53 疑念
「〈とりあえず、気を引き締めてあまり油断しないのがよさそうですね〉」
「〈そうですね。もしかすると食事も気をつけないといけませんが〉」
(そうか、食事……。失念してたわ)
もしあちらが何かしらの策略があるとすれば、食事に何かしら混入させるといった手口は常套手段をとってくる可能性がある。
そもそも、家主の女性はすぐに料理の支度をすると言っていたが、いきなり3人も来て食材が確保できているのだろうかという疑問もある。
もし疑うのであれば、私達がここにくることが事前に漏れていたか。でも、それなら私達よりも先にこの情報を伝達せねばならなかったはずだ。
でも私達より早く移動していたものなど見てはいないし、さすがに馬やラクダでそこまでのスピードで移動していたら、さすがにわかりそうな気もする。
迂回した私はともかく、ヒューベルトも待ち合わせ場所への道中などに不審な人々は見かけていないというし。
となると、単純に村長の家や他の家から分けてもらった可能性もあり得る。
私のただの考えすぎで、純粋に親切にしてもらっているだけかもしれない。どこかのことわざで「汝の隣人を愛せよ」というのもあるらしいし。
とにかく食事のときにこの村のことをもっと詳しく聞かなければ。相手がすんなり喋るかどうかも含めて上手く聞き出さないと、わからないことが多すぎる。
(あー、頭痛い)
常に最悪なことを想定する性格が災いして、やはり思考が止められない。もう疲労で満足に頭が回らないというのに、つい考え過ぎてしまう。
(でも、想定しておくには越したことないのよね。うーん、ジレンマだわ)
ジレンマと言えば、満足に食事ができない可能性があるのは正直厳しかった。この長旅で空腹だし、できれば体力維持や今後の体調管理としても食べておきたいのだが、どう出るか……。
「〈食事はどんなものが出ますかね〉」
「〈俺は元々アレルギーの関係であまり取れる食事は限られてますから、そこはお気になさらずに。万が一毒などが入っていたら……さすがにどうしようもないですけど〉」
私の様子に察したらしいヒューベルトが私を気遣ってくれる。
相変わらず察しがいいなぁ、と思いながらも、これ以上ヒューベルトに迷惑をかけてもよくないし、彼は彼でまだ万全の状態ではないため、あまり無理させるのもよくないだろう。
「〈その辺に関しては私に知識があります。何かあればお伝えしますから〉」
「〈ありがとうございます。……それにしてもミリーちゃんはよく寝てますね。相当疲れたのでしょうか〉」
立ち上がり、ベッドのほうに行けばすやすやと安らかな表情で眠るメリッサ。入眠の速さから考え、相当疲れていることがわかる。
元々あの港街からほとんど出たことがなさそうだったし、こんな長旅で体力も限界だろう。
とはいえ、ずっとこの国にいたら危険が及ぶし、なるべく早く国境を越えておきたいところだ。
(ギルデルも不穏なことを言っていたし)
ここに来た理由はブライエ国攻略のため。ということは、そのうち開戦する可能性がある。
万が一開戦に巻き込まれるようだったら色々面倒だ。その前にブライエ国に行っておかねばならない。
(あぁ、もどかしい……っ!)
無事にクエリーシェルが着いているかも心配だし、わからないことや懸念要素が多すぎる。
戦争がいよいよ近づいているというのはどうにも落ち着かないし、ペンテレアの二の舞にはどうしてもしたくはなかった。
コンコンコン……
「〈お料理のご用意ができました〉」
「〈ありがとうございます。すぐに行きます!〉」
不意にノックと共に夕飯の準備完了の旨を伝えられる。ヒューベルトと顔を見合わせたあと、気持ちよく寝入っているメリッサに申し訳なく思いながら、身体を揺らして彼女を起こすのだった。




