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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
1章【出会い編】

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15 領民の結婚式

「病める時も健やかなる時も……」


領民の結婚式を初めて見たが、シンプルだけど、とてもいい式である。新郎新婦だけでなく、出席者達も和気藹々と仲睦まじいさまは、見ていてこちらも幸せな気持ちになってくる。


領主が用意した花々もいいアクセントになっていて場が華やいでいるのがわかる。


(素敵)


新婦を見つめていると目が合う。すると、ふっと柔和な笑みを浮かべられて、手を振られる。その姿は本当に幸せそうだった。


(結婚式っていいものだな)


確かに、姉も当日は幸せそうだったことを思い出す。その後の出来事で嫌な思い出に塗り替えられてしまっていたが、そうだ、確かにあのときは幸せだったのだ。


結婚式は始まりだ。


その始まりのあと、どのような未来を辿るかどうかは、おおよそ本人達にかかっている。


(連れてきてもらって良かった)


せっかくの手隙なら家のことでもしようと思っていたが、これはいい気分転換になった。自分の居場所を確保するために、最近バタバタと自らの仕事を増やしてばかりで、自分のことなど二の次だった気がする。


(領主にはお礼を言わないと)


まだ来て間もないというのに、私のことを気遣ってくれたのだろう。何となく気に入ってもらえたことはわかる。そもそも取り入るために、彼の使い勝手がいいように動いていたのも事実だ。


だが、この気遣いは、彼自身の性格によるものが大きいだろう。本来、使用人に対して距離感を詰める人は早々いない。


以前の使用人を辞めさせて以降、誰も雇っていないということだし、ある意味人間嫌いだろう彼は、何かしら抱えているものがあることが推測される。


ということは、この優しさは打算などではなく本心だということになる。


しかしリーシェにとって、彼の振る舞いはあまりよろしくないものでもあった。


なぜなら、今までただ消耗するしかない人生でいいと思っていたはずが、彼といると自分の地位をたまに見失ってしまうからだ。


(本当に彼は優しすぎる、領主に相応しくないほどに)


きちんとある程度の距離感を持たねば、引きづられてしまう。それは、私にとってあまりよろしくない。なぜなら私は、あまりよくない星の下に生まれたのだから。


(身近にいるのが私だけだから、私に比重が向いているだけ。今度のパーティーで、ぜひとも新たなパートナーを見つけてもらうためにも、しっかり準備しないと)


同性愛者だとしても、お互いに好意がなかったとしても、結婚は必要だ。跡取りを残さねばならないのはどこの貴族も同じである。ニールには悪いが、こればかりは致し方ないことなのだ。そんなことはニールも貴族の端くれだし、わかっているとは思うが。


もう領主も32、いい加減お相手を確保せねばならない瀬戸際である。


「さぁ、そろそろお暇しようか。あとは身内だけで楽しむのがよいだろう」

「では、馬車を用意して参ります」

「あぁ、ニール頼む」


ニールがいなくなったあと、領主のことを見ると「ん?どうした?」と訊ねられる。


「あ、いえ、わざわざ連れてきていただいてありがとうございます。よい気分転換になりました」

「それは良かった。たまには息抜きも必要だしな、それにいい予行練習にもなった」

「それは何よりです」


表情をなるべく崩さぬように努める。領主はチラッとリーシェの表情を見ると、特に何を言うでもなく、ニールが手配した馬車に乗り込む。


ニールの機嫌が良かったからか、はたまた幸せのお裾分けのおかげか、帰りの馬車の中は行きに比べて、とても気分は楽だった。

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