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52 気になる年頃

「朝食、こちらに置いておきますね」


サイドテーブルに置かれたパンとスープと紅茶。さすがに病み上がりなので、食事には配慮してくれたようで、量も少なめで、胃に優しいものを用意してくれたようだ。


「そういえば、ケリー様は?」

「もう既にお出かけになりましたよ。今日は港町にご用事があるとかで」

「そうですか。あの、何か変わった様子などありました?」


とりあえず探りを入れるように、軽くクエリーシェルのことを聞く。


「いいえ、特には。リーシェのことをよろしく頼む、とただそれだけでしたけど。何かあったのですか?」


彼のことだ、きっと動揺しているだろうと思ったが、それは杞憂だったようだ。


だが珍しい。私にあんなことをしたというのに、特に動揺していないとは。その前に普通にキスをしかけていたときは、心なしか恥じていたように思えたが。


「いえ、……何も」

「本当ですかぁ?」


ガタガタ、と椅子をベッドの横に置き、そこに座るロゼット。その瞳は好奇の色に満ちていた。


「ロゼットさん、お仕事は?」

「もう済ませてきました。掃除、洗濯、朝食は終えてます。庭掃除は見回りをかねてバースに頼んでありますし、2回目の洗濯はリーシェさんのお召し物も一緒にしてしまおうかと」


ニコニコ顔で、ロゼットは完璧に仕事を終えたことを強調する。これでもう、他に咎める理由などない。


ロゼットを見れば、興奮しているのか、目をキラキラと輝かせている。


ここのところ戦争の気配が立ち込めているせいか何事も自粛ムード一色であったし、娯楽という娯楽などなく読書くらいが楽しみであったロゼットからしたら、人の色恋がとても気になるのだろう。


実際に自分のことでなかったら、私自身でさえ興味を持つ内容だ、無理もない。特に年頃的にそういうものに興味を持つのは仕方ないと自分でも理解している。


そのため、小さく「はぁ」と溜息をついたあと、「唐突に、質問ですが」と覚悟を決め、ロゼットに切り出した。


「ロゼットさんは、あの、その、……キスしたこと、ありますか?」

「まぁ!とうとうクエリーシェル様とキスされたのですか?!先日は私がお邪魔してしまったから、あれ以来ずっと心残りでして……」

「いえ、別に、ケリー様とは、そういうことは、キスは、多分していないです」

「……多分?」


そんな聞き方をしたら、あからさま過ぎただろうか。とはいえ、嘘ではない。あれはキスではなく、口移しだ。キスよりもレベルが高い気もするが、あれは事故というか救命措置というか。……救命措置?


自分で色々考えて、ふと気づく。


もしかしたらクエリーシェルはあの出来事をキスとカウントしていないのではないのか、と。あれは確かに咽せた私を落ち着かせるというか、なんというか、確かにそういう意味合いがあったかもしれない。


(だから、動揺もしなければ、気にする様子もなかったのか……!)


そう考えれば、合点がいく。ただ、合点がいったのはいいが、とても不本意である。


(……ファーストキスだっていうのに、ちょっと傷つく)


「で、どうだったんですか?クエリーシェル様とは」

「いえ、ですから……。というか、先に質問したのは私ですよ!」

「私はキスはおろか、手を繋ぐことすらほぼほぼ全く経験ありません。で?リーシェさんは?」


食いつくように聞いてくるロゼット。いや、まぁ、確かに未婚のご令嬢が普通は婚前や婚約前にキスするなどないということはわかってはいたが、こうもまぁさらっと答えられるとなんというか。


「わ、私も、ですから、キスは経験ないので、ちょっと気になりまして。ちなみにロゼットさんはどんなキスをしたいと思います?」


あえて話をはぐらかす。


だが、ロゼットも諦めが悪いようで、「リーシェさん、せっかくですから、もう言っちゃってください!誰にも漏らさないので!というか漏らす相手もいないですし、ほら、作品のご参考にぜひに!」と言われてしまえば、彼女のファンを自負している自分としてはもう返す刀がない。


「キス、というか、水を、その、口移しで……」

「ま、まぁ!く、口移し、ですか?!そ、それは急に、なんでしょう。キスよりもまぁ!ちょ、ちょ、もうちょっと詳しくお聞かせください……!」


身体を前乗りに食い気味でくるロゼット。もうこうなったらヤケだと、私は降参して洗いざらい話したのだった。

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