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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
4章【外交編・サハリ国】

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5 髪

ドサッと脱いだ服を下に落とす。できればこのまま布団にダイブしたい気もするが、さすがに肌や髪に塩が付いた状態で寝たら寝心地は良くないだろう。


下手に汚れがついても不衛生だし、改めて掃除をしなければならないし、そもそもザラザラとしたシーツで寝るのはごめんだった。


(あー、怠いけど仕方ない)


ぼんやりしながら服を全部脱いで、予めもらっておいた水を張った桶にタオルを浸して身体を拭う。ポロポロと肌から塩とともに落ちていく汚れを眺めながら、洗髪方法について考える。


(櫛で梳きたいけど、さすがにこのガサガサ状態では髪が傷むだけだしなぁ)


貴重な水とはいえ、無駄にするよりかは有効に使ったほうがいいのはもちろんである。ということで、適当にチュニックに着替えたあと、再び桶に水を汲みに行く。


雨水を汲んだあと簡易濾過をし、部屋に戻るとそのままじゃぷんと桶に頭を突っ込み髪を洗う。適当にじゃぶじゃぶと浸けたあと、タオルで拭えばそれなりにはマシになってホッとする。


(あとは髪を梳いて、香油でもつければいいか)


こういう時、長い髪は不便だなぁ、と思う。いっそ管理も大変だし、切ってしまいたくもなったが、さすがにそんなことをしたらクエリーシェルもびっくりするだろうし、周りもきっとヒソヒソとするだろう。


そもそもこれからサハリに行くと言うのに、親交が薄い短髪の女が来たらそれこそちょっとした騒動になるだろう。友好でないぶん、そういったことはできれば避けたかった。


(切ったら、クエリーシェルよりもアーシャの方が卒倒しそうだけど)


先日の着せ替え時もそれはそれは丁寧に髪を洗われ梳かれて、香油もたっぷりと塗られた。


カジェ国では髪は女性のシンボルだそうで、最も大事にすべき部位だそうだ。なので、私が適当な手入れをしていることに憤慨していたことを思い出す。


(そういえば、確かにアーシャのあの髪もいつも美しく煌めいて長くて肌触りが良かった気がする)


光沢のある黒髪は、それだけ目を惹きつけた。実際に目の当たりにすると、髪がいかに大事かが分かるような気もする。


ゴソゴソと櫛を漁ってアーシャから貰ったいかにも高級そうな櫛で髪を梳く。多少引っかかるものの、先程に比べたら櫛の通りは段違いに良くなった。


(女子力……)


今までそんなものあったってしょうがないじゃないか、なんて思うこともあった。だが、今こうして想い人がいると、不思議なもので感性はガラッと変わり、少しでも自分をよく見てもらいたいと奮闘している自分がいる。


恋をすると変わるとは聞くが、まんまそれに当てはまっている自分に自嘲する。


(でも、せっかく手入れするならアーシャのような美しい髪が良かったなぁ)


鏡を見ながらそっと溜め息をつく。自身の青みがかったプラチナの髪は、白髪よりは明るくないものの、ちょっと年寄りに似た印象を与えがちになってしまうのであまり好きではなかった。


(姉様は綺麗なブロンドの髪だったのに、私だけ……)


聞くところによると母方の祖母が私と同じようなプラチナの髪をしていたらしい。母似の私はきっとそこから遺伝しているのだろう、とのことだった。


所謂隔世遺伝というやつで、父も母も姉もブロンドの髪だというのに、私だけプラチナというのも疎外感を感じた部分の1つではある。まぁ、他にも体型が全く違って、豊満な姉と貧相な妹、というのも解せなかったが。


(私がクエリーシェルの子を産んだら、その子は黒髪になるのかしら)


なんとなしに想像する。彼のちょっとうねったしっかりした黒髪と私の細くて真っ直ぐなプラチナの髪。これをどんな感じで継承するのだろうか。ちょっと気になる。


(って、私ったら何をそんなことを)


国王の「1人増えてたなんてことに」っていう言葉を思い出して、思考を散らすように頭を振る。


(いやいや、そういうつもりで考えてたわけでは、断じてない……!)


自分で自分に言い訳しながら髪を梳き終えると、香油を塗り、ナイトキャップ代わりにタオルを巻いたあとそのまま布団に潜り込み、目を瞑る。疲弊した身体は、あっという間に睡魔に飲み込まれていくのだった。

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