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作者: 芝田 弦也

この時間ならまだ起きだすことはないだろう。

朝のしんと冷えた空気が眠気を少しだけどこかに飛ばしてくれる時間帯に、ひっそりと寝具から抜け出してまだ気持ちよさそうに寝入ってる貴方を眺めては、足音を立てないようにゆっくりとしたリズムで寝室を後にした。

光がなく暗いままだというのに電気を付けることなく居間に入り、昨日帰宅したままソファーにだらしなく掛けていたアウターを羽織る。薄暗くてぼんやりとした形しか認識出来ないけど、時期に目が慣れて見えてくることだろう。

ただ、物事がよく見えすぎる時間帯になるまえには動かないと駄目になる。


見えすぎてはきっと、周りに置いてある物達を見るたびに、今までの色んな思い出がひゅるっと蓋を開けては自分の意思を、行動を、抑止してしまうに違い無い。そして、か弱い私の心を止めさせるに違いない。

見ないように、見えないようにする為にも今しか無い。

荷造りして準備していたキャリーケースは、事前に予約していたホテルに預けておいたから身軽に動き出すことができる。後は、このアウターには不釣り合いな寝間着を着替えればいいだけなのに、それが出来ない。

だって、優しく包み込む温もりが人肌のように感じられて、閉じていた気持ちの蓋を緩々と開け放とうとしている。


意思は揺らいで揺らいで動きを抑止する。

一緒に選んだ、船乗りの舵を模った木枠の壁掛け時計がゆっくりと針を進めていく。

物の形を大分認識できる程まで目が慣れてしまい、眼下に入る様々な物達が、この家に来ることになったエピソードを私の頭の中に流し込んで来る。

一人で選んだもの、一緒に選んだもの。

お店でネットで、衝動買いだったり、時間をかけて考えたものだったり、色んな思いを込めて手に入れた物達が私に呼びかけてくる。その度に貴方が見せた表情が思い起こされる。

その中で一際輝いて見える、純真な光を放つたった一つの贈り物までもが私に問いかける。


蓋は開け放たれて、止めどなく思い出が溢れだして身動きが取れずにいた。

いつの間にか起き出してきた貴方にぎゅっと手を握られて、体を包むように温かい優しい熱が手先から体の奥底まで伝播するように伝わってくる。

そんなことされたら、私はまた囚われたままになってしまう。

思いが掌を通じて私に語りかけてきたから、身動き取れずにいた悲しみが逃げる様に両目から喉から、際限なく溢れてくる。体に溜まっていた澱が抜け切ったら、なんだか心が軽くなった気がした。

私はまだ、独りじゃないんだね。

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