表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただひとつの愛を失う  作者: 有里 詩月
Story.1 聖女に××はいらない
2/2

エピローグ

かつて聖女と呼ばれた魔女は鍵をにぎりしめる。それは彼が死んでから彼女が抱いた想いの結晶。抗いきれぬ絶望の権化。


魔女は扉の前に立つ。今から彼女が為そうとしていることは禁忌で、世界の均衡を大いに揺るがすものだ。今まで紡がれてきた人の思いを踏みにじる行為だ。



それでも。と、魔女は唇を噛み締める。

それでも、耐えられないのだ。このまま彼がいない世界を紡いで欲しくなかった。



ただのエゴだった。世界の全てを賭けるには、あまりにも軽く、本来ならば天秤にかけることすら許されないちっぽけすぎるもの。だが、それを彼女は世界と引き換えにするほど思ってしまった。抱いてしまった。いまさら後に戻りたいと思わない。戻りたくてももう戻れないのだ。今から行う行為は過去に戻る訳ではなく、世界の改変なのだ。そこに正義などない。


魔女は迷いを断ち切るように顔を上げ、鍵を扉に差し込む。ゆっくりと右に回すとそれはカチリ、と鳴った。



「凄いな。まさか人間がこの扉を作るなんて考えてなかった。」


突然目の前に現れ、そう呟いた眉目秀麗な人物はきっと。


魔女は、はっ、と短く息を吸った。


「ただの人間ではありませんので。」


「なるほど、『神殺し』か。」


目の前の人物は可笑しそうにククッと喉を鳴らした。


「いいぜ。我が名は時の神、アレジシェンタ。お前の望みを聞こう。


『汝、何を求むる者か、汝をもって証明せよ』」


何年もかけて準備した言葉を魔女は紡ぐ。


「我、時を求めるものなり。求むものの鍵として我、セイ・アルタルテ・トゥルデドゥール・を定義する。」


時の神は意外そうに片眉を上げた。


「ほう、代償は。」


「私と、私に付随するものの全て。」


魔女が応えると神はフッと笑った。


「面白い。神であれば俺の女にしたものを。」


「お断り致します。」


「つれないな。いいだろう、叶えてやるよ、その望み。


『我、時を司る者なり。アレジシェンタの名において、世界の箍を外そう』」



そして、扉は淡く輝く。


「決して暴走するな。お前はもうどの世界にも属さない。」


時の神はそう言い残して去っていった。



魔女はきつく目をとじ、彼女の最愛を思った。もう二度と彼に会うことは叶わない。彼女の最愛である彼は、もうこの世界のどこにも存在せず、また、彼女がこれから訪れるどの世界にもいないのだ。それでも、せめて。救いたいと思うのは罪だろうか。




かつて聖女と呼ばれた魔女は、扉を開き、まばゆい光の中を進んだ。



二度と戻れない世界に愛を込めて、かつて聖女と呼ばれた魔女は嗤った。そしてその姿を背にパタンと扉は閉じた。






聖女と王子の世界が終わる。




 * * * *



Story.1 聖女に世界はいらない -了-


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ