かい視線を頂きました。
「悲しい。ついて行けません」
とこぼしたミュラ姫の呟きは内緒にします。
一息入れて我に返ったら心配事が。
「ここ、汚したら怒られるよね?」
キョロキョロと辺りを見回しつつユリアに訊ねる。
「へーきだよ?使う度に内装も装具も総取っ替えするから汚そうが壊そうがご自由に?」
本日最大級の爆弾でした。
「鹿乃子ちゃん。ここは王族とか皇族とかとっても偉い人が使うんだよ!そんな人たちが使う部屋に他人が使った家具なんて置けないんだよ!」
さつきの あんまりな説明に声も無く。
「そこまで極端じゃないわよ。セキュリティーの問題で色々交換やクリーニングや分解確認が必要になるだけだよ」
良かった。予備の家具やら絨毯やら、きちんとクリーニングして検査済みなものと入れ替えるんだそうです。外したものは整備クリーニングして予備に。天井、床、壁紙は全て貼り替え。
… それでもおおごとだよ!?受付嬢、慌てて当然だよ?
「そういったリスクを背負う必要がある人も居るって事だよ」
笑いながらカミーラが諭す。
「良い社会勉強になるでしょ?」
ユリアがウインクを一つ。妙に決まってるのが悔しい。
色々興奮も収まってきたので建物内部をふらふらすることに。
さつきを先頭に、みんなでぞろぞろと移動開始。
「ここがわたしのお仕事スペースです!」
最初に来たのは[総会長室]。
学園の教室より広いスペース、天井までの高さも五メートルを超えてます。
そして、部屋の一角が総ガラス張りの窓になっており、ガラスに繋ぎ目がないですよ?
そのガラスを背に馬鹿でかい机と椅子が一セット。
さつき。ここに座ったら存在感無くなっちゃうんじゃないかな?
「鹿乃子ちゃん!今とっても失礼なこと考えたでしょ!謝罪を要求します!」
鋭い!って、いつものことか。
「ここで何するの?書類にはんこ押したり?」
「お飾り総会長にそんな権限ありません!」
「メディア相手の会見とかですね…半分人気取り、半分は…お遊び?」
いつも何してるのかなーとか思ったんだけど、さつきとユリアからそんなお答えが。
「巨大企業グループの余裕を世間に見せつけるのです!」
ふんすっとさつきが力説。
「アイドル扱いしてほのぼのしたイメージ広めてるだけだよ?巨大化し過ぎちゃったから変な勘ぐり受けてもいやだし」
「放送される記者会見、いつもだいたいこんな感じですね。後で録画した映像ご覧になりますか?」
「さつきが風呂敷広げる。直ぐそれをユリアが畳む。でこぼこ漫才が結構人気」
ユリアの落ちに続けてかおりとルミがひどかった。 さつきちゃん涙目ですよ?ぷるぷるしちゃってますよ?
隣で指差しながら笑っているユリカを見てふと思い当たることが。
「ユリア、ユリア。これが秘書担当しちゃうと ぼけ×ぼけ で大惨事?」
こそっと隣を指差してみた。
「ザッツライッ!」
さつき、自分で肯定しちゃったよ。ビシッと指差しちゃってるよ。やれやれな表情のユリアがですね。
「次に行きますよ!次!」
さつきさん。強引だと思います。
「実はお仕事関係で見学出来るとこってそんなにないのよ」
歩きつつユリアが言う。
「今日は見学コース準備してないからね!実際の仕事場なんて修羅場過ぎてちょー危険!」
いや、そんな職場を朝からお騒がせしているんだよね?さつきさん。
「就任一週間でみんな慣れたからだいじょうぶ!」
それだいじょうぶ無いから。絶対違うから。
その後、仮眠室やら大会議室、中央演算室?さらに さつきが普段生活している部屋やら眺めつつ、ちょうどお昼に食堂へ到着。
社員の皆様も集まってきておりまして結構な盛況具合。あちらこちらから さつきとユリアに声が掛かっていますね。
食べるものを選んで席に戻るとなぜか大スクリーンが用意されておりまして。なにか嫌な予感が。
「お昼の放送時間となりました」
軽い音楽が流れた後そんなアナウンスが始まりまして、
「本日は総会長がお友達の見学会を開催されておりますのでその様子をお届けいたします」
と続いてピタリと固まる。ぎぎぎ、と音が出そうな動きでユリアを見れば
「さつきが居ると恒例行事なのよ。諦めて?」
さらっと流されました。ここ。この席。スクリーンの真ん前なんですけど?ちょっと?
部屋での遣り取りも含めて、ダイジェストで流れました。午前中の漫遊記が。
さすがに不穏当な台詞部分はカットされていたものの各場面で大ウケ状態。そのたびに手を振って答えるさつきが凄い。 皆さんお昼のひとときを楽しめた様子で何より。わたし以外はな。
「食べた気がしない」
現在食堂から拍手で見送られ、絶賛移動中。 逃走中とも言う。
「先に話しちゃうと嫌がるしー?」
それ慰めてないから。追い打ちって言うからな?ユリカ。
「ごめんごめん。危ない話題は振らない様に気をつけたし午前中だけだからゆるして。」
ユリアが謝るけど、他のみんなは?
「もう慣れた」
それはもう、深ーい溜息と共に。
慣れたくなかったけどな。という思いがダダ漏れなんですけど?カミーラ。
「あたしは、まだまだ慣れませんねぇ」
若干頬にほてりを残しつつお答えのミュラ姫。
かおりとルミは…肩をすくめて苦笑い。
就任からまだ1月半だったよね?それでこの惨状?みんなどれだけ引っ張り回されてるの?
「すぐなれるよ?」
慣れたくありません。
「はうー」
下からのぞき込んでくるユリカのおでこにペちんと一発。
おでこを押さえてうずくまる。
「また放送部が張り切っちゃうからやめて?」
「はーい。分かりましたー」
ユリアの一言で 敬礼しつつシャキーンと復活。
「ユリアちゃん。午後の部も撮ってもらお?」
何でこっちを見ながら質問するんだ?さつき しかも可愛らしく首をかしげながら…。ユリアもおんなじ格好でこっちを見るのヤメロ。ユリカまで乗っかるんじゃない。
「だめみたい」
「残念です!」
「ですー」
本当に慣れる日が来るのか。このカオス状態に。慣れるにしても、慣れないにしても。どちらも不安しかないです。
「あ、ちなみに警備室には録画残ってるからね?一年位」
膝から崩れ落ちるわたしがおります。
「ぷ…プライベートは?」
「さすがにそこまでは監視装置 付けませんよ」
震えながら質問すれば ユリアの答えに少し復活。
はっ。もしやあれか?突き落としておいて持ち上げる…
「ちがうから」
はい。……慣れてきている自分がいる?
「馴染んだな」
「若い子は馴染むのが早いですね」
カミーラとミュラ姫の背後からの話し声に愕然とする。
馴染んでませんよ?
「おなかま おなかま」
「えー?」
ユリカのお仲間発言に思わず反応。
「すっかり馴染んだな」
カミーラの声再び。爆笑する毛玉も誕生。かおりもルミも。肩をぷるぷるさせるんじゃない。
馴染んでないと思いたい。
十七日目後半へ、続きます




