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銀河鋼神アルスマグナ  作者: 謎埴輪
第一章:双子星に眠る陰謀
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5.出撃!!マグナイザー!!

何とか年内に間に合いました。

 マグヌム・オプスのブリッジに戻る道すがら、シンはミリアから定型通信と、それが使えない場合の対処法について聞いた。


「つまり……こっちから先に全周波数域通信(オープン回線)でメッセージを出せば、誤解を解く時間をもらえる、と?」


 シンの言葉に、ミリアは「その通りだ」とうなづく。

 方針が決まれば即行動。これはプレイヤー(創造主)から受け継いだ、シンの行動基準であった。


「わかった。ティンク、至急オープン回線で発信。内容は『当方に敵対の意思なし。距離をとって停止を求む』だ」


 二隻ともそれなりに大きな船ではあるが、幸運なことに侵入したエアロックの場所の都合で、艦のAI(ティンク)に指示を出したときには、もうブリッジは間近に迫っていた。

 もちろん救助した二人――アウローラ姫とタラッパも同行している。もっともお姫様はいまだ眠り姫のままだ。メイドはまだ目覚めない主人にヘルメットをかぶせ、肩に担いでシンたちに追従している。

 その姿がまさしくお米様抱っこだったので、シンは反射的に「それでいいの?」とツッコンだのだが、タラッパの返事は簡潔明瞭で「昔からこうです」というものだった。

 ブリッジに到着してすぐに、シンは艦長席へ、ミリアは操舵手席へ座る。


「タラッパさんはお姫様を連れて……そうだな……レーダー席へ。シートはそこが一番上等だ」


 タラッパはアウローラを担いだまま、「かしこまりました」という言葉と共に、レーダー席へ腰を下ろし、自身の膝に主人を座らせる。

 その間にも艦長の操舵手の急造コンビは、息のあった様子で情報を交換する。


「ミリア、お返事着たぞ。「Fu○kしてやるからケツを出せ」だと。海賊確定だな」

「シン。後方からさらに一隻。艦種軽巡。規模のでかい海賊だな」

「光学観測出るぞ。こちらの射程まであと五分……遠くない?」

「武装あるのか!? スマン、シン。大方一隻が先走って加速を始めたんだろう。だがこのままだと不利だ。アンカーのパージを」

「アンカーのパージはやだな。後でつなぎなおすのも……となると、仕方ない」


 相手の言葉尻にぎりぎりかぶさらない程度の、矢尽き早な報告の応酬。主にソフトウェア更新の際、アレコレやってる内に身についたのだが、その呼吸は十年来のコンビにも見える。恐らくそういう意味では、二人は『合っている』のだろう。

 最後に上がったミリアの提案を、わがままじみた言葉で却下したシンは、コンソールを操作した後、操舵席へ呼びかける。


「受け取れミリア」


 言葉と共に放り投げられたのは、正八角形のプレートだった。

 あわててプレートを受け取るミリアだったが、手にしたそれは、やや鎖が短めのペンダントだった。

 トップが少し大きめの、正八角形のペンダント。星を思わせる意匠の中央に、黒い石がはまっている。女性へのプレゼントとしては無骨さが否めないものの、元々カッコイイ系のミリアには、似合っているようにも思える。


「……こ……こういうのが嬉しくないわけではないが……その……時と場所を」


 手の中のものを確認したミリアは、状況も忘れて少しだけあわててしまった。

 少女時代こそ可憐な頃もあったが、軍の訓練所に入ってからは、浮いた話などかけらもない。

 訓練所を卒業して隊に配属されてからも、男性からのプレゼントなど、父親以外からもらったことも無いほどの堅物で通っている。

 もっともあの地獄の訓練所時代は、性差というのは生物学及び構造的な適正のみ考慮され、同じ結果を出せるよう男女の区別無く鍛え上げられたものだから、浮いた話など出せる暇さえなかったのだが。

 そんなところに突然、少なくとも嫌ってはいない男からの、不意打ちのプレゼントである。さらにいえば、今気づいたのだが、シンの胸にも同じようなものがある。

 何を意味するかというと、つまりはペアルックである。免疫や思考は仕事をさせる暇さえ与えられず、頬が熱を持つのをとめられない。


「何言ってんだ? それは艦載機用の認証デバイスだ。そこのシートに座ってトップを叩けば、コクピットまで運んでくれる」


 促されるままに視線を向けると、一段高い艦長席の左右と前に、コンソールも無いシートだけが見える。見ればそれぞれのシートの上には、「W」「D」「S」という文字が刻まれていた。


「マニュアル……あった。操舵手席(そっち)に表示した。機体特性だけでも流し読んでくれ」


 シンの否定の言葉と、あとに続く指示を聞いて、自身の勘違いに気づいたミリアは、別の意味で頬を赤くする。

 照れ隠しにシートを勢い良くまわし、マニュアルにかぶりつく彼女を尻目に、シンは艦長席の奥にあるもう一つのシートに飛び込み、シートベルトで自身を固定した。


「『W』か『D』だ。貸すから手伝ってくれ。なるべく早く来てくれよ。マグナイザー! GO!!」


 反論すら聞かずまくし立てた後、シンは胸のペンダントトップに、軽く拳をたたきつける。

 すると天井から突然レールのようなものが延び、それに導かれたシートごと、シンは天井に開いた穴へと飛び出していった。

 急に静まり返ったブリッジに残されたのは、「えっ? アレワタシも叫ぶの?」という表情をして、半ば呆然とシンを見送ったミリアだった。


「マニュアル、こちらにも表示されています。読了。発声は必要ないようです」


 メイドロイドの感情模倣AIが、いたたまれない空気を悟ったのだろうか。タラッパの声がブリッジにむなしく響く。

 どうやらシンは操作ミスで、レーダー手席にもマニュアルを表示したようだ。


「ありがとう! 多分今一番ほしい情報だった!」


 タラッパの声に我に返ったミリアは、ひたすら目の前のマニュアルを読み進めていくのだった。




 さて、ブリッジの天井に消えたシンだが、その体は現在、艦中央やや上側に位置するブリッジから艦尾方向へ向けて高速で移動していた。

 移動距離が短いとはいえ、三百メートルを超える艦内の移動は、どうしても十秒弱ほどはかかる。

 その間にシートの両側には、コントロールスティックのついたコンソールが追加され、足元にはフットペダルが設置されていた。


「う~ん……やっぱいいねえ。この発進シークエンすぶっ!!」


 高速で移動中のシートに、左右や下からパーツが追加され、少しずつコクピットシートへと変貌していく。

 プレイヤー(創造主)による俺ロボ選手権用のこだわりは、このように発進シークエンスにまで遺憾なく発揮されている。もちろんこれで強さが変わるわけでも、ロボそのもののかっこよさが変わるわけでもない。

 だがこういったこだわりこそが、究極の俺ロボに高い芸術点を獲得させ、正に無敵となるのである。

 もっとも、最後の減速の衝撃で舌を噛みそうになるとは、シン自身思いも寄らなかった。これでは減点である。


「え、A装備選択。各部チェックOK……」


 シンの操作に応えるように前に倒れたシートが、そのまま全高二十メートルの人型機動兵器マグナイザーの胸部へと吸い込まれ、コクピットのハッチが閉じる。

 同時に機体の両脇にあるハンガーから、ライフルが一挺現れ、機械の手がグリップを握る。


「カタパルト展開! マグナイザー、リフトアップ!!」


 万感の思いを込めてシンは叫ぶ。

 その叫びに呼応して、マグヌム・オプスの艦尾部分。後方に大きく張り出した推進器の中央部分から、リフトアップの言葉のままに、ハンガー兼ハッチと共に白を基調とした機体が起き上がった。

 さらにその動きに呼応して、機体の前方に淡く光る『枠』が浮かび上がる。

 昨今あまり使われないが、シールドやフォースネットの技術を応用した、VCヴァーチャルカタパルトである。

 なぜあまり使われないかというと、エネルギー効率の都合であり、なぜシンがこれを採用したかというと、もちろん見栄えがいいからである。


「カタパルト展開完了。マグナイザー、出る!!」


 フォースネットがデブリを捕まえる力を強い斥力にまで高め、曲面を多く採用したシルエットを一気に加速する。

 そしてついに、無限の宇宙空間へと、シンの、いやシンとプレイヤー(創造主)の魂の形とも言える、人型機動兵器マグナイザーが解き放たれたのだった。


「……機体名叫びすぎだよな。ちょっと考えるか」


 残念ながら、不満は尽きないようである。



-◆-◆-◆-



 エクスタリア星系において最近行われた、どこぞの大富豪が企画したという大掃除(海賊狩り)。多数の有象無象(バンディット)が参加し、多数の海賊(同業者)拿捕された(捕られた)撃沈された(殺られた)あの忌まわしいイベント。それをちょっとした幸運で回避した宇宙海賊がいた。

 それが、バルド=ダイナモンを首領とする、宇宙海賊ダイナモン一家である。

 彼らの幸運とは、容赦なく(勤勉に)奪いつくした(働いた)対価を用いて、軽巡洋艦クラスの船を手に入れるため、一時的にエクスタリアを離れたところで、大掃除が行われたというものだった。

 汎銀河ネットワークの恩恵を満足に受けられない犯罪者どもは、新たな戦力を加えて意気揚々と戻ってきたところで、同業者がまったく居ないことに気づき困惑した。

 加えていえばバンディットの影も見えず、それどころか連合宇宙軍(れんごー)のヤツらも見えない。

 不思議に思った彼らだったが、同業者もバンディットも連合宇宙軍もいないならば、イコール稼ぎ放題だという結論に達し、情報収集をかねてエクスタリア本星を遠巻きにして、要はびびってヘタレていた。

 これから少しずつ本星へ近づき、連中に見つかりにくいぎりぎりの場所を探す予定だったのだ。


「お頭ぁ、前に船だぜ。コイツぁ微速慣性航行中(ノロマのドン亀)だ」


 今回一番値の張った高性能レーダーが、その範囲内に獲物(宇宙船)を発見したことを告げる。

 それを艦長席へ告げるレーダー手の報告に対して、艦長――もちろんバルドは、青筋を浮かべて怒鳴り散らした。


「艦長様と呼べ馬鹿野郎!! ……コホン。で? 食い甲斐は? 連合宇宙軍(れんごー)じゃねえだろうな?」


 艦長からの問いに、レーダー主は下品な笑いを浮かべ親指を立てる。

 その仕草で「十分満足できる獲物だ」と確信し、バルドの口角が緩む。


「艦長様よお。通信来たぜ。船籍未登録船(名無しの権兵衛)だ。有象無象(バンディット)でも連合宇宙軍(れんごー)でも無え」


 続く報告は通信士からだ。報告ももちろんだが、そのいやらしい笑みが、おあつらえ向きの獲物であることを物語っていた。

 なぜなら船籍未登録の船ということは、沈めてしまえば「居なかったこと」になるし、いい船なら奪ってしまえば戦力の増強につながる。

 見つけた獲物が期待以上であることに、バルドは本格的に下品な笑みを浮かべ、勢い良く艦長席から立ち上がった。


「よし野郎共!! 新生ダイナモン一家の初仕事だ!! 奪いつくすぞ!!」


 景気良く叫ぶバルドに呼応して、ブリッジで歓声が巻き起こる。その歓声に紛れ、通信士が先行する戦闘艇に、獲物の位置情報とそれを襲うことを通達。三隻の高速戦闘艇が加速を始める。

 なお軽巡クラスの扱いに慣れていない旗艦は、少し後から加速することになった。

 これが、戦闘艇が先走った真相であり、軽巡が時間差で加速し始めた真相である。戦略なんてものを考えられる知能の持ち主は、彼らのような小規模海賊で終わらないか、そもそも海賊になどならないのだ。



 先行した三隻の戦闘艇が、それまでレーダーの光点でしかなかった獲物を、光学観測で捕らえた。

 旗艦から送られてきたデータによるとでかい一隻だったはずだが、光学観測で見ると、二隻が横付けしていることがわかる。

 戦闘艇隊一番艦艦長ザゴルがそのことを報告すると、バルドから「お宝が二つか」と返事が返ってきた。この考え方こそが、海賊である。


「ザゴル艇長!! なんか出てきたぞ!!」


 レーダー手からの報告に、ザゴルがメインモニターを見ると、どうやら綺麗な(上等な)ほうの獲物から艦載機が出たようで、なにかが高速でこちらに向かってくるのが見えた。

 旧式ゆえに倍率の低いモニターで、最大限に引き伸ばしてみると、その白を基調とした機体には、手と足と頭があった。


「……ぶっ……ぶひゃはははははは!!」


 次の瞬間、ザゴルの感情は爆発を抑えられなかった。よりにもよって人型兵器(お人形)である。

 扱いにくいだけで機動戦には向かない、精々が作業用ポッドくらいにしか使えない、手と足と頭を持った機械。しかもあちらはあれで()りあう気らしく、手に銃らしきものまで持っている。

 もちろん笑っているのは彼だけではない。戦闘艇のブリッジは、爆笑の渦に包まれていた。どいつもこいつも考えることは同じだということだ。

 そんな爆笑の渦の中、ザゴルは余計なことをひらめいた。そのひらめきに従い、全周波数域通信(オープン回線)を開く。そしてそのままの勢いで、通信機に向かって笑い混じりの声で叫んだ。


「よおパイロット(お人形遊び)! ここは幼稚園じゃねーぞぉ! ママんとこに帰りな!」


 艇長の言葉に、ブリッジを包んだ爆笑がさらに一段大きくなる。おかげで操作が甘くなり、後から来ていた二番艦に追い抜かれる始末。なるほど敵を笑わせて、判断力を奪うというならば、これ以上の兵器は無いだろう。

 なお、その笑いの代償を、すぐに支払うことになるとは、このときシン以外は誰も予想していなかった。

2020/02/16:メカのネーミングを変えたので一文字だけ修正しました。

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