90 反省
そもそも今回船に乗ってきたのだって、随分と無茶なことである。いくらクエリーシェルを追いかけてきたとはいえ、無鉄砲という以外に言葉が見つからない。
まぁ、紆余曲折色々あってもこうして無事だったことは良かったことだが。でもきっとカジェ国に帰ったら大変なことになっていることだろう。
「とにかく帰ったら謝らなければですね。ご両親にはもちろん、アーシャにも」
「そうですわね……。今回ばかりは深く反省致しますわ」
これだけ長期間の不在だ。大騒動になっていることは間違いないだろう。
念のためにブランシェに訳あってサハリ国にいることだけは前もって伝えてもらってはいるが、さすがにすぐに到着するわけでもないので、連絡がつくのは恐らく早くて明日くらいだろうか。
「マーラ様はこのままサハリに残ってから、ブランシェに国に届けてもらいますからね」
「わかりましたわよ。……でも、今回旅ができてよかったです」
しみじみと言った様子の声音で吐き出すマーラ。今回の旅で、何か思うことがあったのだろう。
確かに、彼女は色々な面で変化した気がする。最初は甘ったれで、ただのワガママ娘だったのが、多少なりとも自我が芽生えたというか、自分の意志というものを感じるようになった気がする。
14歳というのは多感な時期だ。私はその頃には貴族の館で生きる屍のように心を殺して生きていたが、今その反動か毎日が楽しく思える。
今更ながら、生きていて良かった。生きて死ぬという選択をしてよかったと改めて思えた。
「ステラは、本当に無理ばかりなさるのだから次の国でもお気をつけくださいな」
「わかってますよ。今回はヘマすることが多かったですから、今後はそういう部分を反省して次回に活かします」
「そういうことではないのですが……」
「そういうことではないぞ、リーシェ」
「!!け、ケリー様!!」
いつから話を聞いていたのか、カツカツと音を立てながら大男がやってくる。身動きが取れないせいで、逃げることすらできずに、ただそちらを青ざめた表情で見るしかなかった。
「か、勝手に話を聞かないでください!スケベですよ!」
「な!スケベとはなんだ!!何度もノックをしたが返事がなかったので入ってみたらそういう会話をしていたんだろう!と、とにかく、すぐに危ないことをするんじゃない!!」
「そうは言ってもですね……!」
「はいはい、痴話喧嘩なら他所でやってくださいな」
相変わらずのやり取りをしていると、マーラから静止がかかってお互い口を噤む。なんだか大人気ない様子を見られてしまって、きまりが悪かった。
「で?具合はどうなんだ?」
「怪我は大したことないようです。若いので、数日で治るそうですよ」
「顔もか?」
「えぇ、そうみたいです」
そっと頭を撫でられる。マーラが近くにいると思うと、なんだか気恥ずかしいが、触れられることは嬉しいのも事実だった。
「身体も大丈夫なのか?」
「骨は折れてないそうです」
「それならよかった……」
「折れてないけど、ヒビは入っているのではなかった?」
「何!?そうなのか!??」
「マーラ様!余計なことは言わないでください!!」
マーラの言葉に、すかさずクエリーシェルが反応する。
確かに折れてこそいないが、あばらに数本ヒビが入っているかもと言われたのは事実だったのだが、どうやらマーラはちゃっかり聞いてたらしい。
(もう!大事になるからわざと隠しておいたのに!!)
再び三つ巴でやんややんややっていると「【煩いですよ!安静に!!静かに!!!】」と治癒師の人が飛んできて、クエリーシェルは追い返されてしまうのだった。




