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もう、本は捨てない  作者: まき乃
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プロローグ

 姉の部屋に時々、入ることがある。

 姉の部屋は姉が18の時から変わっていない。

 漫画やファッション雑誌、今時の雑貨類。そんなものは姉の部屋にはない。姉の部屋にあるのは、学校の教科書、自主的に買った何冊もの問題集。壁には目標が掲げられている。「3日間で英単語を100覚える」や「漢検2級に合格する」といったものや「日々、プラス思考で」といった精神論的なものもあった。

 受験生の模範といったところだ。

 ただひとつ、不自然な点があるとすれば、教科書や問題集の他に本が一冊もないことだった。受験生だから、ではない。昔からだ。それは、少なくとも私にとっては恐ろしいことだった。ある時点まで私は本のない空間では生きていけなかった。いつも、本を持っておかないと気持ちが落ち着かない。それは、教科書や問題集ではだめだった。だから、幼い頃、姉の部屋に入るのが苦痛だった。

 しかし、不思議なことに国語のテストや読書感想文で優秀な成績をとるのはいつも姉のほうだった。姉の読書感想文はわかりやすく、思わずその本を手に取りたくなるようなものだった。

「簡単なことよ」と姉は言った。

「読書感想文はね、法則なの。数学と変わらないよ。大人たちが喜ぶような法則を見つければいいの」

 それは何かと聞くと、理央ちゃんには教えない、と言った。その他にも姉は私に教えてくれないことがいくつかあった。友達のつくり方、親や先生に気にいられる方法、効率のいい勉強の仕方。それらの質問をはぐらかす時、姉はいつでも少し寂しそうな顔をした。 


 その顔は今でも脳裏に焼き付いて離れない。

 それら全てを秘密にしたまま姉は死んだ。

 高校の卒業式の前日だった。

 

 それから、私は、読書を、小説を書くことをやめた。


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