47 寝室での密会
「で、どういうこと?」
「単刀直入だな。せめてもうちょっと歓迎のムードを作ってくれないか?」
「そんなこと言われたって……」
宣言通り、夕食を済ませてあてがわれた部屋にいるとノックをされる。一応、念のため恐る恐るどなたか尋ねれば「僕だよ」とあの声音で返ってきたので渋々扉を開けたのだ。
「さて、もう少しキミにはご協力願いたい」
「何を?」
「サハリ語で僕の相手をしてくれ」
「何で?」
「いいから。もし協力してくれたら我が国もコルジール国と協力させていただくよ」
まさかここでその切り札とは。
(一体、ブランシェは何を考えているんだろう)
彼の思考は未だに読めないが、無駄に抵抗してもしょうがないので、大人しく従うことにした。
「いいけど……」
「できれば寝室がいいのだが」
「は!?寝室!??」
「あぁ、お願いだ」
「うぅううう、わかったわよ……!」
パタン、とドアを閉めて寝室へととりあえず招き入れる。なんだか色々イレギュラーなことでそわそわと落ち着かないが、こればかりは仕方ないと諦める。
「【で、どういうこと?】」
「【結婚式はいつにしようか】」
「【はぁ!?】」
またこの話を繰り返すのか、と思いきや、小さく「僕に合わせて」と言われる。意味がわからないが、何かしらの意図があるらしい。
(てか、詳しく説明してくれるんじゃなかったのか!!)
「【で、いつがいい?僕としては早い方がいいと思うんだけど】」
「【早くっていつくらい?】」
「【できれば明日にでも】」
「【明日!?さすがにそれは早すぎるでしょ!せめて準備期間とか……】」
「【それもそうだな……。キミの花嫁衣装も用意しないといけないしな。であれば1週間後というのはどうだろうか?】」
ブランシェが具体的な数字を言った瞬間、外から微かにガタガタっと音が聞こえる。そちらに意識を飛ばそうと思ったが、ブランシェに顔を固定されて阻止された。
「【で、ステラはどう思う?】」
「【1週間で衣装できるの?】」
「【もちろんだとも。我が国の染色技術は知っているか?とっておきのドレスをキミに捧げると誓おう】」
「【それは楽しみね……】」
なんだか演技をしてるようで緊張する。周りから見て違和感はないだろうか。というか、このやりとりは恐らく誰かに聞かれている。
「【あぁ、僕も楽しみだ。愛しいキミとの婚姻が叶おうとは】」
言うや否や、押し倒される。想定外のことで慌てふためくが、ブランシェは気にせずに私の上に跨るとそのまま口を押さえられた。
(ちょ!無理強いしないんじゃなかったの!?てか、こんなの聞いてない!!)
「【んんんんんっ……ふぅ……っんんん】」
「【あぁ、愛してるよ。ステラ……キミだけを誰よりも……】」
吐息混じりにまぁまぁ大きな声で言われて頭が沸騰しそうなほど沸く。羞恥心で死にそうだ。
ガタガタガタガタ……っ!
外で大きな音を立てて離れていく。それと同時に私から離れるブランシェ。
「すまなかったな。付き合わせてしまって」
パシン……っ!
乾いた音が室内に響く。平手打ちするのは人生で2回目である。
「相変わらず手が早い」
「煩い!聞いてないわよ、こんなことされるだなんて!」
「実際に口付けたわけではないからいいだろう?それとも何だ、本当にして欲しかったのか?」
「んなわけないでしょう!!」
必死で抗議すれば、「冗談だ」と苦笑される。全く、タチの悪い冗談である。
「いい加減、洗いざらい喋ってもらうわよ」
「あぁ、もちろん。何から話そうか」
そう言うと、ブランシェはベッドに腰掛けると訥々と話し始めるのだった。




