5 料理の腕前
「食材があまり見つけられなかったので、寄せ集めで申し訳ありませんが、作らせていただきました。野菜は自生していた野生のジャガイモや人参、トマトなどを使用しています。スープの肉は干し肉を使ってます。あとは魚は川で釣ってきましたヤマメです」
「釣ってきたのか」
「正確に言うと釣ってきたというか、罠を仕掛けました」
「罠」
見かけのわりにと言うか年齢のわりにというか、このリーシェという娘、何でもそつなくこなすことができるようだ。
食卓に並べられた料理も色とりどりで、よくもまぁ、あのすっからかんの食料庫からこれだけの料理ができたもんだ、と感心する。
ずらっと並んだ品数はそれなりの量であり、きちんとバランス良く、見た目も良く美味しそうに仕上がっている。匂いで食欲も湧いてきた。
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
「あぁ、いただく」
とりあえず野菜のソテーから手をつける。
(味付けは素朴な家庭料理と言ったところか、悪くない)
スープもきちんと干し肉から出汁が出ているし、干し肉自体も食べる上で出涸らしになってるわけではなく、きちんと具材として成り立っている。ヤマメもソースがいいのか臭みもなく、どれもこれも見た目通り美味しかった。
「どれもこれも美味かった。結構な腕前だが、どこかで料理を習ったのか?」
「行く先々で振舞われた料理は基本覚えるタチでして。一度食べればある程度再現ができます」
「それは便利だな」
続いて出てきたのはパンだ。ちゃんと焼いていたらしく、少々冷めてはいたがふっくらと仕上がっている。小麦粉は確か備蓄にあったからそれを使用したのだろう、本当に優秀な使用人である。
「お食事が済みましたら湯を沸かしてありますので入浴なさってください」
「あぁ、わかった」
「食器は下げますゆえ、そのままで」
「至れり尽くせりだな」
「?主従というのはそういうものでは?」
「あ、あぁ、そうなんだが。今まで使用人がいない生活に慣れていたからか、どうにも調子が狂う」
実際自らこの古城をもらい、最初こそ使用人を雇ってはいたがあまり相性が合わず、結局辞めさせてしまってからはずっと1人暮らしだった。それがどうにも気が楽で、結局その後今までまともに使用人を雇っていなかった。
姉から咎められることもあったが、器用貧乏なので大概のことは自分でできたのが災いして、この年までのらりくらりと生きてきてしまった。
「あまり放っておきますと冷めますので、お早めに入っていただければと」
「あ、あぁ、そうする」
うまい塩梅で物事を進めようとしているのがなんとなくわかる。
つい1人でいることが長いと長考してしまう癖がついてしまったが、まだ日が出て間もないこの時間にダラダラしてしまっては、あまりゆっくりできないのも事実である。
口調は使用人にしては何となく強い気もするが、別段悪い気もしなかった。
(なんとも不思議な娘だ)
リーシェを見ると愛想笑いを浮かべるでもなく、「何か?」と聞かれる。こういう媚びもせず、また怯えもしないところも面白い。
(あぁ、これ以上ダラダラしていると湯が冷めてしまうな。それにそろそろまた追撃がきそうだ)
クエリーシェルは何となく、リーシェの眼差しが険しくなったことを悟って食事を平らげ席を立つと、浴室の方へと向かった。