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決着の決塔  作者: 旗海双
第4章
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第二話「ハイテンション修道女」

 第一階層【荒野】を走り抜け、さらに第ゼロフロアも通り抜けて、ステージホールへ飛び出す。

 そしてステージ上に着地する。


 凄まじい数の銃火器が鏡夜とかぐやへ向けられていた。持っているのは職員たち。二階に立っていたのは染矢令美だ。本来入口付近に倒れているはずの魔王とアリアの姿は確認できず。すぐに回収したらしい。

 鏡夜と令美は互いに苦笑する。彼はとぼけたように言う。

「勘弁してください」

「すいません、灰原さん、これも仕事なので。申し訳ありません。ただ、一つだけ。言わせていただきます。貴方を指名手配したのは柊釘真陛下です」

「……ありがとうございます」

「はい。では、さようなら」

 銃弾の雨が降り注ぐ。流石にここでかぐやに暴れさせるのはNGだろう。蒸発した人体はリカバリー不可だ。どんな生物だろうとそれは同じだ。

「ついてきてください」

 鏡夜は五方向に持ち手付きの鏡盾を作り出すと、そのままかぐやを連れて銃弾の中を突っ切った。足を動かし続ける。

 そのままステージホールを脱出する。そして多目的トイレへ……行かず、ステップターンする。柊王に指名手配されているということは、確実にドームの中は対策を取られているはずだ。

 出入り可能な鏡は取り外されている可能性が高い。ならば。

 鏡夜は猛ダッシュで階段を上がり――浴場に飛び込んだ。

 お湯が張られている。

「よっしゃぁ!」

 鏡夜は虚勢を張るのも忘れて、叫びながら湯船に映る鏡を通じて、鏡の世界に飛び込んだ。


 今度入った鏡の世界は、窓が減少していた。おそらくドーム内含め、塔京で鏡を処分するなりなんなりで数は減らしたのだろう。

 が、鏡夜の能力の本質は、鏡となりえるもの全てに適用される。美しく姿を映す磨かれた大理石とか、水面が鏡の役目を果たせばそれも使える。さらに、射程距離のは無制限。

 実質的に、世界中の鏡となりえるものを移動できる。鏡から鏡へ跳ねる魔人。それが灰原鏡夜である。


 鏡夜はコンビニエンスストアの鏡となりえる部分――ドリンク類を冷蔵しているコーナーの半透明な扉や食品コーナーの棚にある金属部分などから手を出して、食べ物と、ついでに夕刊をちょろまかした。

 もちろん、懐からアルガグラムコーヒーを買う用にとってあった幾ばくかの金銭をメモ付きで、コンビニのカウンターに放り出す。

 こういう余裕を失って、ただただ盗むだけの小人と化してしまえば、より舐められてより苦難に陥ってしまうと彼は考えていた。

 鏡夜は指を鳴らして、今度は鏡の世界を洋風な談話室に変える。暖炉がパチパチと暖かな空気になるように炎を燃やし、柔らかな間接照明が部屋を明るくする。

 そして暖炉前の二つのソファの一つに鏡夜は深く座った。

「かぐやさんもどーぞ」

 彼の言葉に合わせて、かぐやもおずおずともう一つのソファに座る。

 小さなテーブルに乗せられた食べ物をつまみながら、鏡夜は夕刊に目を通す。もちろん第一面に、前面に渡って、さらに写真つきで鏡夜が掲載されていた。

 げんなりする。

 ふっかふかのソファに身を預けながら読み進める。たしかに魔王の言う通り、塔京をずたずたにした蝶の事件の重要参考人(ほぼ文脈的には犯人扱いだが)として鏡夜が扱われていた。

 見れば鏡夜の能力も魔王ジャルドによってきっちりと説明されていた。鏡の能力も、見せている範囲は全て把握されている。

 しかもなぜか蝶を操る能力まであるかも?? みたいなことが書かれていた。

(ねぇよ。それはねぇよ)

 だが悲しきかな。説明してくれるはずの華澄やバレッタも敵に回っているのだった。


 だが……外の世界の鏡の世界へ来れた以上、逃げ隠れるだけなら楽勝なのだ。不語桃音と白百合華澄とバレッタ・パストリシア、ついでに魔王と黒修道女、さらについでに染矢令美率いるドーム職員たちの包囲網を抜けた時点で、すでに鏡夜は安全圏にいる。

 世界中の鏡と、艶やかさのある石と金属と宝石を叩き割り、この星の海と水を全て干上がらせてようやく、灰原鏡夜から鏡の世界を剥奪することができる。つまり実質不可能だ。彼の安穏は約束されている。諦めれば。



「たわごとですとも。こちらから願い下げです」


 すでに決意は終えている。逃げ隠れるなどごめんだ。だが参っているのも事実だ。老龍は参っているかも? 程度だったが、今度こそ確信的に完全に参っている。

 はっきり言うと現状が鏡夜の想像力の許容範囲を明らかに超えている。

 老龍ですらギリギリの認識限界だったのに、世界とは。明らかにより重く、より複雑だ。

 どこから手を付けていいかまるでわからない。

 何がどうなってこうなったか、せめてそれだけでも調べ上げなければ、どうしたらいいかもさっぱりだ。


 少なくとも、水がある以上、ドーム内への侵入経路はまだ存在する。浴場を出入口にしてしまった以上、そこも対応されるだろうが、洗い場や水飲み場、水道水は大丈夫だ。

 鏡夜たちが出入りできる程度の大きさは念入りに対処されてしまうだろう。でも残った鏡の窓で覗くだけならできる。

 インフラを破壊したらウケモチがあろうが首都が地獄と化すだろうからしなかっただけだろうが。そこまで邪悪ではなかったと安心すべきところか? まさか。邪悪でなくとも邪魔である。なにせ国家権力とか社会的圧力とかである。邪魔くさくてしょうがない。障害ならはっきりしてる分対処しやすいだろうが、ただの邪魔は対処に困る。


 鏡夜は頭を悩ませながらも、鏡の世界を寝室に作り変えて就寝した。


 〈1000年1月8日 午前〉


 太陽も空も作らなければ闇である鏡の世界ゆえに時間感覚は曖昧となる。が、まぁだいたい朝だろうという時間に鏡夜は起床した。

 今度は豪勢なベットを鏡の世界に作り出したため、気持ちの良い目覚めだった。

 そして起こしてくれた生体人形、かぐやはほわほわと喜んでいた。

「今度こそ起こせたわね我が君! どう? 至福の起床でしょ?」

「そう……ですね……」

 どうやらかぐやはベッドに寝ている鏡夜の背中に手を回し、上半身を抱き起したらしい。

 鏡夜は絶望に寝起きが悪い。しかしかぐやの補佐により、恐るべきほどスムーズに意識が覚醒した。非常に穏やかな目覚めだった。逆に駄目になりそう。

 鏡夜はベッドから立ち上がり背を伸ばす。シャワーを作って、それを浴びる。水とか食べ物とか作れるのか? と疑問を持って鏡夜はシャワーから出て、手の中にコップを作る。そして、そのコップの中に入った水をごくっと飲んだ。

 確かに水の感触がして、味がして、喉から胃に落ちる感覚がしたが、彼はすぐにわかった。これは偽物だ。

 ただそう感じるだけの偽物だ。これを飲んで、また作り出した食べ物を食べて過ごせば、偽りの感覚で生活をしながら餓死すると直感する。

 そして連鎖的に気づく。ここは結局のところ幻の世界だ。魔法の鏡は真実を映すものだ。偽りは真実にならない。鏡夜がどれだけ鏡の世界を変化させたとしても、それは幻想のままだ。空腹は変わらず、傷は消えず、痛みも治らず。例えここで傷つけてもその痛みは幻痛なのだ。不変に刻まれるのは時間だけ。

 だがこれがわかるのはこの世界が鏡夜の呪詛によるものだからだ。で、ある以上、ここに人間を閉じ込めれば……なんとも恐ろしい力だ。

 結局、どんなに恐ろしかろうと社会から弾かれればもうお手上げだと現在進行形で痛感しているのだけれど。


 いくら探っても鏡夜の状態は異常ばかりを示す。だが内省ばかりしても事態は悪化するばかりだ。彼は困難へ立ち向かうために今度は現実を覗く鏡の窓へ関心を向ける。


 昨日よりもさらに“窓”の数は少なくなっていた。小さな鏡はぽつぽつあるが、鏡夜の全身が通り抜けられる大きさのものは皆無だった。


 だが、なんという幸運だろうか。今日は雨が降っていた。ドームの外、建物の外すべてが水たまりという鏡のようだものだ。雨という鏡のようなものだ。

 外の世界が建物の外限定だが、はっきりと見えていた。

 しかし、改めて見ると幻想的な光景だ。小さな雨粒が闇の中に振り、その雨粒には外の景色が映っている。地面には水たまりがたくさん広がり、そこを覗けば、下から景色を見ることができた。


 さて。



「どうにかして、柊王陛下に会いに行きたいですね」

 まず仲間を一人一人闇討ちするとか、世界の動向を知るとか以前に、確かめるべきは柊釘真の意図だ。現在の状況は彼と〈Q‐z〉の首領、キー・エクスクルの意向によるものだろう。キー・エクスクルがどこにいるかは不明だが、釘真がどこにいるかは知っている。

 決着の塔攻略支援ドーム地下だ。どうにかしてそこまで行く必要がある。

 《鏡現》と無闇に強靭になった鏡夜の五体を駆使したごり押しで突入することは可能か不可能かで言えば可能だ。ただし、挑戦者たちや鏡夜の仲間が立ちふさがらなければという但し書きがつくが。

 そうなると……。

(おいおいおいおいおい)

 自分の頭を過ったアイデアに、彼は正気を疑った。つまり、魔王をすでに? 無力化したのだから? その治療が完了する前に? 勇者も聖女も打ち倒して? 華澄も桃音もバレッタも打倒して? ドームに突入すると。

(馬鹿かな?)

 流石にそれは無理筋だろう。他の方法は? と頭を悩ます。しばらく考えたが、彼は別の方向に行動の舵を切る。

 いつもの通り、その場の機会を捉えてどうにかする方向だ。悪く言えば行き当たりばったり。良く言えば臨機応変である。



 鏡夜はなにか飛び込んでいけるチャンスがどこにあるかと鏡の世界から探す。……見える範囲にいるのは……。

「薄浅葱さんですか」

 鏡夜は出入口にできる窓……水たまりから外に出る。どうやら決着の塔攻略支援ドーム外ではあるが、その敷地内ではあるようだ。

 雨にうたれつつも、ドームの窓から中を覗けば、そこは教会だった。

 何かを修道女である有口聖と話しているようだ。薄浅葱はスカーレット・ソアとスライムである烏羽を連れている。……人数が多いし位置関係も悪い。不意打ち闇討ちをするにしても状況が悪い。不利な状況から襲い掛かるなどごめんだ。

 鏡夜は気配を消して、薄浅葱が教会から去るのを見送った。



 鏡夜は手の中に《鏡現》の器を作り出すと、下の水溜まりから雨水を掬いあげた。そしてその水を、窓から教会の中に流し込んだ。


 そして、地面の水たまりから、教会内部にできた水たまりへ移動して出現する。もちろん今度はかぐやを連れてた。

 突然泥水に近い雨水を窓から床へ流し込まれ、そして鏡夜たちが現れた。その驚愕の出来事に、有口聖は大げさなリアクションをとった。

「わーお、ホラー映画張りの登場だなァ! 馬の骨ェ!」

「灰原鏡夜ですよ、有口さん。ははは」

「ははははッ!」

「お願いがあるのですが……」

 有口は心底馬鹿にしたような口調だった。

「よく考えろよ。世界は簡単じゃないって思い知ったんじゃないのか?」

「言うだけタダですよ」

「私にとってはタダより―――高いぜ、それは!」

 ここまで言うからには、おそらくなんらかの対策をしているのだろう。別に引いてもいいのだ。彼女は放置しても大丈夫な要素だ。だが、引いたら舐められる。舐められるのはもうごめんだ。それに有口聖はこのドームの職員でもある。予め排除しておけば、楽に作戦を進めることができるだろう。例えそれが毒を飲むような行為であってもだ。

 鏡夜は全てを覚悟したとは言い難いが、何が起こっても自己責任だと覚悟する程度には気合を入れて、その言葉を口に出した。

「私を匿ってくださいませんか?」

「言ったな!!!」



       【EXTRA STAGE】Upper sister『Hijiri』

 

              戦 闘 開 始



 有口聖は断〈ら〉ない。それが彼女の祝福の形だからだ。彼女は断らないことで、祝福を行い、癒しを施す力を得ている。鏡夜の紅瞳も、このハイテンションなシスターの弱点は唯一それのみだと確信している。

 国際的に重大なイベントである、決着の塔に勤務でいる程度には彼女は優秀だ。そして――そんな優秀な彼女は彼女なりに備えをしていた。

 有口は、それはもう喜んで引き受けた。

「もちろんだとも―――承諾する。ただし条件はつけるぜ馬の骨野郎! 死ぬ気で耐えろ! トラップチャーチだ!」

 鏡夜は攻撃されたことは理解できたが、どのように攻撃されたか全て認識することはできなかった。多彩すぎる。ブービートラップはもちろん火炎放射に矢に銃に爆弾に弾丸のごとき生体兵器らしき蜂なり、なんらかのガスなり……量が多い。光と轟音で感覚器も乱される。

 得意げな有口の声がする。

「だいたい私のよーな、姐様に劣るとはいえ美少女が断らないなんてどーにもこーにも危険だろう?! 下劣な男性の欲望ってやつを刺激しちまうし、それ以外にも金をくれだとか犯罪の片棒を担げとか。だが私はこの祝福を今の今まで持っている! その理由! そいつは至極単純さ――条件つけて確殺できる場所に引きこもっているからだよ!」

 かぐやが容赦なく罠をビームで焼き切るが罠の量が多かった。

「私が桃姐様のことが大好きなのは、姐様が私になんの要求もしないのが理由だ。そんな人間関係に臆病な卑しい好意でこそあるがそれが私だ。そんな私にぶち殺されろ!」

 鏡夜は冷静だった。かぐやごと《鏡現》で全方向に囲う防御形態で守った。《封鎖鏡》である。猛攻と轟音がしばらくして……静寂。

 鏡夜は《封鎖鏡》を解除する。色のついた空気が漂っていた。かぐやはうげぇという表情を浮かべた。

 有口はふん、と鼻を鳴らす。

「環境適応能力なんて言われてもピンとこなかったが、毒も効かねぇんだな」

「これ毒ガスなんですか??」

 容赦なさすぎるだろ。ていうか毒も無効化するんだ……人間やめてるな本当に、と我ながら彼は思う。

「でー、これで打ち止めですか?」

「けっ。私は断らない。良いぜこのクソ野郎。裏切り男め。私が庇ってやるよ」

「裏切られたのはむしろ私――」

「ああ?」

(こわっ)

 鏡夜は言葉を止めて肩を竦めた。わざわざ言い争いを誘発したところで無意味だ。

【EXTRA STAGE】upper sister『Hijiri』

 Clear!

 すると、檀上の裏にある扉から、あのキリン耳の少女が現れた。

「えっ」

「あ、先ほどぶりです。キリン耳のお姉さん」

 キリン耳の少女は目を見開いて驚いていた。そして少ししてから、ぽつりと言った。

「………お姉さんって私の方が年下だと思うんだけど」

「リンちゃん、私、こいつのこと庇うことになったから」

 キリン耳の少女――リンと呼ばれた少女は首を傾げて言った。

「本当にいいんですか?」

「んー? 良いも悪いもありゃしないけど、反対なら別にいいぜ! むしろ反対を歓迎しよう! リンちゃんが告発してくれれば断る手間が省ける! 死活問題さ!」

 リンは眉を顰めて鏡夜をちらりと見て、呟いた。

「……やめておきます。負い目もあるし」

 有口は修道服と髪を逆立たさせて叫んだ。

「この女の敵が!!」

「……!? 私はッ、ホントにッ! なんもッしてないッ!」

 恐らくだが、リンが言う負い目とは不語桃音と灰原鏡夜に不和を生じさせたことを言っているのだろう。鏡夜は唐突に表れた彼女は利用されただけと華澄に教えられているから別に気にしていないのだが。というか現状それどころじゃねぇし。

 誓って言うが粉をかける云々とか無理だ。格好つけてるだけだ。

 というかできねぇんだよ物理的に。服が脱げねぇんだよ。宇宙一の紳士だよ現実として。



 鏡夜は教会の入り口の向こう側から、戻ってくる足音を耳にする。

(まずっ)

 鏡夜はかぐやにちょいちょいと指を動かして指示をすると、自分は天井に思いっきりジャンプして、しがみついた。

 かぐやが光を操る能力で光学迷彩を発揮し隠れたのと同時、教会の扉が開く。


 薄浅葱……勇者一行だった。どうやら有口聖の確殺トラップの大騒ぎを聞きつけて戻ってきたようだ。

 天井に張り付いたまま、様子をうかがう鏡夜。

(あれ、これチャンスじゃね?)

 外にいた時は奇襲もできなかったが、天井にいれば一気に無力化も可能かもしれない。しっかりと薄浅葱たちを観察する。


 薄浅葱は教会の中を見回す。


 あちこちが焼け焦げており、銃弾の痕があった。


(やっぱ駄目くさい)


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