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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
2章【告白編】

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41 マーシャルとバラムスカ

正直、私はバラムスカと結婚する気など、全くこれっぽっちもなかった。なぜなら、あんな残虐非道な人が義父になるのも嫌だったし、バラムスカはあの父親とは正反対で全く覇気がなくて、ただただ優男なだけだったから。


でも、バレス皇帝は私を気に入ったのか、それとも何か別の理由か、なぜか縁談を強く望んだ。それが不思議で仕方なかったけど、そのせいで、バラムスカと会う機会はとても多かった。


「こんにちは、バラムスカ様」

「すみません、マーシャル様。いつも父が呼びつけてしまって」

「いえいえ。って、ほら、ダメですよ?すぐに謝ってばかりでは。それに、挨拶をされたら返すのですよ」

「す、すみません!は!いや、これはその、あ」

「バラムスカ様ぁ?」

「は!こ、こんにちは、マーシャル様」


本当にこの人は大丈夫かしら、と勝手に心配になる。普段はお淑やかで気品溢れると評判高い私も、この時ばかりは何故かいつもと違う一面が出てしまう。


(普段のおっとりしていた方が私の性格だと思っていたけれど、案外私もステラみたいに勝気な性格だったのかしら)


あまり自分のことを顧みたことがなかったから、ついいつもと違う態度を取ってしまうバラムスカに色々と考えさせられる。


私の周りの人々は皆、綺麗や素晴らしい才能、と私を褒めそやてていたけれど、実際彼らは相反する気持ちを抱いているのは知っていた。


幼少期から聞こえる他人の声。最初は本当の声か心の声か理解できなくて、理解するまで避けられ、敬遠されていたように思う。


ーー気持ち悪い


ーー近寄らないで


なぜ私は避けられなければならなかったか、その当時はわからなかったけれど、今ならわかる。自分の思考が読まれるというのは、痴態を晒すことだと。


本音と建て前が両面見えてしまうことは、即ちその人の性格や本心、偽りの部分が露わになってしまうということだ。それを私だけが独占するなど、周りからしたら狡いし卑怯なことだろう。


だから私は、大きくなるにつれて処世術を身につけた。少しでも生きやすいように、と。実際の声と心の声、どちらの声かどうか判断し、心の声を聞かぬように努めた。


そして、例え聞いてしまったとしても、それに反応せず、快くない声であっても笑顔を貼り付けて対応できるくらいには成長したように思う。


だが、そのせいでいつしか自分の本心がわからなくなった。


こうして振舞っているのは、自分の性質か、はたまた周りが求めているからか。


優秀な千里眼を持つ、美しく聡明なマーシャル。周りから望まれるまま、そのマーシャルという人物を演じているのではないか、と思うときさえもあった。


(本来の私は、私さえも知らない)


そう思っていたが、バラムスカに出会って交流するうちに、自然と勝手に感情や言葉が溢れてくる。思っても見なかったことが、どんどんと口から漏れる。でも、それが自分では嫌ではなかった。


そして、そのことで、私はあまり性格がよろしくないようだということに気づく。バラムスカに対して口から出てくるのは、いつもあまりよくない言葉ばかり。そして、からかうようなことさえ言ってしまう。


また、こうしていつもと違った一面を出す自分にさえ、嬉しいと思ってしまうところも性格が良くないと思える理由の1つだ。よくステラがアーシャは意地悪だと漏らすことはあったが、私も大概な気がする。


(好きな人には意地悪しちゃう、という感覚なのかしら)


以前、アーシャに言われたことがある。ステラをからかうのは、可愛くて仕方がないからだと。反応する様が面白くて、飽きなくて、ついちょっかいをだしてしまうのだと、そう言っていた。


(それ、今ならなんとなくわかる気がする)


言われた当時は理解できなかったが、実際にそういう状況に陥ると、つい構ってしまったり余計なことを言ってしまったり。でも自然と目で追ってしまったり、考えてしまったり、不思議と惹きつけられる。


「マーシャル様にお土産です」

「どうしたんです?これ」


差し出されたのは大量の薔薇。だけど、私はそれよりも、彼の傷だらけの手の方が気になった。


「以前、薔薇が好きだとおっしゃっていたので」


ーーあれ、薔薇ではなかったか!?


彼の心の声が聞こえる。動揺している様子が見えて、慌てて取り繕うように言葉を続ける。


「確かに言いましたが……。手がぼろぼろではないじゃないですかっ!もう、薔薇には棘があるのですから……」


ーーあぁ、薔薇で合っていて良かった。しかし、マーシャル様は本当にお優しい。こんなグズな私を心配してくださるなんて。


「そうなんですよね、すみません、失念してました」

「もう、今度からお気をつけくださいね。ほら、手、見せてください?消毒をしましょう」


ーー良かった、呆れられなかった。喜んでもらえただろうか。あぁ、笑顔が見れて良かった。


バラムスカは少々頼りない部分があるものの、私にとって安らぎの人だった。唯一気のおけない相手。そして、一緒にいるのが心地よく、本心で話せて、相手もそれに応えてくれる。


また、気弱ではあるが、とても心根は優しく、私に対してもいつも紳士に振舞ってくれた。あのバレス皇帝が父親だと思えないほど、優しい気遣いをする人。こんなに性格が悪い私なのに、それでもにこやかに受け止めてくれる。


内面だって、いつもなんだかんだ私の心配をしてくれたり、本心から私のことを美しいと素敵だと思ってくれたりしてくれる。会うたびに彼の人柄に惹かれていき、いつしかそんな彼が好きに、大切な存在になっていた。


彼も私が心から好きだと、きっと幸せにすると、そう誓ってくれた。お互いに愛し合っていて、両家も婚姻推奨であれば何も私達を阻むものはなかった。


そして、あの幸せな結婚式を挙げた。私のことを誰よりも愛してくれる人と、幸せな結婚式を。みんなから祝福され、ずっと彼と一緒にいられるのは本当に嬉しく、幸せだった。


でも、こうして私が心の声を聞いているのは絶対に知られてはいけない。もし知られてしまったら、彼が離れてしまう。そう思うと、自然と私は彼の前で心を開けず、繕うような態度を取るようになっていった。


そんなときだった、あの事件のきっかけになった出来事は。

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