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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
5章【外交編・モットー国】

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368/444

52 性分

「〈大丈夫です?もしよければ、お茶を〉」

「〈あ、あぁ……ありがとうございます〉」


ヒューベルトがお茶を差し出してくれるのをぼんやりと見つめる。すると「〈一応自前のお茶なので、何か入っているということはないですよ?〉」と言われて、慌てて弁明した。


「〈すみません、ちょっとぼんやりしてました。わざわざ煎れていただいたのにすみません〉」

「〈いえ、謝らないでください。……リーシェさんも街でのことや長旅で疲れているのでは?正直、慣れない言葉や偽名などで俺も普段使わない頭をフル活動させているので疲れていますが〉」


私を和ませようとしているのか、ヒューベルトが珍しく苦笑しながらそんなことを言うものだからつい口元を緩める。


「〈まずは座りましょうか〉」とヒューベルトに促されて、立ちっぱなしだったことに気づいて椅子に腰掛けたあと、ヒューベルトにも座るように促した。


「〈確かに、慣れないと疲れますよね。私はちょっと、色々と考えすぎるきらいがあるので、つい難しく考えすぎてしまって。もうこればかりは性格だからしようのないことなのでしょうが〉」

「〈なるほど。では、俺は起きてますから、ミリーちゃんと一緒に寝ますか?〉」

「〈あぁ、いえ。できればそうしたいですけど、やっぱり気になることは確認しておきたいので〉」

「〈そうですか。ちなみに、何か気になる点が?〉」


ヒューベルトに聞かれて、そっと視線をやってメリッサが寝たことを確認する。


そして、メリッサの睡眠の邪魔をしないようにと、他の誰かに聞かれないようにと注意を払いながら声を潜めても聞き取れるように、ヒューベルトに顔を近づけた。


「〈どうも、歓待がすぎるような気がしまして〉」

「〈なるほど?〉」

「〈あまり人が寄りつかないと言っていたのに、ここの客間は妙に広くありませんか?それもなんだか気になってしまって〉」

「〈確かに、そうですね〉」

「〈ウムトさんはどうお思いで?〉」


ヒューベルトに促すと、逡巡するように顎に手を当てたあと、視線を部屋にぐるりとやっていた。


「〈確かに、違和感はあるかと。広い割には殺風景と言いますか、必要最低限の家具以外大したものはありませんし。客間ではなく元々別の用途として使っていた可能性も考えましたが、それにしてはすぐに案内されても整えられていたことを考えると、それもまた違うかと〉」

「〈そうよね。だとしたら、客間として元々用意されていた部屋と考えるのが自然だと思うけど。客間として用意するには部屋が大きすぎるのよね。人があまり来ないと言っていたのに〉」


先程の女性が言うには、帝国嫌いの村で敬遠されていると言っていた。それなのにこの広さ。明らかに矛盾している。


親類を泊めるにしても寝台は多く、皆で寝たら4、5人は寝れる広さだ。いくらなんでもそんな大所帯で移動するようなことがあるだろうか。


それに宿屋でもないのに旅人をすんなり入れたところも気になる。単なる厚意の可能性もあるが、金品も取らずに厚意だけで村の運営は回らないだろう。


見た感じ何か農作物を育てたり家畜を飼っている形跡などもなかったりするところを鑑みると、どこかと交易なりして食糧や物資の補給をしているというのが妥当だと思うのだが。


「〈リーシェさん。皺〉」

「〈え?あぁ、すみません、また考え事を〉」

「〈いえ、でも本当に考えすぎはあまり良くないかと。多少なりともリラックスなさってください。あぁ、せっかく煎れましたし、お茶も飲んでくださいね〉」

「〈あぁ、すっかり忘れてました。申し訳ありません。……あぁ、美味しい。これって、先程の森の湧水で?〉」


初めて見るお茶だった。色は濃い目なのに、そこまで濃いわけでもえぐみを感じることもなく、スッキリとした味わいだった。


色々とお茶はよく飲んでいた経験もある私だが、これはちょっとした発見だとごくごく飲んでしまった。


「〈えぇ。茶葉も街で手に入れたものを使いまして〉」

「〈いい香り。こんなお茶もあるんですね〉」

「〈えぇ、青茶と呼ばれているそうですけど、身体にいいらしいです〉」

「〈青茶……青、には見えませんが、ふぅむ、なるほど……〉」


(地域によって青に見えるのか、それとも摘んだときは青色をしているのだろうか)


今度はお茶について考えていたら、前から笑い声が聴こえてハッと思考を止めた。再び考えこんでいた私を笑ったのだろう、ヒューベルトは口元を押さえながら「〈失礼しました〉」と言いながら肩を震わせていた。


「〈もう、笑わないでください。こういう性分だと先程言ったじゃないですかっ〉」

「〈そうでしたね。でもまさか言ってすぐにそうなるとは〉」

「〈もうこればかりはしようがないんですって〜〉」


笑い続けるヒューベルトを軽くペシペシ叩きながら、私はお茶を完飲するのだった。

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