表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
4章【外交編・サハリ国】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

229/444

28 懐炉

「随分と時間がかかりましたのね。……あら、顔が些か赤いようですが、お風邪でも召しましたの?」

「いえ、ちょっと急いで来たのでそのせいかと」

「?」


実際に走ってきたのは事実だが、未だにクエリーシェルの行いによって羞恥が抜けきれないなどとは口が裂けても言えなかった。


もし言ったら彼に恋煩いをしている彼女に何されるか分かったものではない。下手に刺激することは悪手だとわかっているので、あえてその辺は隠しておく。


「お加減は?」

「見てわかりません?先程よりも痛んでおりますわ……っ」


確かに刺々しい言葉とは裏腹に、声はいつもの勢いの3割減な気がする。蹲って布団からぴょこりと顔を出しているのを見ると、どうやら結構つらいらしい。


「でしたら、これを」

「……何ですの、これ」


差し出した包みを、不審気な表情でまじまじと見るマーラ。基本的に年中暖かい気候のカジェ国では目にすることはなかったかもしれない。


温石(おんじゃく)です」

「オンジャク……?聞いたことありませんわ」

「こうして温めた石を布で巻いて懐炉(かいろ)にするのです。ほら、触ってみてください」


彼女の前に懐炉を差し出すが、未だに眉を顰めたままだ。


「や、火傷とかしないでしょうね?」

「疑り深いですね。誰かとは違って、そこまで性格悪くはありませんよ」

「わ、ワタクシだってそこまで性格悪くはありませんわ!」


(ある程度性格悪い自覚はあったのね)


そんな心中などおくびにも出さずに、とりあえず触れるように彼女の目の前に懐炉を出す。するとおずおずといった様子で布団の中からゆっくりと手が伸びてきて、指先が懐炉に触れた。


「どうです?温かいでしょう?」

「そうね、温かいですわね」

「これを腹部や腰に巻くのです。生理は冷えが大敵ですから。痛みは腹部であれば腹部に巻いてください」


彼女の手に懐炉を乗せると、もぞもぞと布団が動き出し、ごそごそと布団の中で腹部に懐炉を巻きつけ始める。モノグサというかなんというか、ある意味器用だな……とその様子を見守る。


「冷えたらまた温め直しますので、おっしゃってください」

「わかりましたわ」

「そういえば、干し肉いかがでしたか?」


てっきりどっかに放っておいたと思いきや、近くで見当たらないと思って尋ねると、急に顔を赤らめ始めるマーラ。先程から顔芸か、というくらい表情がよく動く。


「……も……き、ましたわ」

「ん?」

「もう、いただきましたわ!」

「それは良かった。どうです?悪くはなかったでしょう?」

「ま、まぁ、そうですわね!思いのほか悪くはなかったこともないですわよ」


もはや言い回しが複雑すぎて何が言いたいかわからなくはなっているが、どうやら美味しかったらしい。本当につくづく素直でないというか、捻くれている。


(こういうのって天邪鬼、というんだっけ?)


どこかの国の昔話を思い出しながら、マーラを見る。まだすぐに痛みが引いたわけではなさそうだが、多少は干し肉のおかげか顔色が良くなっている気もした。


「では、とりあえず懐炉が温まっているうちにお休みください」

「ステラはどこか行かれますの?」

「いいえ。今日だけはお側におりますよ」

「そ、そうなのね。別に1人……いえ、ステラがどうして……いえ、ま、まぁ、ここにいらっしゃるというのなら、それでも構いませんことよ?」


下手なことを言ってしまわないように、との葛藤が(うかが)えて、口元が緩む。捻くれているのは事実だが、性根が腐っているわけではないことは理解できた。


(これはもう本人の性格でしょうね)


生きづらいだろうな、と思うが、これが彼女なりの処世術だったのかもしれない。


「はいはい。いいから早く寝て体調をお戻しくださいな。日程ではあと2日。そろそろサハリ国に到着する予定ですから」

「そうですか。わかりましたわ。……お、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


トントン、と軽く布団の上からテンポよく叩く。


そういえば母から寝付く前にこのようにされてたな、と思いながら無意識にしてたのだが、そのおかげかマーラはちょっとホッとした表情をしたあと、ゆっくりと眠りについていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ