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1 捕り物劇

(私は運がいいのか悪いのか)


周りではキャアキャアと悲鳴やら何やら上げている中、ぼんやりと目の前で繰り広げられる捕り物劇を眺めながら、リーシェは思わずにはいられなかった。








「これで、ここは制圧できたのか?」

「はい、先程の残党で終わりのようです」

「そうか、なら囚われていた女子供は速やかに自宅へと戻すように」


人身御供と言うべきか、税金が納められない者への借金の(かた)として、旧領主によって集められた女子供は約100弱にも上る。


よくもまぁここまで集めたものだ、と感心すらしてしまう人数である。


皆、旧領主の意向か、特にどこか人買いなどに渡されるでもなく、ここでこき使われていたようだが、いくら税金をぼったくっていたとはいえ、この人数を管理するのは結構難しくないか?などと余計なことを考えながら、後処理をする。


実際、管理できずに逃げ延びた者の訴えによって、このような捕り物劇となったのだが。


「ヴァンデッダ様」

「どうした?」


名を呼ばれて振り向けば、部下のニールが困惑気味にこちらを見ていた。隣には、捕らえられていたのであろう小娘がいる。


「この娘が、帰る家がないと」

「それはまた、……難儀だな」


ちら、と娘を見るが別段感情が乱れてる様子もなく、ただこちらを見ている。普通の女子供であれば、己のこの薄汚れた姿と無駄にでかい体躯に幾ばくか怯えを見せることもあるが、それすらもなかった。


「名は?」

「リーシェと申します」

「前はどこにいたんだ?」

「以前は、とある邸宅で雇われていたと言えばいたんですけど、お嬢様の身代わりでこちらに来たので、戻ったところでなんと言われるか」

「旧領主は捕まったのだから、別に気後れする必要はないだろう」

「まぁ、そうなんでしょうが。……ちょっとなんて言うか、私、曰く付きなんです」


自らを「曰く付き」と表現する娘に目を見張る。とりあえず、ニールにこの娘の処遇は私が決めるから他の事後処理をするように促した。


「詳しく聞かせてもらおうか」


近くにあった椅子に腰掛けるように促すと、自らも座る。


そして、眼前にいる娘、リーシェは淡々と身の上話をした。


要は、彼女は占術を生業にしているマシュ族の娘で、両親はかつての戦争で亡くなり、マシュ族ということで遠巻きにされていて、そのうち人買いに捕らわれた。


その後、先程の某貴族の召使いとして使われていたが、マシュ族というせいで、家での不幸ごとを全て彼女のせいで呪われたと疎まれ、借金の形としてこれ幸いとここに連れられ、現在に至る、と。


「マシュ族ということは占術が使えるのか?」

「私は(まじな)いはできないです」

「できない?」

「習っていないので」

「そういうものなのか?」

「そういうものです。(まじな)いが使えないマシュ族とか、ただのお荷物以外の何者でもないので、前のお屋敷でも『使い物にならない』とよく言われてました」


実に淡白な娘だな、と思いながらも果たしてどうしたものか、とクエリーシェル・ヴァンデッダは頭を抱える。


恐らく元の邸宅に戻したところで、知らぬ存ぜぬと返される可能性もある。教会に預けてもいいような気もするが、マシュ族ということで再び遠巻きにされることもあるだろう。


(……果たしてどうしたものか)


「私の家に来るか?」

「はい?」


すごいものを見るような目で見られる。この娘には遠慮というか、配慮というかそういうものが全くない気がする。


「一応これでも領主だし、ほぼ家にいないが掃除がなかなか行き届かなくなってきたので、そろそろ誰か雇おうかと思っていたんだ」

「どなたか雇っている方はいらっしゃらないのですか?」

「あぁ、あんまり人が得意でなくてな。あと自分だけの方が都合がいいからな」

「はぁ……、ということはご結婚もまだ?」

「随分とズケズケ来るな。まぁ、まだしてないが」

「失礼ですが、今おいくつで」

「……32だ」


すごい憐れみの目で見られているのは気のせいだろうか。いや、そもそもこんな小娘にのせられて、私は何をベラベラと。


「で、来るのか来ないのか」

「行きます。他に行く宛てもないので」

「わかった、ではそのように手配しよう。以前の雇い主のところには適当に伝えておく」

「ありがとうございます」


ガチャガチャ、と鎧を鳴らしながら席を立つ。まさかこんなところで小娘1人雇うことになるとは。とりあえず全て片付け、国王に報告せねばならぬとニールを探すことにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リーシェの性格が面白い。 清純派もいいけど、こーゆー男気っぽいヒロインも好きなんですよ。 読んでて気持がいい!
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