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決着の決塔  作者: 旗海双
第5章
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第三話「Q『エクスクル』」

          


               【LAST STAGE】 Q『Exclu』


                  戦 闘 開 始


 かつて鏡夜は有口聖に聞いたことがある。闘志を炎にする祝福はオーソドックスなものだと。しかし、鏡夜たちを取り巻く炎は、あまりにも巨大であり、そして奇怪だった。

 燃えている……燃えている、そのはずなのに、吹雪のようにも見えるのだ。

 その炎が迫ってくる。鏡夜はそれを《鏡現》で防ごうとして――その《鏡現》が、燃えて消えたのだ。

「な、に……!」

 鏡夜は猛烈な勢いで炎を避ける。ブゥォンと過ぎ去った炎の後には、《鏡現》の鏡があった痕跡すらなかった。

「その炎は俺の闘志だ。もちろんそうだとも。ただちょいと他の奴と違ってな――それに飲まれたものは、ぜんぶ燃えて溶けるんだよ」

『エクスクル』が操る祝福は、闘志を炎に変える祝福だ。制約は闘志を折らないこと。

 しかし、疑問に思わなかっただろうか。闘志とは何か、と。


 ……クオリアという概念がある。彼あるいは彼女が見ている赤と自分が見ている赤は果たして同じ色なのか。主観にしか存在しない物は、同じか違うかもわからない。

 彼の闘志とは、その他大勢の闘志とは違う。

 彼は冷めている。彼は冷笑している。

 彼は情熱的だ。彼の血潮は燃え上がっている。

 それと同時に絶望と失望で凍り付いている。

 彼の闘志は矛盾したまま闘志として存在している。―――彼が燃やす炎は、灼熱の氷であり、氷結の火なのだ。その矛盾と混沌の炎は燃えながら凍り付いており、故に全てを燃やし溶かす。

 聖女ミリア・メビウスが操るもう一人の自分を操る祝福は、その自負心の強烈さゆえに、正統的に最強の領域まで至っていた。


 だが彼は――Q『エクスクル』は正道と邪道と外道とあるいは王道もしくは詭道、全てごちゃごちゃに分裂して統一して闘志として燃え上がりながら凍り付いている。

 きっと神さえも予測していなかっただろう。身体を持った生き物の心とは複雑であり、その複雑さゆえに祝福が神様すらも超えてしまうことなど。

 彼の炎は全てを燃やす。燃やした上で吸収する。吸収した上でそれを矛盾と分裂の闘志に混ぜ込んでさらに燃やす。

「燃やしたものは全て俺の役どころになる。 最終決戦にしちゃ、ちと小道具が足りないかもしれないが……もはや、勇者(しゅやく)は俺で魔王(ボス)は俺で聖女(ラスボス)は俺で仲間(パーティ)も俺だ。……一人芝居でも充分だろ?」

 鏡夜の紅瞳に映る弱点は【味方すること】【助けること】。弱点として矛盾している。英雄でありながら黒幕でもある久竜晴水の本質。複雑かつ分裂した人間性を、鏡夜は戦って初めて理解した。

「灼熱の、氷……いや、氷結の炎……!? 矛盾と混沌が、そのままに燃えているんですか……!?」

「わかるのか! わかってしまうのか! 本当に不都合だな! 本当に忌々しいな! 馬鹿が夢見るヒーローのごときだ! だがなァ! もう遅いんだよ!! お前の才能ってやつを全部燃やし尽くして放逐してやるッ……!!」

 氷の炎という絶対的な矛盾を成立させている。理解不能の破綻した理屈が、最上階層【頂上】を満たしていた。

 間違いなく、ここは地獄と化していた。

 矛盾する炎、Q『エクスクル』は、文字通り、無敵だった。



「人間を語るに足る個人などこの世のどこにもいやしねぇ。世界を語るに足る人外など、この世のどこにもいやしねぇ。どんな美麗字句で飾ろうが、理想というのは傲慢だ」

 燃える、凍る、あるいはそのどれでもない何かが迫る。鏡夜は、地面に《鏡現》を作り出して、足場にした。

「皆さん! 私が足場を作るので――! 移動し続けてください」

 鏡夜は矛盾する炎から逃れるように《鏡現》を上へ上へと広げていく。仲間たちはそこに飛び乗って走って移動していく。

 炎に飲み込まれたら、一瞬でゲームオーバーだ。

「全ての革命家は一人よがりだ。それは、灰原鏡夜も変わらない。だからお前ら敵対したんだろ。変わらない日常ってやつを愛してやれよ。今からでも遅くない。その魔人を落とせ」

 華澄は鏡の坂道を駆けあがりながら不敵に告げる。

「もうわたくしたちは決着をつけましたわ! ありがとうございますの! わたくし、認められましたわ、鏡夜さんが――いえ、桃音さんも、かぐやさんも、バレッタもいる、この一週間程度の日々が、もはやわたくしの、求めている日常なのだと!」

 桃音は冗談のように斜めった《鏡現》を蹴り飛ばして空中機動を行いながら、懐から本を取り出すと、思いっきり『エクスクル』に投げた。その本は炎に巻かれて消える。

「……」

 バレッタはぐるぐるとステップターンを切り返しながら、機関銃を振り回している。

「くすくす、全ては我が主のために。それに、個体として、意外とお似合いだと思っております。くすくす」

 かぐやは地獄と見まごう中、踊るように軽やかに歩きながらビームを『エクスクル』に照射し続けている。

「あなた、馬鹿なのね。我が君が幸せになることを望まない人形なんて、一体もいないのよ!」

『エクスクル』の右目の業火は激しく燃え散っている。残った左目と業火に、鏡夜は睨みつけられる。。

「灰原鏡夜―――お前の感傷は、世界よりも重いのか?」

 〈Q‐z〉――――Q『エクスクル』の慟哭はまさにそれ――――千年の終わりを、カーテンコールを無限に引き延ばす。次の幕など存在しない。舞台で永遠に手を振り続けよう。

 ――――――終わりの挨拶は、終わらない。

 壊れるまで続ける停滞の祝福、彼を超えなければ、次の時代は訪れない。

 遅延戦術と呼ぶには狂気に支配され過ぎている―――しかし、それが彼なのだ。


 なるほど、この時代の、言葉にすらならなかった、サイレントマジョリティーの代弁者。


(うるせぇ)


 時代の節目の番人たる彼に応え、打倒しなければ、願いを叶える資格はないと。


(うるせぇ)


 そもそもの話、今まで踏み越えていた多くの人たちが何を思い、何を願っているかも、鏡夜は深くは知らない。知ろうともしなかった。そして、多くの人々、人外が固唾をのんで戦っている自分たちの姿を見ている。異世界の責任が今まさに降りかかって――。



(うるッせぇッ!!!)



「やっかましい!!!! どいつもこいつもぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃッ!! 決着ってのはなァ!! テメェがつけるもんだろうが!!!! 世界がなんだッ! 時代がなんだッ! 契約がなんだッ!? テメェがいない決まり事突きつけて、何が決着するってんだァッ!!」

 本当に怒っていた。今まで溜まっていたあらゆる鬱屈と苦悩を完全に出し切るがごとく、喉が枯れるほどに叫ぶ。

「いいから来いよッ!!! 誰かも時代も関係ねぇッ! これは、呪詛と祝福と……俺とお前の決着だろうがッ! ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねぇッ!!」

 そして歯を噛みしめて、口角を吊り上げる。舐められるな、その金言すら超えた感情の発露。絶対負けてたまるか、という至極当然の情動が、一気に鏡夜のボルテージを引き上げた。

「――それとも、決着をつけるのが、怖いのですか?」

『エクスクル』は今までにない鏡夜の啖呵に飲まれたような、驚いた表情をして。そして笑った。

「は、ははははは。……ああ、そうだな、世界の決着をつけるのは、怖い。だから」

『エクスクル』の両腕両足に矛盾と混沌の炎が纏わり付く。鏡夜が全身灰銀の装備に纏わり憑かれるように。

「世界の決着をつけないために、お前と決着をつけてやる」

 そして『エクスクル』右目の業火が赤く青く、両立しない色彩に染まった。



『エクスクル』は爆速で空を飛んで移動する。その四肢を振るうごとに凍り付くような猛火が襲い掛かる。

「世界を変えようとする革命家の敵は悪ではない。過去ではない。。愚かさではない。今この世界こそ美しいと空を見上げて目を細める、人の心―――いや、俺の心だ!! 行くぞくそったれども、お前たちが怖くてたまらないから、燃やし尽くしてやる!」



 上下左右、三百六十度、矛盾する炎が満ちる空間。まっすぐに襲い掛かってくる『エクスクル』へ、鏡夜もまた飛び掛かった。

 避ける先、逃げる先、そんなものはありはしない。だから前へ、前へ。


 鏡夜は矛盾する炎使い、『エクスクル』をその拳で殴りつけた。彼の手袋は生き物全てに必殺の状態異常付与能力がある。触れれば勝てる。

 だが、それは甘い考えだった。鏡夜の拳は一瞬して燃え上がる/凍り付く。


 一瞬にして、拳の感覚がなくなった。これはまずい、と鏡夜はもう片方の手を使って、『エクスクル』を押す。殴るというよりも距離を離すために弾いたのだ。その対価として残った拳も矛盾と混沌の炎に飲み込まれて消える。


 距離が離れたので、鏡夜は《鏡現》の足場を作ろうとして、自分に鏡を操る能力が消失したことに気づいた。

 両手を見る。素手があった。素手の両手があった。

(呪いが……外れた……!)

 鏡夜の鏡を操る能力は呪詛の限界値を超えたことで発生しえた、極北のプラスアルファだ。呪いの装備が一つ減った以上、その、理論値の先にある理不尽は消えてなくなる。


 鏡夜と仲間たちは《鏡現》の足場を失って、皆一様に下へと落下していった。床、塔の頂上は、全てが燃えている。ここに落ちれば、『エクスクル』の矛盾の炎に飲み込まれて消えるだろう。


「は、ははは! 勝った! これでお前たちの能力を燃やして、外に放り出せば、最高の遅延になる! もはや、、勇者(しゅやく)は俺で魔王(ボス)は俺で聖女(ラスボス)は俺で仲間(パーティ)も俺だ。世界は俺の一人芝居だ!!」


 灰原鏡夜は笑っている。


「貴方の失敗は一つだけです。貴方の障害(クイズ)を解いた私達を、貴方はまだ吸収していない。そう、残ってるじゃないですか――宿敵(ライバル)が」


 例えば、これが桃音や華澄と決着をつける前の鏡夜だったのならば。いらない能力をなくした上で自由にしてくれるという『エクスクル』に屈服していただろう。


 例えば、これが老龍や『フィナーレ』と戦う前だったのらば、冒険のなんたるかもわからないまま、このまま重力に負けて『エクスクル』に敗北していただろう。



 だが、その難問は、全て駆け抜けて解いたのだ。


 灰原鏡夜はバレッタのバズーカに撃たれて、桃音の方向へ飛ばされる。吹っ飛ばされて桃音と接触した鏡夜は、彼女の手を借りて、上空へとぶん投げられる。

『エクスクル』はビームすらも燃やす無敵の炎だ。しかし、無敵なのは炎だけである。かぐやは『エクスクル』の目に映る視覚を光の操作によって作り変える。

 鏡などなくても、無数の鏡夜をそこに作り出す。

「馬鹿が!」

『エクスクル』は視界に映る無数の鏡夜を全て燃やす、炎の波を放射する。

「JACKPOT! ……ですわっ!」

「ガッ……!?」

 上空に見えてるたくさんの鏡夜を燃やした『エクスクル』。その際に生まれたわずかな炎の隙間を縫うように。

 華澄が狙撃銃で、『エクスクル』の残った左目を撃ち抜いた。



「ひとつ質問なのですが――――」

 鏡夜の声がした。『エクスクル』は炎が漏れ出る右目と血の涙が漏れ出れる左目を見開いて、上空を見る。

「俺の頭上ぴったりに打ち上げたのか!? ……お前、お前らァッ!」

「これで決着はつきましたか?」

『エクスクル』の顔面を思いっきり踏みつけて、落下する鏡夜。そのまま垂直に落下して、彼を地面に叩きつけた。



              【LAST STAGE】 Q『Exclu』


                   Clear!



 床には大きな亀裂が走り、『エクスクル』の頭部は完全にへこんでいる。致命傷判定で外に飛ばされるのは時間の問題だ。

「アクション! リテイクだッ!!!!!」

 しかし、敗北した『エクスクル』は声を張り上げる。

「燃やせ、燃やせ、燃やせッ! 燃え尽きろ! 燃え落ちろ!! 俺の闘志は、折れてねェッ!」

 鏡夜の足元から炎が噴き上がる。

「これは、違う……?」

 熱さと寒さが一緒くたに襲ってきたような、自分の足場どころか存在が不安定になるような炎ではない。

 これは、これは明確な意図のある――。

「ハ! 燃えてるから炎使いかと思ったか? 燃えてるから熱血だと思ったか? ちげぇよ。混沌の中には全てがある。矛盾するということは、全てがあるということだ。闘志に糸目をつけなきゃ――俺は【全部】だ。【全て】だ。【なんでもできる】! んでもって俺は―――――――――――どちらかと言えば冷めてる方さ」

 決着の塔、頂上は、あらゆる全てを飲み込むがごとくの爆炎に包まれた。


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