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銀河鋼神アルスマグナ  作者: 謎埴輪
第一章:双子星に眠る陰謀
2/25

1.始まりの号砲と

なるべく週一で投稿といったな。あれは(ry

筆が予想以上に早く進んだため、前倒しで投稿しました。

 グランツィア恒星系最縁部、七番惑星グランツィア7のトロヤ群。その小惑星群を望む宙域に今、一隻の巨大戦艦が鎮座していた。

 この艦こそ、アルカデア神帝国の誇る玉艦三番艦アルカデアオブグローリーⅢである。全長三キロにも及ぶ威風堂々たる姿は、まさしく神帝の威光を余すところ無く示し、複数の随伴艦の存在すらかすむほど、漆黒の宇宙空間において、強い存在感を放っていた。

 玉座を有する艦として、玉艦の名を冠されたアルカデアオブグローリーⅢがこの宙域にいるのは、当然それなりの理由がある。ここグランツィア恒星系を含め、複数の惑星国家を力で併呑してきたアルカデア神帝国の、新たなる力のテストのためであった。

 特に昨今、銀河通商連合の台頭と、連合がメインスポンサーを務める連合宇宙軍の戦力増強。さらに連合の台頭を遠因とする、周辺惑星国家の軍備増強及び、軍事同盟締結による影響で、思うように版図を広げられないでいた帝国にとって、今回のテストは今後の帝国の行く末を左右するものといってもいいだろう。


「殿下。テスト準備完了しました。それでは今回の新兵器について……」


 玉艦のブリッジ。その最奥にある玉座に向け、初老の科学者が深く頭をたれ、恐らくは長ったらしくなるであろう講釈を始めようと面を上げる。

 だが、玉座に座る男が、それを片手で制した。この男こそアルカデア神帝国第三王子、エリクシア=ランデルフ=ヤヌス=ディア=アルカデアその人である。

 神帝である父や腹違いの兄である第一王子とは異なり、母方の特徴を強く受け継いだ、冷たさすら感じられる端正な顔立ちで、齢十八でありながら声変わりの兆候を見せない涼やかな声で、彼は口を開いた


「よい。新兵器については仕様書も、一次・二次テストの記録も目を通したゆえ、知っている。一つ難を言うならば……『空間爆裂弾』とは、少々盛りすぎではないか?」


 侍従にコンソールを操作させ、ブリッジのホロモニターに兵器のデータを表示させながら、エリクシアは呆れたように微笑む。

 モニターに映し出されたものを、色々と端折って要約すると、この『空間爆裂弾』と言う兵器は、次のようなものになる。

 空間とは常に安定しているものではなく、重力など様々なエネルギーによって歪むことがある。その歪みを人工的に、もはや撹拌と呼べるレベルまで歪ませた後、中心にエネルギーの負荷をかけながら一気に復元させると、広範囲に破壊を撒き散らす。

 惑星の重力場に干渉されない、新しいワープ航法の研究中に見つかった副産物ではあるが、この現象を兵器に転用することで、一次・二次テストでは半径十キロにわたり、そこに存在するあらゆるものを原子の塵に帰すほどであった。なお最終仕様書では、その十倍の範囲――半径百キロにわたり、抗いようも無い破壊をもたらす広範囲破壊兵器になるという。

 エリクシア本人が場を和ませようとしたかは不明だが、いささか私見の入ったツッコミを受けて、科学者は身をすくませるほどに恐縮し、頭を垂れた。


「殿下の仰せの通り、厳密に言えばこれは『空間撹拌弾』と呼ぶべき代物。しかしながら……恐れ多くも……その……バルキア殿下より御下命を賜り……」


 かなり言いにくそうに説明する科学者の声は、最後のほうで歯切れ悪く言いよどんでしまった。

 対するエリクシアは、最後に告げられた衝撃の真実に、薮蛇であることを察して困ったようにため息をついた。なぜならバルキアとは、第一王子の名であったからである。


「許せ。帝国軍最高司令官たる兄上の命ならば、これ以上は言うまい。では……直ちにテストを開始せよ!!」


 少し微妙になってしまった空気を今一度引き締めるため、エリクシアは玉座から立ち上がり、努めて尊大に見えるよう腕を振るう。

 それだけでブリッジの空気は一気に引き締まり、艦長より命令が下される。


「目標、小惑星軍内拿捕海賊船。空間爆裂弾、発射準備!!」


 艦長の号令以下、能力もさることながら、見目や声質にまでこだわりぬかれたオペレーター達が、シークエンスの進行を各部署と連携をとりながら、順に読み上げていく。


「空間爆裂弾、エネルギー充填開始。完了まで一分」

「各観測点へ配置のドローン、稼動チェック」

「目標拿捕海賊船。シールド、最大出力で展開……展開確認。現出力で十五分間、シールド展開可能」

「予想効果範囲再計測開始……完了。効果範囲内に友軍艦及び友軍機無し」

「空間爆裂弾、起動予定地点までの進路再確認……クリア」

「エネルギー充填完了、射出装置へ装填」

「観測ドローン最終チェック完了。メインモニターへ映像をリアルタイムで投影」

「照準補正開始……完了。最終安全装置解除」


 矢尽き早に上がってくる報告に、艦長は満足げにうなづき、背後の玉座を振り返り跪いた。


「殿下。トリガーをお預けいたします」


 艦長の畏まった言い回しに、エリクシアは鷹揚にうなづく。そして玉座より一歩進み出ると、タイミングを計って床よりせり出した、拳銃を模した装置に手をかけた。


「……では諸君。我らがアルカデア神帝国に更なる栄光を。空間爆裂弾、発射」


 この手の最終テストと言うものは、往々にして戦意高揚の茶番も兼ねていることが多い。そのことをしっかりと解っているエリクシアは、なるべく恭しくもったいぶった様子で、何の抵抗も無いはずの引き金をさも重そうに引いて見せた。

 実は操作自体、全て手元のコンソールでも、つい半日前までマンガを読んでいたタブレットでも操作はできるし、その操作すら全て座ったままでも寝ていてもできるようなものではある。

 だがこれがセレモニーである以上、エリクシアは空間爆裂弾の効果を確認するまで何物にも寄らず、しっかりと自分の足のみで立ち続ける必要がある。


「空間爆裂弾、射出確認。位置確認用ビーコン受信、動作正常」

「加速用ブースター点火……点火確認。起動予定地点到達まで、あと三分」


 セレモニーの進展を告げるオペレーターの歌うような美声に、エリクシアは表情筋を完全に固定したまま、胸中のみで呻く。

 できればさっさと終わってほしい。効果を確認し、艦長や科学者たちにお褒めの言葉はなまるいっとーしょーを授け、早く帰還の途につきたい。

 叶うならばさっさと自分の部屋に引きこもって、マンガの続きを読みたい。読むと言えばちょうど今日、銀河通商連合主催の医学会があるはずで、新しいレポートも出るはず。侍従長に土下座で頼み込んで、裏から手を回して手に入れてもらってるはず。非常に楽しみだ。

 そんなことをとりとめも無く(現実逃避に)考えている間にも、オペレーターの美声は続く。


「……起動予定地点まであと……十秒……」


 おっといかんとばかりに、エリクシアは顔を引き締めなおす。どうやら十数年かけて鍛え上げた表情筋は、見事に仕事をしてくれたらしい。もっとも誰もが手近なモニターと、自分の仕事に目を奪われていたため、彼を見るものなどいなかったが。


「……八、七、六、五……」


 オペレーターのカウントダウンは続く。だがそれももうすぐ終わるだろう。つまりエリクシアが、あのオペレーターの色っぽいうなじを見る理由も、権力以外はなくなるということだ。まさか王城において「氷の麗将」と噂される美貌の裏で、オペレーターのお姉さんの色っぽいうなじたんハァハァなどと思っているなど、幼いころからの侍従以外は知りもしないだろう。

 そしてついに、運命の瞬間が訪れた。


「……四、三、空間爆裂弾……起動!!」


 オペレーターのコールを契機に、モニターの中で空間が歪みだす。はじめは歪なレンズで移した風景のように、そしてすぐにめちゃくちゃに波打たせた水鏡のように、もはやそこにあるものがなにかすらわからないほどに、モニターの中の風景が歪んでいく。


「空間撹拌、順調に進行中。歪曲空間内の拿捕海賊船、最大出力でエンジン点火。座標の移動を確認できず」


 ツインテールと大山脈並みの胸部装甲が魅力的な別のオペレーターから、新しい報告が届く。なるほどこれなら、メインターゲットを逃がすことなく爆砕することができるだろう。父や第一王子が聞けば、狂喜乱舞するに違いない。もっともエリクシアにとっては、先のオペレーターが、元来可愛い系の声なのにも関わらず、お仕事モードで精一杯声を張っているところが可愛いと言うほうが重要だが。

 とにかく空間爆裂弾が実際に炸裂するまで、シークエンスはさらに続く。


「歪曲限界到達。炸裂まで十秒。対閃光フィルタオン、各員対ショック防御。……五、四、三……空間爆裂弾、炸裂!!」


 色っぽいうなじのお姉さんが告げた瞬間……何も起きなかった。

 いや、厳密には何も起きなかったわけではない。限界まで歪められ、めちゃくちゃに撹拌された空間が、さながら引き伸ばされたゴムの一方が手から離れたように、パチンと音を立てた錯覚さえ伴って元に戻った。漂う岩塊も、粉砕するはずだった拿捕海賊艦も、何もかもがテスト前の状態のままで。


「…………うん?」


 エリクシアは思わず素になってしまった。そりゃあそうだろう。空間ごと爆発すると言われていたところが、ただ空間が歪み戻っただけ。そのあとには何も起こらず、破壊の一切が行われていなかったのだから。

 彼にとっては正に拍子抜けである。思わず第三王子の仮面もはがれようと言うものだ。

 だが拍子抜けですまないものが、この場に二人いる。今回のテストを監督する艦長と、そして何よりこの空間爆裂弾を開発した科学者その人である。


「……な……な、な、な……ばかな……」


 特に科学者の焦燥ぶりはすさまじかった。それもそのはず、心血を注いで作り上げ、第一王子の横槍があったとはいえ、ドヤ顔で盛りに盛ったネーミングをした兵器が、それも実戦投入される制式採用仕様が、最終テストで失敗したのだから。

 対する艦長はといえば、無言で怒りに震えていた。こちらもそのはず、第三王子を招いて神帝国の栄光を示すはずが、このような結果に終わったのだから。

 科学者が泥を塗ったのは艦長の顔だけではない。アルカデア神帝国の威光そのものに泥を塗ったのだ。ならば彼の憤りっぷりも、理解ができるというところだ。

 さらに言えば、アルカデア神帝国は失敗にはあまり寛容なほうではない。研究室でならともかく、特にこういうセレモニーで、しかも皇族に恥をかかせる結果になった場合、物理的に首が飛ぶことなど割とよくある話である。

 故にエリクシアは、あわててもとの鉄面皮に表情を戻しつつも、内心でうぼぁ~と呻いた。苛烈な皇帝たる父と、苛烈な軍人である第一王子なら帰還後に、威張りたいだけの愚鈍である第二王子ならその場でと違いはあるものの、この科学者は間違いなく処刑されるだろうからである。

 とはいえ、高々新兵器の失敗くらいで処刑させたのでは、科学者など居付かないだろう。そこで何とかこの場を治めるため、必死で言葉を探した。


「よい。仕様が変われば不具合もでよう。何しろ我が帝国の栄光を体現する兵器である。簡単に作られては、帝国の栄光とはこの程度かと、周辺諸国にも侮られよう」


 正にこじつけである。もうめちゃくちゃである。まったくもって口からでまかせである。イキりフカしついでに、意識して不敵に見えるよう笑っても見せた。

 とはいえ内心では、こんなんじゃどうにもならないかもしれないと、戦々恐々の心臓バクバクである。


「はっ! エリクシア王子の寛大なるお言葉。このアロルド、正に感銘の極みにございます」


 エリクシアの言葉を唖然と言った様子で聞いていた艦長が、あわてた様子で跪く。ええ~あれで何とかなったんだ~との思いを決して表情にだけは出さず、第三王子の仮面を被ったマンガ&医学オタクのエロガキは、努めて鷹揚に見えるよう大げさにうなづいてみせる。

 見ればその寛大発言のおかげで命を救われた科学者は、ひたすら恐縮しついには平伏していた。


「では私は部屋に戻る。艦長、後を頼む」


 エリクシア王子万歳的な空気に耐えかね、彼はその身を翻した。玉座の裏にある、王族専用の部屋へ続く通路へ向かいながら、早速|マンガの続きに思いをはせる《現実逃避を始める》のだった。



-◆-◆-◆-



 とある雷雨の夜。東京近郊のとある場所で、風音かざね まことは、ひたすら自身の創った宇宙船のテストを行っていた。

 宇宙船といっても、実物を作ったのではない。彼はSFVRMMOフロンティアギャラクシーというゲームの中で、自分のキャラクターであるシン=カザネの中に入り、仮想空間において自身の宇宙船を建造していたのだ。

 ここでいうフロンティアギャラクシーとは、「銀河を駆ける壮大な日常をあなたに」をキャッチコピーとした、SFVRMMOである。

 戦場あとのジャンクから小型の輸送艇をくみ上げたプレイヤーキャラクターが、主に宇宙の何でも屋「バンディット」となって、広大な銀河を駆け巡りながら、戦闘・輸送・時には惑星の開拓まで、様々なミッションを通じて、大銀河時代の日常というものを楽しむゲームのタイトルである。

 あえて「主に」とつけたのは、プレイヤーは必ずしもバンディットになるわけではないからだ。銀河最速の運び屋となったプレイヤーも居るし、新しく開拓された惑星に降り立ち、大規模農場を運営しているプレイヤーも居る。

 売りの一つでもある開発システムの多彩さを生かし、ただただ強力な艦を作るものも居るし、なんと宇宙海賊になるものまで居るのだ。

 そんな好き勝手絶頂に遊べるゲームにおいて、真の操るキャラクターであるシン=カザネは、『人機連』というチームに所属している。

 人機連――正式名称を人型機動兵器愛好家連合というこのチームは、その名の通り人型機動兵器を作り、運用し、ゲーム内で成果を出すことを目的としたチームである。精巧な物理エンジンの影響で、人型機動兵器が不遇となっているこのゲームにおいて、それでも人型機動兵器を愛してやまない剛の者が集まっている。

 ここはチーム人機連の持つ、兵装テスト用のチーム占有宙域。他のジャンルのMMOでは、ギルドホームなどと呼ばれる空間である。


「うーっし、通常航行・兵装テスト終わり。みく☆るんさん、協力感謝です」


 シン=カザネは、自らのくみ上げた軽巡洋艦『マグヌム・オプス』のブリッジで、ホロモニターに映し出されたほかの女性キャラクターと会話をしていた。

 かなり根をつめて作業をしていたのだろう。仮想現実ゆえに強張る筋も無いのだが、気分的なものなのか大きく伸びをしながらである。


「どういたしましてフゥオンさん。ところでテストって、まだ続くの?」


 同じ人機連に所属するみく☆るんというプレイヤーは、満面の笑みでビシッ!とサムズアップを返したあと、なにやら探りを入れるように、薄笑いを浮かべて流し目を向けてきた。

 なおみく☆るんがシンのことを「フゥオン」と呼ぶ理由は、単純にシンが真の2ndキャラであり、1stキャラである『マコト=フゥオン』のほうが馴染んでいるからである。


「ですよー。本格的なお披露目は、『俺ロボ選手権』のときになりますけど。とりあえず今日はあと、真理機関(マギウス・エンジン)の起動テストの予定です」


 シンは手元のコンソールを操作しながら、少々ご機嫌な様子でみく☆るんの問いに答える。

 行程表を見る限り、予定よりも前倒しで進んでいるようで、それも上機嫌の理由のようだった。

 なお会話に出てきた『俺ロボ選手権』とは、このたび人機連で開催される、『俺の考えた超強カッコイイロボット選手権』の略で、自身に取れるあらゆる手段を用いて、最強かつ超カッコイイロボットを作るイベントのことである。


「マギウス……あー、Jマテで作ったやつでしょ? ってかこの艦、結構Jマテ使ってるよね?」


 みく☆るんはいぶかしげな表情の後、なにかに思い当たったのか大げさに手を打った。こういう表情がころころ変わる女性は、真にとっては見ていて飽きが来ないので好感が持てる。これで二児の母というのだから、まったく人機連は剛の者の集まるチームである。

 なおここでいう『Jマテ』とは、(ジョーク)-マテリアルの略である。ちょっとだけ面倒な、周回可能なミッションをクリアすることで手に入る、倉庫容量以外は取得制限の無いアイテムで、通常はまったく役に立たず金にもならない特殊なアイテムである。

 では何に使うのかといえば、ゲーム内で設定されている分類を選び、フレーバーテキストや数値、ものによっては外見を入力することで、ゲーム内の物理エンジンからある程度の制約を受けるものの、機関・兵器・エフェクトに至るまで、規定の体積の範囲内で設定したとおりのあらゆるものに変わってくれる代物である。

 もちろん弊害もある。J-マテリアルを組み込まれたものは、個人ないしチームの占有宙域内から出られなくなる。

 つまりは自分の庭で遊ぶ専用の、ご都合主義的アイテムなのである。もっとも同じようなものが公式で実装されると、J-マテリアルの部分を正規品に換装することで、外の宙域に出られるようにはなるのだが。


「まーそれについてはしゃーないっつーかなんつーか。『俺ロボ』にも結構使いましたし」


 チームの仲間からの問いに、シンは苦笑しながらも応える。

 もちろん『フゥオン』としても、通常の素材で作られた人型機動兵器は持っている。だが今回わざわざ2ndキャラを作ってまで『マグヌム・オプス』を作ったのは、もちろん『俺ロボ選手権』のためである。


「ですかー。まー博士はくしゅんさんたちには敵わないもんねー普通にやると」


 シンにつられてか、みく☆るんもモニターの中で苦笑を返す。

 博士ゅんは『人機連』の主要メンバーの一人で、ゲーム外でも人型ロボットを研究する、一線級の研究者で重度のロボオタクである。人機連にある人型機動兵器の中で、彼のアドバイスを受けなかったものは無いほどであり、チームのリーダーである『マグナムおっさん』、通称まぐっさんの親友であると聞いている。

 その彼が「今回は本気出す」と、参加表明のコメント欄に書き記した。となれば、Jマテてんこ盛りでもない限り、足元にも及ばないのは必定というヤツであろう。


「見ててくださいよ。勝ちに行きますよマジで。んじゃテスト行くんで、離れてくださーい」


 はーい、とあえて間の抜けた調子の返事を残し、みく☆るんの艦がマグヌム・オプスより離れていく。

 もちろんゲームだから数値的な辻褄さえあっていれば、テストで艦が爆散などということはありえないし、仮に強度計算をしくじって爆散したとしても、占有宙域内では二次被害が出るようなことはない。離れてもらったのは、主に気分的な問題である。


「では……行きます。……マギウス・エンジン! イ」


 そこで真の意識は一度途切れた。

 ………

 ……

 …


 次に目を覚ましたとき、真の視界には、VRシステムの待機画面が映っていた。

 何時の間にログアウトしたのか、意識が途切れたということは、恐らくVRシステムの安全装置が働いたということだろう。

 VRギアをはずすと、部屋は真っ暗になっていた。そして窓の外から、時折閃光が入り込んでくる。


「停電、したのか」


 状況を把握している間に回復したのか、部屋の明かりが戻ってくる。窓から外を眺め、ごろごろとぐずる空と、目立った変化の無い街並みを目にし、安堵のため息をつく。

 しかし、とベッドに置かれたVRギアを眺める。確かにVRギアには何重もの安全装置があり、その一つが電源が外部から内部に切り替わると、ログアウトを推奨する警告が出るものだということも知っている。

 だがいきなりログアウトすることなどありえない。もちろん内部電源が枯渇すると、強制シャットダウンがかかりログアウトすることにはなるのだが、今回起動した際の内部電源は百パーセントだった。それなら一時間は保つはずである。


「あっ! やべっ! みく☆るんさん!!」


 しかしながら、真にはそんな考察を何時までもしている暇は無かった。

 フレンドを置き去りにして突然ログアウト。しかもその際一言も無くである。心象は最悪。下手をすると嫌われて、フレンド登録を切られてもおかしくない。

 あわててVRギアを被りなおし、ベッドに横になる。普段なら気にする寝心地すら後回しにして、とにかく最速でVRギアを起動し、インストールされたゲームの中からフロンティアギャラクシーを選択。ログインを行う。


「……アレ? 2nd、消えてる」


 ログイン後のキャラ選択画面で、真は固まってしまった。

 俺ロボ選手権の開催が宣言されてからの三ヶ月、1stキャラであるフゥオンでのログインを控えてまで作ったシン=カザネのデータが無い。

 頭の中を疑問符が埋め尽くしたものの、今の真にはそこを掘り下げる時間はない。一刻も早くログインし、みく☆るんに謝罪をしなければならない。

 急いで1stキャラであるフゥオンを選択しログイン。早速自身の船を操作して、チームの占有宙域へワープを行った。



 なおワープ終了後すぐに土下座を敢行した結果、みく☆るんはフゥオンを快く許し、真はフレンドを失う危機を乗り切ることができた。

 しかしそのあとすぐに運営へキャラ消失の報告を行ったところ、数日後に受けた運営からの回答は、「サーバからもキャラと艦のデータが消えており、結果復旧は不可能」というものだった。

 自身の三ヶ月が無に帰したことを知った真は、発狂せんばかりに暴れた後、数日間完全な無気力状態に陥ったという。

(補足)

トロヤ群:ラグランジュポイントにある小惑星群のこと。

大体上記の理解で大丈夫です。詳細を知りたい方はWikiをご覧ください。

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