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決着の決塔  作者: 旗海双
第4章
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第七話「沈黙少女」

【EXTRA STAGE】 Silent Girl『Momone』

 

戦 闘 開 始



 鏡夜は《鏡現》を一切使わず、その五体のみで桃音と闘う。

 手の平で触って状態異常にして勝利という黄金パターンを成立させようとしても、あと一歩のところで弾かれる。

 腕を伸ばせは肘の当たりを絡めとられて容赦なく関節を逆方向に捻られる。驚くほど軽い音がして骨が折れた。


 本当にこの沈黙少女は容赦がない。


 骨を折られてようやく理解するが、やっぱり鏡夜は桃音に勝てない。《鏡現》を封印しているならなおさらだ。

 ならなんで封印しているんだって話だが、それには考えがあるのでいったんまずは置いておく。

 置いた上で、勝ち筋を探す。


 というかもうはっきり言うが、目の前のこの、なんの自己主張もない、。文学女性は動機も理由も根拠も行動も性格も考え方も展望も、そして目の前の男をどう思っているかもさっぱりだった。

 そりゃそうだ。何かを伝えない人間が理解されるなど道理に反している。不語桃音もそれを理解しているだろう。

 だが今回は動いた。動いて鏡夜に敵対している。

 誰かに流された。誰かに誘導された。それもあるだろう。だがもっと根源的な、本質的な話をすれば。その切っ掛けは灰原鏡夜だ。



 変えたのは灰原鏡夜だ。白百合華澄と同じように。あるいは鏡夜が出会った全ての人と同じように。一番最初に彼女を変えた。


 不語桃音という存在は理解不能だ。しかして彼女は生きている人間であり、その足跡が必ず残る。力ある超人が起こしてきた出来事を洗い出せば、気づくことが一つある。


 彼女は必ず相手の流儀に乗っ取る。灰原鏡夜がかつて手合わせを望んだ時、彼女はその五体のみで相対した。恐るべき鉄の塊クエスト『カーテンコール』を相手に、桃音は機動力で挑戦した。相手の分野を凌駕する。おそらくそれが沈黙する彼女の流儀なのだ。

 そんな考えで、鏡夜はかつてのように五体のみで挑んだ。かつて勝った――という表現も不正確だが、少なくとも戦闘不能にした経験からだ。

 鏡夜は外からただ眺めていた輩ではない。彼女の常軌を逸した多趣味さを知っている。頭ではなく心での理解だ。こいつは常軌を逸した多趣味であり――そしてそれ以上に、常軌を逸して多彩だ。


 “なんでもありだと負ける。”


 そうだ。だから鏡夜は五体のみで戦う。


 捨て身で踏み込んで蹴りを入れようとしたが、その足を掴まれて、思いっきり降りまわせて地面に叩きつけられた。

 しかし、鏡夜は沈黙を貫く。言うべき台詞は他にある。だから今は沈黙する。身体を捻って、桃音から掴まれた状態から離脱する。気合を入れて地面に両腕をついで跳ね上がるように起き上がって不敵に構える。

 そしてちょいちょい、とかかってくるようにジェスチャーをした。


 力に溺れるティーンエイジャー。自分なら当然勝てると、そう考えるのは格好良くない。そんな考え方をしていたら、きっとここまでたどり着けなかった。そしてここまでたどり着いたとしても、泣きわめいて話が終わっていた。


 そうだ、そうだ。格好良さが彼女の弱点である以上―――格好つけて格好つけて格好つけて。


 命を賭けて傾く。それが彼女の唯一の弱点だ。


(なんだ、やること変わらねぇじゃねぇか)


 その証拠に、一瞬だけ桃音が揺れた。間違っていない。最初から今まできっと間違ってない。

 なんだか実に馬鹿げた気分だ。

「こんなに誇らしい気分になったのは生まれて初めてです。貴女がこんなに私に敵対するのは、私が憎いからではなく、私を――好きだからなんですよね。ああ、誇らしい」

 桃音の動きが鈍っていく。意地と虚勢を張っているわけではない。本心からの言葉だった。カッコつけるという男の業と自分の本心が一緒になって、勝手に口から台詞が紡がれていく。もしかしたら極度の連戦で、理性のタガが外れてしまったのかもしれない。

「私って、なんて素敵な人なんでしょう! そう思えるのも、皆さんの――貴女のおかげです! あなたほどの美しい人に好かれるなんて――!」

 言葉がいらないわけがない。多くを語らないことは間違いなく美徳だが、まったく語らないことはなんにもならない。だから確実に言葉を発するべきだろう。言葉で解決するべきなのだろう。きっとこれはそんな簡単な話だった。そんな簡単なことを理解するために、こんなに戦い続ける必要があったのだ。

 鏡夜はそこまで考えて――――桃音の両手を握りながら肩を竦めた。

「私は貴女に勝った。私は格好良いですか?」

 桃音は状態異常にかかってぼーっとした表情で彼を見つめている。


 ごちゃごちゃ考えたがわかりあえるとか通じ合うとか、桃音と自分には不適合だ。自分にできるのは勝手に解釈することと弱点につけこむことだけだ。

 そして――不語桃音に花が咲いたと解釈できたのなら、やっぱり間違ってはいないのだろう。



 積み重ねてきた負債の清算ができたと確信した鏡夜は、そのままぶっ倒れた。



(すっきり……した、ぜ……)



【EXTRA STAGE】 Silent Girl『Momone』



 Clear!



 決着の塔最上階。中の全てのダンジョンを踏破することでしかたどり着けぬ最後の異相空間。

 久竜晴水はラスボスであるはじまりの勇者と魔王の残骸を踏みつけながら空を見上げていた。

「―――世界だぞ」

 おどろおどろしい声だった。

「世界全てに敵視されたんだぞ。なのに、こんなに速いのか。化け物め。魔人め。外道め。悪鬼め。怪物め」

 久竜は空を見上げたまま険しい表情を浮かべている。

「あの忌々しい、灰原鏡夜め。――計画が前倒しも前倒しだ。これで容易く折れたら許さないからな。世界の命運があいつの心一つになってしまうのは望むところじゃない。せめて世界中の人間にダンジョンの挑戦権を発行するところまで待てよ。―――――この時代が短くなるだろうが!」

 キー・エクスクルは溜め息を吐くと足元の二つの残骸を燃やし尽くした。

 このダンジョン最終フロア――ネズミの謎解きの先にある最終試練。勇者と魔王の再現はあっという間に片付けられた。

 というかそもそも、勇者と魔王は老龍よりも格段に弱かった。ここに辿り着けなければ――先んじて確保できていなければあの魔人に攻略されていただろう。

 だがギリギリの駆け引きは俺の勝ちだ、と久竜はしかめっ面のまま考える。ここに一番最初に辿り着いたのは久竜晴水だ。〈決着〉を前にしたのも。

 空を見て思う。この空間はもはや久竜晴水の心象そのものだ。

「この青空と星空と曇り空と雨空よりも、美しい理想など見たことがない。永遠に無限に、何度でも――もう一幕(カーテンコール)を。アンコールは叫べない。だから永久のカーテンコールを」

 久竜は異相空間から出て、現実世界の決着の塔の頂上に立つ。そこには冗談みたいに巨大な大砲が設置されていた。

「世界に向けて求めよう。『カーテンコール』だッ!」

 大砲が地上世界に砲身を向ける。そして、巨大な弾丸が――側面にQuest“curtain call”と刻まれた砲弾が撃ち込まれる。日月の契国の果てまで、地球の反対側まで届くように。塔京から作り出した大量の蝶、その半分を使って製造した〈Q‐z〉の奥の手だ。

 決着の塔の頂上から世界中へクエストを――『カーテンコール』をぶっぱなす。まるで世界の終りのような、世界を続ける祈りの言霊。

 遥か下にある絢爛の森を見下ろして、久竜晴水は宣告した。

「千年の最終幕だ。まったくこんなものが見たいと。観客風情が。―――舞台に上がれ愚か者。役者の違いというものを見せてやる」



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