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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
6.5章【閑話休題】

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メリッサ編

 ステラを見送ったあと、自室へと戻ると早速手紙を開く。そこには急いで書いたからか、ちょっと雑ながらも滑らかに走り書きされたステラ自身の想いがぎっしりと綴られていた。


「〈あぁ、ステラには敵わないな〉」


 あたしのこと、じーちゃんのこと、ヒューベルトさんのこと、シグバール国王のことなど、急いで書いたとは思えないほど内容がぎっしりと詰まっていて、思わず胸がいっぱいになる。

 そのままあたしは「はぁ」と大きく息を吐きながら天井を向いて、その手紙を胸元に抱きしめた。


 ぽとん……


 不意に何かが落ちたのに気づく。

 しゃがんで拾い上げてそれが何か確かめてみると、そこには綺麗に編まれた銀色の髪の房があった。


「〈え、うそ。これって……ステラの髪?〉」


 つい先程別れたばかりだというのに、見覚えのあるそれに思わずぶわっと涙が溢れる。

 柔らかく艶やかながらもしなやかなそれは、紛れもなくステラのものだった。


「〈ヒューベルトさん!〉」


 あたしはいてもたってもいられなくて、部屋を飛び出すとヒューベルトさんの私室へとノックもままならないまま飛び込む。

 そこには驚いた表情のヒューベルトが、こちらを見て固まっていた。


「〈メリッサちゃん!? どうしたの?〉」

「〈あっ! ごめんなさい! 急に来て開けちゃって。はしたなかったよね。気をつけますっ〉」


 ヒューベルトさんの表情にハッと我に帰る。

 つい自分の感情のままに勢い余って部屋に突撃してしまったが、さらに返事も待たずに開けてしまうだなんて淑女らしくないと自覚して慌てて扉を閉めようとしたらいつのまにかヒューベルトさんは目の前にいて、扉が閉められないように手で押さえていた。


「〈用事があったんでしょう? 急ぎ?〉」

「〈いや、急ぎというか。あの、ちょっと聞きたいことがあって〉」


 あたしがもじもじとしていると、扉を大きく開いて中へ招き入れるようにしてくれるヒューベルトさん。

 そして、「〈用事があるならどうぞ〉」と優しく促してくれる。


(優しいなぁ、ヒューベルトさんは)


 大人でかっこよくて素敵なヒューベルトさんに改めて胸をときめかせながら促されるまま中に入る。


「〈紅茶でいいかな?〉」

「〈え!? あ、お構いなくっ!〉」

「〈はは。そういう言葉は覚えたんだね。遠慮しなくていいよ。ほら、座って〉」

「〈ありがとう、ございます〉」


 大人しく言われるがまま案内された椅子に腰かける。何度か来たことはあるけれど、相変わらず綺麗に片づいている部屋だなぁとそろっと辺りを見回しながら思った。


「〈はい。これ〉」

「〈え、っと……タオル?〉」

「〈目が腫れたら可愛い顔が台無しになってしまうからね〉」


(うぅ、ズルい。こんなことされたらますます好きになっちゃう……!)


 ヒューベルトさんの優しい気遣いにますますキュンとときめく。ブライエ国の言葉だけでなく、あたしのためにモットー国の言葉まで覚えてくれて。ずっと優しくしてくれるヒューベルトさんの存在があたしの中でどんどんと大きくなっていた。


「〈紅茶もどうぞ。……それで、どうしたの? 聞きたいことって?〉」

「〈えっと……ステラからもらった手紙に、髪が入ってて。これってどういう意味があるのかなって〉」

「〈髪、か。なるほど。そうだな……髪をあげるというのは、お守りという意味や約束を意味することが多いかな。だから、多分だけど……リーシェさんはメリッサちゃんにまた会おうっていう意味を込めて髪をあげたんじゃないかな〉」

「〈そっか。そうなんだ……嬉しい……〉」


 意味を知って、胸がジーンとする。

 あたしにとって、ステラは姉であり、友達であり、尊敬する人で。

 改めて、かけがえのない存在で目指したい目標だと思った。


「〈あたしも、ステラに何かあげたかったなぁ……〉」


 今更後悔しても遅いとはわかっていながらも、つい口から溢れる。もっと自分に知識があったら、もっとステラみたいに周りのことを慮れたら、なんてどうしようもないたらればな思いが次々に湧いてくる。


「〈ヒューベルトさん。あたし、どうやったらステラみたいになれると思う?〉」

「〈それは……えっと、メリッサちゃんがリーシェさんみたいになりたいってこと?〉」


 あたしはこくんと頷く。

 そして、どうしてそう思ったのか先程の手紙のことなども含めて話す。


 すると、ヒューベルトさんは「〈そっか〉」と言ったあと、なぜか黙り込んでしまった。


(あたし、なんか変なこと言っちゃったかな)


 急に何も言わなくなってしまったヒューベルトさん。それが落ち着かなくてそわそわしてしまう。

 すると、あまりにも不安そうにしていたのが伝わってしまったのか、不意にヒューベルトさんから頭を撫でられて「〈ごめんね〉」と謝られた。


「〈急に黙ってしまってごめんね。でも、メリッサちゃんはそのままでいいんじゃないかな?〉」

「〈え?〉」

「〈リーシェさんは人柄も素晴らしいし多才だし、とても尊敬できる人物で憧れる気持ちはわかるけれど、メリッサちゃんにはメリッサちゃんのよさがあるのだから、無理にリーシェさんみたいになろうとしなくていいと思う〉」


 ヒューベルトさんの言葉にハッとする。


(あたしはあたし……)


 ステラに憧れる気持ちはあってもステラになることはできない。目指したい目標ではあるけど、それはあくまでステラみたいに気配りができて行動できる人になることで、ステラになりたいと思ったこと自体がまだまだ未熟なのだと自覚した。


「〈そっか。そうだよね……。あー、あたしまだまだこういうとこがダメなんだよね。もっと頑張らないと!〉」

「〈メリッサちゃんはじゅうぶん頑張ってるよ。ブライエ国語もだいぶ覚えてきたし。次はいつ会えるかわからないけど、リーシェさんとまた会うと約束してたでしょう? だから、それまでにメリッサちゃんとして成長している姿を見せてあげたらいいんじゃないかな?〉」

「〈うん、そうだね。そうする!〉」


 励まされてなんだか嬉しくなる。

 自分でも単純だと思うが、ヒューベルトさんに言われただけでなんだかできるような気になってくるのだ。


「〈次に会うときに成長したメリッサちゃんを見たらリーシェさんもびっくりするよ。だから、僕らはリーシェさんを信じて自分ができることをやっていくのがいいんだと思う〉」

「〈うん、わかった。私ももっと頑張る。リーシェみたいに色々な言葉を話せたりたくさんの人に気遣いしたりはできないかもしれないけど、あたしはあたしなりに勉強したり行動したりして頑張ってみる〉」


 自分で言葉にするとなんだか気持ちは晴れやかだった。さっきまでステラの言葉で胸がいっぱいだったはずなのに、今はその言葉を含めて自分に元気をくれているような気がした。


「〈ありがとう、ヒューベルトさん〉」

「〈どういたしまして。僕もメリッサちゃんと同じくらい勉強頑張らないと〉」

「〈じゃあ、一緒に頑張ろう。それで、次ステラが来たときに驚かそうね〉」

「〈そうだね。お互い頑張ろうか〉」


 そしてあたしは、次にステラに会ったときに隣に立って胸を張れるように、勉強にマナー講習にと日々成長するべく邁進するのだった。

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