26 ロゼットとリーシェ
リーシェさんはとても不思議な方だ。
普段はとても考え方や仕草が大人っぽいのに、たまに年相応の表情や反応をする。先程だって、私の書く物語が読みたいとどうにか説得する姿は、ごねてる子供のようで可愛らしかった。
普段の大人びたイメージからは想像できないほど童心に返るというか、悪い意味ではなく、いい意味で好印象な人だ。
(常に私のことを慮ってくれているのもよくわかる)
先日の父の起こした事件のせいで、国も私の人生もしっちゃかめっちゃかだ。それを理解しているからか、彼女は常に私を気遣ってくれた。
ここに呼んでくれたのも、ヴァンデッダ様の提案だと表向きは言っていたが、あの様子を見る限り、きっとリーシェさんが進言してくれたのだろう。
彼女は私の行く末を案じ、私が自棄になったり途方に暮れたりすることがないように、配慮してくれているのはすぐにわかった。
今でも手伝いは率先してしてくれるし、わからないことがあれば逐一教えてくれるし、何気ない会話にも応対してくれる。
暇があれば買い物に誘われたり仕事を任されたり、常に私を見て、私が悩ませる時間を与えないようにしてくれていた。
(彼女の存在は、私にとって大きい)
元々歪んだ家族の中で生活していたせいか、感情が乏しかった。物語が好きだったのも、現実を忘れることができるただ唯一の手段だからのめり込んだ。
天体だって、この空の先を夢想し、自分がここではないどこかへ行くことを常に思っていたから好きだったのだと、今ではわかる。
(今まで、ただの人形のごとく、無感情で生きていただけに過ぎない)
事件当時、姉が憤っていたのはよく理解できていたが、最近になって抱かなかった怒りが沸々と沸いてきた。リーシェさんやクエリーシェル様、ニールさんと一緒にいるうちに段々と自分にも感情があることに気づいた。
ーー天気が晴れていると嬉しい。
ーー雨だと洗濯物が憂鬱。
ーー料理が上手く美味しく作れるようになって楽しい。
ーー溜まった食器の片付けは面倒くさい。
ーー掃除をして綺麗になっていくのが好きだ。
ーー虫は嫌いだ。
自分の人生に何も面白味を感じていなかったのに、今では感情が溢れてくる。いいことも悪いことも、それぞれに対して違った気持ち、感情を抱くようになった。
それは一重にリーシェさんがたくさんのものに触れあわせてくれたおかげだ。
年下だというのに、その眼差しはどこか達観していて、ちょっとこちらが不安を覚えるほどだ。恐らく彼女も何かしらの経験をしてきたのだろう。それも、私とは比べ物にならないほど、大変なことの数々を。
感情を手に入れたからこそわかる、人の思考。きっと、リーシェさんが辛かった出来事を、もう今後誰にもさせたくないという彼女の心情の表れなのだろう。だからこそ、私に対してここまで気にかけてくれているのだと思う。
そして、その行いによって私は実際に救われた。もし、居場所がなかったら。もし、このまま後ろ指を指されて行くあてもなく彷徨っていたら。想像するだけで身震いする。
(私は幸せだ)
今、目の前にいる私の作品を一生懸命読み耽る彼女に、目を細める。実はこの作品の主人公はリーシェさんだと告げたら、彼女は一体どんな反応をするだろうか。
(絶対に言わないけど)
彼女とクエリーシェルとの恋物語。私が感じるままに書いている物語。本人に読まれるというのは恥ずかしいが、なぜかちょっと嬉しく思いながら、リーシェさんが読み終わるのを静かに待っていた。




