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決着の決塔  作者: 旗海双
第3章
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プロローグ「終わりの剪定(カットアウト)」

 ある日のこと。

 竜と龍が顔を突き合わせてこう言いました。

「オレ様の方が強い」

「吾輩の方が強い」

 竜が言いました。

「火を噴けば鉄をも溶かし、空を自由自在に飛び立って、肌はいかなる金剛よりも頑丈だ。オレ様は強いぞ」

 龍も言い返します。

「風を纏い操り、空も地もするりと抜けて、鱗はいかなる刃も弾くのだ。吾輩の方が強い」

 するとそこに通りがかりの旅人が来たのです。

 竜と龍はその旅人の前に降り立ちます。旅人は二匹を見上げて首を傾げます。

 竜と龍は言いました。

「どちらが強いと思う?」

 旅人は答えました。

「君達は、なんのために強いのかな?」

 竜は言いました。

「奪うために、勝利のために」

 龍は言いました。

「自然のために、自由のために」

 旅人は言いました。

「ならどちらも弱いよ。誰も君らを強いなんて認めない」

 竜と龍はなぜだと問います。旅人は笑って言いました。

「みんなに強いって思われるから、その人は強いんだ。誰も助けない。誰も救わない、そんな溶岩を、そんな嵐を、人類も人外も強いと思わない。恐ろしいとは思ってもね。強くなるには、まず友達を作らないと」

 竜と龍はすっかり恥ずかしくなって空へと飛び立っていきました。



 〔勇者と魔王のジョーク集 【竜と龍】より抜粋〕



 ――――――――――――――――――――――――――――――――

『追いつかないわ』

 《人形使い》は弱音を吐いた。

 久竜晴水は飄々と笑う。

『ペースが速すぎる――いくら資源があっても間に合わない。エクスクル。次の階層に合わせた機体は無理よ』

 久竜は人差し指をその蝶へと差し出した。蝶は竹からひらひらと飛び立ち、久竜と指の上にとまる。

 久竜は蝶へ語りかける。

「お前が無理っていうことは、まぁ無理なんだろう。技術者はろくでもない上司や他部署以外には嘘を吐かないからな」

『恋する私も吐かないわ』

「は、は。誠の恋とは、また面映ゆい」

 久竜は笑う。笑いながら考える。

「しかし、参ったな。あの忌々しい魔人、ついにはお前すら引き離したのか」

 英雄の失踪、たった一人で無理をして、彼はいなくなってしまった。これが当初のシナリオだったのに、あの灰色の男のせいで一気に崩れたのだ。本当に不都合な存在である。

『腹立たしい? やっぱり消した方がいいんじゃないかしら?』

 久竜はすっと笑顔をやめると立ち上がり、体重をかけて竹をしならせる。重さによってこうべを垂れる竹の上で久竜は言った。

「まさか、被害者じみた三文芝居でも見せられていれば話は別だが、あれは俺のような似非と比べるまでもなく英傑だよ。少なくとも、人も人外もそう思っている。否定的ではあってもね。で、あれば、俺たちが断頭すべきものではない。……それならば、あの銃のお嬢さんにご退場いただければいい。そうそう、《過去観測》も非常に過大で過剰で面倒だ。あれもシャットダウンすべきだろう」

 久竜は極限まで曲った竹の上で静止する。蝶は不愉快そうに告げる。

「あれは死なないわ。この時代に白百合華澄がいるのが、一番面倒なのよ。こと軍事、戦争において、あの女は無法で無敵よ。バレッタ・パストリシアが兵器や戦況のブリーフィングを完璧に行い。未来を観ても勝てない状況に追い込まれる。ああ――本当に、私が創ったのに、忌々しい観測機械ね。私が創ってあげたのに、忌々しい魔術師ね」

「それなら沈黙の――くくッ」

『ふふっ』

 言葉にすることすら可笑しいとエクスクルと《人形使い》は笑う。不語桃音を無力化? 悪い冗談だ。

 久竜晴水――キー・エクスクルは竹から地面へ飛び降りた。

「完璧を求めすぎているからこそ息が詰まるのだ。神ならぬ俺たちにできるのは、今できる八十%――――?」

 久竜は首を傾げる。竹林から何か来る。

『エクスクル?』

「……都合の悪いことばかり起こると思っていたが、そうでもないらしい」

 久竜は、第三階層【竹林】の奥から来たソレを見て、苦笑した。

「奇縁だ、奇遇だ、ああ、よかったよ。安心した。なぁエーデルワイス。シナジーなんてのは、今回は不要だ。もっと単純な機構でいい。ほら、お前の弟子のソレイユから設計図でも拝借すれば、すぐ作れるものぐらいはあるんじゃないか?」

 蝶から聞こえる声が淡々と言う。

『あるわねぇ。ええ、でもいいのかしら? 言っちゃ悪いけど、業狂いから見れば全部無粋よ。たぶん障害にもならない』

「いいさ、いいさ、今回はそれがいい。“自然でない行いは、 自然でない混乱を生む”。混乱こそまさしく俺の意図するところだが、しかし目的なわけではない。今幕は、混乱よりも“彼”が俺の目的を果たしてくれるだろう」

 久竜は眩しいものを見るように迫ってくる何かへ視線を注いでいる。それを蝶越しに《人形使い》――エーデルワイスは見て取った。

『貴方がそれでいいのならいいのだけれど。それで……やっぱり逃がした方がいいわよね』

「ああ、“彼”は俺と同じことをしている。一太刀も交わしたくない。この階層、俺たちは闇に消えよう。ちょうど、裏に回ってろくでもない魔人に素敵な伏線を撒こうと思っていたんだ! “悲しみが来るときは、単騎ではやってこない。かならず軍団で押し寄せる”。まさしくまさしく!」

 久竜は蝶の大群に包まれて、消える。……【竹林】は静寂に包まれる。

 これまでと同じように。


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