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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
1章【出会い編】

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46 目覚め

「リーシェ、リーシェ」

「ん、んん、っ……ケリー様?」


何となく、呼ばれている気がしてゆっくりと目を覚ます。


目に入ってきたのは先程の光景とは違って、白くはあるものの漂白されたような白さでなく、シーツや壁の白だった。どこだか詳細はわからないが、とりあえずどこかの医務室のようだ。


「!やっと起きたか……っ!」

「おはよう、ございます……?」

「全く無茶をして!もう3日も寝ていたんだぞ」

「3日……、それは、長いですね」

「全くだ。こちらは気が気じゃなかったのだぞ」


彼の目が赤いことに気づいて、頬に触れる。びくっと身体を震わせながらも、特に嫌がることなく触れさせてくれる。


「……泣いてます?」

「いや、違っ、き、気のせいだろう……っ!」


大の男、しかも熊のような大柄な壮年の男性が動揺する姿に、思わず笑みが溢れる。


「そういうリーシェこそ、寝ながら泣いていたぞ」

「私の場合はデトックスです」

「その言い訳、狡くないか?」


お互いに軽口を言い合いながらも、どこか少し安心する。なんだかんだ、彼と一緒にいることに居心地の良さを感じているのは事実である。


(あぁ、生きている)


それがじわじわと実感できた。


「ここは?」

「王城の医務室だ」


王城の医務室、ということは私をあまり表に出さないように配慮してくれたのだろうか。確かに名乗った手前、こういう身の上の者をその辺の教会やら救護施設に入れるわけにはいかないだろう、という判断か。


「ダリュード様はご無事でしたか?」

「あぁ、リーシェのおかげで軽症だったと聞いている」

「それは良かった」

「姉も感謝していた。あそこの出席者はほぼほぼ皆回復したらしい」


ほぼほぼ、ということは何人かは未だに臥せっているか、残念ながら亡くなってしまったということだろうか。ある程度気づいていたというのに、事前に防ぐことができず、悔しい。


「バルドルは?」

「あいつは地下牢に閉じ込めている。邸宅も差し押さえて、今調査しているところだ」

「あの、ご家族は……」


自分が心配するようなことでもないが、一応気にしておく。あの、舞踏会のときの少女は、まさに目の前の領主に恋をしていた。


「夫人も加担していたようで、拘束されている。ロゼット嬢は姉の嫁ぎ先に身を寄せているようだ」

「そうですか……」

「親の行いによって、振り回されるのはいつも子供だ」


どこか諦めにも似たような声音。


経験があるのだろうか、そういえばバルドルがクエリーシェルのことを確か「親殺し」と言っていた気がする。


侯爵という身分なのに、存在感のない両親。そして、元から全くいなかったかのように、話題にすら上がらない不自然さ。


私がなんとなく気づいたのを察したのか、クエリーシェルは「お互い隠し事はなしにしよう」とポツポツと話し始める。


「私は以前、親を殺した。正確に言えば義母なのだが。実母は私を産んだときに亡くなり、その後後妻である義母が来た。私が14になるとき、父は戦地で亡くなったのだが義母は何を思ったか、私の妻になろうとした」

「……え?」


兄弟どちらかが亡くなったとき、お下がりのように婚姻相手を変えるのは聞いたことはあるが、まさか息子と婚姻関係を結ぼうとするなど前代未聞である。


思わず絶句すると、私の気持ちを察したのだろう、苦笑するクエリーシェル。


「正直、その当時のことはあまり覚えていないんだ。気づいたときには血塗れで、目の前には義母らしき物体があった。姉が言うには、その、虐待を受けていたらしくてな。暴力ではなく、その、所謂性的な。その当時の私はこう見えて中性的な顔立ちをしててな、ダリュードのような。だから、そういうので狙われたのではないかと、あくまで推測だが。姉は私のトラウマを気にして、あまりダリュードと接触させないようにしてくれているが、それはそれで大公にはあまり好かれていない」


(なるほど、それで人間嫌いの、特に女性が苦手でこの年まで独り身だったのか)


そして、この無精髭を生やしたりやたらと図体が大きかったりするのも、中性的な見た目を気にして無意識のうちにしているのだと納得した。


「……恐いか?身内を手に掛けたこの私が」

「いえ。仕方ない殺生はあると、私は思います。恐らく、きっとそのままだと、ケリー様の心が死んでしまったでしょうから」

「心が、……死ぬ」

「心が死んでしまうと、治るまでに時間がかかりますからね。私は今のようなケリー様に会えて、良かったと思いますよ」


実際、彼の優しさによって救われていることが多分にある。私もただ死ぬために生きていたはずなのに、こうして生きるために足掻いているのは、きっと彼のおかげだろう。


「リーシェ。あ、そういえば、先程からリーシェと呼んでいたが、本来はリーシェではなかったのだな。え、っと、ステラ姫と呼んだ方が良いか?」

「今更なので、リーシェでいいですよ。その名は捨てましたので」

「いいのか?」

「はい、私はリーシェとして生きることにしましたので。でも、お互いの秘密をなくそうとのことなので、ちょっとだけステラ・ルーナ・ペンテレアのお話をさせていただきましょうか」

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