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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
4章【外交編・サハリ国】

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36 カモフラージュ

「では、そろそろ行ってきます」

「本当に大丈夫ですの?」


不安げな表情でこちらを見るマーラ。なんだかんだで私のことを心配してくれているらしい。


夜更すぎ、暗い中で月明かりが照らしてくれているおかげで言うほど暗くないのだが、忍ぶにはあまりよくない状態であることは確かである。


「えぇ、まぁ大丈夫ですよ。いざとなったら、よろしくお願いしますね」

「えぇ、えぇ、わかりましたわよ。ここから落ちた、と言えばいいのですよね?」


視線の先にある鉄格子はいい感じに腐食し、そこをどうにか壊して、ぽっかり穴が空いた状態だ。まぁ、あそこまで空けばきっと小娘1人分くらいの通り道としての言い訳にはなることだろう。


「それにしても、ステラのその袋の中身は一体どうなっているのですか?」

「それはちょっとお教えするのは憚られます」


乙女の嗜み、と自分で呼称している秘密道具の数々。その中で今回は硫酸を用意した。元々錬金術によって生み出されたものだが、硫黄と硝石を併せて燃焼させることによって金属を溶かす液体、硫酸が生成できる。


主に肥料や繊維、薬品製造などに使われるが、爆発物の製造やこうしていざというときにとても役に立つのだ。


さすがに全部溶かせるほどの量を持ち歩いてなかったため、一部分しか溶かすことはできなかったものの、あとはテコの原理を使いながら丁寧に破壊していって、こうして1人分くらいの穴を作り上げた。


こちらはあくまでカモフラージュではあるが、一応保険としてないよりはあったほうがいいだろう。


「恐ろしいですわね」

「まぁ、間違った使い方さえしなければ有用なものが多いのですよ」

「そういう知識などもどこで得てきたのですか?そもそもステラの母国ではそういう教育が一般的ですの?」

「いえ、全然。独学で」


興味を持ったことに関しては調べて、実証しないと気が済まないタチだったのでこうして錬金術についても興味を持つがままに調べて実験、加工していた。


私の自室はそういう意味ではとてもカオスで、たくさんのバラエティに富んだもので埋め尽くされた部屋だった。


(そういえば、一度小火(ぼや)を出してしこたま怒られた覚えが)


あの時も父から咎められたような記憶が。こうして考えてみると、結構私はやらかしている。


「とりあえず時間稼ぎ、というものをすればよろしいのですね?」

「そうです。まぁ、何らかの理由で私が不在なことがバレてしまった場合ですけど」


昨日今日と様子を見た限りでは、ほぼここに人が出入りすることはなかった。出入りしたのは食事のときの食器を出すときと下げるときのみだ。


逆にここまでほったらかされていいのだろうか、とも思ってしまうほど監視の目が少ないのだが、さすがに塔の牢屋から女性が逃げ出すという考えがないのだろう。それはある意味好都合ではある。


(まぁ一応姫を名乗ってるわけだし。小娘が2人、仮に海賊の疑いがかかってたとしても、何かしようとするとは考えにくいわよね)


「ちょ、ちょ、ちょっとステラ!??」

「はい?」


動きやすいように上から着ていたドレスを脱ぐと、マーラがおろおろとし出す。下には外着用のチュニックを着ていたのを見ると、呆然としていた。


「本当もう……ステラと一緒にいるとハラハラしっぱなしですわ」

「ありがとうございます?」

「褒めてませんわよ!」


ぷりぷりとした声を聞きながら準備を整えると、乙女の嗜みからいくつか鉄の細い棒を出すとカチャカチャと錠前を弄り始める。


「というか、そもそも色々計画を立ててたのはいいですけど、この牢屋をどうやって出るおつもりです?」

「え?」

「え?」


カチャン、という音と共に開く扉。口をあんぐりとさせるマーラの顔が面白い。


「もう、呆れてものが言えませんわ」

「ありがとうございます?」

「ですから、褒めておりません!というか、何故鍵を閉めていらっしゃるの!?」

「え、だってこうしないと、カモフラージュの意味ないじゃないですか」


言いながら、自分が出たあとカチャカチャと音を立てながら扉を閉めて鍵をかける。マーラは不服そうな顔をしつつも、どこか諦めているようだった。


「では、いってきますのでお留守番よろしくお願いしますね」

「はいはい。もうちゃっちゃっと済ませてくださいな。そして早く、私とクエリーシェル様を救ってくださいまし」


最後の言葉は聞かなかったことにする。私は再び入り口の扉の鍵を解除すると、外へそっと出ていくのだった。

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