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決着の決塔  作者: 旗海双
第3章
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第二話「ドラゴン効果」

 思考が再び回転し始めたのは第一階層【荒野】の道中だった。ショックから立ち直った鏡夜がまず思ったのは。

(―――なんだアレ)

 いや、ボスなのは確かだ。第三階層のボスモンスター、老龍。それはわかる。ただ、今までと違うのは。

(勝てる気がしねぇ)

『カーテンコール』は恐ろしかった、『パレード』と大獅子は気づかれねば無敵だった、『デッドエンド』と怪鳥はインチキを持ちださなければ打ち倒せなかった。『カットアウト』は一発勝負で驚いた。

 だが――あの老龍は、次元が違う。ただ勝てない。まるで超えられぬ壁を前にしているような、変えたいのに変えられない過去を思い返しているような、圧倒的な不可能。

「我が君、我が君」

「なんです?」

 やっと我を取り戻した鏡夜へ、かぐやが声をかける。

「あの龍さぁ、私と一緒に梱包されたはずの、老化防止薬飲んでたんだけど」

「………はい?」

 鏡夜は首を傾げてかぐやを見る。かぐやはぶすっとした表情で、不服そうに告げる。

「ホントーなら我が君が飲むべきそれを横取りされてるってことよ! 許せなくない!?」

「や、ちょっと待ってください。えーと、なんでわかったんです?」

「あの龍の本来の耐久年数は200年程度、でも光学検査ですっぱり判明! あれは千年生きている(・・・・・・・・・・)。なんでか調べたら、ええ、見えたのよ老化防止薬の反応が! ムカつくわ。きっと塔が閉じている時に奪ったのよ! なんなのよ!」

 ぷりぷりとわざとらしく怒るかぐやから目を外して、鏡夜は第一階層の作り物の空を見る。

 千年。そうか。千年の時間が、立ちはだかるのか。



 鏡夜たちは決着の塔を脱出して、その入口。ステージホールの舞台へと戻った。そして、鏡夜が口を開く。

「勝ちましょうか」

 華澄は笑顔で応える。

「ですわねぇ」

 鏡夜は駆け抜けると、もう決めている。勝てないと思う敵、不可能と感じる壁。困難と遭遇してから苦悩し、決意するのでは遅すぎる。


 灰原鏡夜はもう悩んだ、もう決めた。だから迷わない。


 だから鏡夜は、その前段階、ほんの少し自分の中に不合理を感じた時、迷った時に、決意を固めた。いや、一人で固めたのではなく、桃音と華澄によるものでもあるのだけれど、それでもそうと決めたのだ。

 脳内が真っ白になってしまったのは不覚と認めよう。何をやってもうまくいかない厄日にうんざりしてしまったのは反省しよう。

 だが、諦める? まさか、そんな言葉は無意味だ。勝てないも不可能も、そんなことを考えている時間さえも惜しい。

 なぜって、灰原鏡夜は、駆け抜けるだけしかできないのだから。


 背筋が伸びる。不敵な笑顔を浮かべる。歩き姿は颯爽しつつも妖しい、意地と虚勢と鏡の魔人は、そのまま堂々と仲間を引き連れてステージホールから外に出た。



 鏡夜が決着の塔攻略支援ドームに通りかかると、そこには勇者と魔王がいた。現代の、である。肩に黒いスライムを乗せた真っ赤な麗人スカーレットも勇者の傍にいた。

 小柄でシニカルな少女、薄浅葱は鏡夜に気づくと親しげに近づいて片手をあげた。

「やあ、こんにちは――いや、そろそろこんばんはかな? ともかく少しぶりだね、灰原―――鏡夜くん」

 鏡夜は背の低い彼女を見下ろす。

「ええ、こんばんは、薄浅葱さん」

「ところで聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「なんです?」

「僕って勇者だと思う? 正直に答えてほしいんだ」

「貴女こそが勇者だと思いますが」

 笑えないくらいには勇者だろう。と自分の中の確信を答えると薄浅葱は、皮肉げに振り向いて、大柄で恐ろしい魔王ジャルドへ言った。

「ほら、ご覧、彼だってそう言ってるじゃないか。確かに僕には過ぎた称号だけど、しかし事実は変わらない。現状は変化しない」

 瞳に闇が渦巻く闇の魔族、巨人の系譜を持つ魔王、ジャルドは血相を変えて言う。

「おかしいだろうが! どうも世の中の連中ってのはお約束ってやつを理解してねぇ――特にその勇者! 王道から外れ過ぎた邪道も邪道だ。なんたることか!」

「なんたることかと言われましても、ねぇ?」

 知ったこっちゃねぇ。と鏡夜は困ったように薄浅葱、次にイラッとした顔をしているスカーレットへ顔を向ける。

「それならばミスタージャルド、貴方は勇者のなんたるかを知っているというのか?」

 ジャルドは、赤い令嬢スカーレット・ソアの嫌味に、それはもう大袈裟に言い返した。

「当然だろうが! なぁ、わかるだろ? 魔王に相対するのは勇者。穢れ! 悪! 闇! な魔王を打ち倒すのは純真! 善! 光! な勇者だろ? 悪を倒すのはより大きな悪ゥとか、大なり小なり人は穢れを持ってるゥ、とか、そういうツマラナイんじゃなくてさ。

 王道でいこうよ王道で。なんだよ探偵勇者って、ふざけてんのか」

「自分がラスボスじゃないからって拗ねてるのかな?」

「あ?」

 魔王ジャルドは薄浅葱に近づく。薄浅葱は鏡夜のすぐ傍にいるので、必然的に鏡夜も、魔王の間近で見下される形になる。

「ていうかそれならさ、僕も君も違うでしょ。君も薄々わかってて、そう動いているはずだよね。僕は別に君みたいに物語主義者でも役割主義者じゃないけど、それでも表現するならさ。今の主役は鏡夜くんだよね? そして敵手は――」

「――!」

 ジャルドにぎょろりと睨みつけられる薄浅葱と鏡夜。以前ジャルドに会った時は感情的でありながらも魔王としての余裕があったのに、今この瞬間だけ、それが一切消え去っていた。鏡夜はシンプルに怯えたが、それを飲み込んで薄浅葱に問うた。

「ねぇ、なんで今巻き込んだんです?」

 薄浅葱は鏡夜を見上げて言った。

「売り言葉に買い言葉でつい」

「言い訳もしないんですね……」

 ジャルドはふざけた掛け合いをしている二人を見て、ふん、と鼻を鳴らすと一歩下がった。そして不愉快そうに告げる。

「俺は魔王様だからな、国民どもの言葉はちゃんと聞いてるぜ――まぁ俺は魔王様だから聞いた上で無視するもんは無視するんだが。鏡の魔人、こいつは忠告なんだが、お前の評判、かなり悪いぜ。運命的宿敵たる勇者様以上にな」

 それは、鏡夜の”決着”を明らかにしていないから――。鏡夜は自分が世界的に悪評を抱かれているのを把握している。ニュースサイトでわざわざ特集されていたのは伊達ではない。

「知ってますよ。沈黙してますからねぇ、私」

 鏡夜の答えを聞いて、魔王ジャルドはげらげら笑った。

「いや? ははは、お前は民衆ってやつを良く見過ぎだよ。俺はちゃんと説明できるぜ。人気ある、俳優ばかりが出る舞台に、たった一人だけ、見たこともねぇような無銘の俳優が舞台の中央に躍り出たような、そんな不愉快さ、さ。何を差し置いて名優どもを押しのけて主役ぶってやがる。俺たちはお前を見に来たわけじゃない――。そんな観客――いや、野次馬根性。誰も当事者じゃないんだ。そりゃ勝手に考えるさ。なにせ別に自分がやってるんでもないんだし」

 ジャルドはニヤニヤしながら言った。

「ま、それだけお前が強いって話でもあるんだがな、どこまで行った?」

「第三階層で引き返しました」

 別に嘘を吐く意味もないので素直に告げる。

「第二をもう潰したのか。はえぇな、信じられねぇほどはえぇ」

 ジャルドはそう感想を漏らして去って行った。

「なんて身勝手な男だ!」

 スカーレットは気分を害したように言った。スカーレットの肩に乗っていた烏羽が落ち着かせるように彼女へ告げる。

「そんなに怒るもんじゃあないぞ、ソア。アレはままならなさに歯噛みしてるんだ。というよりも、どいつもこいつもそんなものだ」

 烏羽の言葉に合わせるように薄浅葱は鏡夜を見る。決着の塔に興味もないのに囚われる勇者、役目を全うできないぐちゃぐちゃな状況で佇むだけの魔王、未だわからぬ聖女と英雄、そして、全身を呪詛に纏わり憑かれた魔人。ままならない。ままならない。

「でも、私の方が先に行ってますよ」

 鏡夜は、たった今、超えられる気がまったくしない壁にぶつかってることをおくびにも出さないで、意地を張った。えらい不吉なことを言われたこともあるし、負けん気で出た発言である。

 薄浅葱は少しだけ目を見開いて、その後小さく笑った。

「―――ふっ、まいったね、こりゃ一本取られた。ああ、そうそう。この前さあ、この塔の階層は何百もあるって予測したじゃん」

「はい」

「あれ間違いだったよ。やっぱり名探偵は確証を得られるまで推理を話すべきじゃないねぇ。一階層一階層が、とてつもなく広い。上も下もだ。使われてる空間が多すぎる。そしてこれは確証を持って言える。階層の総数は一桁のどれかだよ。間違いない。3から9のどこかの数字で打ち止めだ。いい知らせかな?」

「……ええ、とても」

 鏡夜は微笑を浮かべて頷いた。厄日だったけれど、別に薄浅葱の推理を聞いて何が解決するわけでもないけれど。

 少しだけ、光なんてものが見えた気がした。

(なんだ、やっぱり勇者じゃないか)



 〈1000年1月6日 午前〉


 翌朝。絢爛の森管理人、不語桃音の家のリビングにて鏡夜は開口一番言った。

「では、対策を建てましょう」

「その前に一つ」

 華澄が声を上げる。

「なんですか?」

「以前わたくし、絢爛の森の貴方を調査しないと誓いました。ええ、その誓いを破ることはいたしませんけれど、その調査はどこまで定義されますの? わたくし、今ここの痕跡を見るだけで、まぁ、かの探偵やバレッタほどではありませんが、貴方と桃音さんの生活をいくらか推察できてしまってますの。―――ふふ、同居してるだけですのね」

「―――」

 桃音はゾンッ―と妙な擬音な聞こえそうなほど光のない両目を見開いて華澄を見た。華澄は桃音の視線を受けても不敵に微笑むのみである。

 鏡夜はその様子に気づかないまま言った。

「バレッタさんが過去観測しなければオールオッケーですよ」

 灰原鏡夜が異世界からの来訪者だと知っているのは、桃音とかぐやだけだ。桃音はコミュニケーション不可能者故に、彼女からは伝わらない。かぐやもまた異世界出身であることを言うなと厳命しているから、誰かが聞くことはないだろう。なら物は? それこそ辿れない。鏡夜はこの世界に何も持ち込めていない。また異世界出身だと記録も残していない。最初から世界に存在しない真実は、過去観測機械にしか見つけられない。

 そして……驚くことに、鏡夜を信頼してしまっている華澄は、必ず約束を破らないと鏡夜は確信している。

 だから、自分の過去を探らないことだけ守ってくれればいい、と鏡夜は告げた。

 華澄はそうですの、と呟くと佇まいを姿勢の良いものに直した。


「では――まず目標は、第三層のボスモンスター、老龍を倒すことです」

 ここにきて、ロボットではなく、またロボットとモンスターのシナジーでもなく、モンスター単体が脅威になるとは思わなかった。

 鏡夜が言ったタイミングに合わせて、かぐやが黒板に“老龍を倒す”と白チョークで文字を描く。

 なぜか桃音の家に黒板とチョークがあったので有効活用である。モノヅクリが趣味? なように見える桃音だから、黒板アートに手を出している時もあったのだろうと、鏡夜はいつものごとく勝手に予想していた。


「で、まず聞きたいんですが、かぐやさん、老化防止薬って、その……強くなる効果等あるのですか?」

 レベルが一気に跳ね上がっていた。大獅子は最低限力のある冒険者なら打ち倒せる強さだった。怪鳥は、お使いクエスト(鏡夜たちはやらなかったが)をきちんと行い準備すれば倒せる敵だった。

 では老龍は? ふざけている。弱点はあった。確かにあった。鏡夜の目にはもちろん見えていた。



 今でも目を閉じれば思い出せる――。弱点【自分より強いもの】【奇襲】だ。


(ふざけている!!)


 そんなの全ての生き物に適合する弱点だろう。そもそもあの龍は、鏡夜たち全員が感知しないうちに迫ってきていた。莫大の光学的感知機能を持つかぐやよりも先に、だ。

 実質、奇襲は弱点として機能していない。自分よりも強いもの? 鏡夜は、あの龍より己が強いとまったく思えない。

 しかし、あの老龍の強さが老化防止薬に端を発した強さなら、かぐやが齎す知識で勝てるかもという期待は。


「寿命を極端に伸ばすだけですよ、我が君。不死の薬なんて称えられることもない、本当に、ただの、名前通りの老化防止薬。不老の妙薬。でも安心して我が君! 死なないなんて、そんなことは絶対にないわ!」


 その期待は完全に潰された。老いないだけ。


「何か、こう、服用して副作用など……?」

「ないわ! まったく! 私と同じように、老いを忌む全ての人が夢見る理想の薬!」


 そしてつけ込むべき弱点もない。鏡夜は笑顔の仮面で本当の感情を押さえつけた。今すぐにでも屈んで髪の毛を掻きむしりたい気分だ。

 かぐやはコミカルにほわほわと袖で口もとを隠しながら、鏡夜の要望に応えようと言葉を紡ぐ。

「やっぱりアレね、私が遠距離からビームをぶち当てていくスタイルがいいと思うわ! 超遠距離からの高火力掃射が正義――そうよね !機械人形!」

 バレッタはくすくすと笑う。

「それができれば……ですね。こちらの存在を超遠距離から感知していたあの機体は、光を弾いたり曲げたりはしないでしょうが……射角を、推測して避けることが可能でしょう……。神話的不合理特徴がほぼなく、合理的なのは親近感を覚えますね……。では逆に龍の神話体系に乗っ取るようにするのはどうでしょう……生体人形さん……」

「それこそ冗談でしょー。竜殺しならたくさんあるけど、龍殺しの神話なんてないわ! 八岐大蛇は、アレは蛇だし。千年前の、神代に答えはないわよ。それは私が保証する。そんなものがあるのなら、屠竜之技なんて言葉は生まれなかったわ。あ、この言葉は竜の字だけど、意味合い的には東洋的なりゅうだから龍と捉えた方が正しいわ!」

「なんですかその豆知識」

 しかも屠竜之技なんて聞いたことがない。鏡夜がいた世界にあったのか? 残念ながら、調べる手段がないので確かめられなかった。

 そんなことをぐだぐだと話していると、桃音が突然立ち上がり、リビングから立ち去って、すぐに戻ってくる。手には一冊の本があった。

 桃音はそれをテーブルの上に静かに置く。その本のタイトルは“日月の契国、千年のあゆみ”だった。鏡夜はそれに手を伸ばし、ペラペラと捲ってみる。

 それは歴史書だった。学校の教科書のようにざっと触りだけを羅列するように解説している。鏡夜は難しい顔をしながらページに目を通すが、頭に入ってこなかった。平安時代後期あたりから、まったく鏡夜の知る歴史とは変わってしまっているし、そもそもそれ以前、縄文時代とか弥生時代はなぜか日本神話がドンッと書かれている。

 ……日月の契国の前身、“聖域”と呼ばれていた時代も、ただそんな時があった、とさらっと書かれているだけだ。鏡夜は読み込む気も失ってテーブルの上に置いた。

 それはそうだ、まったく興味がない。これが歴史? これが時間? これが経緯? それなら鏡夜が今、重苦しく感じているソレは――。


 華澄は、鏡夜をちらりと見て、ぽつりと言った。


「圧倒されていますの?」


「―……圧倒?」


 圧倒。圧力に、気圧される。圧倒的な、何か。鏡夜は頭の中で言葉を転がす。


「たしかに、そうですね。そうかもしれません」


 そうだ。鏡夜は圧倒されていた。圧倒的な危機感を、圧倒的な不可能を感じていた。それは適切な言葉だ。鏡夜は、自分でもよくわからない何かに圧倒されている。

 バレッタはそんな鏡夜に告げる。

「くすくす……権威に訴える論証ですね」

「? なんです、それ」

「俗に言う白衣効果です。病室に入り、そこにいる白衣を着た人物が病気と治療について語るならば、それは正しく感じる。例え根拠がなくとも……。もしかしたら、白衣を着た人物は医者ではなく、どこからか来て、偶然そこにいる、医者ではないただの人なのかもしれないのに。専門家が言うことは、正しく感じるものです……。プロのチェスプレイヤーとチェスで戦うことになると、そもそも絶対に勝てないと感じるでしょう……。何十年と修行を積んだ格闘家と格闘技で戦うことは、愚かにしか感じないでしょう……」

「……」

「ええ、あの龍は難敵でしょうが、しかし、埒外ではない……四大天使や七大罪のような戦局兵器ではない……それでも圧倒的な、権威を感じ、それに負い目を感じているのならば……灰原様は、千年の時間に、権威を感じているのです。根拠がないにも、かかわらず」

 鏡夜は椅子にゆっくりと座って、目を伏せた。意地と虚勢を張るのをやめない。茫然としていることを隠しつつ茫然とする。

 空転する思考は、パーティメンバーから齎された指摘の数々を組み合わせつつ、輪郭を為した本当の考察へと変化していく。


 そうだ、鏡夜はすでにわかっている。千年の時間が立ちはだかるのかと、鏡夜はあの時感じたのだ。それが全てなのだろう。

 つまり、鏡夜は、気後れしているのだ。時間に、歴史に。


 大獅子も怪鳥にもクエスト『カーテンコール』にもクエスチョン『パレード』にも『クエスト』デッドエンドにもクエスチョン『カットアウト』にも感じなかったのに、今更。

 契国王や魔王に感じたような素朴な畏敬を何千倍にもしたような圧迫感を感じている。

 シンプルに問題が重い。時間が長い。

(千年ってなんだよ。本当に今更だな、千年なんかどうでもいいって思ったのに、実際目にすれば気後れするってかぁ?)

 自分も騙せぬ考えだ。灰原鏡夜は、時間に――歴史にただただ圧倒されていた。

 鏡夜は苦笑を浮かべた。決意は欠片も折れていない。だが、戦う前から心が負けている。なるほど、バレッタの案内は真理でしかない。

(プロのチェスプレイヤーへチェスで挑むような……ね)


「なるほど、わかりました。しかしです、私は、絶対に勝てないとは思いません。しっかりと学び、戦略を立て、対策を構築すれば、アマチュアだってプロに勝てます、そうでしょう?」

「ええ、プロの傭兵だろうと気を抜いていれば覚悟を決めた赤子に殺されますの」

「それほど極端な話でもありません」

 鏡夜は立ち上がってかぐやの手からチョークを取ると、黒板に大きくこう書いた。


 “幽霊の正体見たり枯れ尾花 龍なんてこわくない!”


「調べましょう。今までやってきたことが、少しだけ丁寧になるだけです。簡単でしょう?」


 そうだ。もともと一回見てから対策を立てて戦ってきた、クエスチョン『カットアウト』は突然襲ってきて、その場で倒したので例外だが、それ以外は全てそう戦ってきた。

 同じようにすればいい。一度見て、どうにも思いつかなかったのなら、何度も見れば良いのだ。何度も調べればいいのだ。

 鏡夜の言葉に全員が頷いた。


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