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決着の決塔  作者: 旗海双
第1章
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第一三話「冒険の時間だ」

 かぐやのことをある程度(知りたければ本人に聞くか竹取物語に聞け)知ったので、再びダンジョンへ挑戦することにした。何度も行き来したステージホールを抜けて〈荒野〉へ訪れる。

 生体光学機器であるかぐやがいるのならば遠くでも測定できるので、久竜晴水一行が全滅した方向を、慎重に慎重に進んでいくことにした。


 ぺかぺか一定期間光っていたかぐやは、ついに何かをとらえたようで立ち止まる。

「見えーる見えーる、大きな扉と大きなライオンが見えるよ!」

「くすくす、距離はどれほどですか……」

「六キロ!」

「くすくす、徒歩推定一時間半から一時間半かかりますね」

 かぐやとバレッタの人形同士の報告を耳にして鏡夜は華澄へ言った。

「華澄さん、車とかバイクとかってありなんですかね」

「流石灰原さん、いいところに目をつけておりますの」

 そう言って華澄はバレッタをつっつくと、バレッタはドスン、と土埃を上げて軽装甲車を目の前に取り出した。

「答えは未規定。つまりは“あり”ということですの」

 質量保存の法則を完全に無視したような軽装甲車に目をやりながら、鏡夜は淡々と言った。いちいち驚くのも疲れる。

「持ってんの武器だけじゃないんですね」

「活動に必要だと想定できるものは一通り準備してありますの」

「薄浅葱さんに見せなかったのは」

「優位を保つためですわ」

 きな臭いだのなんだの周囲を酷評しているが、一番悪辣なのは白百合華澄なのでは、と感じる鏡夜だった。

 しかし、乗せてくれるというのなら是非もない。良い機会があるのならば便乗する鏡夜はさっそく軽装甲車の後ろに乗り込んだ。両隣に桃音と華澄が座り、前方助手席にかぐやが、運転席にはバレッタが乗った。

「あ、運転するのはバレッタさんなんですね」

 軽装甲車が発車する。悪路に強い車だ。すぐに着くことだろう。

「くすくす、真っ直ぐ言って襲われますか?」

 バレッタの問いにかぐやはぺかーっと長く光った後、鈴のような声で応えた。

「んにー、大丈夫じゃない? たぶんライオンより貴女の方がレンズの性能がいいでしょ。ざっとチェックした感じ、ライオンはそこまで改造されているようには見えない。最悪この車で逃げれると思うし。んあ? 今光の中に変なのが―――ないや? なんだろ」

「なかなか気になること言いますねかぐやさん」

 神代の傑作……らしい彼女。人間のように曖昧で適当なことは言わないだろう。しかし、変なのと言われても困る。

 なにせ〈変なの〉など、鏡夜は目に映るものすべてがそうなのだから。


 十分もかかることなく、軽装甲車は止まった。鏡夜は後部座席から前方を見る。

 ひとつの大きな扉が地平線上にあった。そして、運転席のバレッタは目のレンズを最大限振り絞り、ギリギリのラインから過去起こった戦いを観測する。

 そして彼女はそこで起こった遭遇戦を、謳いあげた。


 ★★★★★★


 〈英雄〉久竜晴水一行の戦いと全滅をバレッタが謳いあげての感想は―――。

「弱いですわね」

「え?」

「え?」

 弱いと評した華澄に鏡夜は驚く。しばらく沈黙した後、華澄が先に口を開く。

「バレッタ、客観的に戦術を評価して一言」

「落第かと」

「英雄さんは猪突猛進で、リコリスさんは残弾の管理すらできず、ケールさんは口ばっかりで、蜜柑さんは他人事で、サイシンさんは英雄さんしか見ていない――という理解で?」

「あってるかと」

「アマチュアですの?」

「辛辣!!」

 上品なロマンチストにあるまじき暴言を受け、鏡夜は驚愕した。

「ああ、失礼しましたわ。いえ、冒険者の噂通りだったので、つい」

「噂ですか? ゴミとかチリとかですか?」

「ありましたが、そうではなく」

(あったのか)

 引き継ぐようにバレッタが言った。

「くすくす。あとは〈口だけ野郎〉、〈姉のおこぼれ〉、〈ビックマウス〉、〈弱い英雄様〉などなどでしょうか」

「やだ……ひどい……」

 割と出くわした時は普通だったのに。舐められた者の末路に戦々恐々とする鏡夜。少し優しくしよう、とちょっと思いつつ。自分は舐められないようにしよう、という決意を新たにする。

 華澄は、ふむ、と改めて分析する。

「わたくしの経験が語るところによれば、おかしいですわね。絶対に」

「なにがですかー?」

「ジョークがないんですの」

「は? ……えーと、バレッタさん」

 華澄は時々シビアな態度に反して曖昧なことを言う。鏡夜はバレッタに素直に聞くことにした。

「くすくす、解説不能ですね……あえて言うのでれば、我が主の、勘かと」

「なるほど」

 常に詩的でありながらも具体的な解説をするバレッタが勘と断じるということは、華澄は本当に勘で言っているのだろう。

 華澄は自分で言っているにもかかわらず、困ったように語る。

「塔の仕組みしかり、〈契約〉しかり、洒落ているというか、遊び心があるというか。千年前でもわかる悪戯心というか。それを考慮すると、ゆるいモンスターで油断させておいてボスでトラウマになるほどの初見殺しをする。……なんてことするわけないんですの」

 たしかに感覚的に過ぎる言い回しだった。鏡夜は静かに言い返す。

「そうなんですか? でも死なないルールがあるんですよね? なら死なないのだから容赦なく理解不能アタックをする、というのもあると思うんですよ」

 ゲーム脳と謗られても文句は言えないが、初見殺し山盛りゲームというものはたしかに鏡夜がいた世界でもあった。一定の需要があり、少なくない数があったのだ。

「にしても理不尽というか。こう、四大天使やら七大罪のような、一つの神話体系における戦局級兵器ならまだしも、雑魚ばかりだった荒野に、あの強さは不釣り合いですの――端的に言って、美しくない。もし死なないダンジョンに初見殺しを盛り付けるなら、はじめからおわりまで仕込むべきなんです」

 きっと彼女の中では何かが足りていないだろう。きな臭さという直感で、初めて出会った魔人と超人と組むくらいには思い切りがいい彼女の強烈な〈そぐわない〉という感覚。残念ながら鏡夜はその感覚に共感することはできなかったが一考の価値はある。

 考え込む鏡夜へ四対の瞳が……正確には二対の眼を持つ二人の少女と二対の観測装置を持つ二体の少女の視線が向けられる。

 なぜか鏡夜がどうするかを決める流れであるらしい。


 ……なぜかというのも妙な話だ。主導権、リーダーシップ、そういうものを握るために、鏡夜はひたすら意地と虚勢を張ったのだから、当然の帰結ではある。

 本当に、柄ではない。

「わかりました、信じましょう。もうちょっと調べますか」

「ですの」

 華澄は手から三つの双眼鏡を出すと、二つを鏡夜と桃音に渡した。

「華澄さん、そのアイテム取り出しってどういう仕組みなんですか?」

「機密ですわ」

「そこをなんとか」

「乙女の秘密ですのよ」

「そりゃしょうがないですねー」

「ふふ、どうして機密より秘密の方が重いんですの……」

 とぼけたやりとりを挟みつつ、華澄は望遠鏡を覗きながら言う。

「バレッタ、安全確保」

「くすくす、了解です……」

 鏡夜も便乗してかぐやへ指示をする

「あ、かぐやさんもお手伝いしてあげてください」

「あいあいさー、我が君!」

 鏡夜の見てる前でバレッタは長物の銃で一体のモンスターを吹き飛ばし―――かぐやは人差し指から極太のレーザービームを照射し、空から降ってきたストーンゴーレムを蒸発させた。

「そんなことできるんですか!?」

「え? 何? なんですの?」

 華澄は望遠鏡を外してかぐやを見る。彼女の指先からは未だに光線が発射され続けており、さらに近づいてきた蜥蜴型モンスターがその光に飲み込まれて蒸発する。

「……光学兵器ですの?」

「光でいろいろできるって言ったでしょ?」

 褒めて褒めてと言わんばかりに鏡夜へ熱視線を向けるかぐや。

「は、はは……頼りになりますね! ホント!」

(かぐや姫ってこんなゴジラみてぇな話だったっけ?)

 まぁ、これなら三人とも望遠鏡を覗いても安全だろうと、鏡夜、桃音、華澄は並んで次の階層への扉とボスモンスターを観察する。

 華澄は鷹揚と寝そべるライオンがいるあたりの地形を確認する。道中と同じただの荒野だが、特徴的な部分がある。

「んー、地面がぐちゃぐちゃですわねぇ」

「そういえばそうですね。戦闘跡でしょうか」

 激戦という名の虐殺が行われたのだ。地面がひっくり返されていても不思議ではない。

「“地面に穴がひとりでに空いて“……ふむ、バレッタ、そこを中心にして、もっと謳ってくださいまし」

 バレッタが先ほど締めに語った言葉を諳んじてから、華澄は命じた。

「くすくす……」

 バレッタは長物の狙撃銃を消すと、礼儀正しい淑女のように立ち、大獅子がいる方向を見つめる。

「身体に、穴が空く直前、地面にも同じ形の穴が空いてますね……」

「え? どれどれ……なるほど、四角形の穴が」

 鏡夜が双眼鏡で目を凝らせば、地面に四角形の穴がボコボコと開いているようにも見えた。穴を探そうと思わなければ、ただの荒れた大地としか思わなかっただろう。

「四角形?」

 華澄もまた双眼鏡でライオンの周りの地面を探ると、確かに辺の長さが違う四角形型の穴が地面に空いていた。

「“予兆”ですの?」

「ということは、あれを察知すれば勝てるのでは?」

 傍の地面に穴が空いてから身体に攻撃されるのならば、それを見て取ってから良ければ戦えるのではないだろうか。鏡夜の考えにバレッタは即座に答えた。

「くすくす……地面に穴が空き、平均……一・八秒後に身体へ穴があきますね……」

「音はどうですか?」

「無音ですね……」

「……んー、人間の感知能力だと察知は難しいですわねぇ」

 華澄は豪奢な金髪を指先でいじりながら双眼鏡を覗いている。攻撃される前に予兆がある。しかし、それが地面に音もなく穴が空くことでは、感知するのは難しい。

 とりあえず、ボスについて収集できた情報はこれが全てだった。


 かぐやがレーザービームで大暴れしてモンスター退治しているのを大人しくさせて鏡夜たち一行は軽装甲車に戻る。

 まだ体力や時間に余裕がある。

 なので、大獅子に対する対策の足しになるようなものがないかと、ぐるっと〈荒野〉を回るように巡る。もちろん大獅子に近づかないように、だが。

 鏡夜とかぐやは軽装甲車の屋根の上に乗って周囲を眺めていた。

 かぐやは周囲をレーダーで捉え、遠距離のモンスターをレーザーで始末していく。他の、近くにいきなり現れるタイプのモンスターは鏡夜が作り出した鏡の投げナイフの犠牲になっていく。

 弱点が丸見えなのだ。そこに向かって投げるだけでいい。本当に、生命体特化の能力だ。『カーテンコール』の弱点を見抜けたのも、純機械ではなく生体部品を使用していたからだろう。完全な無機物相手だと、ここまで無双できない。

 ……状態異常付与能力の条件はは言わない方がいいだろう。〈Q‐z〉のみならず、誰が相手だろうと弱点とまでは言えない特徴だ。しかし、完全にメタを張られて純機械の物量で攻められたら嫌だ。攻めてくるあては〈Q‐z〉しかないけれど、その〈Q‐z〉が純機械殺人ロボットを向けてくる可能性はゼロではない。

 計算じみたことを鏡夜がつらつらと考えて手遊びしていたナイフを投げたと同時、かぐやが大きな声で言った。

「行き止まり―! 三! 二! 一!」

 合わせてキキ―ッ、とバレッタは軽装甲車にブレーキをかけた。鏡夜は屋根の上で片足に重心を込めて、踏ん張った。

 まだ地平線が続いているように見える。と鏡夜はボンネットに移動して、腕を伸ばすと、ペタッと風景に阻まれる。絵だ。

 此処から先どこまでも続いてるように描かれているただの絵。そりゃそうだ。荒野は塔の中にある。どこまでも続くわけがない。

 鏡夜はぼんやりと言った。

「絵の空に、絵の地平。殺風景な絵空事ばかりですねぇ」

「嫌いなの?」

「絵空事ならもう少し夢が欲しいでしょう?」

 かぐやの問いに答えるような、鏡夜の皮肉げな言い回しに意味はない。ただの意地と虚勢の結実だ。

 鏡夜はこんこんと絵空事の壁を叩いた。

 ふと、鏡夜の脳内に閃きが走る。ピタっと動きを止めて、鏡夜はとぼけたように言った。

「あっ、思いついちゃいました」

(攻撃に“予兆”があるのなら―――。地面に――穴が空くのなら)



 鏡夜は車の上から逆さまになるように中を覗きこみ、自分のアイデアを桃音たちへ話した。

 一番に反応したのは協力者である華澄だった。

「それは――いいんですの?」

「ええ、仕方ありません、適任は私だけでしょう」

 鏡夜たちのパーティだけでボスを攻略するとなれば、これが最速の方法となるだろう。

 本当はすごく嫌だが、背に腹は代えられない鏡夜である。

「では――灰原さんが先行して、囮になっていただくということで、どうですか?」

 なぜか華澄は桃音にうかがうように聞いた。なぜそちらに。

 桃音は座席に座りながら目を閉じてコップから水をこくこくと飲んでいた。コップを置いて、目を開いて隣に座る華澄を憮然とした顔で見返す。

「……これは、攻撃してこないから良い、ということですのよね?」

「おお、わかってきましたねぇ、華澄さん」

「くすくす……」

「かなり、独特なコミュニケーションねぇ」

 とかぐやが言った。鏡夜からすれば、独特な文化の真っただ中にいるようなものなので、そこまで異質は感じない。感じる余裕すらないとも言えるが。

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