21 料理
「どうしてワタクシがこんなことを……」
「はい、口を動かさずに手を動かしてください?あ、そこまだ食べられる部分ですからね」
「こんな端切れ、ゴミでしょうに……」
ぶつくさと文句を言いながら、ブツ、ブツと大雑把に野菜を切るマーラ。手がたどたどしくて、見ててヒヤヒヤするのだが、本人はできると言い張って現在このような状態になっている。
というのも、先程料理長に謝罪に来たのだが、食糧を消費した代わりに罰として下働きを命じられたのだ。マーラはもちろん当初は反抗したものの、私のひと睨みで大人しくなった。
一応マーラだけでは不安なので、私も手伝うことにしたのだが、案の定このザマである。
「本当に包丁持つの初めてではないのですか?」
「ですから、それなりには経験はありますわ」
「本当に?」
「しつこいですわね!」
ぷりぷりと憤慨しているようだが、この手つきは明らかに素人であることは間違いない。
だが、なぜか頑なに認めない。素直に認めたらいいものの、なぜか私同様負けず嫌いな部分があるようで、自分にできないことがあることを嫌う傾向があるように思える。
「ステラは随分とまぁ慣れていらっしゃるのね」
「えぇ、まぁ。慣れてますからね」
しげしげと手元を見られる。さすがに慣れたもので、人参やジャガイモなどの皮も剥けるし、ちょっとした飾り切りもできなくはない。
手際よくツルツルと皮を剥いていっては切る担当の彼女に渡しているのだが、どうにもこのペースだと野菜が積もっていくばかりで終わりそうにもなかった。
「こちらは終わりました」
「え、もう!?」
「はい。あとは材料を切って炒めなくては。ほら、陽が多少傾いてきましたし、夕飯まで間に合わなくなってしまいますよ」
「そ、そんな焦らせないでくださる!?」
わたわたと焦り始めるマーラに、ちょっと意地が悪すぎてしまったかと少し反省する。この調子では、もしかしたら指を落としかねない。
「しょうがないですね。お教えしますから、きちんと見ててくださいよ」
まな板の上に食材を置いて、左手で押さえながらトントントントンと小気味よく音を立てながら等分に切っていく。
「わかりました?」
「わかりますわよ」
「では、どうぞ」
再び危ない手つきで野菜を押さえるマーラ。一体何を見ていたのか、と呆れてしまうものの、彼女の背後に回ると彼女の手を持つ。
「な、何をなさるんですの!?」
「いいから。こういうのは身体で覚えるんですよ。いいですか、まず左手はここを押さえて。手は猫の手、ってわかります?」
「猫の手?」
「こうして指を曲げて置くんです」
見せてみせると、おずおずと食材に猫の手で置くマーラ。
「次に包丁の持ち方ですが、こうして力み過ぎずに上から持って。切るときはこうして上から下ろす感じで……」
言いながら彼女の手の上から包丁を握り込み、トントンとゆっくりと包丁で食材を切っていく。
「切れたわ!」
「えぇ。お上手ですよ」
「ほら、ワタクシにできないことなんてないんだわ!」
(本当にポジティブなお方だ)
覚えると早いもので、さすがにいきなりプロの技!とまでいかないものの、多少もたつきながらもそれなりの手つきで食材を切っていく。
船員全員分なので量はそれなりに多いものの、マーラは凝り性なのか、上手に切れるようになっていくと全部切り終えるまで特に文句を言うこともなかった。
「はい、お疲れさまでした」
「はぁ、結構な大仕事でしたわ……」
「あとは炒めて、煮込んで、味付けをしていきますよ」
「なんだか料理って面白いですわね」
マーラが料理に興味を持ったようで、少しワクワクした様子なのが面白い。彼女は何かしら達成感があるものが好きなようだ。
「食べてもらって『美味しい』と言っていただくまでが料理ですからね。きちんと火入れしておかないとお腹を下しちゃいますし、味付けもせっかくの食事で美味しくないものを食べては元気が出ませんから、しっかりとやっていきますよ」
「えぇ、そうですわね!」
さっきのやる気のなさが嘘のような食いつきに、自然と口元が緩む。その日はあえて私はあまり手を加えず、彼女に指示をしながら食事を完成させるのだった。




