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銀河鋼神アルスマグナ  作者: 謎埴輪
第一章:双子星に眠る陰謀
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章前:バンディットの日常

初投稿です。よろしくお願いします。

 人が地球からあふれ、新たな住処を宇宙に求めて、気の遠くなるような歳月が流れた。

 ここは辺境の恒星系にある、アステロイドベルトの一角。一つの巨大な岩塊に、三人の人影が取り付いてなにやら作業を行っていた。


「まったく……地味ですわね」


 三人の内の一人、小柄な宇宙服の人影が、呼吸音に交じりにぶー垂れた。声は小鳥がさえずるような可憐なものだったが、ぶー垂れた内容のおかげで色々と台無しであった。

 この時代になると、宇宙服もふわふわもこもこしていない。ライダースーツのように身体に張り付いたそれは、つつましいながらもしっかりと主張する女性らしい曲線を描いている。ヘルメットのバイザーに隠れて顔は見えないが、声の様子からすると、十代後半ではないかと思われる。

 そんな少女らしき……もう少女と言い切っちゃおう。そんな少女が、全長1kmはあろうかという巨大な岩塊の表面で、片足だけをフックで固定したまま無重量の慣性にまかせてだらけていた。

 そう、先程三人の人影が作業を……といったが、実際に作業しているのは二人だけで、彼女は『なんにもしないをしていた』のであった。


「そういうなってアウラ。バンディットなんて、大体こんなもんだよ」


 ヘルメットのバイザーの下、苦笑を浮かべて少女に返した声は、若い男のものだった。

 彼は岩塊の表面に小さな機械を置き、その傍らでタブレットを操作している。自身でアウラと呼んだ少女が何もしていないのは想定内なのか、彼女のほうを見もせずに作業を続けていた。


「解ってますわシン。私が取ってきた仕事ですもの。でもなんかこー……そう、刺激! 刺激が足りないのですわ!」


 だらけた姿勢から勢い良く男に向き直り、アウラは両手を拳に握ってまで力説するのだが、シンと呼ばれた男の反応は冷たかった。


「……ったく、あれだけ刺激に満ちた体験しといて、まだ足りないのかよ?」


 一際大きな呼吸音が響く。これはため息なのだろう。シンは呆れたような声を出しながら、アウラに向き直る。タブレットはなにやら音を出し続けているので、作業は一通り終わり、後は待つだけになったのだろう。

 男の言葉になにか心当たりでもあるのか、先程までいきまいていたはずの少女の声は、裏を返したようにしぼんでいく。


「……あの時はほら……当事者でしたし……。それよりも!」


 身体ごとしぼみそうな勢いでへこんでいったアウラだったが、最後の最後に勢いを取り戻したようで、両手を身体の前でそろえてぞいっとばかりにぐーを握る。

 そのテンションの乱高下を目の当たりにしたシンは、そのあとに続くだろう言葉に不安を感じ、逃避のためかタブレットに視線を戻した。


「この岩を砕くのでしたのよね? なら『D』でえいっ! ってやれば、一瞬じゃありませんこと?」


 さも名案をひらめいた!とばかりに、アウラは胸を張る。ご丁寧に、えいっとゆるいチョップまで、サービス精神旺盛に繰り出す始末だ。

 頭の先からつま先まで、たおやかで清楚なオンナノコが繰り出すチョップは、まったく破壊力を感じない。恐らく木綿豆腐もつぶせないだろう。

 だが、そのやわらかく、ともすればなにかいいにおいまでかもし出すような所作で放たれたチョップは、しっかり別の意味の破壊力を持っていた。


「却下。アレ動かすよりネスト支給の爆薬で割ったほうが格安で安全。それに『UMC』でもあれば、ひどいことになるぞ。……っと、終わりか」


 対するシンの反応は冷たかった。そのもえきゅんなチョップを一瞥もせず、手元のタブレットに映し出された表示を眺めていた。

 ここで言う『UMC』とは、反物質精製触媒の事を指し、埋蔵時点では主原料だが便宜上同一の呼び方をする。この物質の合成法確立こそが、銀河に広く人類を送り出した、力の源となった。

 そしていまさらな話だが、彼らが行っているのは、この岩塊の埋蔵資源調査と、UMCが含まれていなければ割って小さくすることである。

 あまり大きすぎると、万一何らかの理由でステーション(宇宙港)など人のいる場所へ近づいたとき、力場の網(フォースネット)で捕まえる際の負荷が大きすぎ、システムダウンを招きかねない。万一そうなれば、大惨事となってしまうのだ。

 なおUMCが含まれている場合、マーカーをつけておけば、後ほど依頼主が採掘に来る手はずになっている。


「……よし、UMC反応なし。アウラ、タラッパに指示出し頼む。トリガーは無線、セット後合流して帰投準備」


 一通り表示を確認した後、岩塊を砕いても問題ないことを確認したシンは、足元に置かれたこぶし大の装置を拾い上げながら、アウラに指示を出す。

 指示を受けたアウラはと言えば、諦めたように頭を振り、小さくため息をついた。


「……ふぅ……解ってました、解ってましたわそんなことくらい。言ってみただけですもの。タラッパ、シンの指示は聞こえてたでしょう? そのようになさい」


 アウラの指示が飛んだ数秒後、近くに開いた穴の中から、人影が飛び出した。

 その人影は奇妙にも、足先まで隠すメイド服に身を包んでいた。宇宙服型メイド服でもなく、メイド服型宇宙服でもなく、正真正銘のメイド服である。

 当然ヘルメットも被っておらず、柔和に整い銀色に光る顔もむき出しである。だがタラッパと呼ばれたメイドに命の危険は無い。

 なぜなら彼女は、リキッドメタルで自身を構成する、特殊なアンドロイド――メイドロイドだからである。


「セット及び合流、完了しましたアウラお嬢様。帰投準備に入ります、お手を」

「ありがとうタラッパ。頼みますわね」


 感情模倣AIによってつけられた、人間以上に流麗な発音と所作で差し出されたタラッパのエスコートを、フックから脚を離したアウラがゆったりと受ける。

 あとはお米様抱っこに抱えられたアウラを見送り、自身も帰投するだけであったのだが、そこに別の通信が割り込んできた。


「こちらリタ。所属不明艦補足、数三。艦種駆逐……かな? 何時までもいちゃいちゃしてないで、タラッパつれて早く戻ってねー」


 報告は蓮っ葉な調子の、若い女性の声だった。リタと名乗った女性の報告は剣呑なものだったが、その口調はあくまでも軽く、緊急事態のはずだがまったく危機を感じさせない。

 だが報告の後に続く言葉は、主にアウラに別の危機をもたらしたようで、タラッパにお米様抱っこに抱えられたまま、手足をばたつかせた。


「いいいいいいいいちゃいちゃなんかしてませんわよ!? してませんわよねえ? シン!?」

「お嬢様。暴れないでください」


 何とかリタの言葉を否定しようと暴れるアウラではあったが、メイドロイドのパワーに勝てる道理もない。すぐに押さえ込まれて、まるで借りてきた猫のように、だらーんとぶら下がるしかできなくなった。

 その様子を眺めていたシンは、小さくため息をつくしかできなかった。こういう追求に対しては、否定しても肯定してもあとが面倒なことになるのは、経験済みだからである。


「なんでもいいがシン、こちらでも補足している。定型通信反応なし。交戦許可を」


 さらに割り込んでくる別の通信。ハスキーボイスのこれもまた女性の声だった。普段よりも温度の低い声色に、シンは思わす眉根を寄せた。

 ここで言う定型通信とは、人間にはわからない短文の暗号文を互いに送りあい、自分達が真っ当であると証明しあうための通信のことを言う。

 それぞれが持つ船籍登録証に組み込まれたユニークな暗号方式で交信するため、「これに答えられないヤツは海賊」と言い切ってもいいほどの正確性をもつ。

 当然海賊もこれを悪用することくらいは考えるのだが、銀河に張り巡らされた汎銀河ネットワークの活躍もあり、今のところ有効に働いている。


「交戦を許可。ミリア、援護は……」

「問題ない。交戦『予定』時間は百八十秒。以上通信終わり」


 シンの言葉をさえぎって、ミリアと呼ばれた女性の言葉は一方的に吐き捨てられる。それは「三分でカタをつける」と言う宣言でもあった。

 普段はもう少し慎重なはずの彼女の声に、『なぜか』不機嫌なことを察したシンは、それ以上反応することなく、頭上を見上げた。

 そこには、矢も盾もたまらずといった様子で飛び出していく、一機の大型航宙戦闘機の姿があった。




 バンディット。それは、第二次銀河開拓時代の末期に生まれた、宇宙海賊狩り――バンディットバスターより転じた、宇宙の何でも屋のことを指す。

 複数の惑星国家が乱立し、自力で十分な軍隊を常備できない惑星国家にとって、彼らバンディットの存在は有用であり、日夜大小さまざまな依頼を受け、銀河を駆け巡る。

 余談であるが、「なぜ宇宙海賊狩りなのにパイレーツバスターでない?」とか、「なぜバンディットを残した。バスターじゃダメか」という疑問は、銀河の多くの人が持つ疑問であり、その答えは銀河に残る不思議の一つである。

※サブタイの「◆」がうるさく感じたので修正しました※

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